ビデオ通話の社会学-疑問解決・ストレス解消 知って得するビデオ通話の豆知識-

テレワークが推進されたり、学校の授業がオンラインになったり、首相がGWはオンラインで帰省してくださいと発言したりといま私たちは歴史上最も「ビデオ通話をしている」時代を生きています。ビデオ通話も最初の数日は非日常体験で楽しいですが長期化してくるとストレスが溜まってきますよね。

そこでKAYAKURAでは「ビデオ通話の社会学」と銘打って、ビデオ通話独特のコミュニケーションについて分析してみました。なんでビデオ通話の長期化はストレスなの?ビデオ通話で話しにくいのはなぜ?といった疑問を解消しつつ、知っておくと10倍ビデオ通話が快適になる豆知識を紹介します。ぜひ今日から試してみてください。

ビデオ通話の歴史と変遷

ビデオ通話は十数年前までは「テレビ電話」の呼称で親しまれていました。画面越しに他人と話すその構図はドラえもんを筆頭にSFやアニメが描く近未来の象徴でした。テレビ電話が初めて商品化されたのは1970年のアメリカ、日本では1980年代後半に電話回線を使った家庭用テレビ電話が発売されました。意外とテレビ電話の歴史は古いのです。

テレビ電話が携帯電話に付いたのは2002年のこと。しかし当時はテレビ電話を使うと通信料金が高くついてしまうのと、相手の顔が見えない通信が主流で利用が伸びなかったことにより未来の技術が実現したにも関わらずあまり普及しませんでした。今回コロナの影響でSkypeやzoomなどのビデオ通話が一気に一般に広まりましたが、それまでは広く使われるツールではなかったことを忘れてはいけません。そこには広く使われない理由があったのです。

ビデオ通話は環境(外部要因)に大きく影響をうける

ビデオ通話は肉体以外の外部要因に大きく影響を受けるのが特徴です。音声情報はイヤホン・ヘッドホンもしくはPCやスマートフォンのスピーカーを通して交換されます。視覚情報はPCもしくはスマートフォン内臓のカメラを通して交換されます。声はPCやスマートフォン内臓のマイク、もしくはイヤホンに付いたマイクを通して交換されます。これらの情報が交換される際にはインターネットの回線を情報は移動します。PCやスマートフォンの処理速度やスペックも影響を重要ですね。

このようにビデオ通話はとても多くの外部要因に影響を受けていることが分かります。ビデオ通話が今以上にスムーズにできるようになるためには、技術革新しかありません。5Gはその代表例です。通信が5G規格になることでタイムラグは圧倒的に減るはずです。

技術革新を待たなくてもちょっとした工夫でビデオ通話がスムーズになる技もあります。今までスマートフォンやPC内臓のマイクで通話をしていた人は、ためしに優先のマイク付きイヤホンを使ってみてください。相当な安物でない限り相手は声が聞き取りやすくなるはずです。イヤホンマイクを使うことにより、口に近い場所で話すのでPCやスマートフォン内臓のマイクでは聞き取れなかった呼吸や息遣いも聞こえるようになるでしょう。イヤホンマイクに変えるだけで画面の向こうの相手との心理的距離は縮まるはずです。

ビデオ通話では相槌を大げさに

ビデオ通話では利用するツールや通信速度の影響で「あれ?いま相手の人消えたかな?」「しっかり声聞こえているかな?」と思うことが多々あります。日常会話以上にビデオ通話で重要なのは「私はあなたの話をしっかり聞いていますよ」と視覚もしくは聴覚で伝えること。

オフラインのコミュニケーションでは5感全てで表現できるので相槌を打たなくても話を聞いていることが伝わります。しかしビデオ通話では意識して相槌を打たなければ相手は話を聞いているかどうか不安になります。ビデオ通話で最も不安になるのは「反応がない」ことなのです。ビデオ通話では声に出して相槌を打ったり首を大きめに振ったりすることで余計な不安が軽減されるのです。

ビデオ通話のほうがリアルなコミュニケーションより「正確に」情報は伝わる

ビデオ通話や音声通話について1つ多くの人が誤解していることがあります。社会心理学の研究の蓄積から「オンラインでのコミュニケーションでの非言語的手掛かりの少なさは円滑なコミュニケーションのためにあまり重要ではない」ことが分かってきたのです。現上智大学准教授の杉谷陽子さんが2008年~2010年に行った実験によって以下の3つのことが証明されました。

1, 話す人の伝えたいことが正確に伝達される上で、非言語的手がかりは、そこまで重要ではなかった。場合によっては、非言語的手がかりがあることで、かえってメッセージが正確に伝わることが阻害される可能性もある。

2, 1の事実にもかかわらず、人は対面のほうが自分が伝えたいことが相手に正確に伝わりやすいと思い込んでいる。

3, 視覚的な手がかりがあれば、人は、自分が発したメッセージが十分に相手に伝わった、あるいは、相手のメッセージが十分に伝わってきたと感じる。逆に視覚的な手がかりがないと、伝わったor伝えられたという感覚を持つことが出来ない。この感覚はメッセージが実際に相手に伝わったかどうかと無関連に生じている。

人の脳の情報処理能力には限界があります。実際に会ってコミュニケーションをとる場合は5感で情報を処理するので1つ1つの感覚の精度が落ちてしまいます。しかし音声通話やビデオ通話の場合は実際に会うよりも聴覚に集中できるので情報処理速度が上がりより正確に情報が伝わるのです。

おすすめするのは「内容によって伝達方法を切り替えること」です。情報を正確に伝えることを最優先したい場合(会議や情報の共有)は、音声通話のみもしくは文字情報でコミュニケーションをとると正確に伝えたいことだけが伝わります。休憩がてら雑談をしたいときや他の作業をしながら会話する場合は、ビデオ通話でお互いの様子を見ながらのほうが「伝わっている感・話している感」があってリラックスできます。

ビデオ通話では「楽しさ」「幸せ」は共有しにくい

正確に情報を伝えたいときはビデオ通話は適していますが「楽しさ」「幸せ」のように雰囲気の共有が大切なコミュニケーションは実際に会うよりもとてもやりにくくなります。

雰囲気は「模倣」と「伝染」によって醸成されることで盛り上がったりみんなが本気になったりします。これは1人の感情表出行動を他者が5感で感じることにより、また1人また1人と「模倣」し最初の1人の感情表出が「伝染」していくのです。そしてこれが集団内で「循環」することで雰囲気は醸成されるのです。

ビデオ通話では実際に会うよりも質の低い「聴覚情報」と「視覚情報」でしかコミュニケーションがとれません。実際に会うよりも質の低い情報しかビデオやスピーカーでは交換できませんし、ツールや通信環境の影響で「タイムラグ」は必ず起こってしまいます。1人の感情が盛り上がってもタイムラグで寸断される、これの循環がいまのビデオ通話なので「楽しさ」や「幸せ」「雰囲気」が共有できないのです。

雰囲気が共有できないことは人間にとってとてもストレスであることは、100年以上前に社会学者のデュルケームが指摘しました。デュルケームは集団で湧いた状態「集合的沸騰」は、人間が経験しうる最高の至福であると考えました。スポーツ観戦やLIVEの盛り上がりがまさに集団的沸騰です。集団的沸騰によって自分と他人の壁が壊れ1つになっていくような感覚になる、これはアルコールにも似た依存性と快楽をもたらすのです。

テレワークでビデオ通話をしているとき、私たちは集団的沸騰という依存性のある快楽を享受できていない状態です。これが続けばストレスが溜まっていくのは納得ですよね。テレワークによって人と会い雰囲気を共有することの幸せを改めて感じるのは、このように雰囲気がつくられるそれが私たちを幸せにするからなのです。

ビデオ通話では「笑い」が共有しにくい

ビデオ通話では「笑い」も同じような理由で共有できません。笑いが共有できないことで起きる弊害はいくつかあります。

笑いが共有できないことの1つ目の弊害は「集団内の距離感」が縮まらないこと。コロナの影響で多くの大学がビデオ通話での授業に切り替えました。大学1年生は入学後1度も通話相手の教授や生徒と実際に会ってコミュニケーションをとっていない状態でビデオ通話の授業を受けることになります。「笑い」には人間にとって「同じ文化を共有した仲間であること」を証明する機能があります。

しかしビデオ通話では「笑い」が共有できないため仲間意識が育まれず、教授と生徒の距離も生徒と生徒の距離も縮まらないのです。笑いが共有できないことで疎外感を覚えたり教授との距離が0の状態よりもさらに開いてしまうマイナスな効果が生まれる可能性さえあります。

笑いが共有できない理由ともう1つの弊害はテンポ感が一定ではないことです。笑いはテンポが命ですが、テンポはビデオ通話の場合「タイムラグ」によって寸断を繰り返します。よって教授が笑わせようと思っても、本来なら笑ってもらえるところで笑ってもらえず「白けたムード」が漂うのです。きっとこれから数か月間、多くの学生がビデオ通話授業によって「寒い状況」を体験することになるでしょう。ビデオ通話では余計なコミュニケーションはとらず、必要最低限のことだけ伝えるよう意識しましょう。

ビデオ通話はリアルとは異なる公私の境目が生まれる

「ビデオ通話には偶発性がないからリアルと違ってつまらない」という言説を多く目にしますが本当にそうでしょうか?ビデオ通話の一番こわいポイントは実は「公私の境目がこれまでと変わる」点です。

普段会社では家族の話をしたくない人がいたとします。出社する場合は子どもが急に職場に現れる可能性は0です。しかし家でビデオ通話している場合はどうでしょうか?BBCのコメンテーターがTV出演中に、子どもが部屋に入ってきてアタフタする動画が世界中で拡散されましたが、同じことは誰の身にも起こりえます。

子どもに限らず、ビデオ通話で授業を受けているときに親が部屋に入ってきて「○○君、 おやつ持って来たわよ~」と親が入ってくる可能性もあります。

ビデオ通話の場合は「私的空間」で「公的なこと」をしているため、会社や学校では起こりえないアクシデントが起こるのです。恐い上司が家で「パパ~」と呼ばれるシーンに遭遇し部下との距離が縮まるケースもあるかもしれませんが、マイナスのアクシデントのほうが圧倒的に多いはずなので気をつけましょう。

ビデオ通話と音声通話でも違いはあります。音声通話ならお風呂上りでも化粧をしていなくてもOKですが、ビデオ通話だとそうはいかないでしょう。パジャマじゃマズいですし映像が荒いとはいえ化粧もしたほうがいいかもしれません。私的空間で公的なコミュニケーションをとるのは面倒ですね。

ビデオ通話を逆手にとって好感度があがるような偶然を起こすこともできるかもしれません。会社で気になる同僚がワンピースの大ファンだと知ったとします。会社で露骨にワンピースの話をするのは嫌な感じがしますが、ビデオ通話の背景にちらっと仕込んだワンピースのフィギュアやマンガが映ったらどうでしょうか?気になる同僚は「あ、この人ワンピースが好きなんだ!」と思いリアルでは生まれなかったコミュニケーションが取れるようになるかもしれません。この方法でアップさせた印象が持続するかはわかりませんが、印象を操作することも可能という一例です。

ビデオ通話では目が合わない

コミュニケーションで視線は大切です。日本人はマスクが身につけてもサングラスは嫌がる傾向があります。逆に欧米の人はサングラスを身につけてもマスクは嫌がる傾向にあります。これはコミュニケーションにおいて重要な部分が日本人と欧米の人で異なるからだといわれています。欧米の人は口を重視し、日本人は目を重視するのです。

ビデオ通話では目は絶対に合いません。画面の向こうの人を直視すると、内蔵されたカメラを見ることはできません。逆に内蔵されたカメラを直視すると、画面の向こうの人を直視することはできません。カメラを見た瞬間に目線は斜め上を向くので正面でこちらを向く画面の向こう人とは目が合わないのです。目線が合わないことがストレスな人は、いっそのことと音声通話にしたほうが気楽かもしれないですね。

ビデオ通話では「ながら作業」ができる

実際に会って話をしているときにスマートフォンを使っていたら多くの場面でマナー違反だと思われます。しかしビデオ通話だとどうでしょうか?画面に映らないところでスマートフォンをいじっていても、通話画面を最小サイズにしYouTubeを見ていても、画面の向こうの人にはバレません。音声通話だともっとできることは増えるでしょう。相手と真剣に話すことはビデオ通話だと難しいかもしれませんが、時間を有効に使いたい「ながら作業」ができる人にとっては嬉しいポイントです。

まとめ-ビデオ通話の社会学は今後より研究が進む分野-

この画像はbBearさんが制作したものを写真ACでダウンロードしました

ビデオ通話では実際に会うときとは全く異なるコミュニケーション方法が求められること、ご理解いただけたでしょうか?私たちは学ぶ生き物なのでビデオ通話が今よりもっと普及し当たり前のものになれば、技術に身体性がフィットしていきストレスは今よりも少なくなるかもしれません。

ここで紹介したビデオ通話のストレス解消方法や、ビデオ通話で気を付けるべきことを意識しながら明日からもビデオ通話のコミュニケーション頑張ってください!KAYAKURAではコロナで変わった社会や生活に関する考察記事を多数掲載しています。興味関心のある方はぜひこちらの記事もご覧ください。

この記事と関連するおすすめ本

参考資料

Amazonプライム

最後に、効率よく学ぶために本を電子版で読むこともオススメします。

Amazonプライムは1ヶ月無料で利用することができますので、非常に有益です。学生なら6ヶ月無料です。

Amazonスチューデント(学生向け)

Amazonプライム(一般向け)

Kindle Unlimited

数百冊の書物に加えて、

  • 「映画見放題」
  • 「送料無料」
  • 「書籍のポイント還元最大10%(学生の場合)」

などの特典もあります。社会や地域の課題を冷静に正しく分析する力は、読書や映画鑑賞などの幅広い経験から鍛えられますので、気になる方はぜひお試しください。

この記事を書いた人

Masato ito

長野県出身、日本学術振興会特別研究員、武蔵野大学アントレプレナーシップ研究所客員研究員、一橋大学社会学研究科所属。専門は社会学、政策学。2017年・2021年に創設に関わった2つのまちづくり事業が長野県地域発元気づくり大賞を受賞。後者は同年公民館アワードも受賞。現在は地方移住やまちづくり、地域政策に関する研究を行う傍ら、関連する分野のコンサルティングやアドバイザー、講師講演執筆などを行っている。毎日新聞、AERA、Oggi、Abema Prime Newsなど寄稿出演多数。