将来世代との対話と循環型社会-まちづくりにおけるイノベーションとは-

将来世代 循環型社会

ニュースや各種メディアをみていると、毎日のようにこんな言葉が目に飛び込んできます。

「循環型社会」

循環型経済(サーキュラーエコノミー)」

「SDGs(持続可能な開発目標)」

現在こうした言葉がバズワード、ウヴェ・ペルクゼンの言葉を借りればプラスチックワードとして世界中に広まっています。

企業が指針を決める際にも、行政が政策を策定する際にも、私たち一人ひとりが社会にとって良いことをしようとするときにも、こうした言葉が空気のように穏やかな圧力をかけてきます。

これらの言葉に共通している認識は「今のままでは地球がマズい」ということ。

ローマクラブが1972年に発表した報告書「成長の限界」が世界に衝撃を与えてから早50年、地球温暖化や気候変動は疑うまでもなく明らかに生じているものとして認識され、マクロな連帯と個人の努力が求められています。

しかしこれらの言葉に対して次のように感じる人も多いのではないでしょうか。

「SDGsってなんか怪しいな」

「日本は本質をとらえていないんじゃないか」

「循環型社会や循環型経済って、結局なんのために掲げられているの?」と。

※本記事の内容は、下記動画より視聴いただけます。

循環型社会/経済やSDGsで見落とされている存在

ネット上でこれらの言葉を検索すると「SDGsとは何か」「循環型社会やサーキュラーエコノミーとは何か」といった記事が多数ヒットします。

対して「なぜSDGsが必要なのか」「なぜ循環型社会/経済が時代のキーワードとなるのか」を解説した記事は少ないように感じます。

理由としては、これらの言葉を簡単に解説するのが難しいことが挙げられます。他にも促進する人たちがある本質を理解しないままに発信しているから「なぜ」の問いに対する答えがヒットしないという側面もあります。

ある本質とは将来世代と真剣に向き合うことです。将来世代と向き合うと一口に言っても、分からないことはたくさんあります。

「将来世代って一体誰?」

「なぜ将来世代と向き合う必要があるの?」

「どうやって将来世代と向き合うの?」

「将来世代と向き合うことと、実際の行動はどう結びつくの?」

そこで今回は、SDGsや循環型社会/経済などの言葉の背後にある目的や前提について、「将来世代」をキーワードに考えてみたいと思います。

※この記事では各概念やキーワードについて詳細な説明は行わず、イメージで理解してもらうことを目指します。そのため細かな表現や言い回しに気になる点があるかもしれませんがご了承ください。

SDGs(持続可能な開発の目標)の理念と将来世代

SDGsとは SDGsのsとは何か

まずはSDGsがかかげる理念を深掘りしてみます。SDGsを日本語に訳すと「持続可能な開発目標」となります。では一体「持続可能な開発」とはなんでしょうか

「持続可能な開発」という言葉が世界的に普及する契機となったのは、国連に設置された「環境と開発に関する世界委員会」(1987)が公表した報告書『Our Common Future』(邦題:地球の未来を守るために)です。

この中で「持続可能な開発」とは「将来世代のニーズ(必要)を損なうことなく、現在世代のニーズを満たすこと」と定義されます。

「将来世代のニーズ」とは、これから子や孫、さらにその先の世代がその経済活動のために豊かな地球資源からの恩恵を受けることであり、「現在世代のニーズ」とは、今を生きる人々が地球資源の公平な配分を受けることを意味します。

つまり「持続可能な開発」とは、どの世代に生まれたとしても、有限な地球資源の中で誰もが経済活動を持続的に維持し生活の質を高めていくことであり、そのために必要な地球資源を保全し世代内でも世代間でも共有していくことを意味しているのです。

以上を踏まえるとわかることがあります。それはSDGs(持続可能な開発)は、前提として現役世代が将来世代と向き合うことを要請しているということです。

現役世代、つまり今を生きる私たちだけが豊かな生活を送れれば良いのではなく、いまはまだ生まれていない、これから産声を上げる将来世代も「地球/社会に生まれてきてよかった」と思えるようにしないといけないのです。

この発想の重要性は皆さんの身近な出来事に引き付けると現実味が湧いてきます。例えばあなたに子どもが誕生するとします。子どもが生きていくこれからの100年には2つの道があります。

一つ目の道は地球温暖化や気候変動に落ち着きがみられ、人々の格差も縮小し、災害がきても安心して対応できるような世界/社会です。

二つ目の道は地球温暖化や気候変動が加速し自然災害が頻発、人々の格差は拡大、災害がきたらすべてのインフラが止まるような世界/社会です。

皆さんは自分の子ども(他人の子どもも同じように)にどのような世界で生きてほしいですか?多くの人は前者の世界を生きてほしいと願うのではないでしょうか。そして、そのためには少しの我慢や努力をしてもいいと感じるのではないでしょうか。

このような感覚/性質を将来可能性と呼びます。それは「たとえ、現在の利得が減るとしても、これが将来世代を豊かにするのなら、この意思決定・行動・さらにはそのように考えることそのものがヒトをより幸福にするという性質」です。

しかし残念ながら、現在、世界は地球温暖化が加速しゲリラ豪雨やそれに伴う自然災害が増加、人々の格差は拡大し、大きな災害が起きると都市のインフラが止まってしまうような世界を生きています。果たしてこの世界/社会で、将来世代は幸せに豊かな暮らしを送れるでしょうか?

循環型社会の理念と将来世代

1990 年以降、日本では循環型社会形成推進基本法や容器包装リサイクル法などの制度を整備され「循環型社会の形成」を主要な政策課題の一つになってきました。

循環型社会とは「限りある資源を効率的に利用し、リサイクルなどで循環させながら、将来にわたって持続して使い続けていく社会」を指します。「3R」と呼ばれる廃棄物の発生抑制(リデュースReduce)、再使用(リユースReuse)、再生利用(リサイクルRecycle)は聞いたことがあるのではないでしょうか。

では一体、なぜ循環型社会が目指されるのでしょうか?環境省の循環型社会形成推進基本法に関する資料によれば、循環型社会が実現することで「現在および将来の国民が健康で文化的な生活を送れるようになる」からです。将来の国民とは、将来世代のことです。

裏を返すと、この文章はこれまでの大量生産、大量消費、大量廃棄のビジネスモデルやライフスタイルを継続していると将来世代は「健康で文化的な生活」さえも送れなくなる可能性があることを意味しています。

いま私たちが循環型社会を目指す理由は自然への環境負荷を低減させるためですが、自然への環境負荷を低減させることは実は最終ゴールではありません。真に向き合うべきは「将来世代の健康で文化的な生活」なのです。

循環型経済(サーキュラーエコノミー)の理念と将来世代

循環型社会よりも近年よく聞く言葉として循環型経済(サーキュラーエコノミー)という概念もあります。

消費社会を生きる私たちはこれまで、資源を掘り出し→つくり→使い→捨てるという「直線型経済」で暮らしてきました。サーキュラーエコノミーは、この直線の最後にある「捨てられるもの」を「新たな資源」と捉え、廃棄物を出すことなく資源を循環させるリユース経済を指します

サーキュラーエコノミーは3R (Reduce、Reuse、Recycle)とは少し異なります。原材料を調達し製品をつくる段階から回収や資源の再利用を前提としており、廃棄ゼロを目指すのがサーキュラーエコノミーなのです。

サーキュラーエコノミーもSDGsや循環型社会と同様に「将来世代が豊かな生活を送れること」を目標に掲げています。そのために資源を再利用したり、廃棄物を減らそうとしているのです。こうしたことをどの程度の人が意識しているかはわかりませんが、多くの企業や人は目的と手段を倒錯しているような光景はよく目にします。

※ちなみに今回は扱いませんが、再生可能エネルギーやカーボンニュートラルに関する議論でも「再エネだけを「国民負担」と位置づけるのではなく、「将来世代のための投資」と位置付ける発想の転換が必要」などの文言で、政策文書の中に「将来世代」が登場します。

将来世代と現役世代の壁を乗り越える

ここまでSDGs、循環型社会/経済という3つの言葉すべてが「将来世代が豊かな生活を送れること」「将来世代の必要(ニーズ)を損なわないこと」を目的や前提に置いていることを確認してきました。

この事実は言葉の広がり方とは裏腹に、あまり知られていません。しかしSDGsや循環型社会/経済を考えるうえでは「将来世代」の存在を無視することはできないのです。

では私たちはそんな簡単に将来世代のことを考えられるのでしょうか?将来世代を理解できるのでしょうか?将来世代が豊かな生活を送れるような行動をできるのでしょうか?残念ながら理想と現実の間には大きな隔たり、難しさがあります。

それは一体どんな壁があるのでしょうか?壁は、どうすれば乗り越えられるのでしょうか?ヒントは日本語版が2011年に出版され大ヒットしたマイケル・サンデルの『これからの正義の話をしよう』でも扱われた「正義」という概念にあります。

なぜ「正義」がキーワードになるのかは3つの正義の形を比較しながら考えてみたいと思いますが、ここでは割愛します(12月11日の講演ではこの点もわかりやすく解説します)。

結論だけ先取りすると3つの正義を比較して考えた場合、将来世代と現役世代の間の壁を取り除くために大切なのは「相手の立場に立って考えること」「対話すること」という結論に至ります。

将来世代の立場に立って考え、疑似的な対話を行うことでお互いの価値観を擦り合わせたり、お互いが善いと思うことを共有したりするのです。

しかし将来世代の立場に立って考えることや対話が大切だとわかっても、こう思った方は多いはずです。

「将来世代の立場に立つ・対話するって、タイムマシンに乗らないと無理なのでは?」と。

フューチャーデザインによる将来世代との対話

フューチャーデザイン
長野県池田町でのフューチャーデザインセッションの様子

実は将来世代の立場になる・対話する方法が近年磨かれています。なお今回はイベントのテーマに「まちづくり」が含まれているので、以下の議論はわかりやすくするために「地域社会」をフィールドに考えていきたいと思います。ただ基本的に議論の内容は企業でも行政でも当てはまります。

紹介するのは「フューチャーデザイン」という考え方/手法です。

フューチャーデザインの考え方の元となっているのは、アメリカに住むイロコイ・インディアンという部族の憲法「偉大な結束法」というもの。この憲法には「すべての人々、つまり、現世代ばかりではなく将来世代を含む世代を念頭に置き、彼らの幸福を熟慮せよ」(『フューチャーデザイン』)と書かれており、フューチャーデザインという言葉もそこからきています。

私たちの目の前には今、様々な社会課題が山積みになっています。これらの課題を解決することはとても難しく、世代や職業を超えて合意することは不可能だと感じるものも多くあります。また、個人としては正しい選択肢が分かっていても、仕事や社会的な立場が関係して選択できないこともあります。

フューチャーデザインは、それらの課題を解決するための新しい手法として大阪大学や高知工科大学、信州大学などの研究者が開発し世の中に広めようとしている手法です。一言でいえば「人びとが将来可能性を発揮できる社会の仕組みのデザインと、その実践」といえるでしょう。

経済学者の西條辰義氏によれば、将来可能性を発揮できる環境と仕組みを整えることで、人々の意思決定の在り方を変容させるのがフューチャーデザインです。

異なる言い方をすれば「未来人になりきって物事を考える」手法ともいえるでしょう。似た考え方としてバックキャスティングというものがありますが、それとは少し異なります。

バックキャスティング:将来想定から逆算して、現代世代の利害に最も合致したものを考えること。
フューチャーデザイン:将来想定から逆算して、将来世代の利害のために現代世代が行うべきことを考えること。

フューチャーデザインは、現代を生きる自分が抱いている葛藤や利害から解放され現代を生きる自分を横に置いたうえで未来を生きる自分が課題について考え発言する手法なのです。

フューチャーデザインによって、将来世代の立場に疑似的になり対話することが可能となります。そうすることで将来世代への想像力や共感が生まれ、個人や地域、企業の行動変容にもつながるのです。

※ここではフューチャーデザインの手法について深く言及しませんが、当日は簡単なフューチャーデザインセッションを行い参加者の皆さんにも未来人になってもらう予定です。

【あわせて読みたい】フューチャーデザインとは?地方市町村で開催されたワークショップ参加レポ

対話を行動に繋げるためには-まちづくりとイノベーション-

将来世代と対話するにはさまざまな方法がありますが、今回はフューチャーデザインという手法をご紹介しました。この方法は地域でも企業でも実践できるのでぜひ試してみてください。

将来世代と対話したうえで浮かぶ疑問は「では私たちはいま何をすればいいのか?」です。そこで、ここからは実践へのヒントをご紹介します。

循環型社会/経済、SDGsなどで示される目標を達成するためには「イノベーションが必要だ」とよく語られます。今回のテーマにもなっている「まちづくり」などの分野でもイノベーションが重視されつつます。

まちづくりにおいてイノベーションは一つの重要なキーワードとなります。しかしまちづくりにおけるイノベーションとは、成功している事例を模倣することでも、積極的に他企業や他地域とのネットワークを広げることでも、最新技術だけで課題を解決することでもありません。

イノベーションと聞くと、一般的には技術革新や新技術の発明と誤認されることが多いですが、本来「新しいアイデアから社会的意義のある新たな価値を創造し、社会的に大きな変化をもたらす自発的な人・組織・社会の幅広い変革」を意味します。また経済学者のシュンペーターは「経済活動の中で生産手段や資源、労働力などをそれまでとは異なる仕方で新結合すること」と定義しています。

ではどうすればまちづくりにおけるイノベーションが生まれるのでしょうか。その一つの答えが「いまある地域資源を活かして新たな価値を創造すること」です。

それは他の地域の先進事例を模倣することでも均一的な政策目標に乗ることでもなく、地域にいまある資源の価値を再認識し、時代とニーズにあうようにブラッシュアップして新たな価値を創造し魅力を高めることを指します。資源には土地に根付く歴史や文化、風土や施設、産業、在住者など利用可能な全てのものが含まれます。

まちづくりにおける地域資源を活用したイノベーションは、地域のオリジナリティの確立、地域住民や他者との連携拡大、将来世代を考えた持続可能な発展を可能とします。そしてこの地域資源を活用したイノベーションこそ、循環型社会におけるまちづくりが目指すあり方なのです。

古民家に学ぶ地域資源を活用した実践のヒント

将来世代の豊かな生活につながる地域資源を活用した実践のヒントを「古民家」というメタファーから考えてみます。以下では、長野県長野市鬼無里地区という山間集落で行われた勉強会で生態学者の井田秀行氏が話していた興味深いエピソードをご紹介します。

長野県には写真のような茅葺屋根の古民家が多く残っています。古民家は草、木、土、石でつくられており、これらはすべて地域資源を活用してつくられてきました。

例えば茅は農村集落にある共同で管理する茅場と呼ばれる場所で栽培し、それをみんなで分け合います。木は裏山や周辺の山にあるものを切り出してきて使います。雪によって曲がった木なども曲がっていることで力を発揮できるような場所で材として利用されます。

こうして完成する古民家は、昨今ではトタンで屋根を覆ったものも多いですが本来は99%が自然に還るようにできています。つまり空き家になり廃れても、長い時間をかけて最終的には土に還るのです。

このような地域資源を活用してつくられる古民家には、循環型社会/経済やSDGs, まちづくりにおけるイノベーションを考えるためのヒントがいくつも隠されています。その5つとは以下の通りです。

  1. 地域資源の有効活用
  2. 将来世代への想像力
  3. 始めから、終わりを考える
  4. パートナーシップでの課題解決
  5. 適材適所、役割があり誰も何も取り残さない

なぜこの5つが古民家と関連するのか、なぜこれが大切なのかは講演当日にお話したいと思います。さらに当日は、空き家問題と解体後の古民家の利活用から考えるべきことについてもお話する予定です。建築とまちづくりと循環型社会がここでつながります。

まとめ-将来世代と向き合うことで行動が変わる-

最後にここまでの内容を簡単にまとめます。

  • SDGs(持続可能な開発)、循環型社会/経済などの言葉に共通する目的は「将来世代の豊かな生活」の実現
  • 将来世代と現役世代の間には壁があり、超えるためには想像力と対話が必要
  • 将来世代を想像し対話をするのフューチャーデザインという手法が注目を集めている
  • まちづくりにおけるイノベーションとは、いまある資源の活用による新たな創造性を生み出すこと
  • 「古民家」というメタファーは私たちにさまざまなヒントを与えてくれる
  • これからの社会では、再利用することよりも、どのように再利用するかが重要視される

これらの視点を得たいま、皆さんがSDGsや循環型社会/経済の観点を事業や地域での活動に取り入れようとするとき、考え方や行動は自然と変わるはずです。

「なんとなく」ではなく今ある資源を活用した自分たちにしかできないことは何か、将来世代の豊かな生活につながるアクションとはなにか、地域資源を活用したイノベーションにつながるかなど。その方法は企業や地域の数だけ存在します。狭く固い理念型やモデル事例に無理やりはめる必要はありません。ぜひこれからのまちづくりや事業で、このようなことを頭の片隅に置きながら行動してみたらどうでしょうか。

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参考資料
知っていますかSDGs 持続可能な開発目標の概念と今後の課題
環境省,環境白書 第2章 循環型社会のイメージ 今後
環境省, 環境白書, 第4節 コロナ危機と気候変動問題への対応
2050年カーボンニュートラルに向けた取組
・西條辰義, 宮田晃碩, 松葉類, 2021, フューチャー・デザインと哲学, 勁草書房
・ローマン・クルツナリック, 2021, グッド・アンセスター, あすなろ書房

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最後に、効率よく学ぶために本を電子版で読むこともオススメします。

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この記事を書いた人

Masato ito

長野県出身、日本学術振興会特別研究員、武蔵野大学アントレプレナーシップ研究所客員研究員、一橋大学社会学研究科所属。専門は社会学、政策学。2017年・2021年に創設に関わった2つのまちづくり事業が長野県地域発元気づくり大賞を受賞。後者は同年公民館アワードも受賞。現在は地方移住やまちづくり、地域政策に関する研究を行う傍ら、関連する分野のコンサルティングやアドバイザー、講師講演執筆などを行っている。毎日新聞、AERA、Oggi、Abema Prime Newsなど寄稿出演多数。