地方移住の最新動向-各種統計・AI, MaaS, オンライン相談・コロナ-

社会状況の変化と共に新しいサービスやアイデアが休む暇なく世の中にリリースされる地方移住。新型コロナウイルス、AI、MaaSなど地方移住に新たな動きを生み出すキーワードは止まらない。本記事では2019年末~2020年4月の地方移住最新動向をまとめ掲載している。動向選出のポイントは新規性・トレンド性・汎用性の3点。なお上半期版には2020年6月までの動向を掲載するため随時更新していく予定である。

2019年移住希望地域ランキング公開 1位長野県、2位広島県、3位静岡県

認定NPO法人ふるさと回帰センターは2020年2月28日に、2019年移住希望地域ランキングを公開。1位が長野県、2位が広島県、3位が静岡県となった。3年連続1位の長野県は『田舎暮らしの本』による調査でも移住したい都道府県に14年連続で輝いた不動の1位だが、注目は2位の広島県である。

2018年の調査で6位だった広島県は2位に急浮上。ふるさと回帰支援センターの分析によると、広島県は、瀬戸内ライフ、新しい働き方、カープ移住や食をテーマにした移住相談会を開催するなど、広島の資源や魅力を再確認しながら多様な暮らし方の提案・発信を行っていることが浮上の理由である。ターゲットは若者層に定めており、年代別ランキングでは20歳代以下は長野県を押さえて広島県が1位になった。広島県の2020年の展開に目が離せない。

→2019年移住希望地域ランキング:NPO法人ふるさと回帰支援センター

移住したい都道府県として知られる長野県がなぜ1位であり続けるのか知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。

AI×LINE×移住 AIライフスタイリストが移住相談にのる時代到来

地方移住の悩みをアプリ上でAIに相談する時代がやってきた。広島県は2019年12月に無料通信アプリ「LINE」を使って移住相談にAIがのるサービス「ひろしまライフスタイリスト あびぃちゃん」の使用運用を始めた。LINEで友達になると、あびぃちゃんからアンケート形式の質問が送られてきて、答えると相談者にマッチした回答が送られてくる。

会話形式で人を介さずに相談できるため気軽に移住相談でき、24時間どこにいても相談できるのが魅力だ。あびぃちゃんは移住者の体験談にもとづくオススメスポットや、おすすめの地元企業もレコメンドしてくれる。AI技術を活用した移住相談システムは都道府県では初の試みであり、AIで蓄積されたデータを活用した広島県のさらなる移住促進施策が楽しみである。

→ひろしまライフスタイリストあびぃちゃん公式サイト:HIROBIROひろしま移住メディア

MaaSで地方の課題を解決 WILLERが実証実験

2019年度はMaaS元年と呼ばれるほど日本でMaaS概念が普及した。MaaSとは「さまざまな形式の交通サービスを、オンデマンドでアクセス可能な単一のモビリティサービスに統合するもの」を指す。MaaSは公共交通が脆弱な地方の課題を解決する技術革新として注目を集めており、シニア層の移住者増が今後も予測されるなかMaaSの推進は移住者増のために見逃せない。MaaS×地方で実証実験を行っているのが高速バス大手のWILLERである。

WILLERや京都府などと共に、京都丹後鉄道沿線エリアで鉄道を主とした地方郊外型のMaaSの取り組みを2019年から始めている。2020年2月からはQR コードによる決済と認証を取り入れた実証実験を行っており、このサービスが実現すれば鉄道とバスを組み合わせたシームレスな移動が実現し、地域住民の利便性が向上するだろう。

→WILLER MaaSアプリ「WILLERS」公式ページ

MaaSについて詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

新型コロナウイルスの影響でオンラインサービスが注目を集める

常に移住サービスの最先端を走ってきたカヤックLivingは、新型コロナウイルス感染症の影響により多数の移住説明会や移住ツアーが中止・延期したことを受け、2020年3月3日にオンライン移住ツアーをリリース、2020年3月18日にはオンライン移住センターを開設した。カヤックLivingが運営する移住スカウトサービス「SMOUT」内に開設された移住相談窓口では、8つの都道府県と自治体が相談窓口を設け、Zoomを利用したオンライン相談を受け付けている。

→特設オンライン移住相談センター:移住スカウトサービスSMOUT

三重県がオンラインで行った地方移住経験者に対する意識調査の結果を公表

2020年3月24日、三重県は全国の地方移住経験者に対し実施したアンケート調査の結果を公表した。調査の目的は若い世代の都市部から地方への移住経験者の視点や移住前後の状況を明らかにすること、対象は20~30代の移住経験者で調査期間は2019年12月~2020年1月、調査方法はインターネットアンケート調査で項目は移住動機やその実現度、理想と現実のギャップ、幸福度などについて聞いた。

調査の結果分かったこととして以下のようなことが挙げられる。

  • 移住先の決定要因は「生活に必要な施設」が17%、「就きたい仕事がある」が15%
  • 移住前に抱えていた不安として多いのは「安定した収入」24.5%、「コミュニティとの人間関係」23.0%。「不安なし」が24.0%
  • 移住後に感じた理想と現実のギャップで多かったのは「物価の高さ」14.5%、「不便な生活」12.0%
  • 移住のメリットで多かったのは「自然環境が豊かな地域での暮らし」58.0%、「配偶者、子どもとの暮らし」55.5%
  • 移住希望者へのアドバイスとして多かったのは「悩むよりまずは行動を」「事前の情報収集や滞在が重要」

→三重県、全国の地方移住経験者に対する意識調査を実施:三重県

MaaS×移住 AddressがANAと連携

月額制で全国の家に自由に住める多拠点ライフプラットフォーム「ADDress(アドレス)」を展開する株式会社アドレスは2020年1月16日に、ANAホールディングス株式会社と連携した、航空券定額制サービスの実証実験を開始することを表明した。登録拠点であればどこでも住み放題になるサブスクリプション型の多拠点居住サービスADDressは、関係人口の推進や多拠点居住の広まりによって注目されているサービスである。

実証実験ではADDressの年間・半年会員が月額3万円の追加料金を支払うことで、ANA国内線の指定便を月に2往復できるサービスを提供。複数の拠点を転々とするアドレスホッパーなライフスタイル×新しい移動サービスMaaSを組み合わせたサービスということで各方面から注目を集めている。また4月1日~6月30日まで実証実験を拡充して継続することも発表されている。

アドレスはJR東日本とも連携しているため、今後空の便だけでなく電車でも今回に近い形の移動サービスをローンチすることが予想される。アドレスの動向から目が離せない。

→ADDress ANA国内線航空券定額制サービス実証実験公式ページ

二拠点居住・多拠点居住についてより知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

地方創生ビジネスによる暗部が明るみに

国が力を入れる地方創生には毎年一千億円規模の予算が計上されるが、補助金や助成金を悪用して稼ぐ悪質な地方創生ビジネスの存在が広く知られるようになった。2019年12月中旬、地方自治体が東京都内で開いている移住相談会において、一部の参加者に現金が支払われ「サクラ」として参加していたことが東京新聞の取材で判明した。相談会の運営は多くの自治体が民間企業に委託するが、複数の企業がKPI達成のために不適切な参加者募集をしていたのだ。

悪質な地方創生ビジネスの顕在化をうけて、NPO法人ふるさと回帰支援センターは全国の自治体に注意喚起するとともに実態調査をはじめた。背景には地方創生や地方移住の促進の必要性をあまり感じていないが、国から冷遇されないように交付金を申請するためのアリバイ作り/実績作りとして移住相談会が行われている実態がある。限られたパイを全国で奪い合ういまの状態では、移住促進がどんどん厳しくなっていきノルマを課された職員や受託企業は悪質な方法でKPIを達せいしようとするだろう。質ではなく表面的な数にこだわる移住促進の問題点が少しずつ出始めている。

→移住相談会「サクラ」に現金、求人サイトで参加者「仕込み」 交付金の流れ違法?:東京新聞

2020年上半期残り約2か月も地方移住の最新動向から目が離せない

2020年上半期版地方移住の最新動向から分かるのは、移住を移住のみで語りアプローチすることの限界である。悪質な地方創生ビジネスのニュースはなんのための移住促進なのかを改めて考えさせ、オンライン移住相談の広まりは新型コロナウイルスのように社会状況と移住が深くリンクしていることを再認識させ、その他の動向は最新技術によって移住のアプローチに多様性が生まれることを示している。2020年は始まったばかりだが、今後の移住動向から目が離せない。

移住についてより深く考えたい方はこちらの記事もごらんください。

KAYAKURAでは「地方移住」に関する講座や勉強会の講師・WSのファシリテーション、「地方移住」と関連した地域活性化・地方創生・観光インバウンド・移住関連事業のサポート/コーディネートを行っております。お困りの方はお問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。

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最後に、効率よく学ぶために本を電子版で読むこともオススメします。

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この記事を書いた人

Masato ito

国際大学GLOCOM研究員/講師。1996年、長野県出身。博士(社会学)。一橋大学大学院社会学研究科、日本学術振興会特別研究員を経て2024年より現職。専門は地域社会学・地域政策学。研究分野は、地方移住・移住定住政策研究、地方農山村のまちづくり研究、観光交流や関係人口など人の移動と地域に関する研究。多数の地域連携/地域活性化事業の立ち上げに携わり、2事業が長野県地域発元気づくり大賞を受賞。日本テレビDaydayやAbema Prime News、毎日新聞をはじめ、メディアにも多数出演・掲載。