移住とは?意味は?定義は?専門的な知見から移住を徹底解説

近年、農山村地域を活性化させる手段の一つとして地方への移住を促進する取り組みが全国各地で行われるようになってきています。地方在住の若者世代の減少、人口の都市一極集中による弊害、地方自治体の存続危機など様々な理由を背景に国も地方に移住する人を増やすための取り組みを支援する制度をいくつもつくっています。

しかし、この「移住」という言葉が指し示すものは明快なようで案外不透明です。

「別荘は移住?」

「県をまたがないと移住じゃないの?」

「A町からとなりのB村に移るのも移住?」

本記事では、定義があいまいで分かりづらい「移住」という言葉の意味と指し示すものを考察していきます。

移住の辞書的な意味は「生活の場である住居地を替えること」

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典によると、移住は以下のように定義されています。

生活の場である住居地を替えることをいう。移住を大きく分類すると3つに分けられる。 (1) いままで住んでいた住居地を去って新しい住居地を求め,永久的な家庭をつくることであり,農村から都市に,母国から外国へ移り住むことなどは典型的な例である。 (2) 一時的に住居地を替えることで,セカンドハウスをつくって避暑に出かけ,そこで一定期間生活することなどは,その例である。 (3) 住居の変化が不定期ないし気まぐれに行われ,定住地をもたず,転々と生活の場を替えること。

https://kotobank.jp/word/%E7%A7%BB%E4%BD%8F-30666

ブリタニカ国際大百科事典によると、移住は大きく括ると生活の場を替えることをさしますが細かく見ると3つに分類され定まった定義が無いことが分かります。

一つ目のタイプは定住までを含んだ移住

ブリタニカ国際大百科事典の1つ目の分類は、今まで住んでいた住居地を去って新しい住居地を求め永久的な家庭をつくることとなっています。ポイントは、「永久的な家庭をつくる」というフレーズです。

1つ目の定義では、移り住むことを意味する移住のその先の「定住」までを含んだ意味として「移住」という言葉を用いています。家族をつくり家を買い住むことを移住とし、農村から都市への移住や母国からは以外への移住など簡単には決意しずらい大きな人生のターニングポイントとして移住を捉えています。

日本の政府や自治体が促進している移住も、多くはこの1の例に当てはまります。移り住むだけではなく定住してもらうことまでを含めて移住と呼び、若い人が地方に家を買い家族をつくり職をもち知り合いをつくることで定住することを目指しています。

二つ目のタイプは二拠点居住や別荘を指す移住

ブリタニカ国際大百科事典の2つ目の分類は、一時的に住居地を替えることです。1つ目のように定住することを前提とした移住ではなく、あくまで拠点となる場所があり拠点のほかに住める場所をいくつか確保するといったイメージです。

これには、二か所住む場所を持ち場所を替えながら働いたり知り合いと会うことを楽しんだりする二拠点居住や、夏の暑い時期や冬の寒い時期だけ避暑地やリゾート地を訪れ長期間住む別荘などが含まれます。

その他には、お気に入りのゲストハウスや農家民泊を見つけ休みができた一定期間だけ滞在しのんびりしたりゲストハウスに泊まる人たちとのコミュニケーションを楽しむようなライフスタイルもこちらに含まれます。

この2つ目のタイプの人たちは、近年広がりつつある言葉でいうと「関係人口」や「交流人口」にも含まれます。

三つ目のタイプは拠点を持たない移住

ブリタニカ国際大百科事典の3つ目の分類は、住居の変化が不定期ないし気まぐれに行われ、定住地をもたず、転々と生活の場を替えることです。1つ目や2つ目のように拠点を持つのではなく、拠点を持たずに生活するスタイルを指します。

例としては、バックパック一つ持って海外のゲストハウスを巡る生活や、いくつかのシェアハウスと契約し毎月のように住む場所と働く場所を替えながら生活する人などがこれにあたります。

三つ目のタイプの人たちは、一か所に留まることが苦手もしくは拠点を持つことを大きなリスクと考える傾向があります。これらの人々は近年、「風の人」もしくは「ノマド」と呼ばれ様々な場所でいろんな人と会うことや知らない景色とであうことを楽しみつつ特定の場所にはとどまらないことに価値を置いた生活を送っています。

また、三つ目のタイプの人が同じ場所にたまに戻ってくるようになると、それは2つ目と同じ「関係人口」や「交流人口」へと変化していきます。

研究者による移住の定義は?

ここまで辞書的な意味での移住を考えてきました。ここからは、より深く移住について考察するために移住について研究を行う研究者が多くいる学問分野の社会学における「移住」「移住者」の定義と分析をみていきましょう。

行政の書類上だと、移住者は市町村の外から市町村の中への転入する人

近年、地方自治体が「移住者を増やそう!」というときの移住者は、転入者に含まれます転入者とは、ある市町村の外から市町村の中へと転入してくる人を指します。市町村の外から市町村の中に移動してきた転入者の数は住民基本台帳の数字で計測されるため、行政の窓口を通して住所を移して住み始めた人が転入者になります。

この転入者の定義をベースにして考案された移住者の定義として、明治大学農学部教授で移住研究の第一人者である小田切徳美教授の定義があります。それがこちらです。

県をまたいで転入した人のうち、移住相談窓口や空き家バンクなどの支援策を利用した人、または、一部の県で行われている住民票移動時の意識調査で「移住目的」とした人

小田切徳美, 地方移住, 毎日新聞, https://mainichi.jp/articles/20151220/ddm/001/040/146000c

小田切教授の定義のポイント1 県をまたいでの転入

小田切教授の定義のポイント1は、県をまたいでの転入者であるという点です。東京都から長野県、大阪府から鳥取など都市部から地方部への転入を移住と考えていることが伺えます。

人々の関心が、都市的なものから地方の農村的なものへ移っていく田園回帰現象の一環として移住を捉えるこの見方だと、地方から地方への移住よりも都市から地方への移住のほうが動きとしてのダイナミックさがあり日本全体としてみたときには興味深いデータが算出できます。

しかしその一方で、この定義では同じ都道府県内で移り住むことは移住に含まれないことになります。ただ、実態としては長野県長野市などの県庁所在地から、より規模が小さな市町村に移り住むケースは数多くあるため県をまたいでの転入に限定すると漏れる人が出てきてしまいます。

小田切教授の定義のポイント2 行政の支援策を利用した人

小田切教授の定義のポイント2は、移住相談窓口や空き家バンクなどの支援策を利用した人という一文です。

地方自治体が移住促進施策に力を入れ始めてからの移住が念頭に置かれているため、支援策を利用した人が移住者であるという定義になるのだと考えられます。その数はアンケート調査や行政の窓口での聞きとりなどを基に算出されますが、移り住む人の中には支援策を利用せずに移住している人も一定数いるため、実態とは乖離している部分があると言わざるを得ません。

しかし、移住者の統計を取り数として見える形に落とし込もうと考えると行政の窓口を通すことがどうしても必須になるため、このような定義になっています。

小田切教授の定義のポイント3 住民票移動時の意識調査で「移住目的」とした人

小田切教授の定義のポイント3は、一部の県で行われている住民票移動時の意識調査で「移住目的」とした人 という一文です。この定義も2と同様に、移住者の数をしっかり計測するために盛り込まれた定義であると考えられます。

例えば、鳥取県の調査では、田舎暮らし、子育て、新規就農などが目的の転入者=意識調査で住民票移動時の意識調査で移住目的とした人が移住者になる。この場合、転入者=移住者ではなく会社の転勤や大学の進学で鳥取県に移り住んだ人は移住者ではないのである。

しかし、当初の目的と移り住んでからの心の持ちようや考え方は異なる可能性もあるため、当初は進学だったとしても数年後には田舎暮らしがしたいという気持ちになっていることも考えられる。また、そもそも意識調査に回答した人しか移住者に含まれないため実態と乖離している部分があると考えられます。

専門家・研究者も移住を定義づけることは難しいという結論

ここまで見てきた小田切教授の定義は、移住者の数を把握するうえでは最善の方法かもしれませんが、移住者の実態とはかけ離れた部分があると言わざるを得ません。小田切教授の定義を基に移住の定義について考察し報告書を作成した株式会社 NTT データ経営研究所の新見友紀子氏は以下のように言っています。

転入者の中には転勤や入学等に伴い一時的に転入してきている人や,近隣地域内での引越をしただけの人があり,これらは移住という言葉には当てはまらない。

しかし,一部には 転勤してきた場所を気に入りそのまま定住する場合や,卒業後も定住し続ける場合が あり,どの時点を移住と呼ぶのかは難しい。

また,結婚により配偶者のみが転入するケースも UJI ターンに含まれる場合と,含められない場合がある。結婚 により配偶者のみが転入するケースや転勤・入学等による転入などは「その他」と分類しているが,以上のように非常にあいまいで分類することが難しい

第5章 人口減少対策としての移住・定住のあり方と 地域おこし協力隊・田舎で働き隊等制度利用に ついて http://www.maff.go.jp/primaff/kanko/project/attach/pdf/160831_28arakachi2_05.pdf

また、新見氏の指摘以外だと、生まれ育った場所を離れ一度、都会に出たうえで改めて故郷に戻ってくるUターンの人は移住者に含まれるか含まれないか曖昧です。彼らは、地域外から転入してきたという意味においては移住者である一方で、Iターン者やJターン者と異なり地縁やつながりは転入先の地域に多く保持しています。

まとめ—移住の定義は難しいからこそ注目が集まっている—

いかがでしたでしょうか?この記事を通して分かったことは「移住には様々なバリエーションあること」「移住には明確な定義がないこと」でした。

近年、移住に注目が集まっている理由は、まさに今この記事で見てきたような層の厚さと解釈の多様さを移住という現象が持っているからだと思います。日に日に新しい移住のカタチが生まれ、人によって異なる移住を体験します。定義できないくらい多様な層を持っているからこそ、移住に可能性を見出す人が多いのではないでしょうか?

KAYAKURAでは、この記事以外にも移住に関する記事を掲載しています。複数の事例、複数の視点から移住について考え、移住の多様さをこれからも知っていただけたらと思っています。

KAYAKURAでは地方移住・新しい時代のライフスタイルに関する講座や勉強会の講師・WSのファシリテーション、執筆、関連した地域活性化・地方創生・観光インバウンドなど関連事業のサポート/コーディネートを行っております。お困りの方はお問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。

-ラジオ版KAYAKURA-

ラジオ版KAYAKURAは毎回1つのテーマについて5分~10分で深堀する音声コンテンツです。テーマは社会課題・最新ニュース・地方創生・観光インバウンドなど。スキマ時間の学びを思考を促す内容となっていますので、ぜひ聴いてみてください。

この記事を書いた人

Masato ito

1996年長野県生まれ。大学在学中に自身が代表を務める事業が長野県地域発元気づくり大賞を受賞。現在は一橋大学社会学研究科にて国内移住に関する研究を行いながら、KAYAKURA代表として長野県を主なフィールドに観光インバウンド・移住・まちづくりのコーディネート・プランニング・調査・PRを多数手がける。2019年からは都内の企業と地方の企業や自治体をつなぐ新たな取り組みも開始。訪日観光客向け観光情報発信サイトNAGANO TRIP運営。池田町第六次総合計画審議委員。週刊SPAや公益社団法人 日本観光振興協会発行『観光とまちづくり』など寄稿多数。2019年4月から東京都国立市と長野県池田町の2拠点居住実践中.