ワーケーションとは?「仕事or休暇」から「仕事and休暇」へ-ワーケーション事業参画者が解説-

近年、注目される新しい働き方(休暇の在り方)「ワーケーション」。WorkとVacationを組み合わせた言葉で、「リゾート地や観光地など普段とは違う場所で働きながら休暇をとる」ことを指します。

全国では長野県や和歌山県が先頭に立って推進しており、都市から一時的に離れたい人と質の高い人材に来てほしい地方自治体のニーズと供給がマッチするよう取り組みを推進しています。

しかしそもそもなぜ今ワーケーションが注目されているのでしょうか?そこで今回は、

  • ワーケーションの意味や歴史
  • なぜいまワーケーションが注目されるのか
  • それぞれのアクターにとってのワーケーションのメリットデメリット・課題
  • ワーケーションの具体的な事例

をみていきます。ワーケーション以外にも近年注目の働き方として「複業」「ポートフォーリオワーカー」などがあります。これらに興味関心のある方はこちらの記事もあわせてご覧ください。

ワーケーションとは

ワーケーションとはWork(仕事)とVacation(休暇)を組み合わせた造語です。明確な定義は決まっていませんがJTB総合研究所によると「ワーケーションとはリゾート地や地方等の普段の職場とは異なる場所で働きながら休暇取得等を行う仕組み」を指します。

労務管理の観点からみると「休暇中などの一部の時間帯に会社に申請し承認を得た上で、通常の勤務地や自宅とは異なる場所でテレワーク等と活用して仕事をすること」となります。

日本で他企業に先駆けてワーケーションを導入した日本航空の定義と目指すところは以下のように説明されています。

「国内外のリゾート地や帰省先、地方などでテレワークを実施します。休暇先(旅先)で仕事をするという新たな働き方により、早朝や夕方以降の時間を社員が自由に過ごすことで、業務への活力につなげることが狙いです。また、ワーケーションにより、旅行の機会を増やし、家族と過ごす時間が増えることが期待されます。さらに、地方で開催されるイベントなどに積極的に参加することで地域の活性化の一助としてまいります。」

なおワーケーションは海外での英語表記はWorkcationが一般的ですが、国内ではWorcationと記されることもあり定まっていません。

ワーケーションの歴史-コロナ禍にワーケーションが広まるまで-

ワーケーションは2000年代にアメリカで生まれた概念だといわれています。ワーケーションが日本で本格的に実践されるようになったのは2017年頃です。日本航空(JAL)はテレワーク推進事業と並んで2017ン7-8月にワーケーションを導入することを発表しました。

ワーケーション先端自治体の和歌山県では2017 年 2 月からワーケーションの普及・誘致活動を開始し、同年 8 月には東京でワーケーション・フォーラムを開催しました。

ワーケーションへの注目度が高まっていることは論文数からもわかります。日本最大の論文掲載サイトCiNiiで「ワーケーション」に関する論文を検索すると2020年7月時点で26件がヒットします。年ごとにみると2015年が1件、2016年が0件、2017年が1件、2018年が4件、2019年が8件、そして2020年が10件となり、年々取り扱われる機会が増えていることがわかります。

2019年2020年として、いくつかの都道府県/自治体が本格的に力を入れ始めたこと、そしてコロナとテレワークの広まりで「地方で暮らしながら都市の仕事を受けるライフ&ワークスタイル」に興味関心を持つ人が増えたことが理由です。

コロナによるワーケーションの認知度向上は急に起こったことではなく、数年前から準備してきた自治体の取組がコロナをキッカケにハッキリ認知されるようになったと考えるのが正解です。実施してすぐに効果が目に見えて出るものではないため、中長期的なスパンでワーケーション事業は進める必要があります。

ワーケーションのメリット

ワーケーションを受け入れる自治体にとってのメリット

ワーケーションを受け入れる地方自治体にとってのメリットは、関係人口の創出や地域活性化・テレワークの推進・地域ブランディング・移住につながることです。またワーケーションによって地域を訪れた人材にプロボノやボランティアとして地域の企業や学校を訪れてもらうことで、多様性に欠ける地方において地域住民が多様な人材と交流する機会となります

ワーケーションを実践する人にとってのメリット

社員として社内のワーケーション制度を活用する場合、「休みor仕事」という従来の枠組みから解放され「休みも仕事も」という選択肢が生まれます。日常的に暮らす都市から離れ自然の中に身を置き環境を変えることで、創造性の沸き上がり・気分転換・越境的な学習などの機会が生まれます。

家族がいる場合は家族と一緒にワーケーションを実践することで、家族旅行中に仕事をしたり出張のついでに家族と旅行するという選択肢が生まれます。出張となると家族と離れる時間が長くなり子どもが小さいと心配になりがちですが、ワーケーションでは仕事をしながら家族との時間を最大化できます。

ワーケーションを導入する企業にとってのメリット

ワーケーションを導入する企業は年次有給休暇の取得促進の一環として、社員が休暇取得しやすい環境づくりにつながります。またワーケーション導入を検討する過程でその他の柔軟な働き方の実施―テレワークの導入・インフラの整備・フレックス制度―も検討され「柔軟な働き方」を尊重する職場の雰囲気をつくることができます。これは企業のブランドイメージ向上にもなり魅力度向上に直結します。

働き方改革が求められる中で、社員のウェルネスや健康向上の観点からもワーケーションの導入は効果的です。社員の多様性が高まり価値意識や志向性も多角化する中で、1人でも多くの社員が働きやすい環境をつくるためにワーケーションは有効なのです。

ワーケーションの課題

ここまでワーケーションのプラスな面をみてきましたが、走り始めて日が浅いワーケーションには今後の普及に向けて課題もあります。受け側自治体の課題としては、ワーケーション受け入れのための施設や環境整備に十分な予算がつけられないこと・首都圏へのPR不足などの課題があります。

ワーケーション受け入れ自治体の課題

長野県や和歌山県では立派なワーケーション向けの施設を建て受け入れ態勢を整える自治体が増えてきているため、予算が避けない自治体からは「こんなところに人が来てくれるのか…」という声が聴かれます。

しかしワーケーションのために多額の予算を投入し立派な施設を建てなくても地域のリソースを有効活用することで受け入れは可能です。お寺と連携しお堂で作業できるようにしたり、温泉街の空いている宿の部屋で作業できるようにしたり、キャンプ場のバンガローで作業できるようにしたりといまある資源を活用すれば仕事する場所はつくれるのです。

ワーケーションのために新たな施設を建てることは、SDGsなど昨今の持続可能性を重視したまちづくりからするとハード主義で持続可能性に欠ける面があります。国や県からの補助金がなくなってからも運営できるマネタイズモデルになっているのか、ブームだから我先にと競争に参戦し先が見えていないのではないか、この点について受け入れ自治体は常に意識する必要があります。

関係人口増という観点からは、移住者定住者になる人を生み出すのが難しいことが挙げられます。多くの自治体はワーケーションをキッカケに移住してくれることを期待していますが、東京在住者の約75%は東京に住み続けたいと考えていることが調査から明らかになっています。

東京に住んでいてたまに地方に行くのと、移住して腰を据えるのの間には高い壁があることは無視できません。また移住定住前提でワーケーション事業を進めると、希望者のニーズを見落とすことにもなりかねません。ワーケーション実践者と一括りにせず、多様な働き方を排除することなく1つ1つにマッチした支援と受け入れをしていくことが重要です。

ワーケーション実践者分析を通してみえてきたこと

社員の意識がワーケーションを受け入れきれない部分があることもわかっています。JTB総合研究所の調査によると、仕事で行く旅行とプライベートな旅行は完全に分けたいと考えている人の割合は、20代30代男性で25.7%、20代30代女性で32.2%、40歳以上男性24.4%、40歳以上女性16.7%となっています。柔軟な働き方を求めていると考えられている若者世代ほど完全に分けたいと考えている点に注目する必要があり、若者=ワーケーションしてくれると推測してはいけません。

ワーケーションを導入する企業の課題

これまで「仕事」と「休暇」を完全に分けることを前提として来た日本型企業にとって、ワーケーションの導入には課題がいくつもあります。ワーケーションを企業として導入し制度化しようとする場合、労務管理等のマネージメントの仕組みを変え規定を整備する必要があります。

交通費や通信費、宿泊費だとの実費負担はどのような扱いとなるのか、労災保険はどのような扱いとなるのか、これらの点は手を抜けません。

ワーケーションを推進する自治体協議会(WAJ)とは-長野県・和歌山県が筆頭-

2019年11月18日、“ワーケーション”を受け入れる側の全国の自治体が集まり「ワーケーション自治体協議会(WAJ)」が設立されました。2019年11月時点では65の自治体(1道6県58市町村)が会員として参加しています。

  1. ワーケーション自治体協議会では、ワーケーションの全国的な普及・促進を図るため下記の取組を行っています。WAJ主催の情報交換会や会員自治体によるワーケーション体験会の実施
  2. 東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会や2025年日本国際博覧会等のメガイベントに向けた、地方でのワーケーションの共同PR
  3. 全国のワーケーションに関する統一的な情報発信手段の検討
  4. そのほか、ワーケーションの普及・促進に向けた取り組みの検討

ワーケーション自治体協議会の会長には和歌山県の仁坂吉伸知事、会長代行に長野県の阿部守一知事が務めています。このことからも分かるように和歌山県・長野県はワーケーション先端自治体です。「とりあえずどこかの地域で実践してみたい!」という企業や個人は両県の担当部門に相談することをおすすめします。

ワーケーションの具体的事例-長野県の事例-

筆者は長野県千曲市・立科町のワーケーション事業に関わっていますが、ここでは千曲市のワーケーション事業事例をみていきます。千曲市は2020年度から本格的にワーケーション事業をはじめた自治体です。長野県では14自治体がモデル自治体となっており補助金が事業者に交付されます。

2020年7月20日~22日に千曲市の株式会社ふろしきやが行政と連携してワーケーション体験ツアーを実施しました。コロナ禍の開催という事でメディアの取材も入っており注目度の高さがうかがえました。当日は支給されたポケットWi-Fiや自転車を使いながら市内の温泉街やお寺、棚田など様々な場所で参加者それぞれワーケーションを楽しみました。

日中はそれぞれ仕事をし、ご飯時にはみんなで宿に集まり話ながら食事。異なる業種・異なる地域に普段住む人たちが1つの場所に集まり話すことで新たなつながりが生まれ、考え方や視点の多様性や柔軟性が増します。

受け入れ側の自治体にとっては宿泊費や食事でお金が落ち、コロナで人が減った町に活気が生まれ、移住者予備軍になり、参加者のスキルやコネクションを生かして新たな取り組みにつながるといったメリットがあるとのことでした。

千曲市ワーケーション体験会の詳細を知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。

ワーケーション推進のための補助金情報

現時点で、個人がワーケーションを実施するための補助金はありませんが民間事業者や地方自治体向けの補助金は年々増えています。2020年5月に環境省は、新型コロナウイルスの感染リスクの少ない自然の中で働き遊べる場として、国立公園でのワーケーションを促すため、20年度補正予算で30億円を割きツアー企画やWi-Fi環境の整備を支援する事業の公募を行いました。

長野県、沖縄県、鳥取県など県単位のワーケーション拠点整備費や事業費を補助する施策もあります。詳しくはそれぞれの都道府県のワーケーション関連Webページをご覧ください。

最後に-ワーケーションは従来の働き方概念を壊す起爆剤となるか-

長野県を筆頭に多くの自治体が2020年、ワーケーションに力を入れていくことが予想されます。コロナをキッカケに地方で都内の仕事をするというスタイルの認知度が高まったので、この流れが柔軟な働き方を実現する方向で社会に広まることが期待されます。

一方で「ワーケーション」という言葉だけが独り歩きし、実態が伴わない事業が生まれないようにここで触れたように気を付けながら、実践者・地方自治体・企業はワーケーション事業を進めていく必要があるでしょう。

KAYAKURAではワーケーションに関する講座や勉強会の講師、執筆、事業の企画運営、関連した地域活性化・地方創生・観光インバウンドなど関連事業のサポート/コーディネートを行っております。お困りの方はお問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。

参考資料
Internet Watch, 2019, 「全国65自治体で“移住未満・観光以上”の受け入れ推進へ、「ワーケーション自治体協議会」設立」.
田中敦, 2019, 「拡大するワーケーションの可能性と課題」JTB総合研究所.
松下慶太, 2018, ワークプレイス・ワークスタイルの柔軟化と空間感覚の変容に関する研究, 実践女子大学人間社会学部紀要, 14: 17-30.
・株式会社JTB総合研究所「進化し領域を拡大する日本人の国内旅行(2019)」.
環境省.

-ラジオ版KAYAKURA-

ラジオ版KAYAKURAは毎回1つのテーマについて5分~10分で深堀する音声コンテンツです。テーマは社会課題・最新ニュース・地方創生・観光インバウンドなど。スキマ時間の学びを思考を促す内容となっていますので、ぜひ聴いてみてください。

この記事を書いた人

Masato ito

1996年長野県生まれ。大学在学中に自身が代表を務める事業が長野県地域発元気づくり大賞を受賞。現在は一橋大学社会学研究科にて国内移住に関する研究を行いながら、KAYAKURA代表として長野県を主なフィールドに観光インバウンド・移住・まちづくりのコーディネート・プランニング・調査・PRを多数手がける。2019年からは都内の企業と地方の企業や自治体をつなぐ新たな取り組みも開始。訪日観光客向け観光情報発信サイトNAGANO TRIP運営。池田町第六次総合計画審議委員。週刊SPAや公益社団法人 日本観光振興協会発行『観光とまちづくり』など寄稿多数。2019年4月から東京都国立市と長野県池田町の2拠点居住実践中.