移住促進を阻む地方の「仕事不足」-過去40年のデータから考察-

「地方移住希望者は増えている」という話を聞くことが多い今日、移住希望者が多いにも関わらず実際に移住する人の数が思うように伸びない原因として「仕事」がネックになっていることが、各種調査で明らかになっている。

一般社団法人移住・交流推進機構(JOIN)が2018年に実施した「若者の移住」調査結果によると、仕事関連・人間関係関連・情報不足関連・コスト関連のうち最も移住を妨げている要因について、「仕事関連」と答えた人が最も多かった。全回答者のうち約48.4%、2人に1人が仕事関連のことを地方への移住を妨げている大きな要因と考えている実態があることがわかる。

この傾向は近年の他の調査でも同じようになっており「仕事関連」のことは地方移住希望者にとって大きな壁になっている。

しかし今回、KAYAKURAで過去の新聞記事をもとにこの傾向について調べたところ、この傾向は地方移住や地方創生が声高に叫ばれ始めたここ数年の特徴ではないことが明らかになった。本記事では3つの調査結果を参考に考察を進めていく。

1979年も2020年も「地方移住したい/意向あり」は2人に1人

今回、毎日新聞社の記事検索サービス「毎索-マイサク-」で検索可能な地方移住に関連する記事全167本(1967年以降)を調べた。最も早い時期に「地方移住」という単語が用いられた記事は1979年7月4日の東京朝刊3頁、見出しは「東京圏住民、働き口あれば半数以上が地方移住OK-国土庁調査」であった。以下、記事内容の要約。

国土庁が1979年7月3日にまとめた大都市住民の地方定住意識調査によると、地方に住みたい人は東京圏出身者で12.5%、地方出身者で39.4%。「収入や働き口があれば」の条件付きで地方に移ってもよいとする人が東京圏出身者で20.8%、地方出身者で23.3%となっており、条件付きを含めれば地方へ移ってもいいとする人が半数を超えていた。

2020年5月15日に内閣官房 まち・ひと・しごと創生本部事務局が公開した報告書によると、東京圏在住者を対象としたWebアンケート調査の結果、東京圏在住者のうち、49.8%が「地方暮らしの意向あり層」であることが明らかになっている。

1979年当時の調査結果は51.9%だったことから、調査規模や方法は異なるものの「地方移住したい/意向あり」と考える東京圏在住者の割合は約40年経っても、あまり変化していないことがわかる。

1979年も2017年も「仕事の不安」がなくなると44%の人が地方移住に前向きになる

仕事についても同様のことがいえる。大正大学地域構想研究所が2017年に都市在住で企業に勤務する 30 代から 50 代の男女正社員を対象に、企業が地方移住の支援を行うとした場合の地方移住の志向について、インターネット調査を実施した。

その結果、企業の支援=仕事の支援が得られるのであれば、「地方移住をしたい」あるいは「地方移住を検討したい」という都市勤務者が44%いることが明らかになった。

1979年の国土庁の調査の結果、「収入や働き口があれば」の条件付きで地方に移ってもよいとする人が東京圏出身者で20.8%、地方出身者で23.3%、合計44.1%だったことを踏まえると約40年経ってもほぼ意向は変わっていないことがわかる。

1979年時点ではリアルに移動して働く選択肢しかなかったが、今日では「リモートワーク制度(在宅勤務など)の確立・充実」なども仕事の壁を超えるための支援となる。働き方や支援の在り方は多様化している一方で、1979年当時もいまも同じくらいの人が「仕事」がどうにかなれば移住したい/移住できると考えているのは意外な結果である。

余談だが、今日の調査では出身地を分けて移住に関する調査をする例は少ないように筆者は感じている。しかし1979年の調査で「収入や働き口があれば」という条件の有無で東京圏出身者と地方出身者の回答に大きな差がでたことは、見逃せない今日のヒントにもなるポイントである。

1990年 バブル真っただ中に「仕事があれば地方移住したいか」調査したところ…

1979年と2017年の調査結果だけを比べて「40年間変わっていない」と言えるかは微妙である。そこで同様の趣旨の調査を日経産業消費研究所が1990年4月に実施した調査結果が掲載された新聞記事が、日本経済新聞社のデータベース「日経テレコン」上で検索し見つかったので比較してみたい。

首都圏の2000人を対象に「仕事さえあれば、首都圏を離れて地方都市に住みたいか」と聞いたところ、ほぼ2人に1人、男性は54%、女性は43%が肯定的に答えた。年齢別にみると男性では60代で肯定的な回答の割合がガクっと減る。また女性は30代が最も肯定的だが、男性と異なり60代になると肯定的な答えが盛り返す傾向にある。

日経産業消費研究所消費経済研究部はこの結果について「男性は現役で働いている間は通勤ラッシュなどで苦労の多い首都圏からの脱出志向が強いが、社会から退く年齢になるにつれ”いまさら地方でもない”という気になるのだろう。」「女性は年をとったらのんびりとした地方でという気持ちが出るようだ」と考察している。先ほどは出身地別の傾向の違いが興味深かったが、この時代の男女差もなかなか興味深い。

この調査結果から、1979年、1990年、2017年に実施された3調査の結果から、3つの質問のニュアンスや文言は微妙に違うが「およそ半数の東京圏在住者は、この40年間、常に仕事や働き口に関する壁さえなくなれば地方移住したいと考えている」ことが明らかになった。

最後に-“いま”だけをみて移住を語ると間違えるかもしれない-

「地方移住に興味関心が高まっている」「仕事さえどうにかなれば移住希望者が移住するのではないか」そんな語りがここ数年よく聞かれてきた。しかし今回、過去40年間の地方移住に関する新聞記事を分析した結果、40年前も、30年前も、現在も「仕事の壁がなくなれば地方移住したい」人の割合は、ほとんど変わらないことがわかった。

この40年間、働き方も経済状況も大きく変化し多様化してきた。インターネットの登場、テレワークやリモートワークの実現、IT産業の増加、40年前と比較したら地方でも働けそうな仕事や働き方は山ほど増えているようにみえる。しかし、実際のところはいまも昔も同じくらいの2人に1人は「仕事さえどうにかなれば…」と地方移住に関して思っていることが今回、明らかになった。

官民学どこにおいても現在、地方移住はホットなトピックとなっている。しかし地方移住という現象や発想は数十年前から存在し続けたものである。過去を知らずに現在のみにフォーカスしていると、重要な事実を見逃してしまう可能性がある。

ぜひ地方移住に関わる人、興味関心がある人はいまだけでなく過去にも目を向けてみてほしい。「当たり前」「新しい発見や傾向」だと思っていることがガラッと崩され、きっと、これまでと異なる姿勢や視野で地方移住に向き合えるようになるだろう。

参考資料
大正大学地域構想研究所, 2017, 「企業支援による地方移住に関する調査」.
・毎日新聞, 1979年7月4日, 「東京圏住民、働き口あれば半数以上が地方移住OK-国土庁調査」.
・日本経済新聞, 1990年7月2日, 「地方移住志向、半数に(消費おもしろデータ)」.
・一般社団法人移住・交流推進機構(JOIN), 2018, 「若者の移住」調査.
・内閣官房 まち・ひと・しごと創生本部事務局, 2020, 「東京圏在住者の約半数が、地方圏での暮らしに関心あり」.

-ラジオ版KAYAKURA-

ラジオ版KAYAKURAは毎回1つのテーマについて5分~10分で深堀する音声コンテンツです。テーマは社会課題・最新ニュース・地方創生・観光インバウンドなど。スキマ時間の学びを思考を促す内容となっていますので、ぜひ聴いてみてください。

この記事を書いた人

Masato ito

1996年長野県生まれ。大学在学中に自身が代表を務める事業が長野県地域発元気づくり大賞を受賞。現在は一橋大学社会学研究科にて国内移住に関する研究を行いながら、KAYAKURA代表として長野県を主なフィールドに観光インバウンド・移住・まちづくりのコーディネート・プランニング・調査・PRを多数手がける。2019年からは都内の企業と地方の企業や自治体をつなぐ新たな取り組みも開始。訪日観光客向け観光情報発信サイトNAGANO TRIP運営。池田町第六次総合計画審議委員。週刊SPAや公益社団法人 日本観光振興協会発行『観光とまちづくり』など寄稿多数。2019年4月から東京都国立市と長野県池田町の2拠点居住実践中.