地方における観光・教育・若者の可能性 -地域活性化と地方創生に関するトークセッション 長野県池田町にて-

分野を超えて、所属を超えて、連携した取り組みが求められる地方創生・地域活性化。2019年5月、観光分野・教育分野・若者分野・地域コーディネート分野で活躍する4名によるトークセッションが長野県池田町で開催されました。

日本の自然保育の第一人者であり元長野県庁職員で現池田町教育長竹内延彦さん、日本初のBIO HOTEL 八寿恵荘代表で株式会社Sougo代表の北條裕子さん、元地域おこし協力隊で若者交流に力をいれるY,P,Bank副代表の川田諭さん、KAYAKURA代表で地域コーディネーターの伊藤将人の4人による2時間のトークセッション。

「分野を超えた地域活性化に興味がある!」「観光・教育・若者・地域コーディネート各分野の、地域活性化・地方創生に寄与するヒントを得たい!」「地域づくりでうまくいっている実践事例を知りたい!」という方に響く記事になっていますので、ぜひご覧ください!

地域のブランディングについて-見える化と街全体の方向性-

北條裕子氏 -株式会社SouGo代表 カミツレ研究所代表 八寿恵荘-

株式会社SouGo代表。実家が池田町広津にあることから幼少期より池田町をよく訪れていた。父が設立した株式会社SouGoの社長を務める傍ら、2015年にそれまでSouGoの社員寮だった池田町広津の八寿恵荘をリニューアル。有機栽培カモミール畑が広がるホテルへと生まれ変わった。八寿恵荘は県内外から高く評価され、2018年には環境省グッドライフアワード環境大臣賞優秀賞を受賞した。

北條 池田町は花とハーブのほかに桑も推していますよね。例えば、飲食店では必ず桑茶が提供されるなど町内全体で共通のことをするのが大切です。

伊藤 いわゆるブランディングですね。一体感を持って同じ方向を向いて取り組むことは簡単ではないと思いますが、実際に行動されている中で難しさは感じますか?

北條 町全体としての方向性が見えないと、各々がよい取り組みをしていても繋がっていかないなと感じます。私は現在、池田町と東京を往復していますが、池田町に来るとストレスが軽減されます。この町には身体を癒す自然環境があります。広い意味での健康に関連することは池田町をブランディングするうえで軸になる可能性があると思っています。

竹内延彦氏 -長野県池田町教育長-

池田町教育長。長野県東御市出身。大学と大学院で臨床心理学を学び、学生時代より参加した不登校や障害を持つ子ども若者が通う都内のフリースクールでの経験を原点に、民間企業、NPO、行政と立場は変われど、四半世紀にわたり一貫して子ども若者支援に取り組む。長野県庁で取り組んだ自然保育の普及推進事業は県内外から高く評価されており、その縁で本年1月より池田町教育長に就任。

竹内 教育に関して言うと、私が大事にしてきたのは「見える化」です。長野県は質が高い教育を学校機関も地域も行っていて志も決して低くありませんが、それが外に伝わっていません。

県庁にいる頃、自然環境を活かした自然保育を長野県の魅力として普及するための認定制度を創設しましたが、これは現場で培われた従来の実践に県がお墨付きを与えただけのものです。それによって、保護者や地域から理解されやすくなったり、県外にもアピールしやすくなったりしました。全体のイメージやキャッチコピーで「見える化」することで、既存のものが魅力に変わります。

地域の多様性について-移住者・観光客と地元住民の関係性-

北條 最近、池田町に住んでいる方々の移住者、観光客との接し方がいい方向に変わってきていると感じます。所属や住んでいる年数を超えて行う楽しい経験と協働を通して変わってきている気がします。

株式会社SouGoの東京の社員が池田町に来た際の交流会も、8年前より盛り上がります。池田町の方々は、伝統的な繋がりを大切にします。最近は、移住者や観光客が増えた事で、新しい事を受け入れられている気がします。

伊藤 自治会などのコミュニティ以外の人と接する機会は増えてきていますよね。移住者や観光客が増えてきたことで、受け入れる側がよそ者というくくりではなく一個人として移住者や観光客を見るようになってきています。

これまでは明文化されず「当たり前」とされてきたことが、地域の多様性が高まるにつれ、当たり前ではないことが分かってきた。移住者や観光客は既存の価値観を変えたり、新しい視点をもたらしたりします。これは、地域が時代を超えて存続するうえで非常にいいことだと思います

新しい地域づくりの観光と取り組み -教育と体験型観光-

川田諭 -元長野県池田町協力隊 総合型スポーツクラブ「大かえで倶楽部」 運営-

池田町総合型スポーツクラブ大かえで倶楽部職員。5年前に地域おこし協力隊として池田町に移住。総合体育館に籍を置き、運動系イベントの主催や運動指導など町のスポーツ振興に関連する任務を実施。若者交流にも着任時から力を入れており、学校や職場以外の若い人のつながりをつくる団体Y,P,Bankの立ち上げにも携わった。

川田 池田町でもったいないなと感じるのはフィールドを活かし切れていないことです。僕は池田町に来て毎日楽しく生きていて、魅力もたくさんあると思っています。でも、それを観光で使うとなるとハードルが高くなってしまいますよね。

例えば、僕は仕事でもプライベートでもマウンテンバイクをしていますが、観光資源にするとなると整備は誰がするか、人が来すぎて荒れてしまうなどの問題が起こりえます。池田町はマウンテンバイク関係者の間ではとても有名で、日本一の選手が練習にも来ます。観光資源にするには、お金を取る仕組みも含めてもう少し考える必要があります。

ただ、従来の観光とは異なる観光が僕らにはできます。昨年、知り合いのぶどう農家さんに頼んで収穫体験をしました。当日は友達数人に声をかけました。天気やぶどうの状況に左右されるので大規模な観光にはできませんが、知り合い程度の規模であれば可能です。

個人個人がつなぎ役になることで、観光化しきれない場所に県内外から人を呼んでくる方法は可能性を感じます。町民9,800人が、1人あたり5人の友達を呼べば、それだけで約50,000人になりますよね。

伊藤 これからの時代は、大きな施設を作るのではなく、ちょっとした体験をたくさんの場所で様々な人が提供する観光が主流になるはずです。

また、これからは教育が観光になる時代でもあります。先進的な学校の事例を見に行き学ぶことは観光ですし、川田さんがおこなっている大かえで倶楽部の活動もある種の観光だと思います。そういった意味では、池田町には観光資源がたくさんあります。今あるものを活かさない手はありません。

竹内 ニュージーランドの学校を視察に行ったときに知ったのですが、ニュージーランドでは特色ある学校にはそのノウハウを学びに世界中から視察が来ます。つまり、教育が輸出産業という位置づけです。

日本では教育とお金は切り離すべきと考えられていますが、そんなことはありません。より質を上げることで人もお金も集まります。池田町でも教育を魅力ある産業の一つとしてアピールしたいと考えています。昨今、質の高い教育を求めて都市から地方に移住する子育て世代が増えています。時間はかかりますが力を入れれば確実に人口増加につながるはずです。

伊藤さんが言ったように今は体験型の観光が主流になりつつあります。自然保育もまさに自然体験と生活体験を軸にしています。人は体験したことから学び体験しないことからは失敗も含めて身にはつかないので、体験と教育は切っても切れない関係です。池田町の観光も、施設ありきのテーマパーク的なものを作って「人を呼ぶ」のではなくて、「環境の中で暮らしを体験する」ことに重点を置けたらいいですよね。

伊藤 体験と観光のコラボを実践しているのが、八寿恵荘さんだと思います。自分たちで割った薪でご飯を炊く体験なんかは大好評と聞きますが、手ごたえはどうですか?

北條 八寿恵荘では、部屋にテレビを置いていません。年配のご夫婦がたまに「なんでないの?話すことないわ」と言われているのですが、帰るころにはお話しされているんですよね。これが私たちが狙っていることであり、置いてなくてよかったと思う瞬間です。

ダイニングの横に畳と絵本のコーナーを設けています。食事がくるまでスマホの画面を見て待っているのがどうなんだろうと思っていたので、八寿恵荘では親子や夫婦の時間をゆったり過ごしていただきたいと考えています。

竹内 体験はプラス思考になることにつながります。やったことがなくてもできるとおもしろくなるということがあります。不便であることや「無い」ことを体験することにも意味があると思います。テレビが無いからこそ対話が生まれる。宿泊後に「テレビが無くてよかったね」と思ってもらえればそれで充分ですよね。

池田町の地元の人は「こんな不便なところ」というかもしれませんが、都会の人にとっては「不便であること」「何も無いこと」が魅力と感じるような新たな価値観が広がる時代になっていくと思います。それを池田町がどう上手に「見える化」してアピールできるか、八寿恵荘の取り組みはその重要なヒントになると思います。人と商品をどのようにパッケージ化するかみたいなことのヒントに八寿恵荘の取り組みはなると思います。

川田諭×竹内延彦×北條裕子×伊藤将人が考えるこれからのこと

伊藤 最後に、皆さんがこれから取り組みたいことや事業の今後、身の振り方等についてどう考えているのかお聞きしたいです。

川田 よくこの質問を受けるのですが、僕はいつも「プランは無いです」と答えます。池田町に移住して5年経ちますが、結婚すると思っていなかったし、マウンテンバイクにハマるとも思っていませんでした。好きなこと、やりたいことをしていたら、いつの間にかここにいる感じです。

ただ、仕事に関してはやらなければならないことがたくさんあります。現在は、総合型のスポーツクラブ「大かえで倶楽部」の運営をしていますが、地域の運動事情は課題が沢山あります。人が少なくなり公民館の運動サークルが成り立たなくなっていたり、お金の面で厳しく講師が呼べなかったり、学校の部活動を今までの仕組みで回すには限界がきていたりなどの課題があります。これらを地域の人に手伝ってもらいながら一つずつ解決していこうとしています。

竹内 教育長の任期は3年です。3年の任期の中で自分に何ができるのかを一生懸命考えています。今年は池田町の教育の指針となる「教育大綱」を検討しているのですが、その内容を学校現場と連携して具現化していくことが目標です。幸せな子ども時代を過ごしながら、『自分の進路を自分で考え、判断し、決定できる力』を子ども一人ひとりそれぞれのやり方やペースで育んでほしいと願っています。

私は池田町に来て、文化・伝統・歴史・環境、そして人も含めたポテンシャルの高さをいろいろな場面で感じています。しかし、それがどこにあるのかわかりづらい、見えづらい。それらをとにかく「見える化」して、しっかり子どもたちの学びと育ちにつなげていくのが私の役目だと思っています。

北條 創設者であり広津出身の父の意志を継いで「皆さんにもう少し気持ちよくなってもらう場を提供する」ことを、軸をぶらさずに今後もやっていきたいと思います。また、今年から訪日観光客にも力を入れているので、広津地区の方々と連携して池田町を楽しんでもらえるプランを考えていきたいです。皆さんが来たときに思わず「ただいま!」と言いたくなるような、そんな場所をめざしています。

本記事は、信州池田活性化プロジェクト「Maple Tree」が2019年6月に発行したフリーペーパー『いけだいろ』18号特集記事の内容を一部、改編したものです。

KAYAKURAでは地方移住・新しい時代のライフスタイルに関する講座や勉強会の講師・WSのファシリテーション、執筆、関連した地域活性化・地方創生・観光インバウンドなど関連事業のサポート/コーディネートを行っております。お困りの方はお問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。

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最後に、効率よく学ぶために本を電子版で読むこともオススメします。

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この記事を書いた人

Masato ito

国際大学GLOCOM研究員/講師。1996年、長野県出身。博士(社会学)。一橋大学大学院社会学研究科、日本学術振興会特別研究員を経て2024年より現職。専門は地域社会学・地域政策学。研究分野は、地方移住・移住定住政策研究、地方農山村のまちづくり研究、観光交流や関係人口など人の移動と地域に関する研究。多数の地域連携/地域活性化事業の立ち上げに携わり、2事業が長野県地域発元気づくり大賞を受賞。日本テレビDaydayやAbema Prime News、毎日新聞をはじめ、メディアにも多数出演・掲載。