地方自治体は移り住んできた人が8割!?-統計調査結果でみる地方移住/田舎暮らしの真実-

地方移住・田舎暮らしについて多くの記事が出回っていますが、意外と少ないのがデータ・統計に基づいた情報です。個人の実体験からしかみえてこないリアルがある一方、よりマクロな動向や傾向を知ることは「主観」ではわからない地方移住・田舎暮らしの真実を私たちに教えてくれます。

この記事では多くの人が誤解している地方移住・田舎暮らしの実態をデータ・統計・調査結果から明らかにしていきます。記事を読む前に「移住」という言葉の用法や歴史について知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

→移住とは?意味は?定義は?専門的な知見から移住を徹底解説
→日本における国内移住の歴史-地方から大都市への移住/大都市から地方への移住-

二地域居住の認知度は若者より年長者のほうが高い

8あなたは次にあげる暮らし方についてどの程度知っていますか。(SA)内閣府:東京都在住者の今後の暮らしに関する意向調査

新型コロナウイルスによりリモートワークやテレワークが拡がっていることにより注目度が高まっている二地域居住。「若者は二地域居住に興味があり年長者は二地域居住に興味がない/知らない」というイメージによる語りがSNSで散見されますが実際はどうなのでしょうか。

「東京都在住者の今後の暮らしに関する意向調査(2018年10月調査)」によると、性別×年齢層で二地域居住の認知度を調べたところ最も高いのは実は『男性60代(62.4%)』『女性60代(58.5%)』だとわかりました。逆に最も二地域居住の認知度が低いのは『若年女性10代~30代(25.7%)』となっており、60代男女と若年女性ではおよそ2倍認知度に開きがあります。

二地域居住ができるライフスタイル・ワークスタイルになったとしても、そもそも存在を認知できていなければ個人の選択肢にはなりえません。若年層が地方移住・田舎暮らしに興味関心を持ちやすくするためには、まず多様な移住パターンの認知度を上げることが重要であるとわかります。

IターンやJターンでみても最も認知度が高いのは『男性60代』で、認知度が低いのは若年女性10代~30代となっています。二地域居住についてもっと知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

→二地域居住とは?1年間実践してわかった二地域居住のメリットデメリット
→「二地域居住」と「二拠点生活」の違いはなにか

地方への移住イメージは「農村・自然豊か」に限らない

地方移住・田舎暮らしがメディアで取り上げられる際、多くの場合は田園や山間集落で古民家を借りて半自給自足のようなライフスタイルがフォーカスされがちです。しかし「東京都在住者の今後の暮らしに関する意向調査(2018年10月調査)」の結果は、そんな地方移住・田舎暮らしの印象とは少し異なるイメージをいだいている人が多いことが分かります。

最も地方への移住イメージとして多かったのは「自然豊かな環境でのんびりと老後を過ごす暮らし」2番目は「家庭菜園程度の野菜をつくる暮らし」3番目は「コンパクトな地方都市の中心地で、低コストで利便性のある暮らし」となっています。1番目2番目は典型的なメディアで取り上げられる地方移住・田舎暮らしイメージですが、3番目で地方都市の中心地での暮らしがあがっています。

「地方」という言葉は実態を見えにくくする日本独特のワードです。地方と一括りにしても「過疎地域」もあれば「県庁所在地」もあるように、その地域環境は全く異なります。

この調査結果からみえてくることは、同じ「地方移住・田舎暮らし」という言葉を使っていても、人によってイメージは異なり5人に1人は地方都市の中心地での利便性ある暮らしを描いているという事実です。地方自治体も移住希望者もイメージと実態のミスマッチが起こらないように注意したほうがいいと調査結果からわかります。

「地方」という言葉の罠

「地方」と一括りにしても人口30万人以上の「地方中枢拠点都市圏」は利便性を高める傾向にあり人口の横ばいを維持しているが、それ以外の「条件不利地域圏」は人口減少が進む社会基盤の衰退に対する危機感が強い傾向にある。どちらに住んでいるかで、同じ地方暮らしと言っても、その生活感覚や社会課題は大きく異なる。

「給与が下がっても幸せな生活ができるならOK」ダウンシフターは一部の層

地方移住する事になったとして、あなたの世帯年収の増加の希望範囲/減少の許容範囲をお教えください, 一般社団法人移住・交流推進機構:「若者の移住」調査

地方移住・田舎暮らしを若者の価値観と組み合わせて語る際によくあるのが「立身出世や経済的な豊かさではなく、心の豊かさをもとめて移住する人が増えている」という論です。これはアカデミックには近年「ライフスタイル移住」と呼ばれており、給与や経済的な豊かさが下がってもOKという生き方は広く「ダウンシフト」と呼ばれ始めています。

メディアで地方移住・田舎暮らしを取り上げる際は、その特徴的な生き方からよく注目されるため数も多く感じやすいですが、実際はメディアイメージとは少し異なります。

一般社団法人移住・交流推進機構が2017年1月に調査した「若者の移住」調査の結果によると、地方移住することになった場合に世帯年収の減少許容範囲は「現在と変化なし程度が好ましい」が39.2%、「現在と変化なし~10%程度の減少まで許容できる」が58.6%と半数以上が10%までの減少しか許容できないと答えています。

地方移住によって世帯年収の増加を希望する人も29.6%いることが分かっており、15%以上の減少を許容できる人はたったの11.8%しかいません。つまり半数以上の人ができる限り世帯年収は減らしたくないと考えており、約3人に1人は世帯年収増を望んでおり、15%以上の世帯年収減を許容できるダウンシフターは11.8%しかいないということが明らかになっています。

この結果から、ダウンシフター的価値観の人は一定数いるもののほとんどの人は経済的要素も重要であり可能であれば増収したいと考えていることがわかり「若者移住者=経済的豊かさより心の豊かさ」の公式は金銭的側面からみると必ずしも現状を正確に捉えられていないことがわかります。

年収とダウンシフトの関連

500万円未満の層では「10%程増加を希望」「20%以上増加を希望」といった収入増を希望する傾向が強い。500万円~700万円未満の層では「5%程減少まで許容できる」、700万円以上の層では「10%程減少まで許容できる」など減少を許容する回答が多かった。

地域によっては「ずっと地元在住」より多い「Uターン」「婚入」

地方というと閉鎖的で排他的な共同体として語られ多くの人が「地元で生まれずっと地元で育っている人が多いから、よそ者に不寛容なんだな」と思っています。地域規模にもよりますが、実は「地元出身在住が多い」というイメージは人口1万人後半以上の市町村では間違っています。

人口約18,000人の広島県北広島町で2006年に行われた調査結果は以下のようになりました。

  • Uターン33.6%
  • 婚入27.6%
  • 土着21%
  • 仕事転入9.2%
  • Iターン4.2%
  • Jターン0.5%
  • その他3.9%

この結果からわかることとして、現在移住者として括られることが多いUIJターン全て足すと人口のおよそ4割になること、ずっと地元で生きてきた土着層は全体の2割にとどまること、結婚を機に移り住んできた人がおよそ3割弱いることなどがあげられます。つまりずっと地元の土着層はたった2割で、人口のおよそ8割は移り住んできた人(移住者)で自治体が構成されているのです。

移住者が注目され始めたのがここ最近でそれまでは移り住む人が少なかったと思っている人は多くいるかもしれませんが、それは間違いです。地方自治体は戦後「移り住む人」の絶え間ない循環によって成り立ってきた歴史があるのです。

まとめ-地方移住・田舎暮らしは量的質的双方から捉えよう-

データの分析方法や解釈にもさまざまなパターンがあるためここで提示したことが絶対ではありませんが、統計調査結果を用いることで感覚的にはみえない地方移住・田舎暮らしのリアルがみえてきました。自治体職員、移住希望者など移住に興味関心のある皆さんはぜひ「量的」なものと「質的」なものの両方から捉えることを心がけてみてください。

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参考資料

  • 一般社団法人移住・交流推進機構,「若者の移住」調査.
  • 轡田竜三, 2017, 『地方暮らしの幸福と若者』勁草書房.
  • 徳野貞雄, 2015, 『暮らしの視点からの地方再生』九州大学出版会.
  • 内閣府, 2018, 東京都在住者の今後の暮らしに関する意向調査.

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この記事を書いた人

Masato ito

1996年長野県生まれ。大学在学中に自身が代表を務める事業が長野県地域発元気づくり大賞を受賞。現在は一橋大学社会学研究科にて国内移住に関する研究を行いながら、KAYAKURA代表として長野県を主なフィールドに観光インバウンド・移住・まちづくりのコーディネート・プランニング・調査・PRを多数手がける。2019年からは都内の企業と地方の企業や自治体をつなぐ新たな取り組みも開始。訪日観光客向け観光情報発信サイトNAGANO TRIP運営。池田町第六次総合計画審議委員。週刊SPAや公益社団法人 日本観光振興協会発行『観光とまちづくり』など寄稿多数。2019年4月から東京都国立市と長野県池田町の2拠点居住実践中.