日本における国内移住の歴史-地方から大都市への移住/大都市から地方への移住-

近年注目される「移住」現象ですが、日本における移住は一体いつから始まったのでしょうか?移住には大きく「地方から大都市への移住」「大都市から地方への移住」があります。

  • 日本の大都市への移住はいつから始まったのか?
  • 地方移住はいつから始まったのか?
  • 地方移住のトレンドはどのように変化してきているのか?

など知っているようで知らない日本における移住現象の歴史をこの記事では詳しくみていきます。

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→日本における地方移住の歴史を10分で振り返る

日本における地方から都市への移住の歴史

近年もっぱら注目されるのは都市から地方への移住ですが、日本では地方移住の流れが生まれるより前から都市への移住が起こっていました。この流れは現在も止まることはなく東京一極集中は日本の特徴ともいえます。ではこの流れがいつから始まり、どこで加速したのか詳しくみていきましょう

農村から都市への人口移動が始まったのは明治中期以降

日本社会では近代化が促進されだした明治中期以降に農村から都市への人口移動が始まり大正以降6大都市に人口が集中するようになりました。1940年時点では都市人口は37.7%と現在の約半数にとどまっています。

この時代に農村から都市に移住した人々は「出稼ぎ型労働者」で、農村との関係は都市移住後も切れず、多くの人が不況期には最寄りの農村へ帰郷したり戦時下には縁故疎開も行われました。

都市移住が加速したのは高度経済成長期以降

第二次世界大戦後の町村合併促進法(1953年施行)で、多くの都市が形成されましたが高度経済成長期前の1955年でも人口の56.1%しか都市には住んでおらず、全国民の約半数は農村に住んでいました。

都市移住の流れが加速し始めたのは高度経済成長期以降のことです。高度経済成長期以降約20年間で約1500万人以上が都市に移動し、1975年には都市人口が75.9%となり世界的にも珍しいほど極端な都市化社会に日本はなりました。その後2000年の調査時は78.7%が都市在住でした。しかし一方で最近までかなりの都市移住者が故郷との関係を何らかの形で残存させていたこともあり、単純な定住者数だけでは地方と都市の実態は見えません。

日本における都市から地方/農村への移住の歴史

新型コロナウイルスの影響で改めて注目されている地方移住ですが、東日本大震災後もリーマンショック後も同じようなことはいわれていました。では一体、日本における地方移住はいつから始まった流れなのでしょうか?

地方移住の源流は1960年代の民宿経営とヒッピー文化

都市民(二世以上)の農村への移住の流れは1960年代以降の民宿経営に始まりがあるといわれています。同時にこの時代は現在シンボリックに語られる「地方移住」の大元ともいえる脱都会現象としてのIターンが、60年代後半のヒッピーによるコミューン運動によって生まれた時代でもあります。運動自体は60年代後半に終息していきましたが村落に受け入れられ残り続ける事例もいくつかありました。

「田舎暮らし」が広まり始めたのは1980年代

1980年代からは1960年代のような地域と隔絶した移住は少なくなり「田舎暮らし」に憧れ移り住む人が現れてきました 。また1980年代からの都市住民のアウトドア志向の強まりにより、多くの都市住民がレクリエーションや観光のために休日、農山漁村を訪れるようにもなりました。

1987年には現在まで田舎暮らしのバイブルとして続く『田舎暮らしの本』(宝島社)が創刊され、一部のメディアも脱都会現象をフォローするようになっていきます。

1990年代になると現在でもつかわれる「Iターン」「Uターン」という言葉が広まり始め、1998年に制定された「21世紀のグランドデザイン」では「多自然居住地域の創造」として、農産漁村へのUIJターンが地域の活力をつくる施策の一つとしてあげられるようにもなり、ここから国策として地方移住が推し進められ始めます。

UIJターンとは

「Uターン」生まれ育った故郷から進学や就職を期に都会へ移住した後、再び生まれ育った故郷に移住すること。「Jターン」生まれ育った故郷から進学や就職を期に都会へと移住した後、故郷にほど近い地方都市に移住すること。「Iターン」生まれ育った故郷から進学や就職を期に故郷に無い要素を求めて、故郷とは別の地域に移住すること。

1990年代~東日本大震災後の移住のキーワードは「持続可能性」「つながり」

1990年代後半~2000年代になると「エコ」「ロハス」「持続可能な生活」など持続可能な生活や自然環境を重視した理由による地方移住に再度注目が集まり始めた。「ソーシャル&エコマガジン」をキャッチコピーとし発刊部数10万部を誇る雑誌『ソトコト』は1999年6月に発刊し、現在でも発行し続けています。

2010年代に入ると、東日本大震災やそれに伴う福島第一原子力発電所の事故により都会の安全性やいつなにが起こるか分からないリスクを感じ、より自立した安全な生活と「つながり」「あたたかさ」を求め地方へと移住する動きが一気に活発化します。

これらの動きは2014年に日本創生会議が発表した通称「増田レポート」による地域消滅論に端を発した「地方創生」「地域活性化」「まちづくり」への注目の高まりと相まって移住トレンドを巻き起こしました。

2012年に「これからの地域とのつながりかた」をキャッチコピーとし発刊した『TURNS』は、人に焦点を絞った記事構成と多彩な地域の切り取り方に注目が集まり地方移住をけん引する雑誌の一つとなっています。

2010年代に入り注目された「つながり」や「あたたかさ」を強調する移住スタイルは、近年「ライフスタイル移住」とアカデミックに概念づけられています。ライフスタイル移住とは農的ライフスタイル/オルタナティブなライフスタイルへの志向、脱消費主義的ライフスタイル、経済的な利潤追求を主たる目的としないライフスタイルへの志向を特徴とする移住スタイルです。

最後に-2010年代後半に入り多様化する「移住」スタイル

2010年代後半になるとテクノロジーの進歩でリモートワーク・テレワーク・ワーケーションなど多様な働き方が実現できることをキッカケとした移住に注目が集まり始めます。また時を同じくして定住しないタイプの移住を指す関係人口・アドレスホッパー・風の人などの言葉も広まり始めます。

そして2020年現在は新型コロナウイルスによってテレワークを導入する企業が増えたこと、都市のリスクが改めて顕在化したことなどをうけて「地方移住が加速するのでは?」論が広まっています。果たして今後はどのような流れが生まれるのか、2020年代の地方移住に引き続き注目です。

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参考資料

  • 高木学, 2000, 「離都向村の社会学 I ターンに見る過疎地域と都市の相互作用」『ソシオロジ』社会学研究会, 44, 3: 3-20.
  • TURNS, 2019, TURNS.
  • 長友淳, 2015, 「ライフスタイル移住の概念と先行研究の動向:移住研究における理論的動向および日本人移民研究の文脈を通して」『国際学研究』関西学院大学国際学部研究会,
  • 木楽舎, 2019, ソトコト.
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この記事を書いた人

Masato ito

国際大学GLOCOM研究員/講師。1996年、長野県出身。博士(社会学)。一橋大学大学院社会学研究科、日本学術振興会特別研究員を経て2024年より現職。専門は地域社会学・地域政策学。研究分野は、地方移住・移住定住政策研究、地方農山村のまちづくり研究、観光交流や関係人口など人の移動と地域に関する研究。多数の地域連携/地域活性化事業の立ち上げに携わり、2事業が長野県地域発元気づくり大賞を受賞。日本テレビDaydayやAbema Prime News、毎日新聞をはじめ、メディアにも多数出演・掲載。