【5分でわかる】 9月入学とは何か?メリットデメリット・課題・論点をわかりやすく解説

5月1日のニュースで「9月入学・新学期に向けて、政府は具体的な作業に入った」と報じられましたが、どうしてこのニュースが注目を集めているのか分からない方も多いかと思います。現時点で9月入学のメリットデメリットは以下のように整理されています。

  • メリット:国際標準に近づきグローバル化に対応できる
  • メリット:学習の遅れをカバーでき、学力格差の是正につながる
  • メリット:企業の一括採用に変化が生まれる
  • デメリット:設備環境の格差と未整備
  • デメリット:幼児教育からのスムーズな移行・切れ目のない教育が難しくなる
  • デメリット:家庭の負担

この記事ではマスメディアや政府・有識者の発表をもとに、9月入学のメリット・デメリットをわかりやすく解説していきます。筆者は教育分野の専門家ではないため理解不足な点もあるかもしれませんが、皆さんが9月入学について考え話すキッカケになれば幸いです。

9月入学とは?

9月入学とは学校の入学時期を9月に変更することを指します。変更は大学に限らず小学校~大学まですべての段階で当てはめる議論と、段階的な変更の議論と蛾あります。議論の背景には新型コロナウイルスの影響による学習の遅れの懸念と、先進国のスタンダードに合わせることでグローバル化を進める狙いなどがあります。

新型コロナウイルスの影響で休校が続く中、都道府県知事たちから「新学期の開始を9月にする案」への賛同の立場表明がされたことで9月入学制度に注目が集まり始めました。

9月入学制度の論点

9月入学制度には複数の大きな論点がありますが、主に以下のような点に集約できます。

  1. 教育システム全体、社会全体に及ぶ議論である
  2. 新型コロナウイルスの影響を理由に9月入学を可能とするのは妥当か
  3. 9月入学で国際照準に近づくは本当か
  4. 短期的な視点と長期的な視点の両方からの検討
  5. 制度の問題
  6. 国民の同意は得られるのか

東京都の小池知事は4月28日に「社会を大きく変えるきっかけになる」と賛成の立場を表明しました。4月29日の全国知事会では大阪府吉村知事が「世界のグローバルスタンダード。幼稚園から大学まで、ことしから一挙にやるべきだ」と賛成の立場を表明。

一方、岩手県達増知事は「今年度からの導入は拙速」と慎重な議論を求めました。このように都道府県知事の中でも見解は分かれています。

4月30日から教育新聞が実施しているWeb上でのアンケート調査では、5月3日21時28分時点で賛成が45%、反対が48%、どちらともいえないが7%となっています。このように教育に比較的興味関心のある層が読むメディア上の調査でも賛成反対が拮抗しており、合意形成が難しいことが分かります。

世界の9月入学の国

欧米では「農作業が落ち着く9月ごろに学年をスタートさせれば、多くの子どもが農作業と学校との両方に行ける」という理由で昔から9月入学を採用する国が多くあります。実は日本でも4月入学になったのは1920年頃とおよそ100年前です。

しかし「世界の多くの国が9月入学」という言い方をすると誤りです。欧米を中心に9月入学の国は多いですが、欧米以外のアジアやアフリカの国では9月入学ではないところが多数あります。ベネッセ教育情報サイトのまとめによると、国によってバラバラであることがわかります。

1月…シンガポール
1月末~2月初め…オーストラリア、ニュージーランド
3月…韓国
4月…パナマ
5月…タイ
6月…フィリピン
9月…アメリカ、カナダ、イギリス、フランス、ベルギー、トルコ、モンゴル、ロシア、中国
10月…ナイジェリア、カンボジア

世界の多くの国々では9月入学が主流!4月に入学する国は少数派:ベネッセ教育情報サイト 2015/4/06

9月入学のメリット

国際標準に近づきグローバル化に対応できる

教育評論家尾木直樹さんは9月入学に賛成の立場を示しています。その理由としてNHK NEWS WEBの取材に以下のように答えています。

「先進国の中では4月入学は日本だけで、諸外国では9月入学がほとんどだ。その基準にそろえると、日本の学生も海外の学校に入学しやすくなるし、国際的な競争力が落ちている日本の大学に、海外の有名大学から教授を呼びやすくなる。平時では、なかなか変えられないものをコロナ禍で改革し、チャンスに変える機会だ」

NHK NEWS WEB 4月30日記事

9月入学にすることで海外から質の高い学生や教授を呼びやすくなるとのことですが、そもそも日本の大学が国際的に魅力的なのか、海外からの学生受け入れ環境は整っているのかこの機に考える必要があります。

学校入学時期に選択肢が増える

これまで基本的には4月入学が主だった日本で9月入学が採用されると、子どもたちの選択肢が広がります。家庭事情やそれまでの学習状況によって4月入学が難しい子どもたちやその家庭に「半年間の準備期間」が設けられることで、無理せず入学に備えることができるようになります。

学習の遅れをカバーでき、学力格差の是正につながる

新型コロナウイルスの影響で休校長期化による学力格差が懸念されています。9月入学を可能にすることで学習の機会を確実に確保し学力格差の解消につなげることが狙いです。これについても尾木直樹さんがNHK NEWS WEBの取材にコメントをよせています。

「子どもたちが現在、置かれている環境では、オンライン授業が行える学校とそうでない学校、家庭の中でも資金のある家とそこまでできない家で、学習の格差が生まれている。遅れを取り戻すため、夏休みを削減したり、補習授業を7時間目まで行ったりして詰め込むと、不登校になる子が出てくる。時間にゆとりを持つためにも9月入学や始業式の制度を作るべきだ」

NHK NEWS WEB 4月30日記事

受験への天気の影響

毎年センター試験の時期になると、雪による交通の乱れが懸念されます。9月入学が実現すると受験時期が夏になるので、雪で交通機関が乱れてトラブルが発生する可能性は少なくなるでしょう。

企業の一括採用に変化が生まれる

日本はこれまで新卒一括採用がベーシックな採用のスタイルでした。しかしグローバル化に対応していく上で一括採用だと質の高い人材を採用しにくくなってきているという議論があります。

これまでも企業と大学の間で多様で柔軟な採用や就職活動の在り方についての検討がされてきましたが、これを機に通年採用をはじめとする多様な採用の在り方の議論がさらに進む可能性は大です。

一方、新卒一括採用だからこそ就職ができていた層も一定数いることは事実です。より多様な採用形態になることで競争は激しくなるため、いま以上に実力・実績重視の採用になる可能性もあります。

9月入学の課題/デメリット

設備環境の格差と未整備

新型コロナウイルスがいつまで影響を残すかが重要なポイントですが、今年から9月入学に変更する場合は全ての学校と子どもたち・家庭が9月入学に対応できる環境を整備することが必要です。この点について教育社会学者の名古屋大学の内田良さんはNHK NEWS WEBで次のように答えています。

「コロナが9月でもまん延しているようであれば、9月入学に変更するには、オンライン授業の環境があることが最低条件だが、各学校や家庭でそうした環境は整っていない。この数か月の間に、どこまで準備ができるのか、その準備ができないまま、9月入学と言うのは非常に危ういと考える」

NHK NEWS WEB 4月30日記事

会計年度の問題

日本では1800年代終盤から国や地方自治体の会計年度は4月~翌3月で定着しています。9月入学になると会計年度の調整が必要になるため、現場の混乱は必至です。

幼児教育からのスムーズな移行・切れ目のない教育が難しくなる

日本の学校教育は認定こども園・幼稚園から小中学校、高校と12年以上きちっと内容が段階別に詰められています。このうち一か所でもゆがみが生じると全体に影響が出る可能性があります。一口に「学校」といっても様々な形態の学校があり、相互に連関しているのでどこをどのように変えるのか慎重な議論が必要です。

家庭の負担

9月入学になることで小学校1年生前の保育期間が延長されることになります。保育期間が延長されればその分家庭の負担が増えることになります。児童クラブや児童センターに子どもを通わせることも未就学児の場合は難しいため、9月入学を負担と感じる家庭も一定数いると予想されます。

議論が不十分・いまは他にやることがあるという声

5月1日に自民党本部内で開かれた教育再生実行本部の勉強会では「今取り組むべきは子供の学習機会の保障だ」「コロナのどさくさに紛れて議論すべきではない」などの意見がでました。

2020年度から実施する場合は準備期間がおよそ4か月間、2021年度から実施する場合にも準備期間は1年4か月と短期間で集中して議論する必要があります。1度決定するとその後変更することは難しい大規模な改革だけに急がない方がいいという声が一定数あります。

最後に-社会全体に大きな影響を及ぼすことは確か-

9月入学は欧米諸国に合わせるために将来的に実現する可能性はあります。しかし果たして9月入学の議論をいますることが適切なのか、9月入学のメリットデメリットはなんなのか、より深く議論をしていくことが大切だと思います。

KAYAKURAでは本記事のような教育課題について考察する記事を掲載しています。コロナ禍に名前が知られた長野県池田町教育長を交えて行った対談記事などあるので、興味関心のあるかたはぜひご覧ください。

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この記事を書いた人

KAYAKURA 編集部

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