転職が当たり前になる時代に「攻めの採用」を|Wantedly執行役員 兼平敏嗣氏

有効求人倍率が1.5を超える高水準となるなか、農業の労働力不足が日々深刻になっている。穀物・野菜・果樹・その他の作物の栽培・収穫に従事する農耕作業員の有効求人倍率は2012年度の1.08から、17年度は1.71まで上昇し、養畜作業員に関しては2.8倍まで上昇した。

このような農家の現状を打破するための講座を長野県農業士協会が2020年2月10日に開催した。毎年開催している経営強化研修をアップグレードするため、人材採用業界で注目を集めるウォンテッドリー株式会社と組んで開催された今回の講座。

ゲストスピーカーは、SNSを活用した魅力発信に成功している長野県佐久地域の農家のらくら農場代表 萩原紀行さん、オンライン直売所「食べチョク」を運営する株式会社ビビッドガーデン代表取締役社長 秋元里奈さん、ビジネスSNS「Wantedly」を運営するウォンテッドリー株式会社執行役員 兼平敏嗣さんの3名。

各ゲストスピーカーの実践と分析をもとに、生産者がSNSを活用した情報発信や採用をどのように行っていくのか、およそ3時間にわたり学んだ。講師の3名に共通していたのはキーワードは「SNS」「ファン」「共感」「マーケティング」「ペルソナ」など、これまで農業においてそこまで重要だと考えられてこなかったものばかり。

生産者はもちろんのことすべてのビジネスパーソンにとって学びある内容を全3回に分けて公開する。

第2回目の今回はビジネスSNS「Wantedly」を運営するウォンテッドリー株式会社執行役員 兼平さんによる「これからの時代の採用について」をお届けする。日本の採用最前線で活躍する兼平さんから話題提供は農業従事者に限らず、企業のトップやこれから就活を始めるすべての人が知っておくべき現代の採用に関する内容である。キーワードは「待ちの採用から攻める採用へ」だ。

※本記事執筆者が諸事情で講座の初めから参加できなかったため、本記事ではのらくら農園代表 萩原さんの講演内容を割愛させていただきます。なお萩原さんは第3回目で掲載するトークセッションに参加されていたため、トークセッション部分では萩原さんのお話をできる限り多く掲載します。

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Wantedly(ウォンテッドリー)とは?

Wantedlyは “シゴトでココロオドルひとをふやす”ために、働くすべての人が共感を通じて「であい/Discover」「つながり/Connect」「つながりを深める/Engage」ためのビジネスSNSを提供する企業。会社訪問と採用の新しいカタチを提案するサービスWantedly Visitと、新時代の名刺管理サービスWantedly Peopleを主な事業としている。

現代日本の採用トレンドを徹底確認

採用の話題に入る前に現代日本の採用と雇用状況について兼平さんから簡潔にまとめていただいた。現代と過去を比較したときにキーワードとなるのが「社会構造の変化」と「雇用の流動化」「選択肢の多様化」だ。日々ニュースで取り上げられる内容だが再度確認しておこう。

①人生100年時代到来と終身雇用の終了

兼平さん

2016年頃に「人生100年時代」という言葉が広がり始めました。人生100年時代は今までの価値観が崩壊し、働き方や生き方が変化していきます。近年は官公庁や日本の大手企業の経営者も危機感と変化の必要性を言っています。日本型終身雇用が終わり、雇用が流動的になる、これが大きな社会構造の変化です。

②転職は一般的になる

兼平さん

アンケートによって求職者の半数以上が「転職は一般的になる」と考えていることが判明しています。これは都市圏だけでなく地方でも確実に起こり始めている変化です。

ポイントは「転職したいな」「仕事を探したいな」と、転職意識が顕在化する前から転職の情報に触れる機会が増えてきており、「こういう会社に行きたいな」という企業リストが転職 活動開始時点で頭の中にできあがっていることが普通になってきているという点です。転職活動開始時に第一想起してもらえるよう、転職潜在層に対して情報を発信することが求められてきています。

③情報収集は4マスからインターネットへ

兼平さん

現代は圧倒的に情報量が増えてきています。少し古いデータですが、平成21年時点で個人が消費できる情報量のおよそ2倍の情報が発信されています。情報過多の時代ということは、興味関心が無いものは届かずどんどん排除されていくことを意味します。

TVが力を持った時代から、SNSやニュースポータルサイトなどのTV以外のメディアの力がどんどん増してきています。4マス(新聞・テレビ・雑誌・ラジオ)が有利な時代からパソコンやスマートフォンが優位になり、発信一辺倒では情報を届けられなくなってきました。これからの情報発信は相互のやり取りがポイントとなってくるでしょう。

④雇用の流動化

兼平さん

雇用の流動化と選択肢が多様化したことによって、いま働いている職場で定年まで働き続けたいと思っている人の割合は少なくなってきています。雇用が難しい業界にとってこれはチャンスである一方、採用した優秀な人材がやめてしまう可能性も。採用後事業を一緒に進めていく際に気持ちよく働ける環境を整える必要性が増しています。

⑤採用条件に「満足感」がプラス

兼平さん

これまでは勤務時間・勤務地・給料など「採用条件」を意識した求職者が多数でした。しかし最近は「培った経験が生かせるか」「新しい学びがあるか」「やりがいがあるかなど満足感を求める傾向が高まっており、年収や勤務地などの条件面+@が重要になってきています。

⑥全産業の有効求人倍率が1.5倍に

兼平さん

日本においては少子高齢化により働き手の人口が減少し仕事を探す個人が有利な時代に突入しています。現在は全産業の有効求人倍率が1.5倍となり完全な売り手市場になりました。待っていれば人が集まる企業が有利な時代が終わったことを採用する側は意識する必要があるでしょう。

⑦売り手の選択肢が増え、採用はより難しく

兼平さん

これまでは就職して同じ会社で勤め上げるキャリアが一般的でしたが、最近は大学生時代からインターンシップをしたり、就職後も複業をしたり、一時休職して大学に入りなおして学んだり、転職したり起業して独立したりする人がどんどん増えています。地方で農業しながら東京のIT企業でリモートワークをするというような複業が可能になってきているのです。

売り手からすると選択肢が増えてより自分に合った働き方ができるようになりますが、企業側からすると採用が難しくなっているといえるでしょう。

⑧採用方法も一筋縄ではいかない

兼平さん

これまでの求人は「求人媒体」+「人材紹介のプロに依頼」がほとんどでした。今後はこれら従来の手法+「スカウト(ダイレクトリクルーティング)」や「採用マーケティング(採用活動にマーケティングの視点を取り入れること)」が増えてくると予想できます。企業はこれらの手法を積極的に実践していかないと、Webでの情報流通が多い時代には優秀な人材と巡りあえません。

⑨「待ちの姿勢」では認知してもらえない

兼平さん

これまでは求職者が就職したい企業の情報を探して面接してもらって採用という流れが一般的でした。求人媒体に広告を出して集まる人の中から選ぶ従来のカタチの中では、企業は「待ちの姿勢」でした。しかしスカウトや採用マーケティングを取り込むと、求職者が事前に大量の情報に触れているので面接をしなくても企業の実態がわかる機会が増えます。

このような時代において企業がまずやらないといけないのは「個人に知ってもらい興味をもってもらうこと」です。知らないサービスや商品は買えないのと同じように、まずは企業のことを知ってもらわなければ興味をもってもらえないし選んでもらえない。だから情報発信が重要になってくるのです。

「副業」や「複業」など多様な働き方についてもっと知りたい方はこちらの記事もご覧ください。

「待ちの採用」から「攻めの採用」へ

上記した9つのような変化が、採用の現場においては現在進行形でおきている。講習参加者の大半は現役の農家だったが、農家のような採用が年々難しくなっている業界の企業は一体どうすればいいのだろうか?

兼平さん

企業側からアクションを起こすことが大切です。「うちの企業に興味ありませんか?」「話を聞きに来ませんか?」と能動的に企業側から動くのが肝。転職に関しても同様です。これまで多くの企業は「転職したい人」だけにアプローチしていましたが、これからは潜在的な転職層に能動的にアプローチして企業の認知度をあげることが必要です。「待ちの採用」ではなく「攻めの採用」に転換していきましょう。

具体的に「攻めの採用」を実践するにはどうすればいいのか。ここでは兼平さんによる具体的な採用プロセスの例をもとにみていこう。ポイントは「今までと比べて採用プロセスが長くなっていること」と「認知してもらうこと」である。

1, 認知してもらう

まず初めはBLOG、SNS、オンライン、都内のミートアップ、PR広告、などの方法で企業(農業であれば生産者の思いや顔)を認知してもらう必要がある。実践できること/トレンドとして以下のようなものがある。

  • 採用を目的としたPR
  • ブランディングのための自社ブログの定期的な更新
  • 農家:生産物の紹介、働いている人にフォーカスした発信
  • 会社としての広報+採用での情報発信を常に意識することが認知につながる

2, 知ったうえで興味をもってもらう

次のステップは知ったうえで興味をもってもらうこと。採用に関係ない情報も含めて個人に情報を出していくことで「おもしろそうなことやっているなぁ」「やりがいありそうだなぁ」と興味をもってもらうために実践できること/トレンドとしては以下のようなものがある。

  • 実際に製品を利用してもらう
  • 農家:生産物を食べてもらう、収穫体験イベントを企画する→ゆるやかで継続的なつながりをつくる
  • カジュアル面談
  • Meet Up
  • オウンドメディア
  • タレントプール
  • MAツール

2, 採用~採用後のケア

最後は採用~採用後のケアである。これまでは採用したら終わりと考えらえていたが、長く働いてもらうために採用後の気配りやケアが必要な時代に突入している。終身雇用がメジャーではなく転職が増えていく時代には、採用後のケアが欠かせない。実践できること/トレンドには以下のようなものがある。

  • ATS 採用管理システム
  • 面接官トレーニング:面接官は社内で一番早く求職者と接する可能性が高い会社の顔になるから人たちなので、専門のトレーニングを実施すると効果的
  • 事業部別採用
  • 導入研修に時間をかけ早い段階からアウトプットが出せる設計
  • エンゲージメントを高めるために
  • タレント管理システム
  • リファラル採用
  • 組織サーベイ
  • オンボーディング

ペルソナを設定しよう-成功するペルソナ設定~採用をシュミレーション-

ここまで現代の採用トレンドを確認し企業が採用の際にできることを確認してきた。ここからは具体的なペルソナ設定やペルソナに合わせたPRの方法を兼平さんが用意してくださったのでそれをもとにみていく。

兼平さん

採用したい人材のペルソナを明確に設定するのが大切です。どこに住んでいる人なのか、現状にどんな不満を抱えた人なのか、何に興味関心がある人なのかなどを決めましょう。今回は生産者が東京からマーケティングの知識がある人材を募るという設定でペルソナを描いてみました。

神奈川県で暮らし東京のIT業界でマーケティングの仕事をしているAさん

  • 毎日満員電車に揺られての通勤で心身ともに疲れており、東京以外で働きたいと思っている
  • 子どもができてから食べ物に興味関心を持つようになった
  • 日本の食料自給率は高くないとニュースで見た、自分が今の企業で培ったITマーケティングの知識が使えないかなと漠然と考えている
兼平さん

ペルソナを設定した後はどのような文脈(ストーリー)がペルソナに刺さるかを考えましょう。

  • 長野県での農業は自然に囲まれた空気がおいしい環境で働けます!
  • 都会のように通勤時に満員電車に揺られることなく自家用車でゆったり通勤できます
  • 自然豊かな長野県は子どもが育つ環境としても抜群で最近は自然保育も普及しています
  • 農業のマーケティングは人が口に入れる食べ物の生産~流通に携わる仕事で言い換えると人の命と直結する責任もやりがいもある仕事です。
兼平さん

ペルソナに刺さるストーリーができたら、売り手がどうすれば自分の企業に入りたいと思ってくれるのかを考えましょう。有効求人倍率が高く売り手が力を持っている現在の採用市場においては、多面的な企業情報の発信が欠かせません。企業には複数の要素があるので断片的にならないようにさまざまな面を組み合わせて入りたいと思う企業像を組み立てましょう。

  • 農業×ITに力を入れて行く予定です!
  • 働いている人たちは笑顔にあふれていてやりがいを持っています(インタビュー記事+写真)
  • 農業の中でも有機農業に力を入れています
兼平さん

Wantedlyで実際に採用につながった企業PRとしては以下のようなものがあります。適切な情報を適切な場所に適切なカタチで出すことで、マイナーな仕事でも興味関心がある人と出会うチャンスがあることが分かるかと思います。

地方×ネット通販 地方という立地をくつがえす

  • 業務内容がわかる写真を掲載
  • 事業の内容や思いをブログで継続的に発信
  • 地方から世界に出ようというストーリーで語学力が高い人やUターン者に響いた

離島×観光業(採用が難しい業界)

  • 特殊な仕事は既存の採用サイトだけでは募集が集まらない
  • 特殊な仕事はイメージが湧きづらい
  • 文化的背景、歴史的背景をしっかり発信することで採用につながった
兼平さん

農業はもしかしたら、勤務条件面では他の業界に勝つのが難しい現状があるかもしれません。しかし視点を変えると、人々が生きるために必要な食を支える社会貢献的な面があるともいえますよね。ペルソナに合わせて自分たちの企業の強みを発信していきましょう。

採用はゴールじゃない-ルールを守り働きやすい職場環境をつくる-

雇用が流動化し多様な働き方が選択できるこれからの時代において、企業が力を入れるべきは採用以上に実は採用後かもしれない。働き手は常に他の企業や業界と比べ転職したり起業したりする機会がある。兼平さんは就職した従業員のエンゲージメントを高めるために「ルールを守ること」と「活躍し長く働いてもらうための環境整備」が重要だという。

兼平さん

企業は従業員が働きがいのある環境をつくるため、最低限のルールを守ることが大切です。厚生労働省のガイドラインを守ること、採用時に職業安定法に基づき条件をしっかり提示すること、労働契約・雇用契約を結ぶことなどが押さえるべき最低限のポイント。農業であれば危険な作業時はヘルメットをつける・手袋やケガしにくいウェアを切るなど安全に配慮することも最低限のルールです。

ルールを守るのと同じくらい大切なのは、活躍し長く働いてもらうための環境を整えることである。入社後も働きやすい環境を整備しないと、すぐに辞めてしまうかもしれない。以下に挙げたようなことが働きやすい環境をつくるために大切だと兼平さんはいう。

  • 業務内容の明確化
  • 充実した教育機会の用意
  • 人間関係、上下関係を企業としてどう整理するのかの共有
  • 法令で求められている以外の労務管理、融通がきくような環境
  • 金銭面以外の福利厚生
  • バランスがとれた業務割合
  • 仕事による成長

さらに多様な働き方を認めることも、働きやすい環境整備のひとつである。

兼平さん

正社員だけでなく、アルバイト、パート、事業委託、インターンシップなど雇用形態が多様になってきているなか、フルタイムの正社員にこだわる必要は低くなってきています。業務の一部をオンラインで手伝ってもらったり、契約社員や業務委託契約で特定の業務に従事してもらったりできる環境整備が重要です。

これらを継続的に実践することが企業への愛着や生産物への愛着、長く働こうという気持ちにつながる。

雇用の流動化により、離職者数はこれまで以上に増加する。離職者数は企業イメージにも直結し採用コストも無駄になるかもしれないし、離職者の増加は職場の雰囲気を悪くするだろう。大切なのは従業員の満足度を高めること。これまでの日本では「雇ってやる」というような雰囲気が強かったが、いまはお互いにWin-winな関係をつくる時代。入社後も働き手に対する敬意と配慮を怠ってはいけない。

地方ならではの採用の難しさをいかにして乗り越えるか

講座終了後、2つの質問が挙がった。1つ目は地方ならではの採用の難しさについて。

兼平さん

地方の場合は人材の絶対数が少ないので都会と比べて採用が難しい面があることは否定できません。ただ大切なのは都会に住む求職者との面接をオンラインでするなど、採用に関して柔軟な対応をすることです。

農業に興味があるときに知り合いに「オンラインで面接できる知り合いの農家があるんだけど興味ある?」といわれたら、直接会うよりもぐっとハードルは低くなりますよね。入り口のキッカケ、接点を増やすことでチャンスを増やすことはできると思います。

2つ目は、採用ページや企業HPなどは何を意識して作るべきか。 

兼平さん

企業の情報がしっかりとストックされている場所が1つあることが大切です。しっかりというのは、検索すると上位に表示されて内容も充実しているような状況を指します。たくさんの場所に掲載する必要はなく「このサイトを見ればこの企業の情報は全部載っている!」と対象に思ってもらえることが重要です。

まとめ-「攻めの採用」であたらしい時代を乗り切ろう-

雇用環境の変化はどんどん加速している。採用する企業は待ちの姿勢では、確実に優秀な人材が採用できなくなる。活躍できる優秀な人を集めるには「攻めの採用」を行う必要があり、そのためには情報発信が不可欠だ。

次回第3回ではSNSを活用した魅力発信に成功している長野県佐久地域の農家のらくら農場代表 萩原紀行さんとウォンテッドリー株式会社執行役員 兼平敏嗣さんが、会場からの質問に答えた模様を掲載する。

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KAYAKURA

KAYAKURAは「新しい地域と観光を考える」をコンセプトに、地域と地域にまつわる言葉や動向を深く考える地域考察メディアです。

この記事を書いた人

Masato ito

1996年長野県生まれ。大学在学中に自身が代表を務める事業が長野県地域発元気づくり大賞を受賞。現在は一橋大学社会学研究科にて国内移住に関する研究を行いながら、KAYAKURA代表として長野県を主なフィールドに観光インバウンド・移住・まちづくりのコーディネート・プランニング・調査・PRを多数手がける。2019年からは都内の企業と地方の企業や自治体をつなぐ新たな取り組みも開始。訪日観光客向け観光情報発信サイトNAGANO TRIP運営。池田町第六次総合計画審議委員。週刊SPAや公益社団法人 日本観光振興協会発行『観光とまちづくり』など寄稿多数。2019年4月から東京都国立市と長野県池田町の2拠点居住実践中.