地方のデジタル化を議論する際に重要な視点

地方 デジタル化

地方のデジタル化を進めよう、地方をデジタル化によって活性化しようという流れが日々強くなっています。

地方とデジタル化が議論の俎上に上がる時、その多くは「どのようにデジタル化を進めるか」「いかにしてデジタル化を促すか」というHow toの議論がメインです。

しかし、より良いHow toを検討するためには、WhyやWhatを適確に捉えることが欠かせません。つまり、「なぜ、地方のデジタル化なのか」「地方のデジタル化とは何なのか」といった視点です。

本記事では、地方のデジタル化を議論する際に重要な2つの視点を提示します。これらは決して直接的に地方の課題を解決したり、デジタル化を促すものではありませんが、押さえておくことで議論に幅と深さが生まれるでしょう。

1.デジタル化した地方、地域社会を前提とする議論を

現在、国や地方自治体では、デジタル庁による「デジタル推進委員」の任命、総務省によるデジタル講習会の開催支援、地方自治体独自のデジタルデバイド対策などの取り組みが行われています(藤山,2023)

2022年に策定された『デジタル田園都市国家構想』では、デジタル実装を通じて地方が抱える課題を解決し、誰一人取り残されずすべての人がデジタル化のメリットを教授できる心豊かな暮らしを実現することが掲げられています。

こうした取り組みと政策方針の前提にある認識は、「地方はデジタル化していないから、デジタル化すべきである」という規範です。しかし、そもそも地方のデジタル化とはどのような状況を指すのでしょうか?いま現在は、デジタル化しているのでしょうか、していないのでしょうか。

令和3年版の『情報通信白書』によれば、現在、我が国の光ファイバ整備率(世帯カバー率)は、2020年(令和2年)3月末で99.1%となっています。過疎地域や離島などの地理的に条件不利な地域では整備が遅れている一方で、ほとんどの地域では光ファイバが整備されています。

 ケータイ・スマートフォン所有者のうちのスマートフォン比率

2022年1月の調査によると、日本国内でスマートフォン、ケータイの所有者のうちスマートフォン比率は96.3%となりました。 年々、日本国内における携帯電話所有者のスマートフォン比率は増加しており、2010年にはスマートフォンの所有率は4%程度だったものが約10年で飛躍的に増加したと言えるでしょう。

以上のデータはデジタル化をめぐる僅かな指標ですが、こうした指標から見えてくるのは都市や地方を問わず普及し拡大するデジタル化の実態です。

もちろん、Suicaの利用エリアやポータブルWi-Fiの利用可能エリアなど都市よりも地方の方がデジタル化が立ち遅れている面もありますが、見方によっては地方での暮らしも至るところですでにデジタル化しているのです。換言すれば、どこに暮らしていても、デジタル技術やオンラインとの接続から断絶した暮らしを送ることは不可能な社会になっているのです。

今日の私たち人間の活動の流れや文化的実践などは、時間を場所を超えて伸張する複雑でパワフルな技術的・社会的システムのもとで生じています(Elliott, 2019=2022:62)。また、ますます浸透しつつあるデジタル環境は、日常生活のなかにさらに洗練された形で、認知される前に日常の中に埋め込まれていき、緻密にネットワーク化された環境のすべての能力を汲み上げています(Greenfield,2006)。

地方のデジタル化を議論する際には、さらなるデジタル化の恩恵や促進の方法を議論するのと同様かそれ以上に、地方をすでにデジタル化した空間と捉え、デジタル化した環境の上に人びとの日々の営みが構築されていることを前提に議論していくことが重要なのです。

2.地方のデジタル化をめぐる社会的、経済的、政治的要因

地方のデジタル化を議論するとき、前述の通りその方法や具体策が中心的に検討される傾向にあります。しかし、How toは時代状況に大きな影響や制約を受けるものであるため、How toと同時に背景要因や取り囲む構造を議論することが重要です。

では、どうすれば地方のデジタル化をめぐる多様な背景要因を明らかにできるのでしょうか。ここで役に立つ、求められるのが社会科学の学術的知です。

経済学や政治学、社会学、社会政策学など社会科学の本流において、これまでデジタル化やテクノロジーをめぐる議論は回避されたり、他に置き換えられたりしてきました。こうした潮流に挑戦しようと試みる著作が、近年徐々に登場していますが(下記参照)、まだまだその潮流は大きくありません。

Elliott(2019=2022)の言葉を借りれば、社会科学の学問体系からの研究の多くは、ある種のデジタル・テクノロジーにおける変容に伴う──社会関係、アイデンティティと個人的生活、モビリティ、暴力についての──理論的発展をとことん無視してきてしまったのです。しかし、デジタル・テクノロジーは社会、文化、政治における他の多くの変容と複雑な形で絡み合っており、こうした絡み合いを解くことがいま求められているのです。

Elliottも指摘する通り、デジタル化やデジタル・テクノロジーと呼ばれるものは、社会、文化、政治における他の多くの変容と複雑な形で絡み合っています。

さらに具体的に着目すべき視点を示すと、社会的背景、文化的背景、政治的背景、経済的背景、産業的背景などへの着目が重要です。こうした背景要因の中で地方のデジタル化を捉え直すことで、なぜ、いま地方のデジタル化なのかを適切な形で再検討することが可能となるのです。

おわりに:地方のデジタル化は、いかなる課題のもとで渇望されているのか

本記事では、地方のデジタル化を議論し再検討する際に重要な2つの視点を提示してきました。

本記事で一貫して主張してきたことは、地方のデジタル化をめぐる議論はHow toに偏っている。WhyやWhatも同程度かそれ以上に重要なものとして議論すべきであるという点です。

最後に付言するならば、WhyやWhatは常に地方で暮らす生活者の課題やニーズに基づくべきです。

国土の開発発展や地方農村の持続可能性など、特定の地域や組織の課題解決や目的達成が主題となったデジタル化とその推進は、市民からの指示を得られず、技術的に目的を達成しても継続的に活用されないでしょう。

デジタル・テクノロジーやAIは、ビッグデータ、自己言及的な計算、感情を伴う環境、位置情報タグ、複雑なアルゴリズム、センサー、ロボット等を電光石火の如く配置する際に起こる権力の不均衡と共に、アイデンティティや人格、社会関係、家族や友人関係の形成、ジェンダーやセクシャリティの新たなモデルを生成しています。それらは年齢や所属を問わず、地方で暮らす一人ひとりの個人の暮らしと密接に関連したものであり、具体的な人びとの暮らしから切り離した形での議論は成立し得ないのです。

「すでにデジタル化した地方」という観点、地方のデジタル化をめぐる社会的・経済的・政治的背景などへの着目、地域や組織ではなく個人を起点としたデジタル化の議論、この3点を意識して地方のデジタル化を議論していくことが重要です。ぜひ、こうした観点を意識して地方のデジタル化を考えてみてください。

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この記事を書いた人

Masato ito

国際大学GLOCOM研究員/講師。1996年、長野県出身。博士(社会学)。一橋大学大学院社会学研究科、日本学術振興会特別研究員を経て2024年より現職。専門は地域社会学・地域政策学。研究分野は、地方移住・移住定住政策研究、地方農山村のまちづくり研究、観光交流や関係人口など人の移動と地域に関する研究。多数の地域連携/地域活性化事業の立ち上げに携わり、2事業が長野県地域発元気づくり大賞を受賞。日本テレビDaydayやAbema Prime News、毎日新聞をはじめ、メディアにも多数出演・掲載。