家族単位の関係人口化・ワーク&ファミリーシフト-これからの働き方とライフスタイルを考えるⅡ Work Design Lab 石川貴志さん-

「外出自粛中こそ学びと思考を加速する」ことをテーマにKAYAKURAではGW中も毎日、記事を更新し続けています。

今日から3回にわたって「イキイキと働く大人で溢れる社会、そんな大人をみて、子どもが未来に夢を描ける社会を創りたい。」をコンセプトに活動する一般社団法人Work Design Lab代表理事 石川貴志さんとKAYAKURA代表 伊藤将人によるトークセッションの模様をお届けします。

「これからの働き方・ライフスタイル」をテーマに記事を公開していきますので、GWの学びと思考のお供にぜひ読んでみてください。第2回の今回は変化を妨げる「恐れ」とワーク&ファミリーシフトを軸に話は展開していきます。第1回の記事はこちらからご覧ください。

石川貴志さん

一般社団法人Work Design Lab代表理事/複業家

リクルートエージェント(現リクルートキャリア)の事業開発部門のマネージャーを経て現在、出版流通企業の経営企画部門にて勤務。2012年より社会起業家に対して投資協働を行うSVP東京のパートナーとしても活動。2013年にWork Design Labを設立し「働き方をリデザインする」をテーマにした対話の場づくりや、イントレプレナーコミュニティの運営、また企業や行政等と連携したプロジェクトを複数手掛ける。2017年に経済産業省「兼業・副業を通じた創業・新事業創出事例集」選出。2018年にAERA「生きづらさを仕事に変えた社会起業家54人」選出。(公財)ひろしま産業振興機構の創業サポーターや、(独)中小機構が運営するTIP*S アンバサダー、順天堂大学 国際教養学部グローバル・ヘルスプロモーション・リサーチセンターの客員研究員なども務める。新しいワークスタイルに関する講演・執筆多数。1978年生まれ、三児の父。

本記事の内容は音声でも公開しています。音声では記事3回分が45分でまとめて聞けますので、こちらもGWのお供にぜひ聴いてみてください。


変化に対する「恐れ」

伊藤 Work Design Labのコンセプトには「働き方をリデザインする」とあります。石川さんのもとにはさまざまな企業や個人から「働き方を変えたい」と相談があると思いますが、日本の企業がなかなか柔軟な働き方を実現できない理由としてどういった課題があるとお感じですか?

石川 会社やセクターによって事情は違いますが個人も含めて一言で表すと「変化に対する恐れ」が変化を妨げています。私も含め変化は不確定要素の中に突入することになるので恐さが伴います。

企業がデジタルシフトするにも「オンラインだと信頼性が構築できないんじゃないか」「相手の微妙な意図が顔を合わせないと読み取れないんじゃないか」といった恐れを感じる人もいます。しかしコロナによってオンラインでやらざるおえない状況になりました。既存のパフォーマンスから一時的に落ちるかもしれないですが、実際にやってみることで新しい課題が見つかり次につながります。

一方で人と人が信頼関係を構築するとき最初は対面で会い2回目以降オンラインだとうまくいくといった研究もあります。初回の接点はデジタル上でどう設計するかとか、2回目以降はどう情報共有するのかとか、改めて考えていく必要があります。

業種によって移動が伴うものに関してはAIやドローンの話もありますが、もう少しこちらは時間がかかるのかなと思います。テクノロジーとの掛け合わせも今後さまざまな可能性を検討していきたいですね。

伊藤 オンラインはある程度前提条件や人柄が共有できていれば円滑に進むものの、笑いや冗談は共有しづらい側面がありますよね。1度でも直接会ってラフなコミュニケーションを交わしていれば仲間意識も生まれ人柄も分かるので、2回目以降のオンラインがスムーズに進むと思います。ビデオ通話/オンラインの課題と改善策についてもっと知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

私はコロナで「選択肢が増えた」点が重要だと感じています。リアルな対面がメインだったこれまでに対し、「テレワークやリモートワークもやってみたらできたね」とい実体験がデジタルシフトへの恐れを軽減させ次へのハードルも低くします。ブームとして終わるのではなく、今後も選択肢の複数性を維持した状態をキープしていくことが大切になってきます。

石川 危機をある種の変化のキッカケにできる組織体とそれが難しく通常通りに戻ってしまう組織体、これは大きな分岐点になります。進化は複雑性を増して上位レイヤーに上がるものなので、個人も組織も地域もより複雑なレイヤーに進化していくことが大切になります。

伊藤 自然界の生態系と一緒で複雑性が増すことは多様性が増えることを意味するので、多様性と複雑性は生存/成長するために重要ですよね。

コツはワーク&ファミリーシフトすること

伊藤 ワークスタイルの話と切り離せないのがライフスタイル=日常生活の話です。例えば従来はお父さんが1人で行くのが当たり前だった出張ですが、石川さんは子どもたちと一緒に出張して楽しんでいるワーケーションの様子がSNSに載っていますよね。多拠点居住関係人口、ワーケーションなど新しい時代のライフスタイルについては、いかがお考えですか?

石川 コロナによる外出自粛で移動が制限された結果、家がオフィスのようになり多くの方が仕事と家族の距離が縮まっています。これは今後のワークスタイルとライフスタイルを考えるいいキッカケになっていると思います。

一方で第1回目に話した個人とチームの関係性がより柔軟になっていく件と家族は密接に関わってきます。チームとは会社だけでなく、家族もチームですし地域も1つのチームかもしれません。個人と組織の関係性が変ると、組織側である家族や企業、地域のカタチもどんどん変わるはずです。チームが変ることで関心を持ち共感する新たな個人が集まってくるでしょう。

私は家族がいるので、働き方を変えようとするとパートナーである妻にも働き方を少し変えてもらわなければならなくなります。逆に妻が新しいことに挑戦するときは僕が柔軟に合わせていかなければならない。これまでの日本社会は家族と仕事が分断されていたため、状況が変わっても社会的なインフラは古いままで変わっていない面があります。

私が地方に出張するとき、子どもも一緒に連れて行って体験することでどういった社会的なインフラがあればもっとよくなるのかを実験しているような感じです。ワークシフトもライフシフトもワークだけではシフトしづらいので、最小限のチームである家族と共に「ワーク&ファミリーシフト」だとシフトしやすいと思います。

家族単位の関係人口化がもつ可能性

伊藤 家族で出張するような実験を通して見えてきたことはありますか?

石川 家族単位で地域と関係人口化するとさまざまな理由で関係が長続きするなと感じています。

去年、岩手に3人いる子どものうち上2人を連れて私と3人で行きました。2日目が仕事だったので1日目に活動したのですが、1日目に地元の小学生と私の子どもが会う機会があり私よりも子どものほうが早く地元の人たちと仲良くなっていました。

以降、何度も岩手に行くのですが、岩手のお友達がうちの子どもに手紙を書いてくれたこともありました。家族ぐるみだと仕事が無くても家族旅行で遊びに行けますし、その地域の産品を私たちが消費者として購入するというつながりもできています。

伊藤 家族単位での関係人口化おもしろいですね!現代はリスク社会といわれるように、不確定で予想できないことだらけの世界です。リスクに対して国や自治体がセーフティーネットを張ることは財政的に難しいので、結果的に自己責任という言葉の下、各々がリスクヘッジすることを求められます。

昨年は台風19号が東日本で猛威を振るいましたが、突然危機が起こったときに関係人口のようなカタチで他の都道府県につながりがあれば「一時だけ避難してもいい?」「居場所、紹介してもらえませんか?」というように、ある種のリスクヘッジになります。

家族ぐるみでさまざまな地域と関係人口的に関わることがセルフセーフティーネットになり、いざというときにお互いが助け合える、お互い様の緩やかなつながりがつくれるのかなと思います。昔は「親族」「イエ」というカタチでこれが成り立っていましたが、少子高齢化・核家族化が進んだ現代では関係人口が従来のつながりに変わる機能を持つようになる気がします。

もう1点、通常、関係人口や交流人口の話は「居住地」から「目的地」を訪れ、訪れた先での交流に注目が集まりがちです。しかし関係性は一瞬の交流で生まれるものではない。実は目的地を訪れていない間の目的地に住む人たちとのオンラインコミュニケーションや子ども同士の手紙のやり取り、産品を購入するというような行動が関係性を持続させるうえで大切なのですね。

石川 防災の観点から積極的な疎開先として関わる地域を捉えるのは大切ですよね。

複業旅行と非金銭的価値

伊藤 子どもにとっても自分にとっても、新しい価値観に触れたり偶発性からインスピレーションを得たりする機会はこれからの時代必要です。地方を家族で出張ついでに訪れて、そこで豊かな自然に触れたり聞いたことが無い方言を話す子どもに出会ったり。これらの体験は多様性が増す現代社会において、多文化理解の心や寛容性を育みますよね。

教育という観点でみても、関係人口的に地域とつながることの重要さが石川さんの話から伝わってきます。

石川 Work Design Labでも「複業旅行」と名付けて家族旅行と仕事を兼ねるプロジェクトを行っています。家族がいる方だと子どもに楽しく多様な体験をしてもらえる点で、興味関心を持っていただいています。

都会で育った子どもが複業旅行で鳥取砂丘を訪れたら「こんな大きな砂場があるのか!」と驚きますし、冬に海に入る概念がない子どもが11月の宮崎でサーファーがたくさん海に入っている様子を見たときは衝撃を受けていました笑

コロナの影響は横に置いても、これから個人も多様な価値が生まれて行動変容が起きてきます。大きな観点では、お金では測れない「創造的な価値」や「人生における重要な時間」に個人が重きを置き始めると予想できます。複業旅行では、家族とさまざまな地域を訪れる際にどんな仕掛けがあったらより充実した時間を過ごせるのかを意識して考えながら、訪れています。


第3回記事へ

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この記事を書いた人

Masato ito

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター研究員/講師。長野県出身。博士(社会学)。一橋大学大学院社会学研究科、日本学術振興会特別研究員を経て2024年より現職。専門は地域社会学・地域政策学。研究分野は、地方移住・移住定住政策研究、地方農山村のまちづくり研究、観光交流や関係人口など人の移動と地域に関する研究。立命館大学衣笠総合研究機構客員研究員。武蔵野大学アントレプレナーシップ研究所客員研究員。日本テレビDaydayやAbema Prime News、毎日新聞をはじめ、メディアにも多数出演・掲載。