リスク社会とは?社会学的にわかりやすく解説-新型コロナウイルス・原発を具体例に-

新型コロナウイルスの感染拡大は人類にとって「予測不可能な想定外の事態」でした。しかし、もし私たちが生きているこの社会が「予測不可能な想定外のリスクに満ち溢れていて、いつまた襲われるかわからない社会」だとしたらどうでしょうか。リスクの生産と分配が大きなテーマである「リスク社会」概念は、そんな不安に満ちた21世紀を見通すうえで覚えておきたい考え方です。

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リスク社会はドイツの社会学者U. ベックが提案した概念

リスク社会は1986年にドイツの社会学者U. ベックによって提唱された概念です。物質的な困窮が少なくなる一方で、科学技術や産業技術は近代に入ってからどんどん発展していきました。同時に第二次世界大戦が終わり、長らく続いた米ソ対立=冷戦の構図にも揺らぎがみえ、ソ連がチェルノブイリ原発事故を起こした時代にベックはリスク社会概念を発表したのです。

リスク社会は科学技術や産業技術が発展したからおとずれた社会

リスク社会とは「富の生産と分配ではなく、リスクの生産と分配が大きな社会が立ち向かうべきテーマとなった社会」を指します。この場合のリスクとは「近代化によって富の生産が拡大し物質的な困窮が少なくなった一方で、科学技術や産業技経済の発展によって生み出された、社会が何らかの対処をすべきもの」とここではしておきます。

はっきりしたことがいえない理由は、リスク社会の「リスク」ついてベックは単一の定義はしていないからです。理由はリスク概念には多元的な性格(さまざまな側面と捉え方)があるからです。ベックはリスク概念は時代や状況によって変化するものであると考えているのです。

また押さえておくべきはリスクは科学的な観点だけでは理解できないということです。社会構造、権力構造、行政システムなどと強く関係してきます。もう1つ考えるべきは「どこまでリスクを受け入れるのか」です。これは個々人の生活や価値観と密接に関わってきます。私が「この事象は私の生活を脅かすからリスクだ!」と言っても、Aさんは「この事象は生きるに値する私の生活に特に影響はないしこわくもない」というかもしれません。

しかしリスクはこのような個人の感情や倫理観とは別に、科学的なモノサシもあります。科学的に測定して「リスクです」となれば、それは個人の考えに関係なく科学的にはリスクです。つまりリスク社会のリスクは「科学的な合理性」と「社会的な合理性(個人的な合理性)」とが対立することがあるのです。

リスク社会の3つの特徴

ベックによるとリスク社会のリスクには主に3つの特徴があります。1つ目は「リスクがグローバルに作用すること」2つ目は「科学的な装備や専門的な知識がリスクを理解するために必要となること」3つ目は「個人化によるリスク」です。

⑴ リスク社会のリスクはグローバルに作用する

リスク社会ではリスクはグローバルに作用します。リスクが発生する可能性のある活動をすると、リスクが生み出されると同時にその活動で恩恵を得ている人や企業にリスクが降りかかってくるのです。技術や経済の発展によりリスクが影響する範囲は境界(国や階層)を超えて、グローバルに影響を与えます。

環境破壊によってオゾン層が破壊され地球温暖化が進んでいますが、それに伴うリスクは途上国や低収入階層が直で受けやすいのが現状です。しかし地球温暖化を数十年にわたって進めてきた先進国や上層階級の生活や活動にもどんどん影響は出始めています。これが境界を超えてリスクがグローバルに作用するリスクです社会です。

⑵ リスク社会のリスクを理解するには科学的な装備や専門的な知識が必要となる

リスク社会におけるリスクは一般の人の5感や知識では理解できないことが多々あります。理解するためには専門知識や特殊な測定機械が必要となるのです。放射線を計測するためのガイガーカウンターや新型コロナウイルスにかかっているか調べるための検査技術がなければ、リスクは可視化されません。さらに計測結果や検査結果を分析し判断するための科学的な専門知識がなければ計測しても意味はないのです。

⑶ リスク社会では「個人化」によるリスクがある

リスク社会のリスクはベックによれば環境や生命に関わるものだけではないと言います。近代化によって人々は家族や共同体から切り離された状態(個人化)になり、人生の様々な選択を自己責任で行わなければなりません。それによって発生する生活上の困難や個人ではどうにもならない社会の矛盾も、見方によってはリスクなのです。

サブ政治-リスク社会では従来の政治の外で2つの「サブ政治」が広がる-

リスク社会において政治の面では従来の代表制民主主議の2つの領域で「サブ政治」が広がります。1つは社会秩序や倫理的な規範を変えるほど大きな力を持つ技術—経済の領域。2つ目は社会運動や利益団体などの活動です。リスク社会ではこれらが通常の代表制民主主義に対峙するのです。

リスク社会の問題を具体例から考える

リスク社会の概念について解説してきましたが具体例をみないとどうしてもわかりにくいのが社会科学用語。ここでは原発と新型コロナウイルスを筆者なりにリスク社会の枠組みをつかって分析してみます。

リスク社会における原発

チェルノブイリ原発事故や福島第一原発事故で明らかになったように、原発は原発を推進し原発によって利益を享受する多くの人たちに負の影響をもたらしました(ブーメランのように影響が与えられる)。事故によって放出された放射性物質はガイガーカウンターなどの測定器が無ければ人間の5感では感知できません。

「科学的な合理性」と「社会的な合理性」の観点でみると、科学的合理性では原発が事故を起こす可能性は極めて低い確率であり「想定外」になりますが、社会的合理性では確率の低い高いではなく1度でも事故を起こしたら甚大な影響を社会や環境に与えます。2つの合理性は互いに反発しあうのです。

サブ政治の観点でみると原発の社会的な影響力や負の帰結は「進歩」として正当化される一方、技術―経済の観点・社会運動によって激しい政治的論争の的にもなっています。

リスク社会における新型コロナウイルス

2020年現在、世界中に甚大な影響を与えている新型コロナウイルスもリスク社会の概念からみていきましょう。「ウイルスは産業や経済の発展と関係ないのでは?」と思う方も知れませんが、そんなことはありません。飛行機の技術進歩、経済発展による国境を超えた観光客の増加、人・モノ・金・情報がつながり影響を与え合うグローバル化、これらがなければ新型コロナウイルスはこれほどの勢いで世界中に広がらなかったでしょう。(現に黒死病は数十年かけて世界中に拡大した)

新型コロナウイルスに感染しているのかしていないのかは一般人には分かりません。PCR検査や特別な検出キットがなければかかっているのかは分かりません。さらに検査キットで分かったとしてもそれがどういう症状をもたらしどう対処すればいいのかは専門知が無ければ分かりません。

「科学的合理性」と「社会的合理性」の観点でみると、科学的合理性ではウイルスの感染拡大を防ぐためには3密や手洗いうがいを徹底することが大切です。急激な感染拡大やクラスターが起こる可能性も理論上はそこまで高くありません。

しかし社会的合理性の観点でみると、確率の問題ではなく自身の周りでクラスターが起こったり感染拡大がして自分の知り合いが亡くなったらと思うと不安で仕方ありません。もしかしたらお店から商品が無くなるかもと思い買いだめもしたくなります。

新型コロナウイルスの感染について科学的な論拠を基に「しっかり対応すれば大丈夫ですよ」といわれても、個人の感情としては「超心配!大丈夫じゃない!」となります。

サブ政治の観点でみると、新型コロナウイルス感染拡大の政治家や行政の対応に対して、さまざまなカタチで利益団体や社会運動が起こっています。

リスク社会を学ぶためのおすすめ本

リスク社会についてより深く学びたい方にはこちらの4冊の本がおすすめです。どれも社会学の専門用語が多く出てくる難しい本ですが、ベックがどのような問題意識でリスク社会という概念を提唱したのか、時代が進むにつれリスク社会はどのように変容してるのかが読むことで分かります。外出自粛で読書熱が高まっている方はぜひこの機会に読んでみてください。

ウルリヒ・ベックの社会理論|伊藤美登里

ウルリヒ・ベックの社会理論全般を知りたい方におすすめなのがこの本。リスク社会という概念はベックの他の概念とも強く関連してきます。ベックがどのような理論を提唱し、どのタイミングでリスク社会概念が誕生し、リスク社会概念はどのように使われ否定されてきたのか、ベックとリスク社会を多角的に検討したい方はぜひこの本を参照してください。

危険社会|U. ベック

ベックが初めて「リスク社会(危険社会)」の概念を提唱した世界的大ベストセラーです。原著が出たのは1986年、チェルノブイリ原発事故やダイオキシンなど、致命的な環境破壊をもたらす可能性のある現代の危険とそれを生み出し増大させる社会の仕組みとかかわりを追究した名著です。

世界リスク社会|U. ベック

『危険社会』発表後に寄せられた批判に応答しつつ、近代化とグローバル化を経て顕在化した新たな〈リスク〉のメカニズムを解明した1冊。原発事故、環境汚染、経済破綻、未知のウイルスとの闘い、エコロジーなど『危険社会』では押さえきれなかったポイントを取り扱っています。これらの危機を体験してきたいまだからこそ読みたい1冊です。

世界リスク社会論|U. ベック

上記3冊と異なり単行本サイズで薄く読みやすいベックの講演集。表紙から分かるように9.11は私たちの世界をどう変えたのか、テロリズムとそれに対抗して形成される対テロ連合という諸国家間の結束はどう捉えればいいのか。講演録なので内容が表面的で理想主義的に聞こえる部分も多々ありますが最も手は付けやすい1冊です。

最後に-「リスク社会」は21世紀を読み解くキーワード-

これから先も私たちはリスク社会を生きていきます。東日本大震災や新型コロナウイルスのような社会危機に何度も生きている間に見舞われることになるでしょう。大切なのは既存のフレームワークで起こっている状況を冷静に分析する力です。ベックのリスク社会は分析するうえでとても役に立つ興味深い概念なので、ぜひ覚えて自分なりに現状を分析してみてください。新型コロナウイルスに関連する記事は以下をご覧ください。

参考資料

  • 現代社会学辞典:見田宗介, 大澤真幸, 吉見俊哉, 鷲田清一
  • 世界リスク社会:U. ベック, 山本啓訳
  • ウルリッヒ・ベックの社会理論:伊藤美登里

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ラジオ版KAYAKURAは毎回1つのテーマについて5分~10分で深堀する音声コンテンツです。テーマは社会課題・最新ニュース・地方創生・観光インバウンドなど。スキマ時間の学びを思考を促す内容となっていますので、ぜひ聴いてみてください。

この記事を書いた人

Masato ito

1996年長野県生まれ。大学在学中に自身が代表を務める事業が長野県地域発元気づくり大賞を受賞。現在は一橋大学社会学研究科にて国内移住に関する研究を行いながら、KAYAKURA代表として長野県を主なフィールドに観光インバウンド・移住・まちづくりのコーディネート・プランニング・調査・PRを多数手がける。2019年からは都内の企業と地方の企業や自治体をつなぐ新たな取り組みも開始。訪日観光客向け観光情報発信サイトNAGANO TRIP運営。池田町第六次総合計画審議委員。週刊SPAや公益社団法人 日本観光振興協会発行『観光とまちづくり』など寄稿多数。2019年4月から東京都国立市と長野県池田町の2拠点居住実践中.