コロナ禍の東京差別は本当にあるのか?-社会心理学的分析から私たちが学べること-

6月29日放送『グッとラック!』(TBS系)内で、東京都の新型コロナウイルス感染拡大を受けて差別感情を懸念する声についての特集が組まれました。特集後、Twitter上では「東京差別」がトレンド入り。SNS上では、

「今は東京に行きたくないし、来てほしくない」

「病院の件は万が一に備えただけであって差別ではない」

「差別ではなく区別」

「うちは東京から来るお客さんをなんとも思わないよ」

「感染者が増えてるんだから当たり前」

とさまざまな声が挙がっています。

「差別」という強い言葉の影響で広くSNS上で言及されていますが、なぜ「東京差別」は起きているのでしょうか(もしくは起きているとマスコミは取り上げるのでしょうか)、そして「東京差別」の一件から私たちが学べることはどこにあるでしょうか。そこには「私は東京差別なんかしないから関係ない」とは言い切れない大きな問題があります。

※本記事では社会心理学の定義に基づくと差別にあたる行動とあたらない行動を混同してマスメディアが「東京差別」と報じていると判断し、マスメディアが用いSNS上でさらに用いられる「東京差別」という言葉は、カッコつきで固有名詞「東京差別」として取り扱います。

「東京差別」は「差別」なのか?

一口に差別といってもさまざまな種類があります。人間が2人以上いて社会的相互作用がある場合、あらゆる状況や場面で偏見や差別がある、もしくは起こる可能性があるといっても過言ではありません。

社会心理学においては「ステレオタイプ」「差別」「偏見」の3つは区別されます。これら3つは個人の感情や先入観ではなく、社会的集団や社会的カテゴリーから生じた場合に、特に当てはまります。

  • ステレオタイプ「ある集団に属する人々に対して、特定の性格や資質をみんなが持っているように見えたり、信じたりする認知的な傾向」
  • 差別「ステレオタイプや偏見を根拠に接近・回避などの行動として現れたもの」
  • 偏見「ステレオタイプに好感、憧憬、嫌悪、軽蔑といった感情を伴ったもの」

この定義に即してみると、今回の「東京差別」は「東京都はコロナ感染者が多い=コロナリスクが高い社会的集団」というステレオタイプを根拠に、「東京都の人と会うのはやめよう」「東京都に行くのはやめよう」などの感情がまず初めに芽生えることを指します。

そこで感情として出てきたものを自分の中にとどめておくことは行動を伴わないので「偏見」となりますが、もしそれが「あなたは東京から来た人だから近づかないで」と言ったり「近づかないほうがいい」と周りに言ったりと行動を伴う場合には、「差別」といえるでしょう。

今回のニュースでは一括りに「差別」という言葉が使われていますが、ここでみたように「偏見」「ステレオタイプ」などその形態で表現は異なります。すべてを差別と言い切ってしまうことは問題でもあるため、その点は注意が必要でしょう。

なぜ「東京差別」は起きているのか(もしくは話題となっているのか)

では、なぜ人間社会では差別が生まれるのでしょうか。そしてなぜ今回、「東京差別」は差別というかたちで話題になっているのでしょうか。

社会心理学において、人は味方と敵をわける心理が働き、「自分たちは有利だ/自分たちは正しい」と思いたい心理があるといわれています。これは「自尊心」「自己肯定感」ともいえます。

今回の場合は、東京都民以外の人々が味方/内集団として「東京都以外の人」という想像の共同体を形成し、敵/外集団として「東京都の人」を想像し区別する心理が働いたといえます。

この心理をもとに東京都以外の人集団が「自分たちは正しく感染拡大防止に努めているから偉い。なのに東京都は感染拡大しつつある。これは東京都の人たちがいけない。だから私たちは東京都の人たちを非難する」というロジックで「東京差別」へとつながっているといえるでしょう。

また通常時は、東京都を基準とし東京都の視点からさまざまな政策や社会の仕組みが広まっていったりします。地方はどちらかというといつも除け者です。しかし今回はいつもは強く大きな東京都の人たちを非難できる材料を、東京都以外の人たちが手に入れたのです。普段、やられているから今回は私たちもやり返すという感情で偏見・差別している人は一定数いるでしょう。

「東京差別」は、いつ自分に向くかわからない-「東京差別」から考える-

「差別はなくならない」「差別はしょうがない」と考える人が社会においては多数派かもしれません。しかし差別や偏見は無くすべきものであり無くすための努力はされるべきものだという点は、みんなが合意できると思います。では一体、どうすれば減らすことができるのか。

人は差別的感情をいだいていたり差別的な行動をしているとき、「自分たちは正しい」「他者は間違っている」と盲目的に思い込みます。しかしコロナのように不確実性の高い予測不可能な現象は、いつ誰が差別の対象になるかわかりません。

いまは東京都で感染者数が改めて拡大していますが、明日になったら他の地方都道府県が東京都の感染者数を超えている可能性は0ではありません。「絶対に自分はコロナに罹らない」と思っていても誰も完全にリスクを0にすることはできないので、全員が東京都民のように「感染者数が多い地域で暮らす人」に明日なる可能性があるのです。

この「明日自分も差別の対象になるかもしれない」という感覚を忘れたときに、人は差別や偏見をいとも簡単に行ってしまうのです。そしてこのことが当てはまるのはコロナによる差別だけではありません。生活保護受給者への差別や偏見も、LGBTQへの差別や偏見も、障がい者への差別や偏見も同じです。誰1人として「未来永劫、自分はそうはならない」と断言することはできません。なぜなら未来の自分のことは誰にもわからないからです。

最後に-「私は差別してしまう」ことを自覚することから始める-

わからないのに他人を見下すことで自尊心を高め満足する、それが人間です。このことをまずは理解することで、安易な差別や偏見を減らしていくことはできます。「東京差別」に限らず、あなたの心の中に眠る差別意識を、この機会に見つめなおしてみてはいかがでしょうか。

参考資料
福田晃広, 「偏見や差別」はなぜ生まれる、社会心理学の観点から読み解く, DIAMOND ONLINE
二宮新一, 新型コロナで増加する「東京差別」に賛否続出 『グッとラック』の特集が話題に, SIRABEE
・北村英哉, 唐沢 穣, 『偏見や差別はなぜ起こる?』ちとせプレス

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この記事を書いた人

Masato ito

1996年長野県生まれ。大学在学中に自身が代表を務める事業が長野県地域発元気づくり大賞を受賞。現在は一橋大学社会学研究科にて国内移住に関する研究を行いながら、KAYAKURA代表として長野県を主なフィールドに観光インバウンド・移住・まちづくりのコーディネート・プランニング・調査・PRを多数手がける。2019年からは都内の企業と地方の企業や自治体をつなぐ新たな取り組みも開始。訪日観光客向け観光情報発信サイトNAGANO TRIP運営。池田町第六次総合計画審議委員。週刊SPAや公益社団法人 日本観光振興協会発行『観光とまちづくり』など寄稿多数。2019年4月から東京都国立市と長野県池田町の2拠点居住実践中.