「ワーケーション」のデメリットや乗り超えるべき問題点はどこにあるのか

7月27日に菅官房長官が発し意外なかたちで注目を集めることになった「ワーケーション」。SNS上での反応をみると「菅さんが急に変な造語作ってきた」「コロナを乗り越えるための難しいカタカナ語を増やすな」といったワーケーションへの誤解ある指摘も多くあります。

ワーケーションとはWork(仕事)とVacation(休暇)を組み合わせた造語で、2010年前後にデジタルノマドが実践しはじめ、2015年前後に日本に輸入されてきた概念です。定義は言葉をつかう人や企業によって微妙に異なりますが、「ワーケーションとはリゾート地や地方等の普段の職場とは異なる場所で働きながら休暇取得等を行う仕組み」を考えておけば問題ありません。

急に広まった「ワーケーション」ですが、欧米のワーケーションと日本のワーケーションではあり方に少し差が生まれ始めています。負の意味での「日本型ワーケーション」が誕生しないために、押さえておきたいポイントをみていきます。

ワーケーションの歴史や定義・メリットデメリットなど基本的なポイントを押さえておきたい方はこちらの記事をご覧ください。

実際にKAYAKURAメンバーがワーケーションを体験してきた模様はこちらです。地域や企業によってワーケーションの形は全く異なりますが、一事例として参考にして見てください。

長野県千曲市×株式会社ふろしきや×一般社団法人Work Design Lab×KAYAKURA

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ワーケーションへの3つの誤解

7月27日、政府の「観光戦略実行推進会議」で旅行や働き方の新しいスタイルとして、リゾート地や温泉地などで余暇を楽しみながら、テレワークで仕事をする『ワーケーション』を普及させるため、ホテルなどで仕事ができるようWi-Fiの整備の支援に取り組む考えが示されました。

これまで日本では地方自治体や一部企業がワーケーションを積極的に推進していましたが、今回のように明確に「ワーケーション」という言葉が示され国民に広く伝わったのはほぼ初めてです。急に出てきたワーケーションという言葉ですが、誤解しないためにまずは以下の3点を抑えておいてください。

  1. 「ワーケーション」は菅官房長官がつくった言葉ではない
  2. 「ワーケーション」はコロナを乗り越えるためだけの方法ではない
    (積極的な移動を伴うため方法によってはコロナと相性が悪い)
  3. 「ワーケーション」は2010年前後に欧米で誕生し、日本にはその数年後に入ってきた概念である

本末転倒な「日本型ワーケーション」にならないことが大切

ワーケーションをニュースで聞いたのち、SNSなどでは「労働時間が増える」という批判が散見されます。ワーケーションをこれまで当たり前のように実践してきた人は見落としがちですが0からワーケーションを考えるうえでこれは重要な視点であり、欧米におけるワーケーションに対し、日本でワーケーションが広まることを考えるうえでもこれは重要な視点です。理由をみていきましょう。

欧米のワーケーション実践の文脈は、数週間~数か月のバケーションを楽しみながら、たまにリゾート地で仕事するような在り方が想定されています。これは長期間のバカンスがあるからこそ実現できるスタイルです。

一方でいまの働き方と価値観のまま日本で広くワーケーションを導入しようとすると「働く時間がただ増えるだけ」になりかねません。なぜなら欧米のような長期のバカンスは無くバケーションを楽しむとすると長くても数日間になるからです。数日間の休暇のうち多くの時間をもしも仕事に使うことなるとすれば、それは果たして休暇になるのでしょうか。

もしそれが平日の勤務日も休暇にしてワーケーションを実践するのであれば100歩譲って理想的と言えるかもしれません。しかし多くの日本企業では5日間フルで働いたうえで土日もしくは祝日の休暇にワーケーションを実践することしかできません。そうなると結果的に働く時間が増えるだけ(しかも給料が発生しない)になります。これでは本末転倒です。

本末転倒な「日本型ワーケーション」にならないために

短い休暇を仕事が侵食する本末転倒な日本型ワーケーションとならないために重要なのは、実践者の主体性です。今回の菅官房長官の発言のように行政や公が大手を振って推進しようとすると、必要のない補助金が生まれニーズとかけ離れた日本型ワーケーションが生まれることになります。これは企業でも同様で、上からワーケーションを実践しろというだけでは生産的で充実したワーケーションは達成しにくいでしょう。

企業や行政はワーケーションを積極的に推進するのではなく、第一に「ワーケーションしたい人ができるような環境を整える」ことが大切です。例えば観光に来た人が不自由なく使えるWi-Fiを整備すること、社内規則や働き方にワーケーションを想定したものを組み込むことなどが考えられます。これらはワーケーションを推進するだけでなく災害時に住民が利用できるWi-Fiを整備することや、会社全体の柔軟な働き方の推進にもつながるでしょう。

最後に-ワーケーションできる人よりワーケーションできない人のほうが多い社会-

職種や職業によってワーケーションの実践可否が変わる点も大切です。「ネットさえあれば仕事ができる人がいる」ということは、「ネットがあっても仕事ができない、身体性を伴う働き方の人がいる」ということ。

ワーケーション実践者が気持ちよく休暇や仕事を楽しんでいる環境を支えているのは、ホテルで働く人、交通機関を動かしている人、食事を作っている人であることを忘れてはいけません。

菅官房長官の発言にもみられましたが「ワーケーション」や「テレワーク」の話になると、なぜか「みんながネットとPCさえあれば仕事ができる時代になった」と盲目的になる人がいます。2020年現在の世の中でも、ネットとPCさえあれば仕事ができる人は全就業者のなかでまだまだ少数です。この数的バランスはAI研究が進展しロボットが普及してもこの先数十年も変わることはないでしょう。

コロナ禍に「ワーケーション」や「テレワーク」といった言葉が飛び交うことに対する苛立ちや疑問をいだく人たちの声を置き去りにしてはいけません。負の日本型ワーケーションとならないために、今回の件をキッカケに産官共同で議論が進むことに期待です。

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この記事を書いた人

Masato ito

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター研究員/講師。長野県出身。博士(社会学)。一橋大学大学院社会学研究科、日本学術振興会特別研究員を経て2024年より現職。専門は地域社会学・地域政策学。研究分野は、地方移住・移住定住政策研究、地方農山村のまちづくり研究、観光交流や関係人口など人の移動と地域に関する研究。立命館大学衣笠総合研究機構客員研究員。武蔵野大学アントレプレナーシップ研究所客員研究員。日本テレビDaydayやAbema Prime News、毎日新聞をはじめ、メディアにも多数出演・掲載。