オンラインとオフラインの違いを「偶発性」から再考する-セカキャンラジオ文字おこし&音声コンテンツ 第2回-

新型コロナウイルスによって私たちは「インターネットを通したコミュニティ」が増えて、改めて「オンラインとオフラインの違い」について考える機会を得ました。長野市でイベントスペースENKAIを運営する団体2nd Canvasはコロナ自粛中に学べるコンテンツとして「セカキャンラジオ」をスタートし、2020年4月29日の放送にKAYAKURA代表の伊藤が出演しました。

KAYAKURAではセカキャンラジオの模様を全3回に分けて記事化し公開します。テーマは「オンラインで何が変わった?」2本目の今回は、オンラインとオフラインを比較して「偶発性」「不合理性」「強制的なコミュニケーション」が現代を生きる私たちにどのような影響を与えているのかを分析しています。

なお本記事のもととなったラジオはこちらから聴くことができます。記事では3回に分けていますが音声は約40分で1本にまとまっていますので、ぜひ聴いてみてください。第1回の記事はこちらからご覧ください。


オンラインで偶然は起きるのか?

樋口 オンラインの課題として「偶発性が少ない」ことを感じています。偶然隣の席になった人と話すとか、偶然前を通ったお店に入ったら美味しかったとか、オフラインだと偶然があふれていました。ただオンラインでは欲しいものしか手に入らないですし、興味の外にあるものに触れるのが難しいなと。

伊藤 オフラインなショッピングモールとオンラインのショッピングモールAmazonとか楽天を比べると、オンラインでは「欲しいもの」もしくは「アルゴリズムが興味ありそうだなと判断したもの」しか基本的には目にとまりません。一方ショッピングモールであれば、興味ある店もない店も並んであるので偶然興味の範囲外のものを見つけて買ってしまう可能性は高いでしょう。なぜならショッピングモールは個々人に最適化されていないからです。

社会学者の宮台真司さんが以前「インターネットにはコアーシブ(強制的な)が無い」と表現しました。日常生活では自分が望まなくても強制的に降ってくるタスクやチャンスが多々あります。

インターネットではどんなに強制的にみえるものでも、最終決定権は自分が持っています。画面の向こうで上司が怒っていてもシャットダウンすれば上司は消えるわけです。あとで怒られるかもしれませんが笑 インターネット上にはコアーシブが無いから偶発性も少なくなるといえるでしょう。

樋口 偶発性が無いことで興味あるものしか手に入れない世界は、結構問題だと思っています。自分の価値観や趣味を増強するだけだと世界は広がっていかない。この状態を克服したいのですがどうすればいいのでしょうか?

伊藤 SNSを含むインターネット上でのコミュニケーションは、使う人の価値観や政治的志向をより強める作用があることは証明されています。政治でいえば右派的な人は右派的な思想を強め、左派的な人は左派的な思想を強めていく。結果として同じ考えの人たちとしかつながっていない状態、これも宮台真司さんの言葉を借りれば「島宇宙化」した状態になります。

その結果、他者への寛容性は減退し異なる考えを持つ人や異なる価値をもつ人への差別や偏見が高まり、さまざまな分断を生まれるのです。

異なる価値に触れる偶発性を設計する方法

伊藤 どうすれば異なる価値に触れたり偶発性を起こしたりできるのでしょうか?私のおすすめは「新聞を読むこと」です。できれば複数紙読めたらベストです。新聞はたった30ページに幅広いニュースが載っているので、さらっと流し読むだけでも興味関心の外にある情報を得ることができるでしょう。

インターネット上で実践するならば、大手のニュースサイトにアクセスして、最新ニュース・国際政治・経済・エンタメ・スポーツなど異なるカテゴリーの見出しをすべてチェックする習慣をつけてみてください。見出しをチェックするだけなので数分でできます。

樋口 新聞は確かにベストな方法ですね。僕の場合はインフルエンサーから情報を得ることを意識していますが、よく考えるとそれも自分の考えや価値を増強しています…ただ信頼できる情報を入手することは意識しています。ある程度知名度があって教養もあって実績もあってソースを基に確かな議論をしてくれそうな人の情報をチェックするようにしています。これは多くの人がやっていることなのかなとも思います。

伊藤 インフルエンサーを使って自ら偶発性を起こすとしたら、流れてきたツイートで自分が共感するインフルエンサーが誰かの言説や記事を批判しているツイートを見つけて、批判されている人のタイムラインに飛んでみることをおすすめします笑 そこにはきっとあなたとは異なる価値をもった人の普段は触れない言説が広がっているでしょう。刺激的な方法ですが「多様な人たちが世の中にいる」ことを理解することにはつながり、島宇宙化を意識的に防ぐことはできると思います。

合理性の追求は不合理性にたどり着く-意図的な寄り道を楽しもう-

樋口 興味関心の外側にある情報を、いかに不合理的に入手するかということですね。

伊藤 歴史に名を残す社会学者マックス・ウェーバー「合理性の追求は不合理性にたどり着く」といいました。官僚制の弊害はまさにこれです。またウルリヒ・ベックという近年まで活躍していた社会学者は後期近代社会を生きる私たちは、まさに合理性を追求したがために人間にはコントロールできない事象が発生するという不合理性と共存するリスク社会を生きなければならないと言いました。

原発事故や遺伝子組み換えなどの科学技術のみならず、今回の新型コロナウイルスもリスク社会だからこそ直面している課題があるとみることが大切だと思います。インターネットによって世界中の情報を入手し誰もが発信できる時代になったからこそ、フェイクニュースや不確かな情報が世にあふれている、これも人間が生み出したリスクの1つといえるかもしれません。

後期近代に私たちに求められるのは意図的に不合理なものを入手したり、ちょっと寄り道したりする勇気をもつこととそれを実現する仕組みをつくることです。一見無駄に思えるかもしれませんが、寄り道し無駄だと思えることもすることが、実は最も合理的で近道だったということは少なくないと思います。

樋口 難しい!不合理を選択するのも自分ですもんね。

伊藤 だからこそ、オンラインに閉じこもらずにコロナが収束したらコアーシブで不合理と偶発性にあふれたリアルでオフラインなコミュニケーションを主体的にすることが大切だと思います。


第3回に続く

KAYAKURAでは新型コロナウイルスの拡大と社会の関係について考察した記事を多数掲載しています。興味関心ある方はぜひこちらの記事もご覧ください。

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最後に、効率よく学ぶために本を電子版で読むこともオススメします。

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この記事を書いた人

Masato ito

長野県出身、日本学術振興会特別研究員、武蔵野大学アントレプレナーシップ研究所客員研究員、一橋大学社会学研究科所属。専門は社会学、政策学。2017年・2021年に創設に関わった2つのまちづくり事業が長野県地域発元気づくり大賞を受賞。後者は同年公民館アワードも受賞。現在は地方移住やまちづくり、地域政策に関する研究を行う傍ら、関連する分野のコンサルティングやアドバイザー、講師講演執筆などを行っている。毎日新聞、AERA、Oggi、Abema Prime Newsなど寄稿出演多数。