【廃校活用事例】長野県飯綱町 いいづなコネクトWEST&EASTに学ぶ廃校の未来

少子化に伴い全国で増え続ける廃校が問題となっている。文部科学省が2018年に公表した「廃校施設等活用状況実態調査」によれば、2002年度から2017年度に発生した廃校の数は全国で7,583校にのぼり、うち2016年度には406校、2017年度には358校が廃校となっている。

廃校のうち施設が現存しているのは6,580校だが、そのうち74.5%の4,905校は社会体育施設、社会教育施設、企業や法人等の施設、体験交流施設などとして活用されている。しかし今後子ども世代だけでなく全世代の人口が減少していけば、いまは活用されている廃校も活用されない状態になることが予想される。

「廃校をいかに活用するか」この課題に対する取り組みとして長野県飯綱町に新たな廃校を活用した拠点が2020年7月にオープンした。「いいづなコネクト」は2つの廃校を活用しそれぞれ「WEST」と「EAST」と名付けている。コンセプトは「食・農・しごと創りの拠点」「自然・スポーツ・健康の拠点」である。

いいづなコネクトWESTとは?「自然・スポーツ・健康の拠点」

廃校を活用した施設の入り口では地元の中学生が談笑していた

いいづなコネクトWEST(旧牟礼西小学校)は、飯綱町の魅力である自然の中での豊かな暮らしや観光資源を最大の要素と位置づけ、 自然・スポーツ・健康をテーマに様々な体験事業を展開し情報発信していくことで、 町への観光誘客や交流・関係人口増加につなげていくことを進めていくことを目的とした施設である。

特徴的なランドリー施設

「自然・スポーツ・健康の拠点」をコンセプトに、コミュニティラウンジ・セミナー室・キッチン・食堂・ランドリー・児童クラブ・地域集会室・全面人工芝サッカーグラウンド・体育館を備えている。全施設使用料金を払えばだれでも使用できるため、都内の企業や大学生などにも開かれている。

使いやすくおしゃれなランドリーは地元住民にとっても飯綱町に来た観光客にとってもありがたい施設。待っている間はコミュニティラウンジで本を読んだり、とちのき食堂でくつろぐこともできる。「いかにお金を落としてもらい経済的な持続可能性をつくっていくか」へのさまざまな工夫が感じられる。

解放感抜群の大きな窓が特徴的な食堂。ランチにはラーメン、午後はコーヒーやジュースなどを提供しており、夜にはお酒を楽しむこともできる。筆者が取材に訪れたのは平日午後だったが、夏休み中ということもあり家族連れや小中学生が多い印象だった。家でも学校でもない、自分の時間が過ごせる居場所=サードプレイスとして訪れている人それぞれが自分の時間を過ごしていた。

コロナ禍はテイクアウトにも対応。筆者は飯綱町のりんごジュースを注文(240円)。高すぎずでも安すぎない価格設定は、地元の人にも外部の人にも活用してもらうのにちょうどよい印象。こういったちょっとした部分から「誰のための施設か」「どんな人たちが関わってつくった施設か」がわかる。

とちのき食堂に併設されたコミュニティラウンジには小学生の男の子が数人集まっていた。昨今、それぞれの自宅にお邪魔して遊ぶのが難しくなり、かといって手軽に集まれる場所がない中で無料で集えるコミュニティラウンジは子どもにとって最高の居場所になるだろう。子どもだけでなく大人も数多く行き来する施設なので、安全性も担保されている。

いいづなコネクトEASTとは?「食・農・しごと創りの拠点」

いいづなコネクトEAST(旧三水第二小学校)は、近隣地域や都市圏との交流を促進するため、 プロフェッショナル人材の地方還流、「しごと創り」を促すような学びのプログラムなどと共に、 地域内外の幅広い人々と自由に交流・創発が起こるような拠点を整備することで、 企業や雇用を地方へと促すことを進めていくことを目的とした施設である。

いいづなコネクトEASTのコンセプトは「食・農・しごと創りの拠点」。入ってすぐの壁面には長野県の方言「ずく出して、いこう(面倒なことでも頑張ってみる)」が描かれている。1Fは食のコリドーとして、カフェやシードル工場、コミュニティラウンジなど、誰もが気軽に楽しめる食と交流がテーマのエリアとなっている。2Fはしごとづくりをテーマに、こどもから大人までが仕事について学ぶプログラム「いいづなフューチャースクール」のチャレンジラボやワークラボなどがある。

林檎学校醸造所は、日本初の廃校を活用したシードル醸造所。廃校の職員室を活用した醸造所では手作りのリンゴ酒「クラフト・シードル」をつくっている。本事業は信州ベンチャーコンテスト2018グランプリ&オーディエンス賞、第5回全国創業スクール選手権経済産業大臣賞を受賞しており、全国から熱いまなざしを集めている。

泉が丘喫茶室では町の特産りんごをテーマとした自家製スイーツやカフェランチを提供している。各スペースごとに中に入ると全く異なる雰囲気を纏っているため、廊下を歩いていてワクワクする。

いいづなコネクトEASTはしごと創りをコンセプトに掲げているため、現在いくつかのスペースで入居者を募集している。なお2Fにはすでにシステム開発体制とデジタル人財の強化を目的とした凸版印刷(株)のサテライトオフィスが入居している。地方環境を活用した地域の雇用創出や多様な働き方を推進しており、地方自治体と企業の新しい連携のカタチが生まれることが期待されている。

最後に-いいづなコネクトが描く廃校活用の未来-

いいづなコネクトの取組はまだ始まったばかりのため、これからのさまざまな活動が楽しみである。しかし始まったばかりの現時点で、すでにいくつか廃校活用の先進事例として学べるところがある。

第一に2つの廃校を組み合わせて1つのプロジェクトとして展開させている点である。今後、ある程度の面積がある地方自治体では2つ以上の廃校が数年の間に生まれる可能性がある。その際に課題になるのがパワーバランスや地域発展のバランスを踏まえての新しい取り組みの難しさである。いいづなコネクトのように2つの取組を同時に展開していくことで自治体内のさまざまな地域からアクセスしやすい施設がつくることができ、より多くの地域住民を巻き込んだ取り組みが展開できる。

第二にスタート時点から企業と連携している点である。飯綱町では2016年度から「しごとの創業・交流拠点整備事業」を推進し、凸版印刷は企画から運営まで業務を担っていた。また長野県では、2019年9月にSociety5.0時代を共創するIT人材・IT産業の集積地「信州」を目指す「信州ITバレー構想」を策定。IT人材・IT企業集積や産官学連携のITビジネス創出を促しすべての産業のDX推進を目的とするプロジェクトに取り組んでいる。

これらの背景をもとに凸版印刷という大手企業とスタート時点から連携できたことは、経済的なサスティナビリティの確保につながっている。また地域の若者がいいづなコネクトを拠点に凸版印刷の社員らと交流することは、多様な将来の在り方に触れるキッカケにもなるだろう。

いいづなコネクトWEST&EASTが今後、どんなアクターをコネクトし新たな化学反応を起こしていくのか、取り組みから目が離せない。

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この記事を書いた人

Masato ito

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター研究員/講師。長野県出身。博士(社会学)。一橋大学大学院社会学研究科、日本学術振興会特別研究員を経て2024年より現職。専門は地域社会学・地域政策学。研究分野は、地方移住・移住定住政策研究、地方農山村のまちづくり研究、観光交流や関係人口など人の移動と地域に関する研究。立命館大学衣笠総合研究機構客員研究員。武蔵野大学アントレプレナーシップ研究所客員研究員。日本テレビDaydayやAbema Prime News、毎日新聞をはじめ、メディアにも多数出演・掲載。