コワーキングスペースと地域活性化・地方創生の関連-場所より大切なのは目的と継続性-

信州フリミ

コワーキングスペースが日本に広まり始めて15年ほどが経ちました。2019年8月3日時点のコワーキング.com調査によると、日本全体で約800施設、東京都に約4割の320施設のコワーキングスペースがあります。本記事では、コワーキングスペースとはそもそもどういった場所なのかを簡単に解説したうえで、地域活性化とコワーキングスペースのつながりについて解説したいと思います。

コワーキングスペースとは?サテライトオフィスやシェアオフィスとの違いは?

コワーキングスペースは、簡単にいうと「利用者同士のコミュニケーションがうまれる仕組みがある、みんなで共同で使うオフィス・仕事場」です。以前から、職場以外で働く場所としてサテライトオフィスやシェアオフィスがありましたが、これらには利用者同士のコミュニケーションを促進する機能はありません。対して、コワーキングスペースはイベントを開催したりコーディネーターが利用者同士をつないだりと、意図的にコミュニケーションが生まれる仕組みをつくっています。

コワーキングスペースの特徴はコミュニケーションが促進される仕組みがあること

コミュニケーションを促進させる理由は、1人で家で仕事をしていたり従来のサテライトオフィスでは自分たちの殻に閉じこもり視野が狭くなってしまうので、偶発的にコミュニケーションがうまれることでイノベーションにつながるということ。2つ目は、地域住民向けのイベントや異業種交流会などを通して、コワーキングスペースがある地域の人とワーカーのつながりを作ることで、地域に新たな風を吹き込むことです。

コワーキングスペースと地域活性化・地方創生のつながり

コワーキングスペースは、2010年代に入ってからワーカーのためだけでなく地域の活性化や商工業振興のためにつくられるケースが徐々に増えてきました。政府もコワーキングスペースに目を付け、中心市街地活性化や地方移住促進の補助金の要件の一つにコワーキングスペースの設置を設定するような状況も一時ありました。

コワーキングスペースは、最初に説明したように「人」と「人」をつないで新しい取り組みや仕事を生み出すことを目的とした場所です。このひとは、コワーキングスペースで働いている人だけでなくその地域の企業や行政の人、地域住民もその対象となります。地域の側は従来はなかった知見やスキルを持った人が地域に来てつながることでイノベーションにつながりますし、ワーカーの側も従来とは異なる分野で仕事につながっていくことがあります。

新しい仕事を創出する場であると同時に「交流の場」「居場所」をつくる機能もコワーキングスペースは果たしています。地方では、利用料だけで家賃や人件費をペイしていくのは難しいため、イベントを多く開催することでコワーキングスペースをきっかけに新たな交流の輪が広がっていきます。

以下の写真で紹介している長野県松本市のフリーランスのネットワーク構築イベント「信州フリーランス Meet up」もそういったイベントの一つ。コワーキングスペースが主催しているわけではありませんが、こういった機会にできたつながりが地域活性化やその地域に移住者を呼び寄せるインセンティブになるのではないでしょうか。

コワーキングスペースで生み出される弱い紐帯は地域を変えるか

弱い紐帯は”知り合い”もしくは”顔見知り”程度の間柄の人とのつながりを指します。パーティーで話した人、会社同士の交流会で一緒に飲んだ人、コワーキングスペースでたまたま隣で仕事していた人、などが弱い紐帯で結ばれた関係にあたります。 米国の社会学者グラノヴェッターは、転職する際に誰のアドバイスや勧めがより参考になったのかを約280人に調査しました。明らかになったのは、強い紐帯で結ばれた間柄の人よりも、弱い紐帯の間柄の人からのアドバイスのほうがより参考になったということです。

地域づくりの文脈でも、地域で弱い紐帯を生み出し新たな取り組みに繋げる効果がコワーキングスペースに期待されています。しかし、近年、コワーキングスペースを作ったはいいものの上手く活用できていない事例と、うまく活用できている事例の溝が深くなってきています。この差は一体どこにあるのでしょうか。

弱い紐帯を生み出し地域をコワーキングスペースによって活性化させるために大切なのはプロセスとゴール

コワーキングスペースをつくる際に、強く意識しないければいけない点が2点あります。1点目は「コワーキングスペースをつくることが目的になっていないか」という点。コワーキングスペースはあくまでツールであり作ることが目的ではありません。行政の総合計画やまちづくり活性策をみると、コワーキングスペースをつくることが目的になっていて「なんのためのスペースなのか」「どんなゴールを達成するためにつくるのか」が曖昧な事例が多く見受けられます。

2点目は「コンテンツとターゲットは絞れているか」です。コワーキングスペースは地域の公民館でも無ければシェアハウスでもありません。行政が作るコワーキングスペースの場合、公共施設として一人でも多くの人に開かれていなければいけない側面がありますが、本末転倒です。「誰に来てほしいのか」「来た人にどんな価値を提供するのか」「誰と誰が実際に作ってくれそうな人なのか」といったターゲットが明確に設定できていなければ、結果、いろんな要素は詰め込んだけど誰も使わない箱モノが完成します。

イベントや講座などのプロジェクトの場合は、PDCAをまわすことで改善できますがコワーキングスペースの場合、一度作ったら改装することはとても難しいです。つくるまえに、ターゲットやゴール、コンテンツを決めたうえでそれになった空間づくりをしていかなければなりません。そのためにも、建築士や町の有力者だけでなく、実際に想定されうる利用者層や他地域で実際にコワーキングスペースを運営している有識者に検討の段階から加わってもらうことが大切です。

そのコワーキングスペースはマネタイズできるのか?持続的な仕組みをつくるために

コワーキングスペースは、ハッキリ言ってとてもマネタイズが難しい施設です。言うならば「とても利益が出にくいカフェ」といったところ。行政主導のコワーキングスペースの場合、最初のうちは補助金や市町村の予算でまわるかもしれませんが、担当の地域おこし協力隊が抜けた後、予算が終わった後にはお荷物の箱モノになること必至です。

民間の場合も同様です。「軸となる事業があったうえで事業にメリットをもたらすからコワーキングスペースを運営しよう」の流れは継続できるモデルです。しかし、コワーキングスペースの運営そのものを目的とした会社の場合、継続率はとても低いのが現状です。また、1つ目のモデルの場合も、結局、事業のメリットになるよりも費用的に企業のデメリットになることも少なくありません。

コワーキングスペースを継続的にマネタイズしていくために大切なのは、具体的なKPIの設定と専門性です。具体的なKPIの設定に関しては、まずは利用者の属性統計を日々つけることをしましょう。目標値の設定と改善ができないコワーキングスペースの多くは、この利用者データの蓄積をしていないことが多いです。イベント含め利用者の統計を日々蓄積していきましょう。

専門性も、生き残りのために重要です。「ママさんが集まるコワーキングスペース」「IT人材が多いコワーキングスペース」「コーディネーターが設計士で建築系に強い」などの専門性がコワーキングスペースにラベリングされると、同じ属性の利用者が集まってきます。そうすることで、市町村や県のある分野の事業を委託したり、企業との連携可能性が高まります。「自分たちのコワーキングスペースの強みはどこにあるのか」を常に意識して、日々のイベント開催やPRを行いましょう。

まとめ-コワーキングスペースは手段、大切なのはつくる目的-

信州フリミ

本記事を通して皆さんにお伝えしたかったことは、「コワーキングスペースが地域にできれば活性化されるかも!」そんな甘い考えでコワーキングスペースを開設すると行政も民間も痛い目をみるということです。

総務省の補助金などの要件としてコワーキングスペースの設置が数年前から目にとまるようになりましたが、記事中でも触れたように大切なのはコワーキングスペースをつくる「目的」です。地域の将来像や希望の姿が描けていなければ、地域活性化策としてのコワーキングスペースは機能しません。コワーキングスペースはあくまで一手段であり、一選択肢です。地域の実情にあった場所を作り育てていくことが大切です。

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この記事を書いた人

Masato ito

長野県出身、日本学術振興会特別研究員、武蔵野大学アントレプレナーシップ研究所客員研究員、一橋大学社会学研究科所属。専門は社会学、政策学。2017年・2021年に創設に関わった2つのまちづくり事業が長野県地域発元気づくり大賞を受賞。後者は同年公民館アワードも受賞。現在は地方移住やまちづくり、地域政策に関する研究を行う傍ら、関連する分野のコンサルティングやアドバイザー、講師講演執筆などを行っている。毎日新聞、AERA、Oggi、Abema Prime Newsなど寄稿出演多数。