ビデオ通話では伝わらない!? 「対面のほうが言いたいことは正確に伝わる」は幻想

新型コロナウイルス拡大防止をキッカケに広まるビデオ通話。これまでも企業や団体によっては積極的に活用されていましたが一般の利用率はそこまで高くありませんでした。これまではビデオ通話ネイティブ世代である高校生大学生などの若者層が利用者の大半でしたが、30代以上にもコロナをキッカケに広まったのが特筆すべき点でしょう。

ビデオ通話に挑戦している人の中には「対面のほうが情報が伝えやすいなぁ」と思っている人も少なくないでしょう。しかし実は「対面やビデオ通話よりも、音声通話や文章のほうが情報は正確に伝わる」ことが分かっています。これは一体なぜでしょうは?順を追ってみていきましょう。

オンラインでのコミュニケーションについての誤解

オンラインでのコミュニケーションが私たちのコミュニケーションや対人関係にどのような影響を与えるのかは、ヨーロッパやアメリカを中心に研究が重ねられてきました。これらの研究は、オンラインでのコミュニケーションは、対面のコミュニケーションと比較して、相手に伝わる非言語的手がかり(表情やジェスチャー、声の調子等)が少ないという点が特徴」として指摘されてきました。

社会心理学において、非言語的手掛かりはメッセージの意図や狙いを理解するうえで必要不可欠とされてきました。しかし1999年代後半~2000年代中盤頃からオンラインでのコミュニケーションでの非言語的手掛かりの少なさは円滑なコミュニケーションのためにあまり重要ではないということが示唆されてきました。

顔が見えるコミュニケーションと見えないコミュニケーションの比較実験

現上智大学准教授の杉谷陽子さんは、2008年~2010年頃に対面でのコミュニケーションとオンラインでのコミュニケーションで、情報が正確に伝わる度合い(伝達度)にどの程度差があるのか調べました。2010年に行った「顔が見えない声だけの通話」と「顔が見えているビデオ通話」で情報の正確な伝わり具合に差はあるのか?を調べた実験の内容と結果をみていきましょう。

62名の学生を対象に「相手の表情が見えること」と「伝達度」の関係についての実験を行いました。2人1組のペアを組み、半分のペアは机をはさんでイスに座り映画や本の内容に関する話をし、もう半分は同じく机を挟んで話しましたが机には大きな壁が設置されており相手の姿が見えず声だけが聞こえるようにしました。15分の会話後に全員にアンケートをとりどちらのほうが情報が伝達できたかを聞き取りました。

相手の姿が見えない方が情報は正確に伝わる

実験の結果、相手の姿が見えないほうが話した内容が正確に聞き手に伝わっていたことがわかりました。一方、伝わった感覚については、相手が見えているほうが相手に言いたいことが伝わった、あるいは伝わってきたと感じていました。つまり「相手の顔が見えない方が情報は正確に伝わっているのに、相手の顔が見えているほうが情報は正確に伝わった&伝わってきたと人は錯覚する」ことが実験によって明らかになったのです。

ストレートな言い方をすれば、会話において相手の姿や表情が見えるという事は、相手の発言の理解を促進する効果はなく、むしろ妨害する可能性があるのです。通話相手が別の作業をしていないか、話をしっかり聞いているかと心配になるかもしれませんが、会話の質を高めるのであれば「ビデオ通話よりも音声通話のみ」のほうがよいのです。これはビデオ通話が広まっている現在、大きく誤解されている点だと思われます。

結論

  1. 話す人の伝えたいことが正確に伝達される上で、非言語的手がかりは、そこまで重要ではなかった。場合によっては、非言語的手がかりがあることで、かえってメッセージが生活に伝わることが阻害される可能性もある。
  2. 1の事実にもかかわらず、人は対面のほうが自分が伝えたいことが相手に正確に伝わりやすいと思い込んでいる。
  3. 視覚的な手がかりがあれば、人は、自分が発したメッセージが十分に相手に伝わった、あるいは、相手のメッセージが十分に伝わってきたと感じる。逆に視覚的な手がかりがないと、伝わったor伝えられたという感覚を持つことが出来ない。この感覚は、メッセージが実際に相手に伝わったかどうかと無関連に生じている。

なぜ対面よりもオンラインの伝達度が優れているのか

ここまでの内容をみて多くの人は「どうしてオンラインのほうが対面よりも相手に情報が正確に伝わるの?」と思っているでしょう。理由は人間の脳の情報処理機能に起因すると考えられます。人間の脳が一度に処理できる情報量(認知容量)には限りがあります。認知容量を超えるような状態は人間の脳にとって負荷が重く、ミスが起きやすくなるのです。運転中の携帯電話利用が事故を増加させたり、映画やTVを見ながらだと会話がうまく弾まなかったりするのも、認知容量のアンバランスさが原因です。

テレワーク・リモートワークでおすすめなのは「伝達方法の切り替え」

以上の実験と考察を踏まえて私がおすすめするのは「内容によって伝達方法を切り替えること」です。情報を正確に伝えることを最優先したい場合(会議や情報の共有)は、音声通話のみもしくは文字情報でコミュニケーションをとると正確に伝えたいことだけが伝わります。

休憩がてら雑談をしたいときや他の作業をしながら会話する場合は、ビデオ通話でお互いの様子を見ながらのほうが「伝わっている感・話している感」があってリラックスできます。しかし通話しながらやビデオをつなぎながらだとどうしても仕事の質は落ちるので、用事がないときは切っているのがベストでしょう。くれぐれも仕事をしっかりしているか相互に確認するためにつないでおこうなんで考えてはいけません。

まとめ-ビデオ通話よりも、音声通話か文章での共有を推進すべし-

自宅で作業する場合は、ビデオ通話だと室内を片付けたり家族が通らないように気を使ったりといろいろと面倒ですよね。会社から「ビデオ通話」を強制されている方は、ぜひこの記事の内容を踏まえて上司に「音声通話や文章の比率を上げましょう!」と提案してみてください。

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この記事を書いた人

Masato ito

国際大学GLOCOM研究員/講師。1996年、長野県出身。博士(社会学)。一橋大学大学院社会学研究科、日本学術振興会特別研究員を経て2024年より現職。専門は地域社会学・地域政策学。研究分野は、地方移住・移住定住政策研究、地方農山村のまちづくり研究、観光交流や関係人口など人の移動と地域に関する研究。多数の地域連携/地域活性化事業の立ち上げに携わり、2事業が長野県地域発元気づくり大賞を受賞。日本テレビDaydayやAbema Prime News、毎日新聞をはじめ、メディアにも多数出演・掲載。