ビデオ通話の現状と未来を再考する-セカキャンラジオ文字おこし&音声コンテンツ 第1回-

新型コロナウイルスによって私たちは「インターネットを通したコミュニティ」が増えて、改めて「オンラインとオフラインの違い」について考える機会を得ました。長野市でイベントスペースENKAIを運営する団体2nd Canvasはコロナ自粛中に学べるコンテンツとして「セカキャンラジオ」をスタートし、2020年4月29日の放送にKAYAKURA代表の伊藤が出演しました。

KAYAKURAではセカキャンラジオの模様を全3回に分けて記事化し公開します。テーマは「オンラインで何が変わった?」1本目の今回は、オンラインでのコミュニケーション・ビデオ通話でのコミュニケーションを伊藤が社会学の視点から分析し、より快適でスムーズなオンラインコミュニケーションのためのコツと今後のビデオ通話の在り方を紹介しています。

なお本記事のもととなったラジオはこちらから聴くことができます。記事では3回に分けていますが音声は約40分で1本にまとまっていますので、ぜひ聴いてみてください。


2nd Canvas代表 樋口 セカキャンラジオは、長野市でイベントスペースを運営する2nd Canvasが配信する動画コンテンツです。大学生や社会人がこの時代を生き抜くうえでためになる情報や知識を配信しています。今回のゲストはKAYAKURA代表の伊藤将人さんです。

KAYAKURA代表 伊藤 新しい地域と観光を考えるWebメディアKAYAKURA代表の伊藤です。普段は一橋大学社会学研究科でコミュニティ・地域社会・地方移住などの研究をしています。同時に長野県を主なフィールドにまちづくりや観光インバウンドのアドバイザーをしており、私自身もインバウンド向けWebメディアの運営や、フリーペーパーの発行、地域団体の運営などをしています。

樋口 今日のテーマは「オンラインで何が変わった?」です。オンラインで効率化されたことがある一方で、オンラインメインになることで抜け落ちたことも多々あるように感じています。伊藤さんは社会学的な視点からコミュニティやコミュニケーションについて普段研究されているので、今回はそういう話を伺えたらと思います。

ビデオ通話では「あなたの話伝わってますよ!」と伝えることが大切

樋口 オンラインでのビデオ通話ややり取りが増えたことで「できるようになったこと」と「できなくなったこと」がありますが、まずはこの点について伊藤さんに整理していただきたいです。

伊藤 1点目は「ビデオ通話は外部要因に大きく影響を受ける」ということです。いまも私のWi-Fiが遅いのでビデオ通話から音声のみの通話に切り替えましたが、こういうことは対面のコミュニケーションでは起こりえません。イヤフォン・マイク・カメラ・通信環境などによって「同じ会話をしていても異なるコミュニケーションになる」これが特徴です。

2点目は「ビデオ通話や音声通話のほうが対面コミュニケーションよりも“正確に”情報が伝わる」という事実です。誤解している人が多いのですが、対面のときは情報量がとても多いので実は私たちの正確に情報を処理する能力は落ちています。しかしビデオ通話だと視覚と聴覚のみになり、音声通話の場合は聴覚のみになるので情報はより「正確」に処理することができるのです。

樋口 これは意外ですね!

伊藤 ポイントは対面コミュニケーションのほうが、人は情報が正確に伝わっていなくても「伝わった」と勘違いしていること。つまり円滑で充実したコミュニケーションでは「情報がいかに正確に伝わるか」よりも「情報が正確に伝わったと思えること」が大切だと分かります。

ビデオ通話では対面よりも伝わったのか伝わっていないのかがはっきりしない傾向にあるので、相槌をいつもより大きくしたり、身振り手振りを大きくしたりすることで「あなたの情報伝わっていますよ!」と話し手に伝えることが重要です。

樋口 人は情報が正確に伝わっていなくても「伝わっている」と思っているということですよね。ある意味こわい…

ビデオ通話では「笑い」が共有しにくい

伊藤 3点目はビデオ通話では「笑い」「楽しさ」が伝わらないことが挙げられます。笑いは「テンポ」と「雰囲気」がとても重要です。テンポが悪い漫才はおもしろくないですし、どんなにおもしろい漫才でも観客が誰1人笑っていなければおもしろくなく見えるでしょう。

ビデオ通話では、タイムラグによってテンポ感が崩れます。また対面でコミュニケーションをとっていないので雰囲気も伝わりにくいのです。これを実践に落とし込むと、ビデオ通話では不必要な冗談やダジャレは場の雰囲気を壊す可能性があるので気をつけましょうということです笑

これは特に「はじめて会う人」とのコミュニケーションで気を付けたいですね。もともと知っている人や友達であればお互いの性格が共有されているので笑いは伝わりますが、はじめての人だと共有された情報がほぼないので笑いが起こりにくいのです。

逆にいうと「笑いは仲間意識」を醸成する機能をもっています。笑いが共有しにくいビデオ通話で授業がはじまる大学生は、対面で会っていたら仲良くなれたかもしれないのにファーストコンタクトがビデオ通話だったことによって仲良くなれないという事例が今後発生しそうですね。

「慣れ」や「身体性」によって今後、いま感じているビデオ通話の壁は乗り越えられると思います。電話が普及し始めた当時も人々は「こんなのでコミュニケーションとれるわけがない」と思っていましたが、時間が経ち今日では長電話で冗談を言い合って楽しい時間を過ごせています。5年後10年後に今のビデオ通話の難しさの話を若者にしたら、きっと信じてもらえないでしょう笑

樋口 本当に慣れって重要ですよね。正直、年配の方とビデオ通話すると、面倒だなと思うこともしばしばあります。

悪いのはビデオ通話ではなく私たち-選択肢の多様性をこの先も保ち続けよう-

伊藤 リテラシーのレベルが異なる人たちがビデオ通話でコミュニケーションをとると、面倒だと思う瞬間はありますよね。ただ面倒な理由をビデオ通話に求め「だからビデオ通話はダメだ!対面じゃないとダメだ!」となるのは間違いで、自分たちのリテラシーを高め慣れることでその面倒さは克服できます。悪いのはビデオ通話ではなく私たち自身なんだということを忘れてはいけません。

樋口 そうですね、ビデオ通話のほうが長けた部分も絶対にありますもんね。だからこそ、一時のブームで終わらせずに今後も継続して使い続けることが大切だと思います。

伊藤 アマルティア・センがケイパビリティという言葉で表現したように、人は選択したいときに選択できる環境が身の回りにあることが幸福につながります。コロナが収束して「やったー!やっとビデオ通話から解放される!対面最高!」となり、ビデオ通話が忘れ去られコロナ前以上に対面命になったら最悪です。

ただ特に大企業ではこうなる可能性は高いでしょう。なぜならいま企業の上にいる人たちは、ビデオ通話に慣れておらず対面でこれまで生きてきた人たちだからです。そうならないためにも「ビデオ通話よかった!」「テレワーク良かった!」「今後も続けましょう!&活用しましょう!」と大きな声で伝え続けることが必要です。

地方出身で都内の大学に通う学生の一部は、東京の家を引き払って地方の実家に住んでいるといいます。彼らはもし今後もビデオ通話で授業が受けられたら、出費は大幅に減り金銭的負担も軽くなります。ビデオ通話で単位が修得できるとなったら、これまで大学進学をあきらめていた人でも大学に進学できる可能性が高まりますまた選択肢を複数もつことは大学にとっても緊急時のリスクヘッジになるでしょう。コロナ収束後も選択肢の多様性を維持していきたいですね。

樋口 ミネルヴァ大学のように世界各地からオンラインで学べる学校は今後増えていきそうな予感がします。「オンラインだからコストが安くできる」という利点は今後もどんどん生かしていきたいですね。

伊藤 オンライン時代の「留学」はその概念も変わると思います。現地に住まなくても授業に出て単位を取得して卒業できてしまうのですから。


第2回に続く

KAYAKURAでは新型コロナウイルスの拡大と社会の関係について考察した記事を多数掲載しています。興味関心ある方はぜひこちらの記事もご覧ください。

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この記事を書いた人

Masato ito

国際大学GLOCOM研究員/講師。1996年、長野県出身。博士(社会学)。一橋大学大学院社会学研究科、日本学術振興会特別研究員を経て2024年より現職。専門は地域社会学・地域政策学。研究分野は、地方移住・移住定住政策研究、地方農山村のまちづくり研究、観光交流や関係人口など人の移動と地域に関する研究。多数の地域連携/地域活性化事業の立ち上げに携わり、2事業が長野県地域発元気づくり大賞を受賞。日本テレビDaydayやAbema Prime News、毎日新聞をはじめ、メディアにも多数出演・掲載。