MaaSは地方自治体の課題を解決するのか-地方創生の切り札MaaSの先進事例と課題-

2017年以降日本でもたびたび目にするようなった新しい移動概念「MaaS」。モノ消費時代からコト消費時代の移動へと世の中が変化するなかで注目度を高めています。MaaSは新たなビジネスチャンスであるとともに、私たちの住みやすさを大幅に向上させる可能性を秘めています。地方自治体の地域課題を解決するためにMaaSを実践する先進的な地方自治体・企業の事例と課題をみていきましょう。

MaaSとは?MaaSと地方自治体の関連とは

MaaSとは「モビリティ・アズ・ア・サービス」を略した言葉です。定義は日々拡大しており定まったものはありませんが、国土交通省の『令和元年版交通政策白書』には「MaaSとは出発地から目的地まで利用者にとっての最適経路を提示するとともに、複数の交通手段やその他のサービスを含め、一括して提供するサービス」と書かれています。

2014年にフィンランド政府が新しい交通システムを構築する目的でスタートしたMssSですが、半導体大手インテルの予測では2035年に市場規模は約90兆円になると言われておりその規模は拡大の一途を辿っています。

多くの企業がMaaSに参入する一方、地方自治体もMaaSに熱い視線を送っています。なぜならMaaSが本格的に実現すると、高齢化が進む過疎地での交通弱者対策や財政的に厳しい公共交通路線のアップデートなどが可能となり、これまで頭を悩ませてきた多くの地域課題が解決できるからです。

MaaSの「基本のキ」を詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

地方版MaaSについて深堀り

MaaSは大きく3つに類型できます。「都市版」「地方版」「観光型」この3つです。このうち地方自治体に特に深くかかわるのが「地方版MaaS」。現代の日本はある程度全国に交通インフラが行きわたったことで、地方山間部を中心に鉄道やバス路線の廃止が目立つようになってきました。理由はモータリゼーションといわれる車社会化、郊外化、そして人口減少とそれにともなう税収減です。

地方の公共交通が行きわたらなくなった場所でもマイカーを持っていればとても快適な場所は多いです。しかし少子高齢化時代にマイカー所有率は減少し車が運転できない社会的弱者にって地方はとても生きにくい場所になりつつあります。結果、都市一極集中が加速してしまうのです。

この負の連鎖を断ち切るのが地方版MaaS。鉄道やバスなどを軸に、シェアサイクリング、デマンドバスやタクシーなどを効率的かつ利用しやすい形で提供することで新たな需要を喚起し、利用者減に歯止めをかけながらコスト削減に努めることで事業を継続していくことができるのです。つまり地方版MaaSは地域の課題を解決する最後の望みと言っても過言ではありません。

事業者連携による「わかりやすさ向上」MaaSの実践 八戸市

八戸市は市が策定した公共交通再生プランなどに基づいて事業者間の連携が飛躍的に進んだ地方自治体MaaSの成功例です。八戸市のバスはこれまで多くの自治体同様に複数の事業者がそれぞれ系統・ダイヤを策定し運行しており、その数は平日合計228便もありました。これを市が先頭に立って2008年に2事業者画系統、10分間隔のダイヤに調整した結果、平日は182便となり効率的な運営が実現したのです。

八戸市は派手ではないもののMaaS実現のために効果的な調整を多数行いました。下記に列挙したのはその一部です。

  • 中心街でバス事業者がそれぞれ独自に設置していたバス停を2010年に5か所に再編
  • バス停の名称も変更し分かりやすいナンバリングに変更
  • バスルートにカラーを設定し視覚的にも分かりやすく変更
  • 市が3事業者の路線図をまとめた「バスマップはちのへ」を作成し2009年から配布

MaaSというと未来都市やダイナミックな交通改革が注目されがちですが、派手な最新技術を取り入れたものだけがMaaSではありません。限られた財源で利便性を向上させるためには「ちょっとした工夫」「わかりやすさ」と「事業者間連携の推進」が重要であることを八戸市の事例は示しており、多くの地方自治体は八戸モデルから手を付けていくことが大切か漏れません。

京都市京丹後市の事例

高速バス大手WILLERや京都府などが参画している京都丹後鉄道沿線地域MaaS推進協議会が、2019年から始めた京都丹後鉄道沿線エリアで鉄道を主とした地方郊外型MaaSの取り組みは画期的です。京都丹後鉄道沿線地域は、エリア内に交通が行き届かない地域が多いこと、移動に関する情報不足、高齢者の孤立な多くの交通に関係する課題を抱えていました。そこで、2020年2月10日~3月31日まで実証実験を実施。実証実験では独自のMaaSアプリを利用し生活者は、

  • チケットを事前に買わなくても乗降時にQRコードを端末にかざすだけで移動区間運賃を即時決済
  • 事前に買ったチケットなどの商品を、利用するときにQRコードを端末にかざすことで購入情報が認証され利用可能

にしました。1つ目の区間運賃に対応したQRコードによる即時決済サービスはなんと日本初。

京都丹後鉄道沿線地域MaaS推進協議会によるMaaSの特徴は、指定された鉄道・バス・海上交通が全てスマホ1つで即時決済可能になること。スマートフォンが普及したことで実現可能になったMaaSですが、もう1つの壁は事業者間の連携です。

MaaSによるシームレスな移動を実現するためには、事業者が個々の利益を将来的に増大するために連携することが求められます。MaaS成功のカギはここにあるといっても過言ではありません。SDGs 17の目標でも掲げられている「パートナーシップの形成」が2020年代の鍵となりそうです。MaaSとも密接に関わる概念SDGsについて知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

MaaS「拠点」と「移動」のシームレス化-ADDress×ANAの事例

月額制で全国の家に自由に住める多拠点ライフプラットフォーム「ADDress(アドレス)」を展開する株式会社アドレスは、2020年1月16日に、ANAホールディングス株式会社と連携し、航空券定額制サービスの実証実験を開始することを表明しました。これは「拠点」と「移動」のシームレス化というMaaSの新しい形態です。

登録拠点であればどこでも住み放題になるサブスクリプション型の多拠点居住サービスADDressは、空き家問題の解決、関係人口の推進や多拠点居住の推進など地域課題を解決するサービスとして注目されています。ADDressのように社会課題を解決しつつ生活の質を高める事業は、今後増えていくことが予想されるので要チェックです。

実証実験ではADDressの年間・半年会員が月額3万円の追加料金を支払うことで、ANA国内線の指定便を月に2往復できるサービスを提供。複数の拠点を転々とするアドレスホッパーなライフスタイル×新しい移動サービスMaaSを組み合わせたサービスを実現しました。

実証実験からみえてくるのは、MaaSが拡大することで移動だけでなく「住まい」「家庭」「仕事」などこれまでの当たり前の生活が変化する可能性です。MaaSによる当たり前の生活の変化は、都市一極集中の壁を打開し地方自治体に新たな可能性をもたらすかもしれません。そしてそれはWithコロナ時代のニューノーマルで描かれる未来像とも重なります。

日本版MaaSが地方地域で促進するための課題と解決策

日本版MaaSは始まったばかりですが、一貫性のブームで終わることなく継続的に拡大し地方自治体にプラスな影響を与えていくためには、いくつもの課題を乗り越える必要があります。

いま日本で最も欠けているのは官民を超えた事業者間の連携です。利用者の利便性向上という長期的な最大目標を達成するためには、パートナーシップを形成して複数事業者で利益をあげていくことを目指す必要があります。つまり短期的な目先の利益にとらわれないことが重要です。

地方自治体がMaaSのプラスな影響を生み出すためのポイントとなるのは「首長のリーダーシップ」です。パートナーシップの先頭に立てる人材の有無が地方自治体のMaaS実現スピードを決定するといっても過言ではありません。

首長のリーダーシップに欠ける場合は、日本版観光DMOのような住民、有識者や事業者が参加した組織を形成したうえで今後の展開を考えていくのも1つの手です。地方自治体の地域課題解決にMaaSがどの程度貢献するのかは各自治体の姿勢次第といえるでしょう。

KAYAKURAではMaaSに関する講座や勉強会の講師・WSのファシリテーション、MaaSと関連した地域活性化・地方創生・観光インバウンド・移住関連事業のサポート/コーディネートを行っております。お困りの方はお問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。

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KAYAKURAは「新しい地域と観光を考える」をコンセプトに、地域と地域にまつわる言葉や動向を深く考える地域考察メディアです。

この記事を書いた人

Masato ito

1996年長野県生まれ。大学在学中に自身が代表を務める事業が長野県地域発元気づくり大賞を受賞。現在は一橋大学社会学研究科にて国内移住に関する研究を行いながら、KAYAKURA代表として長野県を主なフィールドに観光インバウンド・移住・まちづくりのコーディネート・プランニング・調査・PRを多数手がける。2019年からは都内の企業と地方の企業や自治体をつなぐ新たな取り組みも開始。訪日観光客向け観光情報発信サイトNAGANO TRIP運営。池田町第六次総合計画審議委員。週刊SPAや公益社団法人 日本観光振興協会発行『観光とまちづくり』など寄稿多数。2019年4月から東京都国立市と長野県池田町の2拠点居住実践中.