新聞紙面上における「地方移住」登場回数の推移から考える”地方移住ブーム”の実態

地方移住 新聞

2020年~2021年は新型コロナウイルスをキッカケに地方移住が注目を集めている。岡山県庁への移住電話相談件数は4月5月に前年同期2.5倍増、長野県の県移住・交流センターにも2020年6月に26件相談があり昨年同月比7件増となったという。さまざまなメディアで特集が組まれ、筆者もAbema Prime Newsや毎日新聞など何度かコメントをした。

その際よくあるのが「いま地方移住はブームですが…」という前置きである。地方移住はブームだという前提に立ってさまざまなことを語り考えるのは簡単だが、果たして本当に地方移住はブームなのか?

大手4紙の紙面上から”地方移住”を計測する

デジタル大辞泉によれば「ブーム」とは、あるものが一時的に盛んになることを指す。つまり「いま地方移住はブームか?」という問いに答えるためには、「新型コロナウイルスの流行下において地方移住現象が一時的に盛んになっているのか?」という問いに答える必要がある。

この問いに答えを与える方法はいろいろと考えられるが、今回は新聞紙面上における「地方移住」という単語の登場回数推移から地方移住言説の歴史と現在を読み解いていく。

毎日新聞、読売新聞、朝日新聞、日本経済新聞の4紙において「地方移住」という言葉が初めて登場してから2020年12月までの登場回数を整理した(下図)。

毎日新聞で1990年以前に3回、読売新聞で1990年以前に1回登場しているが、その他2紙では1991年に紙面上で「地方移住」が初出した。

1990年代はほとんど地方移住の文字は紙面上に現れず、2006年から2009年頃に登場回数が大幅に増加する。この増加の主な要因は団塊の世代のリタイア、リーマンショック、限界集落論の盛り上がりなどである。

2005年に国土交通省は二地域居住を提唱し、2008年のリーマンショック後には生活費削減や資本主義経済への懐疑から地方移住に注目が集まった。

2014年から2015年に地方移住の登場回数は急増する。これは増田レポートに端を発した第二次安倍政権の目玉政策のひとつである地方創生の影響である。

2016年以降、2015年ほど登場回数は多くないもの一定数登場を続けており、昨年2020年に新型コロナウイルスの影響で再度、登場回数が急増した。2021年は2015年以上の登場回数になることが予測される。

新型コロナウイルス流行下に地方移住ブームは起きているのか

以上の歴史から新型コロナウイルスの流行下に地方移住ブームは起きているのかを考えてみたい。一時的に盛んになるという意味では、地方移住は現在、3度目のブームを迎えているといえるかもしれない。

しかし2015年に上昇したグラフはその後も一定数を維持し続けたまま2020年に急増したため、5年間の動きを踏まえると必ずしも地方移住はブームではないようにもみえる。

ここで1点押さえておきたいのは「地方移住の登場回数が2015年に急増したのは地方創生の影響」であるという点だ。団塊の世代のリタイアやリーマンショック、新型コロナウイルスは社会変化によるものだが、2015年の急増は明らかに政策的影響が強い。

その後、2016年以降も地方創生は続いているわけであるため、近年の地方移住への注目の高さは、政策誘導とその他さまざまな要因(社会的要因・メディア的要因)によって起きているといえる。

つまり新型コロナウイルスの流行による地方移住現象は、すでに政策的な誘導などの要因があったうえで地方移住への注目が高かったため、その流れに乗る形でなおさら注目が集まっているといえるだろう。

ただ、タラればで考えると政策的な誘導がなかったとしても地方移住への興味関心は高まっていたかもしれないともいえる。残念ながら私たちは2015年~2020年の日本の地方移住動向を国、都道府県、地方自治体の政策が無かった状態と比較することはできない。

しかし、例えばフランスでは2000年から比較的気候が温暖な大西洋岸沿いや、地中海沿岸地域の都市や村落部への移住が顕著になり、その後、フランス国立統計経済研究所は「村落からの人口流出は終わった」と明言している。

新しき田舎人(ネオルーラル・Neo rural)と呼ばれる移住者たちは、農村社会に大きな変化をもたらした。同様の傾向は英国やオーストラリアなどでも観測されているため、先進諸国ではマクロなトレンドとして地方移住が進んでいるといえるかもしれない。

よって結論としては、「新型コロナウイルスの流行下では、紙面上で登場回数が急増しているためブームともいえる。しかし2015年頃からの政策的誘導とその他要因によって地方移住への注目の高さは継続的なものともなっている。また諸外国でも同様の傾向がみられているため、マクロなトレンドでみると地方移住はブームではなく中長期的な流れであると考えることもできる」となる。

最後に-“田舎暮らし”の新聞紙面上での推移-

最後にひとつ、興味深い統計を紹介したい。こちらは上記と同様の方法で「田舎暮らし」という言葉の新聞紙面上における登場回数の推移をまとめたものである。

「田舎暮らし」は地方移住より早く1995、1996年頃から注目が集まり始め、2007年にピークを迎えその後も一定数の登場が続いている。

注目は地方移住が急増した2015年と2020年には特段動きがみられない点である。このことから近年の状況は、地方や田舎で「暮らすこと」に注目が集まっているわけではなく、大都市部から地方に人が「移動すること」に注目が集まっていると考えられる。

田舎暮らしについてもさまざまな考察は可能だが、今回は長くなったため一旦ここで区切りとしたい。KAYAKURAでは地方移住の動向について引き続き扱っていくので、ぜひチェックしてみてください。

こちらの記事をあわせてご覧ください。

日本における国内移住の歴史-地方から大都市への移住/大都市から地方への移住-

移住促進を阻む地方の「仕事不足」-過去40年のデータから考察-

この記事を書いた人

Masato ito

1996年長野県生まれ。大学在学中に自身が代表を務める事業が長野県地域発元気づくり大賞を受賞。現在は一橋大学社会学研究科にて国内移住に関する研究を行いながら、KAYAKURA代表として長野県を主なフィールドに観光インバウンド・移住・まちづくりのコーディネート・プランニング・調査・PRを多数手がける。2019年からは都内の企業と地方の企業や自治体をつなぐ新たな取り組みも開始。訪日観光客向け観光情報発信サイトNAGANO TRIP運営。池田町第六次総合計画審議委員。週刊SPAや公益社団法人 日本観光振興協会発行『観光とまちづくり』など寄稿多数。2019年4月から東京都国立市と長野県池田町の2拠点居住実践中.