検証 コロナ禍と地方移住【連載1 コロナ禍の地方移住と移住政策の検証が必要】

検証 コロナ禍と地方移住

2019年末から2020年以降、新型コロナウイルス感染症が急速に拡大し、私たちの生活は一変した。

都道府県を超える移動の自粛が要請され、観光業や交通業や大きな打撃を受けた。

教育機関や企業ではオンライン対応が加速度的に普及し、ZOOMやGoogle Meetsを活用したビデオ通話が一般化した。

東京一極集中傾向が続いていた人口動態は、大学生や新卒者の状況が抑制されるなどして一時的に抑制された。1997年以降、コロナ禍以前まで東京の年間の転出入は一貫して転入超過であったが、コロナ禍が本格化した2020年4月以降の東京都の人口は、2020年5月をピークに減少傾向に転じた。

コロナ禍は、とりわけ、以上のような人々のモビリティ(移動性/Mobility) に大きな影響を与えた。

学術的にも、こうした動向は人文社会科学的に移動を考える重要性を突きつけると同時に、現代社会の基本的前提である絶え間ない、しかし不平等なモビリティの実態を私たちに気付かせた(Sheller,2021)。

コロナ禍に社会的、政策的関心が高まった「地方移住」

こうした中で、社会的、政治的、政策的に大きな関心を集めた/集めているのが「地方移住」である。

それ以前から、従来とは異なる人口移動としてUIJターンや田園回帰、田舎暮らしなどの言葉で語られ、関心を集めてきたが、コロナ禍には「コロナが地方移住を加速させ、人びとのライフスタイル・ワークスタイルを一変させ、東京一極集中を解消する」といった期待の言説が溢れた。

政府も、コロナ禍を背景とする若年層を中心とする移住への関心の高まりを背景に、地域おこし協力隊制度の拡充拡大や、移住支援金の拡大などの、政策的移住促進を加速した。

企業側も、変化に呼応して、本社の移転やサテライトオフィスの設置、テレワークと休暇との融合を図るワーケーションの導入など、社員の地方移住を促す新しい試みが一部で検討され行われた。

「地方移住」までいかなくとも、地方と継続的に関わる「関係人口」、2箇所や複数の拠点をもって行き来する「二地域居住」「二拠点生活」「多拠点生活」などの概念もこれまで以上に普及した。

一方で、県外在住者や移住者に対する「コロナ差別」と呼ばれるような、地元住民と移住者の間で生じる社会的葛藤も大きな問題となった。

コロナ禍の東京差別は本当にあるのか?-社会心理学的分析から私たちが学べること-

さらに、コロナ禍には民間企業による移住産業への進出も目立った。今日、マッチングアプリに代表されるように「マッチング」というアイディアが様々なビジネスの場面で導入されているが、「移住」をめぐっても、移住希望者と移住者誘致を行う地方自治体をマッチングするサービスが多数リリースされ、利用者数を伸ばした。

コロナ禍の地方移住を多面的に振り返り、教訓を導き出す

このように2020年から2023年の約4年間を振り返ると、地方移住と関連する政策動向は目まぐるしく変化した。

しかし、2024年2月現在、コロナ禍の地方移住をめぐる動向は多面的に振り返り、その成否を多面的に検証し、未来への教訓を導き出すべき段階に来ていると筆者は考えている。

政策的には、2020年から2023年は2014年に始まったまち・ひと・しごと創生(地方創生)の第二期と重なり、地方創生の推進とあわせて、地方創生の枠組みの中で政策的に移住が促進された。そんな地方創生も、始まってから約10年が経とうとしており、岸田政権以降は、新たな地域政策である「デジタル田園都市国家構想」へと軸足が移行している。

人口動態的には、2023年の東京都への転入が45万4133人、転出が38万5848人で、転入が転出を6万8285人上回る「転入超過」となり、一度は落ち着いた東京一極集中傾向が加速、一昨年、去年と2年連続で拡大し、コロナ前の80%程度の水準まで戻っている。

コロナ禍に散見された「コロナで東京一極集中傾向は是正される」という言説は、夢だったのである。

しかし、これもコロナ禍から一部の有識者は研究者は、コロナ禍で東京一極集中が是正されることはない、幻想であると指摘していた。手前味噌で恐縮ですが、2021年に出演したAbema Prime Newsの中で筆者は、以下のように指摘している。

 伊藤将人氏は「総務省の調べによると、今回と同じような社会的危機だった東日本大震災が起きた2011年には地方への転入者が増加したが、その後は逆に地方から東京圏から地方への転出者数は減少、むしろ転入者がなだらかな増加傾向にあるという状況がある。

 

 今回の場合、コロナが落ち着くまでは、そもそも地方へ足を運んで移住先を探すこともできない。今は熱が高まっていると思うが、冷めてしまい、一部の人が移住しても大きな流れにはならない可能性もある」と話す。

 

 事実、「東京都在住者の今後の暮らしに関する意向調査」(2018年10月)で、実に38.4%が「移住する予定・検討したいと思っている」、61.6%が「移住を検討したいと思わない」と答えている。「いつごろ移住したいか」との質問には、1.2%が1年、6.1%が5年以内、9.4%が10年以内と答えているが、理想と現実は違うようだ。

https://times.abema.tv/articles/-/7054187?page=1

今こそ、コロナ禍×地方移住の「なぜ?」を問い直すべき

このように、政策的にも、人口動態的にも、一つの区切りを迎えつつある今、そして、ある種の幻想や希望的観測が間違いであったことが明らかになりつつある今こそ、コロナ禍の地方移住をめぐる動向を多面的に振り返り、検証し、教訓を導き出すことが必要ではないだろうか。

特に、コロナ禍の地方移住をめぐる「なぜ?」などを、今こそ問い直すべきではないか。例えば、以下のような問いが成り立つ。

  • なぜ、政府や地方自治体は移住者の増加に期待したのか? どのように政策的に移住を促進したのか?
  • なぜ、いかにして新聞や雑誌でコロナ禍の地方移住は語られ、描かれたのか?
  • 地方移住をめぐる統計や調査は、いかなる結果を示したのか?そこに問題はなかったのか?

そこで本サイトでは、本記事(序章)を含む、全12記事からなる「検証 コロナ禍と地方移住」と題した連載を2月に順次公開していくこととした。

検証と分析にあたっては、大まかに以下のような構成を想定している。

  1. 序章 コロナ禍の地方移住の概要
  2. 人口動態など統計的分析
  3. 移住関連調査結果の分析
  4. 新聞の言説・内容分析
  5. 雑誌の言説・内容分析
  6. 国による政策的移住促進の分析
  7. 地方自治体による政策的移住促進の分析
  8. 民間企業による移住の商品化の分析
  9. テレワークと「転職なき移住」
  10. 地方移住と「関係人口」
  11. 地方移住と「ワーケーション」
  12. ポストコロナと地方移住

社会学や政策学の知見を基に、統計や調査の分析、新聞や雑誌などメディア言説の分析、国や地方自治体の政策分析、民間企業の動向の分析、関心を集めた「転職なき移住」「関係人口」など概念との関連の分析など、多面的にコロナ禍の地方移住を分析・検証することで、評価すべき点や問題点、未来への羅針盤となる知見や教訓を導出していきたい。

※本連載の内容は、積極的にメディアと共有し、書籍化・講演することで、世の中に発表していくことを想定しています。ご関心をもっていただけた場合は、まずは遠慮なくご連絡ください。

参考文献

Sheller, M.(2021)Advanced Introduction to Mobilities, Edward Elgar Publishing Limited.

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最後に、効率よく学ぶために本を電子版で読むこともオススメします。

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この記事を書いた人

Masato ito

国際大学GLOCOM研究員/講師。1996年、長野県出身。博士(社会学)。一橋大学大学院社会学研究科、日本学術振興会特別研究員を経て2024年より現職。専門は地域社会学・地域政策学。研究分野は、地方移住・移住定住政策研究、地方農山村のまちづくり研究、観光交流や関係人口など人の移動と地域に関する研究。多数の地域連携/地域活性化事業の立ち上げに携わり、2事業が長野県地域発元気づくり大賞を受賞。日本テレビDaydayやAbema Prime News、毎日新聞をはじめ、メディアにも多数出演・掲載。