「二地域居住」はどこへ向かうのか?:二地域居住促進制度・改正広域的地域活性化法のポイントと課題

2024年5月15日の参院本会議にて、複数の生活拠点を有するライフスタイル「二地域居住」を促進する旨が盛り込まれた改正広域的地域活性化基盤整備法が成立しました。

地域研究を専門とする国際大学グローバル・コミュニケーション・センター講師で社会学者の伊藤将人が、二地域居住促進制度・改正広域的地域活性化法のポイントや論点、課題を解説します。

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二地域居住とは何か?

はじめに、「二地域居住とは何か?」を押さえておく必要があります。

「二地域居住」概念は、国土交通省と関連する研究会・委員会の間で2000年代半ばから用いられるようになりました。当初、国土交通省は「半定住」という言葉を使っていましたが、国土交通省・農林水産省が2004年に実施した「半定住人口による多自然居住地域支援の可能性に関する調査」あたりから、「二地域居住」という概念が使われるようになりました。

2005年の二地域居住人口研究会の報告以降、同省が定期的に行ってきたアンケート調査や有識者を交えた議論を確認すると、「二地域居住」概念の定義は大きく変化してきたことがわかります1

当初、二地域居住人口研究会2は、二地域居住を「農山漁村等の同一地域において、中長期(1~3 カ月程度)、定期的・反復的に滞在」し、「地域社会と一定の関係を持ちつつ、都市の住居に加えた生活拠点を持つこと」」と定義しました。しかし、近年の政策文書では「都市と地方部に2つの拠点をもち、定期的に地方部でのんびり過ごしたり仕事をしたりする新しいライフスタイルの1つ」と説明されるようになっています3

国土交通省は長年にわたって二地域居住を促進してきたこと、しかし成果はなかなか上がらず定着してこなかったため、定義を変えたりしながら、国民に馴染んでもらえるものを目指してきたことがわかります。そのため、今回の法改正は国土交通省にとって約20年越しの悲願とも言えるかもしれません。

なお、類似する概念として「二拠点生活」もありますが、両者は出自や含意が異なります。両概念の違いについては、下記の別記事をご覧ください。

【解説】「二地域居住」と「二拠点生活」の違いはなにか

改正広域的地域活性化法における二地域居住促進の背景

5月15日に閣議決定された「広域的地域活性化のための基盤整備に関する法律の一部を改正する法律案」は、二地域居住の促進を通じて、地方への人の流れを創出・拡大することを目的とするものです。

法改正の背景には、「地方農山村において加速する人口減少や少子高齢化、それに伴う居住者の生活環境の持続不可能性の高まりがある」としています。持続不可能性が高まる地域を活性化するためには、「地方への人の流れの創出・拡大が喫緊の課題!」という論理の下、今回の法改正に至りました。

コロナ禍の影響も小さくありません。感染症の感染拡大を経て、国はUIJターンを含む若者・子育て世帯を中心に二地域居住に対するニーズが高まっていると現状を捉え、「二地域居住は移住や関係人口を創出拡大し、魅力的な地域づくりに資する」といった説明をしています。

今回の法案が、国土交通省からというのもポイントです。国土交通省による二地域居住促進の背景には、社会が縮小する中で、いかにして国土の均衡ある発展を目指すか、いかに国土の偏った人口配置を是正するかといった、持続可能な国土形成と結びついた目的意識・課題意識があります4

従来であれば企業を誘致して人も誘致してという形で移動が生じてきましたが、昨今は多くの地域でそうしたアプローチは難しい状況です。さらに、東京圏一極集中も進んでおる是正が強く求められています。その結果、二地域居住や移住定住、関係人口など直接的に人の移動や還流を促す政策が取られるようになっているのです。

改正広域的地域活性化法における二地域居住促進の概要

今回の法改正では、二地域居住促進と関連して大きく3つのポイントが示されています(2024.5.16時点)5

二地域居住促進のための市町村計画制度の創設

1つ目のポイントは、二地域居住促進のための市町村計画制度の創設です。ここまで二地域居住という言葉を使ってきましたが、法律上は「特定居住」と呼ばれる点に注意が必要です。

今回、都道府県が二地域居住に関する内容に含む「広域的地域活性化基盤整備計画」を作成したとき、市町村は二地域居住の促進に関する「特定居住促進計画」が作成可能となりました6

「特定居住促進計画」を策定するメリットは、計画で定められた事業の実施等について法律上の特例措置が受けられる点にあります。つまり、二地域居住者の住まいや職場環境を整える際に、国の支援が受けやすくなります。計画に記載があれば、住居しか建てられないエリアでも、特例で共同のワークスペースや交流カフェなどを整備できるようにもなります。

具体的な取り組みとしては、空き家の活用支援(お試し居住、シェアハウスなど)、オンデマンド交通等による生活環境の向上、コワーキングスペース等の整備、地域での就業支援、交流施設の整備等による地域交流の場の創出などが新たな取り組み・仕組みとして想定されています。

二地域居住者に「住まい」・「なりわい」・「コミュニティ」を提供する活動に取り組む法人の指定制度の創設

2つ目のポイントは、二地域居住者に対して、住居、仕事、地域とのつながりを提供する活動に取り組む法人の指定制度の創設です。ここでは、二地域居住促進に関する活動を行うNPО法人や民間企業(不動産会社等)などが想定されています

法改正により、市町村長は、支援法人に対して、空き家等の情報、仕事情報、イベント情報などの関連情報を情報提供することが可能となりました7。また、支援法人は市町村長に対して「特定居住促進計画」の作成・変更の提案が可能となりました。

二地域居住促進のための協議会制度の創設

3つ目のポイントは、二地域居住促進のための協議会制度の創設が可能になった点です。

法改正により、市町村は、「特定居住促進計画」の作成等に関し協議を行うため、市町村、都道府県、特定居住支援法人、地域住民等を構成員とする「特定居住促進協議会」を組織可能になりました。

協議会制度では、地域住民等を構成員にすることも可能です。計画を策定する市町村は、二地域居住促進の実践者や、二地域居住経験を有する住民、受け入れ拠点となる施設を運営する事業者などを構成員に含め、地域の声を反映させることが重要となるでしょう。

移住定住促進や関係人口促進でも指摘されるように、新たな交流の増加は、従来とは異なるコンフリクトや摩擦を生じさせることもあります8。政策的に促進する以上、そこで生じる問題の責任は大なり小なり自治体にも生じます。ミスマッチングの防止、マッチング後の良好な関係性の構築に向けた支援体制が求められます。

都道府県-市町村間の連携とボトムアップを重視

上記から見えてくるのは、「都道府県と市町村の連携を重視」していること、「二地域居住促進や支援に取り組む団体からのボトムアップを重視」していることです。

前者については、都道府県の役割として、「広域的地域活性化基盤整備計画」において、来訪者を増加させるインフラの整備事業等、二地域居住に係る拠点施設、その整備を特に促進すべき重点地区の指定などが盛り込まれ実施されることが想定されています9

市町村の役割としては、新設される「特定居住促進計画」にて、特定居住促進計画の区域、二地域居住に関する基本的な方針(地域の方針、求める二地域居住者像等)、二地域居住に係る拠点施設の整備、二地域居住者の利便性向上、就業機会創出に資する施設の整備が盛り込まれ実施されることが想定されています10

都道府県と市町村の連携は、特定の市町村内に留まり生活や仕事を行うわけではない二地域居住者を支援する際にとても重要になります。そのため、広域連携の視点を常に意識することが重要です。

また、拠点施設の整備や重点地区の指定をめぐる市町村間競争や市町村内での地域間競争、持続可能性が伴わないハード拠点の整備、二地域居住者の地域サービス享受をめぐるフリーライドに関する懸念と地域住民との摩擦といった課題も考えられます。この点は、移住定住促進や関係人口促進、テレワーク拠点整備といった従来の取り組みの反省を多分に活かすことが求められます。

後者については、都道府県が担う「二地域居住に係る事項を内容に含む広域的地域活性化基盤整備計画」に対し、市町村は作成や提案が可能であり、市町村が担い「特定居住促進計画」に対し、支援法人は作成や変更の提案が可能です。

計画をつくり、お金をつけて、成功事例を横展開するというスキームは近年の地域政策の鉄板であり、計画ありきの施策が増える、金太郎飴状態になる、ブルシット・ジョブが増えるといった課題が指摘されています。今回の法改正では、ボトムアップで計画に声が反映される可能性を確保している点は評価できます。ただし同時に、上記の課題が生じないための工夫や仕組みづくりが不可欠です。

掲げられた二地域居住促進の目標・KPIの課題

今回の法改正によって、「二地域居住の促進により、地方への人の流れの創出・拡大を図る」という新たな目標・効果が設定されました。

  1. 特定居住促進計画の作成数:施行後5年間で累計600件
  2. 二地域居住等支援法人の指定数:施行後5年間で累計600法人

具体的なKPIとしては、この2つが掲げられました。KPIの設定にはメリット・デメリットがありますが、今回のKPIについては、あまり評価できるものではないと考えています。理由としては、KPIに設定された計画策定数と法人指定数は、両方とも二地域居住者の増減や、二地域居住者の満足度・幸福度・ウェルビーイングの向上、二地域居住促進による地域への影響や効果を図るものとは本質的になっていない点があげられます。換言すれば、そこにあるのは「つくって終わり」への強い懸念です。大切なのは「つくってから」です。

二地域居住促進の必要性について「住まい」「生業」「コミュニティ」に関するハードルがあると法改正時に説明されていますが、こうしたハードルが制度によっていかに超えられたのか、低くなったのかも国の検証の対象には含まれていません。

各都道府県、各市町村が二地域居住促進に取り組む際には、独自の目標や指標を定め、効果を検証するために継続的な量的・質的調査を通した実態把握を行うことが必要です。その際、周辺市町村と同じKPIを設定する必要はありません。自治体として示す方向性、目指す未来像と照らし合わせて、二地域居住を位置づけ、促進するorしないといった判断をすることが重要です。

KPIによる管理の功罪と、そこから脱するための論点については下記の記事で詳しく解説しています。

加速する自治体の移住者獲得競争を脱するために-移住促進の実態から解決への糸口を探る-

最後に-「二地域居住」はどこへ向かうのか?-

本記事では、改正広域的地域活性化法の成立に伴う二地域居住促進の制度化について、歴史や背景、制度のポイントや論点、課題を整理しました。

二地域居住促進は、自治体にとって手段であり、目的にはなりえません。これは個人でも同じです。

二地域居住促進によって何を実現したのか、地域が目指す未来像と二地域居住促進はどのように関連するのかorしないのか、こういった点をまずは整理・議論することが必要です。そして、一歩引いた視点から考えたうえで、必要であれば特定居住促進計画を策定したり、特定居住促進協議会を組織することになるでしょう。

二地域居住促進はどこへ向かうのか?、国土や地域が目指す未来の実現に近づいたのか?、今回の制度創設だけをもって持続可能な日本に近づいた!とは言えません。重要なのは「つくった後」、今後の情報と動向に注目です。

※本記事とあわせて学術的な二地域居住をめぐる議論についてまとめた論考を、近日、公開予定です。

二地域居住や関係人口、地方移住定住促進などに関する講師講演や執筆、メディア出演解説、各種委員、調査分析の受託、関連事業の支援サポートなどを行っております。持続可能でより良い二地域居住促進を目指す自治体担当者や民間団体の皆さま、困り事を考えている皆さまは、まずはお気軽にお問い合わせフォームよりご連絡ください。KAYAKURA・国際大学GLOCOM講師 伊藤将人のプロフィールはこちら


  1. 住吉健大(2021)「日本における「二地域居住」の実態と地域振興との関係性──千葉県南房総市および周辺地域を事例に──」『地理学評論seriesA』94(5): 348-363. ↩︎
  2. 二地域居住人口研究会(2005)『「二地域居住」の意義とその戦略的支援』二地域居住人口研究会事務局. ↩︎
  3. 国土交通省(2018)『二地域居住推進の取組事例集』. ↩︎
  4. そのため二地域居住促進は、2007年前後の団塊世代の移住促進、東日本大震災を機とする復興人材の移住促進、地方創生における移住促進、そしてコロナ禍以降の「転職なき移住」に代表されるテレワーク移住、リモートワーク移住、関係人口促進の流れとも無関係ではありません。 ↩︎
  5. 国土交通省(2024.2.9)「「広域的地域活性化のための基盤整備に関する法律の一部を改正する法律案」を閣議決定」 ↩︎
  6. 市町村は、都道府県に対し、二地域居住に係る事項をその内容に含む広域的地域活性化基盤整備計画の作成について提案することが可能となりました。 ↩︎
  7. 空き家等の不動産情報は本人同意が必要 ↩︎
  8. 伊藤将人(2021)「農村社会における生活者間の社会的葛藤に移住促進施策が与える影響の研究-長野県池田町A地区での「移住者」と「地元住民」への調査から-」 ↩︎
  9. 総合交付金(広域連携事業)により支援する想定。 ↩︎
  10. 事業の実施等について法律上の特例を措置する想定。 ↩︎
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この記事を書いた人

Masato ito

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター研究員/講師。長野県出身。博士(社会学)。一橋大学大学院社会学研究科、日本学術振興会特別研究員を経て2024年より現職。専門は地域社会学・地域政策学。研究分野は、地方移住・移住定住政策研究、地方農山村のまちづくり研究、観光交流や関係人口など人の移動と地域に関する研究。立命館大学衣笠総合研究機構客員研究員。武蔵野大学アントレプレナーシップ研究所客員研究員。日本テレビDaydayやAbema Prime News、毎日新聞をはじめ、メディアにも多数出演・掲載。