多文化主義とは何かわかりやすく解説-意味・日本の政策・問題点やデメリットなど-

グローバリゼーションによって人々が国境を越え、地域の境を超え移動する現代において聞くことの多くなった言葉「多文化主義」。字面からなんとなくの意味は推測できますが、正しく知っているか問われると曖昧な人が多いと思います。

多文化主義とは慶応義塾大学の塩原氏によれば「国民社会の内部における文化的に多様な人々の存在を承認しつつ、それらが共生する公正な社会を目指す理念・運動・政策」を指す言葉です。英語ではmulticulturalismといいます。

本記事では多文化主義の意味や定義、歴史、多文化主義がかかえる問題点、そして日本の政策と多文化主義の絡みなどをわかりやすくみていきます。

多文化主義とは-意味や定義-

多文化主義は現在進行形で激しく論争される言葉であるため、どのような文脈で語るか/どの視点から語るかで、その意味や定義、歴史の捉え方も変わります。ここでは『現代社会学辞典』の塩原氏による定義、『キーワード地域社会学』の野崎氏による定義を紹介します。

塩原氏による定義「国民社会の内部における文化的に多様な人々の存在を承認しつつ、それらが共生する公正な社会を目指す理念・運動・政策」

野崎氏による定義「同化主義を否定し、少数者の文化・言語も、その国の支配的な文化・言語と同等に評価・補償される権利を持つという主張」

2つの説明からわかることとして「多文化主義は多様な人々の存在を承認する」ものであることがわかります。

多文化主義の歴史

多文化主義の歴史をみていきます。17世紀に成立した欧州の近代国民国家は、その後世界中に広がりました。その際、多くの国民国家は「1つの国に1つの文化・1つの言葉・1つの民族」でなければならないという「同化主義」のスタンスをとりました。その結果、多くの被支配者側・マイノリティの文化や言語・権利が弾圧されることになります。

第二次世界大戦後、今日まで続くグローバル化が加速していく中で人々の可動性(mobility)が高まり、国境を超えた人口移動が活発になります。その結果、1つの国に1つの文化・1つの言葉・1つの民族という状況に変化が生じはじめ、世界各地でコンフリクトが起こります。

このような状況を受けて多文化主義は、1960年代70年代の同化主義に対抗する欧米諸国におけるエスニック・マイノリティの地位向上運動を通して発展してました。

今日、多文化主義は文化や言語の問題を超えて、政治学や経済学・社会学などさまざまな分野の論争に新たな視点から批判を加える大きな影響力をもつ考え方になっています。

多文化主義と多文化教育-日本の政策と問題点-

日本は、現代でも繰り返し聞かれる「単一国家」という発言にもみられるように、国内の少数文化や言語・マイノリティがあまり意識されない社会でした。結果的にそのことは欧米と比べて多文化主義への対応を遅らせています。

大きく多文化主義がクローズアップされ始めたのは1990年代にニューカマーと呼ばれる外国人労働者・居住者が増えてからです。この頃から住民は「日本は単一民族じゃない」ことを可視的に理解するようになります。それまでも単一民族ではありませんでしたが、出稼ぎ労働者として来日する人や滞在が長期化する人の数が増え、地方自治体や企業も対応策をとり始めたことで人々が意識するようになりました。

日本独特の言葉として「多文化共生」があります。これは多文化主義にかわって2005年頃から政策的にさまざま場面でつかわれるようになりました。しかしこの言葉は「耳あたりがよいだけで実態を隠している」「地域社会への編入を前提とした政治理念として使われている」などの批判があります。

「共生」についてより深く知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。

多文化主義への批判/問題点

「個々の文化を大切にする多文化主義に批判や問題点なんてあるの?」と思う人もいるかもしれません。しかし特に2000年代に入ってからこの言葉にはいくつかの批判が向けられてきました。

2001年のアメリカ同時爆破テロや絶え間ない宗教間紛争を多文化主義の限界とする意見は多くあります。それは多様な文化や言語が「存在する」だけでは、争いやコンフリクトは避けられないため、異なるものに対する排除の意識や敵対視をどう減らすかを積極的に考えるべきという声です。しかしこれは踏み込みすぎると「共生の強制」や「同化主義」に陥ります。「文化や権利を認めつつ社会を円滑にまわすとはどういうことか」考えさせられます。

多文化主義による多様な文化の尊重は文化相対主義に陥りがちです。文化相対主義(cultural relativism)とは他者に対して、自己とは異なった存在であることを容認し、自分たちの価値や見解(=自文化)において問われていないことがらを問い直し、他者に対する理解と対話をめざす倫理的態度を指します。

文化相対主義に陥ると、多文化主義は社会統合を阻害し、マジョリティとマイノリティの分断/セグリゲートを進行させる傾向があるのです。しかし異なる他者と同じ地域で暮らす私たちは、お互いにさまざまな形で影響を与えあっています。つまり完全に分断した他者ではなく、文化や言語もさまざまな形で影響を与えあいながら変容しているのです。時間をかけて影響しあう中で理解しあい一緒になれる部分もあるかもしれないのに、多文化主義の立場から「尊重すべき他者に影響を与えてはいけない!」となったら、それはまた新たな対立やコンフリクトを生み出しかねないのです。

多様な多文化主義の用いられ方や議論

多文化主義と一口に言っても、その時代や学問的立場でさまざまな多文化主義の用いられ方や議論があります。すべてを紹介することは不可能なので、ここでは代表的なものをいくつか紹介します。

マイノリティの異議申し立てが政府との交渉や妥協を経て一部受容され、公共政策及びそれを正当化する言説となった多文化主義(1970年代カナダやオーストラリア)公定多文化主義
差異の管理のために導入されるマイノリティの社会的包摂を目指す社会・福祉政策福祉多文化主義
マイノリティの異議申し立てとしての多文化主義がもつ文化本質主義や、公定多文化主義のもる文化的差異の管理・封じ込めを、マイノリティの文化的差異を擁護する視点から批判的に考察する議論批判的多文化主義
多文化主義的観点から多様な人材がもたらす創造性によってグローバルな経済競争での勝利を目指す言説経済的多文化主義
人々の日常生活における多文化的実践や交渉に注目する議論日常的多文化主義

多文化主義を学ぶためにおすすめの本

ここでは多文化主義への理解をさらに深めるためにおすすめの書籍を数冊紹介します。気になるものがあればぜひ購入して読んでみてください!

最後に-多文化共生で隠されたものを多文化主義で見ていく-

日本において多文化主義が多文化共生という言葉で語られることで問題が見えにくくなっていることがあります。その1つが日本における多文化教育や外国人実習生の在り方です。多文化共生という言葉がマイノリティに関するさまざまな問題を異文化の問題に単純化し、政治的な問題、経済的な問題、地域的な問題などが覆い隠されてしまうことがあるのです。

多文化共生ではなく、あえて「多文化主義」という言葉を用いて考えることで日本において見えてくることがあると思います。本記事をキッカケにより多文化主義のことろを知りたくなった方は、ぜひ学びを深めてみてください。

参考資料
池田光穂, 文化相対主義.
・見田宗介ほか, 2014, 『現代社会学辞典』弘文堂.
・野崎剛毅, 2011, 「多文化主義/多文化教育」『キーワード地域社会学』ハーベスト社.

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この記事を書いた人

KAYAKURA 編集部

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