加速する自治体の移住者獲得競争を脱するために-移住促進の実態から解決への糸口を探る-

自治体 移住者獲得競争 伊藤将人

自治体による過度な地方移住者の獲得競争が続いています。2024年1月発行の「日経グローカル」475号1によると、全国の自治体首長の6割以上が、「移住者の獲得競争を懸念」している実態が浮かび上がってきました。

理由としては、財政負担が重いこと、自治体間の消耗戦になりつつあること、子育て世代や若者など特定の層の奪い合いになっていることが挙げられました。日本全体の人口が減少する中でも「人口」という量的指標が、重視されすぎている、重視しなければならない状況に置かれていることも理由としてあげられるでしょう。

では一体、どうすれば自治体の移住者獲得競争から脱することができるのでしょうか?本論考では、競争の実態と構造を読み解くことによって、過度な競争から脱するための糸口を提示します。2

自治体の移住者獲得競争をめぐる実態

はじめに、自治体間の競争の実態と、移住者獲得競争の実態を確認しましょう。

NHKが2023年に全国の首長を対象に実施した調査の結果、現在、79.0%の自治体が「自治体間競争が激しくなっている」と感じていることが明らかになりました。3

具体的にどのような競争が激しくなっているのか聞いた質問では、「ふるさと納税」や「子育て」と並んで、「人口」「移住」「定住」という語句が頻出、「移住」に絞ると自由記述の中で357回も登場していました。

具体的には、以下のような声があげられました。

自治体首長
中部地方
町長

「人口減少という言葉から、移住、出生率などの数値。住民への暮らしの安全確保より、数値化しやすい施策が注目される点に危機感を持っている。」

自治体首長
九州地方
市長

「子育て世代の争奪戦。自分もやっているが、近隣の自治体で人口を奪いあっても根本的解決には繋がらない」

こうした結果から、移住促進施策は、各種施策の中でも特に「競争が生じている」と感じられていることがわかります。

このことは、前述の雑誌「日経グローカル」475号の結果からも明らかになっています。2023年10~11月に全国の知事と815市区長4を対象に実施したアンケート調査の結果、首長の6割以上が、「移住者の獲得競争を懸念」していることが明らかになりました。

顕著な傾向として確認されたのが、政策メニュー、政策対象の同一化傾向です。例えば、人口減少対策としては「子育て支援」を挙げる自治体が約9割を占めていることが明らかになりました。

現在、日本の全世帯に占める「子育て世帯」の割合は18.3%、991万7,000世帯です5。各種調査から、子育て世代の移住希望は多く見積もって4割〜5割であると推測できます6。これらを踏まえると、約9割の自治体が全世帯の約7-9%の移住を希望する子育て世帯を移住させようとしていることがわかります7

「日経グローカル」475号では、若年女性にとって住みやすい環境の整備や、雇用の創出などに注力することで差別化しようとする地域の動向も取り上げられました。しかし、これらの自治体も結局は移住者数を増やすという同一のモノサシで戦っている点で、長期的には消耗戦にならざるをないと言えるでしょう。また、これらの自治体も極端に限られたパイを自治体で取り合っているので、多少の差別化では効果が上がらないことは想像できます。

問題は「競争の過剰さ」と「自治体の主体性を削ぐ」構造

ここで1点確認しておくと、自治体間の競争自体は、両面性を有するものであり、必ずしも問題というわけではありません。適切な競争は、より良い政策の実現、より良い地域の実現につながることもあります。

「足による投票」という概念が知られていますが、住民や企業が、より好ましい公共財やサービスを求めて地域を移動することにより地方政府間に競争的な関係が生じ、行政の効率化などが進み、住民の満足度が向上することは多々あります8

では一体、自治体の移住者獲得競争は何が問題なのでしょうか?

最大の問題は、地方分権以降、自治体による主体的で自律的な移住促進が行われてきたにも関わらず、特に地方創生以降、地方分権とは逆行するような「国によるトップダウンの政策枠組みに基づく、中央集権的な移住促進の様相が強くなっている側面がある」ことです。

具体的には、国や都道府県など上位政府の「総合戦略」を勘案して策定することが求められる「地方版総合戦略」や地方創生関係交付金、KPI(Key Performance Indicator, 重要業績評価資料)に代表される量的指標などの管理システムを通した政策誘導によって、中央集権的な性格をもつ移住促進が展開されるようになっています。

管理システムの導入による誘導により、国が移住施策メニューや評価基準を大まかに設定・誘導し、競争の土俵を整備する役割を強めているのです。

今日の新自由主義的な自治体間競争の特徴は、自由な競争ではなく政府や上位集団が定めたルールや方向性の下での「制限された競争」である点です。

その結果、自治体はモヤモヤやジレンマを抱えながらも移住者獲得競争に加わらなければならない、移住促進施策を行わなければ「負け組」となってしまう、移住促進施策に力を入れれば国からの交付金が増えるかもしれない、といった感覚となり、危機感や疲弊感がありながらも移住促進施策を展開、その結果、過度な競争が生じているのです。9

本来であれば、より多様で、創造的な政策が生まれる可能性もある自治体間競争ですが、自治体の主体性を削ぐ、横並びで金太郎飴的な移住促進が展開される現在の状況は、たとえ自治体間競争を是とする立場であったとしても健全とは言えないでしょう。

また、現状は自治体間の経済力・財政力の差や相互連関性を勘案しない過度な競争が展開されています。こうした状況は、重複投資や政策効果の相殺、経済社会活動のクリーム・スキミングなどを生じさせ、当該自治体だけでなく圏域全体の活力を失わせかねません。このことは、人口減少社会における自治体間“共創”をも妨げるものともなりつつあるのです10

自治体の移住者獲得競争から脱するためのヒント

過度な移住者獲得競争を終わらせること、そしてそこから脱却することは簡単ではありません。現在の状況は長い歴史の中で、経済システムや政治システム、人口構造などの変化を背景に徐々に確立された状況です。さらに、前述の通り、国の方針や態度も大きく影響しているため、自治体単位で対応できる範囲には限界があります。

それでも、当初は自治体による独自の政策アイディアとして、持続可能な地域社会を実現するための方策として登場し波及してきたからこそ、この状況を自治体から変えていくことは可能なはずです11。そこで以下では、自治体の移住者獲得競争から脱するためのヒント・方策の糸口を提示します。

1.周辺自治体ではなく、自治体の状況や目指す方向性との適合性を重視する

第一の方策は、自治体の状況や目指す方向性との適合性を重視することです。換言すれば、総合計画や基本計画において掲げられた5年後、10年後の理想的な地域の姿から逆算して、当該自治体の移住促進をめぐるスタンスとアプローチを決めることが重要です。

長期計画から逆算した場合、移住希望者数や移住相談者数、移住者数といったありきたりなKPIには意味がないかもしれません。例えば、地域住民のウェルビーイングを重視する方向性ならば、移住促進においてもそういった指標を入れたり、数よりも移住者を含む住民の心の豊かさ、幸福度、生活や地域への満足度を移住関連のKPIとするべきでしょう。

このように、バックキャスティングに基づく独自の目的設定、目標設定を行うことで、横並びの競争から脱却できる可能性が高まります。それは、自ずと独自性のある目標設定とモノサシになるからです。

大切なのは、周辺自治体との差異ではなく、自分たちの地域の過去から現在、そして未来にかけての変化です。他自治体を軸としたモノサシではなく、自分たちの地域を軸とした新たなモノサシを設定することが重要です。

2.移住促進施策のターゲットを再定義する(Uターン促進が有する可能性)

第二の方策は、移住促進施策におけるターゲットを再定義することです。地方創生以降、国によって示されたKPIや都道府県が設定したKPIを、そのまま採用している市町村が多く確認されています。

しかし前提として、「移住者」の定義は国によって明確に決められていません。学術的にも、確固たる定義はありません。定義をめぐっては様々な論争がありますが12、裏を返せば移住者の定義や移住促進施策のターゲットは、各自治体が自由に決めてよいのです。

以前、ある自治体の移住促進担当者と話していてこんなことを聞かれました。

「うちの地域では、地理的、インフラ的にIターン者に来ていただくことは難しいです。なので、次年度以降はUターン者誘致に力を入れようと思っているのですが、これは移住促進施策としてどうなのでしょうか?」

この質問の背景にあるのは、「移住促進=Iターン促進が主流だが、Uターン促進は移住促進に含まれるのだろうか?」という不安でした

都道府県の定義をみるとUターン者は移住者数に含めないとするところも一定数存在します。しかし、各種調査研究によって、多くの自治体ではUターン者が地域住民に占める割合がとても多いこと、対してIターン者やJターン者の割合は、一部の多い自治体を除くと一桁台〜Uターン者の半分程度というのが実態です。

これは一例に過ぎませんが、移住者や移住促進施策をめぐっては、再検討の余地がある定義やイメージが多々存在しています。これまで過度に理想化されてきた「Iターン者像」や「起業家的な移住者像」から脱し、現実的かつ公平性の高い定義や、背中を後押ししたい対象を再検討・再定義する時期に差し掛かっているのではないでしょうか。

3.移住促進段階よりも、定住促進段階に力を入れる

第三の方策は、移住促進段階よりも、定住促進段階に力を入れることです。

近年、移住促進への関心が高まるのと並行して、定住促進への関心は停滞してきました。

たしかに、人びとの移動性・可動性が高まったことで、以前のように定住を促したり、定住を善とする発想は古くなりつつあります13。しかし一方で、2020年代現在でも、一戸建ての所有希望は高く、いわゆるZ世代であっても56.0%が一戸建ての購入を希望しているという調査結果もあります14。また、自治体による各種調査結果においても、6割〜9割程度の住民が定住を希望していることが明らかになっています。

移住促進施策を実施する自治体にとっても、移住はさることながら、移住した人が定住意識を有したり、移住して定住を希望する人が希望通りに定住できたとしたら、これほど喜ばしいことはありません。

しかし残念ながら、現在の移住促進をめぐる制度の中には、移住さえしてくれればよい、転入届を出してくれればプラス1人で成果になるからよいという発想のもの多く存在しています。そうなる理由は前述のとおりです。

加速する自治体間の自治体間競争から脱するためには、こうした「移住至上主義」の発想を止め、移住の先に可能性としての定住を常に意識し、「定住したい人が定住できるような支援」にさらに力をいれる必要があるのです。

4.移住したい人を増やすのではなく、移住したい人の背中を押す方向へ

第四の方策は、移住したい人を増やすのではなく、移住したい人の背中を押す施策への転換です。

多くの自治体によって移住者数や移住相談者数の増加が目指されてきた中で、本質的に重要な「移住したい人の背中を押す」という観点が後退し、「いかに移住したい人を増やすか」が重要視されるようになってきました。

結果として、「移住を支援する」のではなく、「移住を作り出す」という近年の動向を生み出すことになります。このことが、加速する自治体の移住者獲得競争の根底にあるといっても過言ではないでしょう。

移住者獲得競争から脱するために重要なことは、「移住を支援する」という意識への回帰であり、移住したい人の背中を押す施策への転換です。具体的には、自治体への移住希望を既に有している人に対して、移住を実現するにあたり不安なことや課題となっていることを一つひとつ解決するようなサポート体制の拡充が求められます。

その他には、移住促進施策の対象を拡張することも効果的です。例えば、これまではIターン者や移住促進施策の利用者などに相談機会やアドバイザーへのアクセス機会が閉じる傾向にあったのであれば、Uターン検討者や結婚や進学に伴う転入者にもその機会を拡張する、周知を促進することが求められます。

自治体間競争は公平性が担保されるべきであるとの同様に、移住希望者・移住者による支援施策へのアクセス機会も公平であるべきです。ここで挙げた以外にも、加速する自治体間の移住者獲得競争を脱する方法は多数考えられます。

既存の「競争」に勝とうとするのではなく、当該自治体に合った異なるルール、異なる健全な「共創」の場とルールを探していくことが、よりよい地方移住と関連する政策・施策を実現するでしょう。

【地方移住研究者で国際大学グローバル・コミュニケーション・センター講師の伊藤将人は、地方移住定住や関係人口、持続可能なまちづくりに関する講師講演、執筆、メディア出演、関連事業の支援サポートを行っております。まずはお気軽にお問い合わせフォームからご連絡ください。伊藤将人のプロフィールはこちら


  1. 日経グローカル475号(2024.1.1)「全国首長調査㊤ 人口減少の実情と対策 移住者の獲得、6割が過熱懸念」 ↩︎
  2. 本論考は、主に、伊藤将人(2024)「自治体による地方移住政策の現状と三つの課題」『月刊自治研』、伊藤将人(2024)「戦後日本における地方移住政策の登場と変遷─政策的移住促進というアイディアと人材としての「移住者」への期待─」博士後期課程学位論文の内容に基づいています。 ↩︎
  3. NHK政治マガジン(2023.4.3)「人口獲得大競争 私たちが自治体を“選ぶ時代”に?」, 「全国首長アンケート 注目の記述回答 自治体間競争は」 ↩︎
  4. 調査対象が知事と815市区長に限定されており、より人口減少や少子高齢化の課題を抱え、競争を実感していると思われる町村の首長の声は反映されていない点は留意する必要があります。 ↩︎
  5. NHK(2023.7.4)「子育て世帯」の割合 初めて20%を下回る 厚労省調査 ↩︎
  6. いこーよ総研(2022)「子育てファミリーの移住意識に関するユーザーアンケート」 ↩︎
  7. なお、これは全国の子育て世帯数なので、東京都や東京圏、三大都市圏の移住希望のある子育て世帯に絞ると、その割合はさらに低くなると考えられる。 ↩︎
  8. 坂村裕輔(2021)「Vol.279-2 テレワークが拡大する「足による投票」の可能性について」 ↩︎
  9. こうした誘導の最たる逆機能として生じた事例として、2019年の移住相談会サクラ問題があげられます。これは、都内で開催された移住相談会で一部の参加者に現金が支払われていたことが発覚した事件です。相談会の運営を受注した企業が、求人サイト運営企業や人材派遣企業に人集めを発注、企業の関係者が現金支給を認め参加者本人がサクラの実態を証言し、約500の県や市町村が主催する相談会で参加者の偽装が確認されました(東京新聞,2020,https://www.tokyo-np.co.jp/article/48227)。 ↩︎
  10. 牧瀬稔(2023)「時事テーマから斬る自治体経営 「自治体間競争(都市間競争)」の注意点」事業構想オンライン. ↩︎
  11. 伊藤(2023)によれば、日本で最初の本格的な移住促進施策は、1984年の熊本県によるUターンアドバイザー制度である。伊藤将人(2023)「地方自治体による政策的移住促進の誕生と展開 ―熊本県におけるUターン制度とテクノポリス構想の関連に着目して―」『国際公共経済研究』34: 85-93. ↩︎
  12. 日本農業新聞(2023.10.21)「転入=移住者?道府県ごと定義さまざま「比較できない」」 ↩︎
  13. 定住促進をめぐる政策動向については、伊藤(2023)が詳しい。伊藤将人(2023)「戦後日本の国土計画における地方への移住促進言説の変遷~全国総合開発計画-第二次国土形成計画の分析より~」『計画行政』46(2): 46-53. ↩︎
  14. パナソニックホームズ株式会社(2023)「2023年「住まいに対する意向調査」」 ↩︎
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この記事を書いた人

Masato ito

国際大学GLOCOM研究員/講師。1996年、長野県出身。博士(社会学)。一橋大学大学院社会学研究科、日本学術振興会特別研究員を経て2024年より現職。専門は地域社会学・地域政策学。研究分野は、地方移住・移住定住政策研究、地方農山村のまちづくり研究、観光交流や関係人口など人の移動と地域に関する研究。多数の地域連携/地域活性化事業の立ち上げに携わり、多数の地域関連の賞を受賞。日本テレビDaydayやAbema Prime News、毎日新聞をはじめ、メディアにも多数出演・掲載。