地方自治体の移住促進施策の課題-定住段階の支援不足と加速する移住者獲得競争-

近年、多くの地方自治体が移住促進施策を講じている。各種助成金や移住への入り口を広くするための相談会やPRが移住促進施策にあたる。しかしこれら多くの地方自治体が実施する移住促進施策には1つ大きな課題がある。それが「定住化段階の支援/サポート不足」である。

本記事では移住前~移住時の支援やサポートがなぜこれほど充実しているのか、対してなぜ定住化段階の支援やサポートは薄いのかを検討していく。経済的支援では高まらない住み良さ感の満足度を高めるのは「コミュニティや人間関係」である。

地方自治体が実施する移住促進施策の課題点

地方の人口減少・少子高齢化と東京一極集中是正を目的に、2000年代に入ってから国や自治体は積極的に移住促進施策を講じている。

移住の定義は広く曖昧でありその実態を正確に把握することを難しくしているが、転入者数をベースに小田切が提示した移住者の定義「県をまたいで転入した人のうち、移住相談窓口や空き家バンクなどの支援策を利用した人、または、一部の県で行われている住民票移動時の意識調査で「移住目的」とした人」は行政に広く用いられる定義となっている

この定義から多くの地方自治体が移住促進施策の評価指標として「移住時の人数を用いていること」「移住支援策を利用した人のみ移住者と統計上は扱われること」が読み取れる。

移住者数を評価指標とする移住促進施策を展開する多くの自治体は、移住前~移住実施までの施策は充実したものを提供している。しかし評価指標となる移住者が来て以降、つまり定住化に向けた段階では急激に支援が乏しくなる。これが現在の移住促進施策の課題点である。

移住段階と定住段階で異なる求められる支援/サポート

総務省の調査から都道府県の4割以上が「交流・定住の促進」について課題ととらえており、過疎関係市町村が国に求める支援としても「交流・定住の促進」についての比率が高くなっているが、効果的な策は国も地方自治体もあまり講じられていない

これまで多くの地方自治体は移住促進施策として経済的支援や社会基盤整備によって生活利便性の向上を図ることで移住を促してきた。しかし先行研究から地域に対する住み良さ感は、コミュニティや人間関係に対する評価の方が大きな影響力を持つことは明らかになっている。

経済的な支援で人々を惹きつけられるのは移住時までであり、その後の定住化段階ではコミュニティや人間関係を円滑にするような支援やサポートが求められるにも関わらず策はあまり講じられていない。

これでは定住したくて移住してきた移住者の転出可能性を高めることになり、地方自治体としても投資額に対して返ってくるものが少なくなる可能性が高まる。つまり地方自治体は定住段階での支援をさらに実施しなければ持続的に移住施策の効果を生み出せないのである。

地方自治体の移住者獲得競争で軽視された非経済的価値

移住初期段階の新築補助や各種助成金は充実しつつあるが、移住後の人間関係やコミュニティに関連するハードルを低くし住み良さを高めるための施策はあまりなされていない。

これは国や地方自治体が移住者数を移住促進施策の評価指数としているため、金銭的な魅力で移住者を少しでも惹きつけ移住してもらうことで移住促進施策が成功した/効果的であると示していること関連する。

相川によれば「地方創生」の政策のもとで、地方自治体は「移住者獲得競争」の様相を呈しており、「パッケージ化された移住支援策」が普及する一方、「移住者や帰郷者を受け入れる地域の主体形成と合意形成」が整わないなかで自治体が動き出す状況に、地域の側からは「問題提起」や「違和感」の声があるという

パッケージ化された移住支援策や経済的支援で短期的に移住者数を増やそうとする取り組みは純粋な地域の魅力や定住段階で大切な人間関係・コミュニティが軽視される状況を生み出している。これではせっかく多額のお金が投資されても地方自治体にとっても、地域住民にとっても、移住者自身にとってもよい効果はもたらされないだろう。

まとめ-移住と定住の分断を超えるために必要な中長期的な視点-

この記事では移住促進施策における移住と定住の分断を、評価指標と住民の満足度の視点からみてきた。多くの地方自治体が目先の数字欲しさに経済的支援によって移住者数を増やそうとしているが、本質的にみるとそれは非効率的かつ非持続可能な移住促進であると言わざるをえない。より効果的な移住定住促進を実施するために中長期的な視点で施策を検討することが求められる。

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参考資料
・総務省, 2001, 「移住・交流 関係資料」(閲覧日2020年6月21日,
・相川陽一, 2016, 「現代山村における地域資源の自給的利用と定住促進の可能性―林野を生かす高齢者と若手移住者の暮らしを手がかりに―」『現代社会は「山」との関係を取り戻せるか』農山漁村文化協会, 145-182.
・片田敏孝, 浅田純作, 1999, 「混住化社会における住民の住み良さ感の構成に関する研究」 『土木計画学研究・論文集』16, 289-295.加藤潤三, 前村奈央佳, 2014, 「沖縄の県外移住者の適応におけるソーシャルキャピタルの影響」『人間科学』31, 11-143.

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この記事を書いた人

Masato ito

1996年長野県生まれ。大学在学中に自身が代表を務める事業が長野県地域発元気づくり大賞を受賞。現在は一橋大学社会学研究科にて国内移住に関する研究を行いながら、KAYAKURA代表として長野県を主なフィールドに観光インバウンド・移住・まちづくりのコーディネート・プランニング・調査・PRを多数手がける。2019年からは都内の企業と地方の企業や自治体をつなぐ新たな取り組みも開始。訪日観光客向け観光情報発信サイトNAGANO TRIP運営。池田町第六次総合計画審議委員。週刊SPAや公益社団法人 日本観光振興協会発行『観光とまちづくり』など寄稿多数。2019年4月から東京都国立市と長野県池田町の2拠点居住実践中.