【社会動向レポートvol,2公開】地方地域社会における地元住民と移住者の摩擦に関する考察-移住者視点からの新型コロナウイルス以降の 田舎暮らしに関するオンライン調査結果より-

KAYAKURAでは不定期で地域・社会・観光のトレンドを分析した社会動向レポートを公開しています。今回公開するのは社会動向レポートvol,2「地方地域社会における地元住民と移住者の摩擦に関する考察-移住者視点からの新型コロナウイルス以降の 田舎暮らしに関するオンライン調査結果より -」です。

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本稿では、まず近年の移住動向を整理し新型コロナウイルスをキッカケに注目された「他県ナンバー狩り」に代表されるよそ者と地元住民の摩擦の先行研究をみていく。続いて筆者が5月下旬にオンライン上で実施した調査結果をもとに地元住民と移住者の摩擦の実態を検証し、多様性が増す地方地域社会における生き心地の良い共生の在り方を検討していく。

1. はじめに

1960年代から日本では大都市から地方に移り住む地方移住現象が注目され始めた。地方移住現象はその時々の社会情勢と絡めながらマスメディアに取りあげられてきたが、2011年の東日本大震災・2014年の増田レポートを経ていまや一時のブームではない長期的な潮流となっている。2020年に世界を襲った新型コロナウイルスによってリモートワークやテレワークが推進され、都市のリスクが顕在化したことも地方移住を後押しする要因になるのではないかと現在進行形で注目されている。

地方移住現象によって大小さまざまなレベルで観測されるのが旧住民(地元住民/農村側住民)と新住民(移住者)の摩擦である。それは「いざこざ」「あらそい」と呼ばれることもある社会的な現象であり、異なる価値意識とバックグランドを持った人々が同じ地域で生活する以上、免れ得ないものである。

グローバル化とモビリティの高まりによってこれまで以上に混住化が進む地方地域社会では、共同体や閉鎖的空間特有の悪しき慣習を残し、移住者への排外・差別・偏見となっている事例も存在する。新型コロナウイルスによって都道府県間の移動自粛などが求められた際に全国でみられた「他県ナンバー狩り」は、その1つと考えられる。

本レポートでは2020年5月17日~25日にKAYAKURAがオンライン上で実施した「移住者視点からの新型コロナウイルス以降の田舎暮らしに関する調査」をもとに、地方移住後の生活で起こる地元住民と移住者間の摩擦、新型コロナウイルス発生以降の移住者への差別偏見の実態を整理すると共に、多様な価値意識とバックグランドをもつ他者同士が地域で共生していくための方法を考えていく。

特に新型コロナウイルス発生以降のよそ者としての移住者への一部の過激な言動がマスメディアでは取り上げられるが、センセーショナルに切り取られた言動に隠れて見えづらくなっている「当たり前の日常」の中で起こる摩擦・差別・偏見にスポットをあてることを目指す。摩擦には社会に対する逆機能ばかりでなく、社会をよりよい方向に進める順機能となることがあるのも忘れてはいけない。

本レポートが地方自治体で移住促進に取り組み担当者、地方移住を検討している人々に届けば幸いである。

2. 近年の地方移住動向

新型コロナウイルス拡大防止のために、多くの企業がリモートワークやテレワークを実践したこと、大都市のリスクが顕在化したことを受けて、地方移住への興味関心が高まっていると今日指摘されている。

新型コロナウイルスが日本で猛威を振るい始める直前の2020年1月30日~2月3日に、政府は東京圏に住む20~50代1万人を対象に地方移住に関するオンラインアンケート調査を実施した。調査の中で地方暮らしに「関心がある」と答えたのは15.6%、「やや関心がある」が15.5%、「気にはなっている」が18.7%となり、全体の49.8%が地方で暮らすことに興味関心を持っていることが明らかになった [東京新聞, 2020]。

この結果は2018年10月に内閣府が実施した『東京都在住者の今後の暮らしに関する意向調査』と比較すると約10.4%高くなっており、地方移住への興味関心の高まりが読み取れる [まち・ひと・しごと創生会議, 2018]。

一方、地方移住は東京一極集中を是正するために国が推し進めている側面があるが、2017年時点で東京圏は約12万人の転入超過となっており東京一極集中の傾向は未だ是正されていない(22年連続転入超過) [内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局, 2018]。

また2017年に一般社団法人移住・交流推進機構(JOIN)が実施した「若者の移住」調査によれば地方への移住を妨げている要因として仕事関連が48.8%、人間関係関連が44.2%、情報不足関連が34.8%となっており移住に興味があり移住したくても、さまざまなハードルによってできない現状が明らかになっている [一般社団法人移住・交流推進機構(JOIN), 2018]。

3.新型コロナウイルス以降の移住者への偏見と摩擦

地方移住者の増加・興味関心の高まりは地方地域社会で暮らす人々の多様化=混住化社会の加速を促している。日本人移住者に限らず外国人労働者や外国人実習生も含めた移住者が地方で増えることで、地方地域社会は人口減少や働き手不足などの課題を克服しようと試みている。

移住者の増加はさまざまな課題を解決する一方、課題も浮き彫りになりつつある。その1つが新型コロナウイルスによって改めて顕在化したよそ者・移住者への差別・偏見のまなざしである。

具体的な事例として、地域外のナンバープレートをつけた車を注意したりSNSで晒したりする「他県ナンバー狩り」や、都道府県の境を超えて移動する人に対する嫌がらせなどが4月以降連日メディアによって報じられた [西日本新聞, 2020]。

これらの現象は、ストレスの高まりと「自分/自分たちさえよければいい」という自己中心性/地域第一主義、日本の特に地方でいまだに根強く残る共同体性がよそ者・移住者への差別偏見という形で立ち現れたといえる。そこには他者がかかえる事情や背景を理解しようとせず表面的な所属や移動履歴・ナンバープレートで排除する姿がみられた。

L. コーザーによれば集団内におけるコンフリクト(摩擦)には、逆機能と順機能がある。順機能とは摩擦を乗り越えることで集団がアップデートされるような状態を指すが、コロナ下で行われた一部の行為は順機能とは捉えられない行われてはいけないものであったことは確かである。

4. 移住者と地元住民の関係性に関する先行研究

地方における移住者・よそ者と地元住民の関係性に関する知見は、社会学において古くから積み重ねられてきた。ドイツの社会学者G. ジンメルは1908年に上梓した「社会学」の第9章補説「よそ者についての補説」において、よそ者の「厄介ごとを地域に持ち込み起こす者」というネガティブなイメージと、「非よそ者には分からない新しいまなざしによって集団に内在する危機を見通す可能性がある」というポジティブなイメージの両方の存在を記している [ゲオルグ・ジンメル, 1994]。

地方移住による摩擦を研究した先行事例としては本田や長友らの研究が挙げられる。自然豊かな農村環境への移住を希望する地方移住者は、都市と比べて人の流動性が低く閉鎖的環境へと転入する可能性が高い。

本田らによれば、個人・家族単位での行動の自主性が尊重される都市での生活とは異なり、農村では住民同士が生活・生産の両面にわたって互いに深く関わり合うことが”当たり前”とされる。また、住民の生産や生活を支えるために様々の組織が存在し、これら組織やその活動に参加することも”当たり前”とされる。

さらに、農村側住民は自身の属するムラの永続性を希求するのに対し、移住者は自らの見出した”農村らしさ”を守ることに価値を置く傾向がある [本田, 伊藤, 小田, 2011]。これらのギャップが摩擦を生み出していく。

長友によると生活の質の向上や持続可能な生活を求め移住するスタイルを「ライフスタイル移住」と呼ばれ、ライフスタイル移住は近年増加しているという。価値観が多様化している今日、価値観が変化している人とあまり変化していない人、価値観が変化したことで共有できるようになったこととできなくなったことがあるため、相互行為を通した理解が可能な部分が変化してきている。

これらの理由から、移住者と地元住民の生活様式や行動原理、価値観、人間関係の在り方に対する認識の間にはかなりの隔たりが存在し、農村住民だけ、都市住民だけの地域では発生する可能性が低い差別偏見が発生するのである [長友淳, 2015]。

5. 本調査の概要

本調査の目的は主に2つある。1つ目はよそ者としての移住者が地方移住後に地元住民との間で起こった「いざこざ」「摩擦」を明らかにすること。2つ目は新型コロナウイルス発生以降移住者が差別や偏見を受けた実態を把握することである。調査は2020年5月17日~5月31日にかけてオンライン上で実施した。


これ以降(約9,000文字)はPDFにてご覧ください。


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この記事を書いた人

KAYAKURA 編集部

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