消極的移住者というサイレントマジョリティー-移住者の多様性に目を向ける-

地方移住についてメディアが取り上げる際、「地方移住は素晴らしい!」「地方移住者は交流や繋がりを求めている!」「地方移住者は地域コミュニティに意義を見出している」など、コミュニケーション能力が高く明るく能動的な移住を促進する「積極的移住者」が取り上げられがちです。

上記のような「積極的移住者」は移住者全体のマジョリティとは必ずしも言えず、全ての移住者が積極的移住者であると思い込むと移住施策や制度設計は失敗します。なぜならメディアでは取り上げられない、地域で姿は見えないけれどしょうがなく移住してきた「消極的移住者」もいるからです。

これまで消極的移住者の存在にはあまり光があたらず、一部では批判の対象ともなってきました。しかし多様性ある地域には消極的移住者も必ず存在し、サイレントマジョリティとしての消極的移住者の声に耳を傾ける必要もあります。今回は4つの消極的移住者のケースから、今後の移住施策や移住促進の展開を考えていきます。

離婚を機に地方の実家に戻るという選択

子どもがいる方で離婚を機に地方の実家に移住するというケースは一定数存在します。シングルマザー/シングルファーザーになり都会での暮らしが経済的に厳しくなったり、それまで分担していた子育ての負担が重くなったりしたことが主な理由です。

実家に戻るということは移住者はUターン者となり、過去に見知った人が多い環境に戻ることを意味します。「離婚した」ということは未だにネガティブに捉えられることが多いため、移住後に積極的に近隣と付き合ったり地域の会に参加することが心的な負担となります。ある程度時間が経ったら子どもの存在や戻ってきた理由も共有できるかもしれませんが、移住してすぐにそれを求められるのはツラい側面があるかもしれません。

地域にとっては子どもが増えることはプラスな効果が大きいため歓迎され後に馴染んでいくケースがこの場合は多いように取材を通して感じます。しかし周囲の人が積極的に地域への参加を求めることは気を付けなければならず、本人と家族の意思を尊重することが重要です。

都会暮らしで心身が疲弊したため地方へ

都会での1人暮らしを始めたら生活習慣が崩れ学校でも友達がつくれず結果、地方の実家に帰ることになった大学生。就職と同時に都会に出たものの仕事が大変すぎて心身の体調を崩し地方の実家に戻ることになった社会人。このように都会での暮らしや仕事での不調を理由に、地方の実家に戻るケースは都市一極集中の現代日本社会で多くみられます。

このようなケースでは実家に移住後、一定期間静かに暮らす時間を設けたり自分の好きなことに取り組みつつなだらかに社会復帰できる環境を整えたりすることが重要です。しかし中には自治会や町内会のメンバーに「戻ってきたなら祭りのメンバーになってよ!」「消防団入ってよ!」「家にいて暇なら地域の行事手伝ってよ」と声をかけられることもあります。

移住してきたor戻ってきた若者は地域に関わるべきもしくは関わりたいだろうという一面的な理解では、関係性が崩れより心身が不調になる可能性があるため地域側は相手の事情を考量することが重要です。時代遅れな平等の要求は人生を破壊する可能性があることを意識しなければなりません。

実家を継ぐために地方の地元へ

「実家は子どもが継ぐ」という価値観は古いものになりつつありますが、今でも1軒家を所有していたり家業を営んでいる場合には実家を継ぐために地方にUターンするケースが多くあります。オウチーノ総研の調査によると親の持ち家は子どもが継ぐべきだと思う人は、20歳~39歳のうち約50%にのぼります。また長男長女だから実家を継ぐという考えについても約40%の人が今でもある考えだと思っています。

実家を継ぎたくないけれども継がなければいけない場合、移住の目的は家を継ぐことにあり「地域が好きだから」「地域での交流を大切にしたいから」などは順位が低くなりがちです。実家を継ぐことをキッカケに消極的移住がなされるケースを減らすためにも、親世代は元気なうちから将来の家のことを考えるべきでしょう。また家を理由に消極的移住しなければならない場合には、さまざまな地域の役割などがまわってくる可能性もあるため家以外の要素で懸念事項が無いか事前に確認しておくことが重要です。

高齢の親の介護を機に

内閣府政府広報室が平成15年に実施した調査によれば、家族が要介護者になる不安をかかえた国民は約74%いることがわかっています。介護を受けたい場所としても可能な限り自宅で介護を受けたい人が約45%と国民のおよそ半数が自分の家で介護を受けたいと考えています。

家族が介護が必要になった場合に困る点としては心身の負担増があげられており、望んで積極的に高齢の親の介護のために地方に戻る人は少ないでしょう。そんな介護するために地方に戻る人も消極的移住者の1ケースです。

近年は老人ホームや宅老所を活用することで家族の負担を減らせるケースも増えていますが、入所施設の部屋数が足りなかったりサポート体制が盤石でなかったりする自治体はいまだに多くあります。介護を主たる目的に移住する場合、余暇時間や地域への積極的な参加は困難になる場合が多く、地域とも距離が生まれがちです。

地域としては親の介護を理由に移住した消極的移住者の精神的ストレスを軽減するために外に出るキッカケを提供しつつ、地域の役割等の負担は減らすことを考えなければなりません。誰もが将来、同じ状態になる可能性はあるため地域全体での包括的な支援が重要となるでしょう。

最後に-一面的捉えず多面的に移住者を捉えることで実態がみえてくる-

地方自治体の移住定住促進担当者と意見交換すると「移住者は地域での交流やコミュニケーションを求めているから、もっとそういう機会をつくろう!」「移住者は地域活性化活動に関わりたいはず」という声が聴かれます。しかし本記事でみてきたように移住者の中にも交流やコミュニケーションを望まない、もしくは機会を必要としていない人も多くいます。

自治体の移住定住促進担当者が接する移住者は、多くの場合積極的移住者が中心となっている傾向にあります。自身の体験をベースに移住=良いものと盲目的に捉える積極的移住者も中にはいるため、そのような人の声を踏まえて交流やコミュニケーション機会を増やすと消極的移住者にとっては苦痛となってしまうのです。

移住促進に関わる人は積極的移住者と消極的移住者のグラデーションを理解したうえで、多様な移住の在り方に対応できる環境を整えていくことが重要です。これは移住促進に対してのアンチテーゼではなく、より効果的な移住促進を実現するための戦略です。このことを理解したうえで偏りのない地方移住定住促進を実施していきましょう。

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この記事を書いた人

Masato ito

国際大学GLOCOM研究員/講師。1996年、長野県出身。博士(社会学)。一橋大学大学院社会学研究科、日本学術振興会特別研究員を経て2024年より現職。専門は地域社会学・地域政策学。研究分野は、地方移住・移住定住政策研究、地方農山村のまちづくり研究、観光交流や関係人口など人の移動と地域に関する研究。多数の地域連携/地域活性化事業の立ち上げに携わり、2事業が長野県地域発元気づくり大賞を受賞。日本テレビDaydayやAbema Prime News、毎日新聞をはじめ、メディアにも多数出演・掲載。