移住者とは誰か?-論文・論考・報告書・書籍などの移住者の定義まとめ(随時更新)-

地方自治体は1990年代以降、人口減少に伴う地域の活力低下や税収減少を打開するために「移住者を増やす」ことに取り組んできた。特に2014年に地方創生が掲げられて以降、自治体は総合戦略や人口ビジョンで設定したKPIを達成するためにさまざまな施策を行っている。

「人口が減っている自治体は移住者を増やすために頑張るのが当たり前」とも言わんばかりの現状に対する批判—日本全体の人口が減る中で人口減少社会に適した地域の在り方を模索せず人口至上主義でいることへの批判—は本記事ではしない。本記事で触れるのは、多くの移住を語る人が見逃しがちな問い「移住者とは誰か?」である。

まずはじめに「認識に基づく移住者」と「施策実施や統計的把握のための移住者」を区別する必要がある。誰が誰をみて移住者と思うかは、各地域の慣習やコミュニティの在り方、住民同士の関係性や共有されている情報量などによって異なる。つまり移住者の捉え方は1人1人違う、これが認識に基づく移住者である。

日常生活では困らないが、施策実施や統計的把握のためには「移住者とは誰か」を定義する必要がある。定義が無ければ正確に把握することはできずその施策や統計的把握に揺れが出る。「移住者」の定義は揺れがあるからこそ広く活用されている一方で、定義しなければ前に進めないケースも多い。

しかし地方移住の研究を行う筆者が多くの論文や書籍を読んでわかったことは「移住者の定義が定められぬまま話が進んでいく」ことがとても多いという現実である。そこで本記事では各種論文やレポート・書籍に掲載されている移住者の定義・もしくは移住者を定義しようとして断念した理由を列挙していく。

1つ1つにコメントはつけずあえて列挙するにとどめる。「移住者とは誰か」「移住者の定義」を知りたい人はぜひ活用していただきたい。本記事は適宜追記していく予定である。また本記事で扱う「移住者」は国境を超えた移住や都市移住者を除く、主に「地方への移住」をする者を指す。なお見出しは参考資料を兼ねる。

和歌山大学食農総合研究所, 2017,「和歌山県への移住者の実態と受入協議会の課題」食農総合研究所研究成果第1号.

「平成18 年度から平成27 年度までに和歌山県内の移住推進市町村へ移住した世帯を対象とした。」

小森聡, 2008,「農村地域への定住に係る移住者の意向と受入側の意識に関する研究」農林業問題研究, 170,6: 146-149.

「都市的地域からの移住者でUターンや婚姻によるものを除き, 農との関わりのない方や, 農村部の新興住宅の方を含む。」

大橋幸子ほか, 2011,「地方部への移住者の価値観の特徴に関する研究」土木学会論文集F4, 67: 47-56.

「地方部に魅力を感じ、より大規模な都市から自発的に移住した人。自発的な移住としては、その地域で職を得るための転居を含むものとしたが、会社からの転勤の命令等による転居は自発的でないとみなし含まないものとした。またその地域で職を得るということについては、今後、転勤による地域外への転居が想定されない場合とした。」

作野広和, 2016,「地方移住の広まりと地域対応」経済地理学年報62: 324-345.

「狭義の田園回帰を地方移住と称し、田園回帰と称した場合には広義の田園回帰の意味で用いることとする。地方移住といってもさまざまな定義が可能であろう。田園回帰を意図するならば、転勤や進学といった理由ではなく、意思や目的をもった主体的な地方圏への移住が該当すると思われる」

多田忠義, 2016,「移住促進政策の変遷と課題」農林金融5: 258-275.

「本稿で議論する移住は政策支援対象に焦点を当てるため,①国内かつ都道府県間移動,および②移住促進政策を利用した,もしくは進学,就職,一時的な転勤命令を除く自発的な意思を契機とする移動と限定する¹。なお,移住を厳密に定義すると,恒常的な住まいを移し,そこに定住し続けることとなるが,移住促進政策では定住場所を移動させることに力点が置かれているため,何年定住すれば移住したとみなすか,といった移住の厳密さは問わないこととする。」

(注1) 本稿では,阿部・小田切(2015),小田切ほか(2016)を参考に移住を定義した。①の条件は,国境を超える移住に比べ,移住の障壁(法的手続,言語,習慣など)が低いものの,同一市町村内や同一都道府県内に比べ,生活様式や人間関係を移住先に適合させる必要度が高まり,政策支援がより求められる移住と考えられるため設定した。また,②の条件は,企業立地・移転など,会社側の事情による従業員の半永久的な移住が強制される場合も含む。企業立地や移転を促進する取組みが,移住者の呼び込みと相互補完する関係にあるためである。

阿部亮介, 小田切徳美, 2015,「人口減少・地域再生に挑む(第1 回)地方移住の現状:毎日新聞・明治大学合同調査より」『ガバナンス』4: 103~105.

「県をまたいで転入した人のうち,移住相談窓口や空き家バンクなどの支援策を利用した人,または,一部の県で行われている住民票異動時の意識調査で「移住目的」とした人」

新見友紀子, 2016,「第5章人口減少対策としての移住・定住のあり方と地域おこし協力隊・田舎で働き隊等制度利用について」『農林水産政策研究所新たな価値プロジェクト研究資料第2号』農林水産政策研究所.

「移住者という定義はあいまいで,現状では調査ごとに異なるのが実態である。小田切らの調査では移住者数が増加している傾向が示されているが,これは行政が関与した移住者数であり,平成13年度までは沖縄県では移住相談窓口や意識調査をしていなかったため,移住者数がゼロとカウントされているなど,実態とは乖離している部分があり,行政が関与していない移住者数を含めた場合には,この数倍の人数となる。」

「また,移住と類似した言葉でUJIターン,あるいはこれから派生したOターン,Nターン,孫ターンなどという様々な転入のタイプがあることが示されているが,これらも転入者の一部であり,その量的把握は難しい。一方で,転入者の中には転勤や入学等に伴い一時的に転入してきている人や,近隣地域内での引越をしただけの人があり,これらは移住という言葉には当てはまらない。しかし,一部には転勤してきた場所を気に入りそのまま定住する場合や,卒業後も定住し続ける場合があり,どの時点を移住と呼ぶのかは難しい。また,結婚により配偶者のみが転入するケースもUJIターンに含まれる場合と,含められない場合がある。」

「さらに,移住あるいはUJIターンという言葉の趣旨を鑑みると,地方から他県の県庁所在地に就職したケースのような,人口規模の小さい地域から大きい地域への転入は,移住あるいはUJIターンには含めないことが望ましい。一方で地方における都市的地域は転入前に住んでいる地域の規模によって移住と呼ぶことの適否が分かれる。よって,移住あるいはUJIターンとは,当人の目的あるいは転入前と転入後の人口規模の大小等により分類されるが,その線引きは非常に難しいことが分かる。

ふるさと知事ネットワーク地方移住・交流促進プロジェクト, 2015,「移住者の定義及び把握方法等に関するアンケート結果」

移住者の定義についての各県の現状

  • 定めていない—3県
  • 移住施策等の活用や行政等支援を受けて、県外から転入した者—2県
  • 県外から新たな生活の場所を求めて、自らの意思で移り住んだ者—1県
  • 継続的に暮らす意志を持って県外から生活の拠点を移すこと(転勤、進学、新規学卒者等を除く)—6県

移住者の定義としては大きく下記の2つに分かれているが、全体としては①の考え方の県が多い。①県外から、新たな生活の場所として住み続ける意思をもって移り住む(又は生活の拠点を移す)者、②移住施策や行政支援などを受けて、県外から転入をした者。

長野県企画振興部 楽園信州・移住推進室, 2017, 「A-1 移住・交流推進事業」.質問と回答

Q
そもそもの「移住者」の定義は何か
A

長野県による回答:全国統一の明確な定義はなく、県によって異なっている。本県では、「長野県に愛着を持ち、一定期間居住する意思をもって転入してくる者」と定義している。なお、新卒でUターン就職をする学生は含ないものとしている。

Q
移住者の要件として、何年以上、お住まいになる意思があるか確認しているか。
A

市町村の転入窓口で配付するアンケート用紙には、概ね5年以上居住する意思があるかの項目を設け、判断している。

Q
「行政サポートによる移住者」の定義は、なにか。「サポート」は、具体的にはどこまでのサポートを指すのか
A

長野県による回答:県や市町村の相談窓口に直接相談した者や移住者を対象とする支援制度を利用した者など、行政の支援を活用して移住した者としている。行政サポートは県や市町村の相談窓口での直接相談や、移住者を対象とする支援制度の活用を指す。

熊本県, 2014, 「くまもと移住定住促進戦略」.

「この戦略での移住定住とは、県外住民が定住を目的として、生活拠点を移動させること」

最後に-「移住者」についてもっと知りたい方へ-

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この記事を書いた人

Masato ito

長野県出身、日本学術振興会特別研究員、武蔵野大学アントレプレナーシップ研究所客員研究員、一橋大学社会学研究科所属。専門は社会学、政策学。2017年・2021年に創設に関わった2つのまちづくり事業が長野県地域発元気づくり大賞を受賞。後者は同年公民館アワードも受賞。現在は地方移住やまちづくり、地域政策に関する研究を行う傍ら、関連する分野のコンサルティングやアドバイザー、講師講演執筆などを行っている。毎日新聞、AERA、Oggi、Abema Prime Newsなど寄稿出演多数。