大企業による地方移住支援制度の拡充は、移住者増加につながるのか

大企業 地方移住促進

地方移住の最大の壁と言われてきた「仕事」の問題が、これで解決へと向かうのか。近年、大企業が社員の地方移住を後押しする仕組みづくりが増えている。

2022年1月13日、ANAホールディングスがパイロットを除く正社員約3万8千人を対象に、グループ内の転籍を通じて地方移住を認める「ワークプレイス選択制度」を2022年度中に導入すると発表した。

NTT(持株会社)は2021年9月28日に、リモートワークを基本とした勤務形態を、国内で働く全グループ社員を対象に2022年度中に導入すると発表した。

大企業が社員の地方移住を促進し始めた背景には、新型コロナウイルス流行の影響やワークライフバランスの改善など複合的な要因がある。では一体、2022年1月現在、どのような企業がどのような取り組みを行っているのだろうか。そしてその効果と影響はどのように予測できるのだろうか。

本記事ではまず初めに近年発表された大企業による移住を促進する仕組みをいくつか紹介する。つづいてこれまで実施されてきた地方移住に関する調査結果から「地方移住×仕事」をめぐり課題視されてきた状況について触れる。最後に大企業によるこれらの取組が一体、どのような効果と影響を与えると予測できるか論じてみたい。

EYジャパングループ|EYフレリモ移住プログラム

2021年2月、EY新日本監査法人などのは従業員の地方移住を支援する「EYフレリモ移住プログラム」を行い始めた。

この制度は都心の部署に所属したままテレワークによる遠隔勤務を認めるもの。QOL(生活の質)の改善や仕事と育児・介護の両立につなげる。新型コロナウイルス禍による在宅勤務の定着で、地方移住を求める従業員が増えていることに対応するとしている。

実はEYジャパングループは経営戦略の一環として2020年秋から試験的にこの制度を実施してきた。多様な働き方を支援することで従業員の満足度を高め、顧客企業や市場・社会全体への提供価値を総合的に高めるのが狙いであるが、一定の成果がみられたことで制度化したと考えられる。

2021年8月時点では約30人の従業員が同プログラムの認定を受け、移住先で業務に従事しているようだ。

ヤフー株式会社|どこでもオフィス

ヤフー株式会社(以下、Yahoo! JAPAN)は2022年1月12日、国内の従業員約8千人に対する居住地の制限を原則撤廃し、4月1日から国内ならどこでも可能にすると発表した。これにより社員は拠点のない地方や離島にも住めるようになる。

これまでは午前11時までに出社できる距離という条件があったが、コロナ禍でリモートワークへの対応を強化し出社しなくても支障のない業務が増えたため今回のような制度変更に至った。

Yahoo! Japanは働く場所については、実はすでに自宅も含めて国内ならどこでも可能としており、従業員の約9割がリモートワークをしている。しかし、緊急時の出社などを想定して居住地の条件は残していた。

なお個人情報など機密性の高い情報を扱う従業員は、出社を前提とした業務が残るため引き続き居住地を制限するとのこと。IT業界ではメルカリも2021年9月に居住地制限を撤廃している。

NTTグループ|職住近接によるワークインライフの推進

NTTグループは2021年9月28日、リモートワークを基本とした勤務形態を、国内で働く全グループ社員を対象に2022年度中に導入すると発表した。

自宅からオフィスが遠くてもリモートで働けるため、転勤や単身赴任は不要になる。また併せてサテライトオフィスを全国260カ所以上整備することも発表した。

これは同日に発表した、コロナ禍後を見据えた経営改革の一貫。「一極集中型組織」から自律分散した「ネットワーク型組織」に変革することを目的としている。対象はグループ約32万人のうち国内で働く社員。クラウドベース/ゼロトラストシステムの整備、社内制度の変革、既に約60カ所ほどあるサテライトオフィスの増設などで、リモートワークしやすくするという。

また2022年23年度以降に、本社や管理部門を含む組織を、首都圏から地域(中核都市)に分散する計画や、社員が自宅や外出先も社内と同じように働けるよう、業務に必要なPCや機器などを整備していくことも発表した。

ANAホールディングス|ワークプレイス選択制度

ANAホールディングスがパイロットを除く正社員約3万8千人を対象に、グループ内の転籍を通じて地方への移住を認める「ワークプレイス選択制度」を2022年度中に導入することを2022年1月13日に発表した。

賃金は転籍先に合わせて下がるケースもあるが、配偶者の転勤や親の介護などに対応して働きやすい選択肢を提示。新型コロナウイルス禍の業績悪化に伴う人材流出に歯止めをかけることが目的である。

地方移住の最大の壁は「仕事」

ここまで大企業による地方移住促進制度の広まりについてみてきた。ここで紹介した以外にも本社機能を移転したパソナグループなど事例は多々ある。

では一体、大企業による地方移住促進制度の整備は、地方移住現象にどのような影響を与えるだろうか。

最も大きな影響があると予測されるのが「移住希望者の仕事をめぐる壁を低くする」という効果だ。以下では過去に実施された移住関連調査からその実態を確認してみたい。

2017年に一般社団法人移住・交流推進機構(JOIN)が実施した「若者の移住」調査の結果によれば、移住希望者の地方移住を妨げている大きな要因として「仕事関連」が48.4%と最も高かった。

そのうち最も多かった仕事関連の回答が「移住先では求める給料水準にない」、ついで「現在の仕事のやりがいが高い」「移住先では専門性を活かせない」であった。

この結果は現在でも大都市圏と地方部で存在する仕事の種類や給料に大きな差があることを示しているが、裏を返せば大都市圏での仕事がそのままできればこれらの壁が解消されるともいえる。

NPOふるさと回帰支援センターが2016年に実施した調査結果でも、「就労の場があること」が移住地選択の条件として初めて第1位になった。また希望する就労形態は、農業や自営業等を押さえて63.4%と圧倒的な高さで「就労(企業等)」が多かった。

この結果から①団塊の世代等から若者世代に移住の中心が移ったことで就労条件の重要度が高まった ②不確定なリスクが多い世の中で、地方移住はしたいけど安定した生活をしたい人が多いことが読み取れる。

今日の地方移住をめぐる課題として「仕事/就労」が最も大きな課題になっており、「仕事/就労」を重視する割合は高まっている。しかし地方での就労の場を大幅に増やすことは厳しいため、大都市圏の企業の出方がこの状況に大きな影響を与えると考えられるのである。

最後に-大企業の地方移住促進制度の拡充は移住者を増やすのか-

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最後に大企業による地方移住促進制度の拡充は移住者増加につながるのか考えてみたい。

2015年の地方創生開始以降、自治体による移住定住促進政策は過度なまでの広がりを見せている。こうした政策的な移住促進により世間の注目は高まり、移住相談者数や施策の利用者数は増えている自治体は多くある。

しかし地方創生の本質的な目的であった東京一極集中を是正するような状況には、残念ながら至っていない。一時的に新型コロナウイルスの影響で東京都への人口集中は僅かに鈍化しているが、今後、元の状態に戻ることは否定できない。

つまり、政策的にやれるだけのことはやっているのが現状なのである。そのため、さらに地方移住者を増やすとするならば、民間企業による取り組みが欠かせないだろう。

特に仕事を移住への壁と感じている人が多い状況を踏まえると、大企業による地方移住促進制度は他企業への効果の波及も期待でき、一定数の移住者増加に効果はあるかもしれない。

一方、過去の傾向をみると労働環境が改善されても地方移住者は増えない側面もある。詳細は以下の記事で説明しているが、筆者が過去40年間の地方移住に関する新聞記事を分析した結果、40年前も、30年前も、現在も「仕事の壁がなくなれば地方移住したい」人の割合はほとんど変わらないことが明らかになっている。

この40年間、働き方も経済状況も大きく変化し多様化してきた。インターネットの登場、テレワークやリモートワークの実現、IT産業の活発化、40年前と比較したら地方でも働けそうな仕事や働き方は山ほど増えているようにみえる。

しかし、実際のところはいまも昔も同じくおよそ2人に1人は「仕事さえどうにかなれば…」と地方移住に関して思っているのである。そして思っているだけで行動しない/行動できない人がその大半なのも、いつの時代も変わらないのである。

新型コロナウイルス感染拡大と人材確保難等により、大企業が地方移住促進制度を行い始めている。一体今回はどのような影響を地方移住現象に与えられるのだろうか。今後の動向に注目していきたい。

参考資料
EYジャパン、従業員の地方移住で新制度
移住は、新しい働き方と生き方を生み出せるか?─EY Japanの「移住プログラム」を探る
全国どこでも居住OK ヤフー従業員、離島でも勤務できるように
ヤフー、通勤手段の制限を緩和し、居住地を全国に拡大できるなど、 社員一人ひとりのニーズにあわせて働く場所や環境を選択できる 人事制度「どこでもオフィス」を拡充
NTTがテレワークを本格導入へ!新たな経営スタイルによる今後の方針とは?
NTTグループ、リモートワーク基本に 転勤・単身赴任も撤廃 22年度中
ANA、正社員の地方移住可能に 22年度中、3万8千人対象
・「若者の移住」調査

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最後に、効率よく学ぶために本を電子版で読むこともオススメします。

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この記事を書いた人

Masato ito

長野県生まれ。専門は社会学/政策学。2017年, 2021年に自身が立ち上げたまちづくり事業が長野県地域発元気づくり大賞を受賞。一橋大学社会学研究科にて移住や地方農村に関する研究を行う傍ら、観光インバウンド・移住・まちづくりのコンサルティング・調査・PRを多数手がける。訪日観光客向け観光情報発信サイトNAGANO TRIP運営。週刊SPAやAERA, Oggi, Abema Prime Newsなど寄稿出演多数。現在は東京都国立市と長野県の2地域生活中。