都民がかかえる「東京に住みたいけど、東京一極集中は是正したほうがいい」というジレンマ

「東京に住み続けたい都民の割合は87%、一方、東京一極集中は是正したほうがいいと思っている都民は75%」

そんな驚きの事実が浮かび上がりました。東京都知事選に合わせて実施された調査で浮かび上がりました。NHKは今回の東京都知事選挙に合わせて都民の意識を詳しく探ろうと、選挙期間中の6月21日から24日にかけて、18歳以上の都民1万人を対象にインターネットを使ったアンケート調査を実施。

この記事ではNHK調査の結果をもとに「東京一極集中は是正したほうがいいと75%の都民が思っているのに、なぜ東京一極集中は是正されないのか?(なぜ東京に住み続けたい人が87%もいるのか)」を検討分析していきます。

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「東京に住みたいけど、東京一極集中は是正したほうがいい」というジレンマ

東京都民1万人への調査の結果、87%の人が今後も東京都に住みたいと思っていることがわかりました。大手メディアや地方に関わる人々からは「コロナで地方移住が加速する!」と楽観的な予測が聞かれますが、現実は多くの東京都民が今後も東京都に住みたいのです。

しかし逆にいうと13%の人は東京都に住み続けたいと思っていないということです。もしこの13%が地方移住したいときに地方移住できる受け入れ態勢を整えたり情報を的確に届けたりできれば、東京一極集中の是正につながる可能性もあるでしょう。

興味深いことに87%の東京都民が今後も東京都に住み続けたいと思っている一方、東京一極集中は是正したほうがいいと思っている都民が75%もいるという事実です。このデータの読み取りは主に2つの方向性でできます。

1つ目は「自分は動かないけど一極集中を是正して住みやすくなってほしい」という他人事思考です。この考え方の人たちが多くを占めているため東京一極集中は是正しないと考えられます。

2つ目は「住みたくないけど住み続けないといけない」というしょうがなくの思考です。給料的に東京に住み続けざるを得ないから住んでいるけど、本当は自分ももっと違うところに行きたい!と思っている人は多くいるでしょう。この層の受け入れ整備と移動しやすくすることが地方移住施策では重要だと予想できます。

東京都民の87%はなぜ東京に住み続けたいのか?

東京一極集中の傾向はここ数十年とどまるところを知らず、2020年5月1日にははじめて東京都の人口が1400万人を超えました。これは日本の総人口のうち約9人に1人が、47都道府県総面積のおよそ1/200のエリアに住んでいることを指します。

世界的にみてもこれほど局所的に人口が集中している都市はまれであり、日本の東京が世界の他の都市とは違うといわれる1つの理由となっています。高くなりすぎた人口密度の東京で暮らすことは、その他の地域に住む人からみると「なんで、そんな狭くて暮らしにくいところに暮らすの?」となります。

物価も家賃も高く1人あたりの面積も極端に小さい東京。では一体、東京に住み続けたい人は何が魅力・要因となって東京に住み続けたいと考えているのでしょうか?これらのグラフはNHKによる調査の結果です。

最も多いのが「長年住んでいるから」、2番目に多いのが仕事があるから、3番目に多いのが交通の便がいいから、そして4番目が買い物や娯楽が充実しているからとなりました。

東京に住む明確な目的がある人ほど地方移住しやすい

上記の結果からわかることは、東京都民のおよそ3割が特段こだわりがあるわけではなく、長年住んでいるという理由で東京都に住んでいることです。この層は田舎に住む年配層が「昔からこの地域に住んでいるからこの場所を離れたくないな」という感覚と似ていると考えられます。つまり東京都という大都市がふるさとになっている層です。

東京がふるさとである層は他に魅力的な地域があってもあまり地方移住する可能性は高くないかもしれません。なぜなら東京都に住む理由はそこが東京都であるからであり、他の地域に住まない理由はそこが東京都ではないからです。一方、地方移住につながる可能性が高いのはそれ以外の具体的に東京都に住む理由を挙げている人たちです。

2番目に多い仕事があるという理由で住んでいる人は、東京都の仕事がなくなったりテレワークが可能になれば東京都に住み続ける理由は無くなります。3番目に多い交通の便を理由に挙げた人たちも地方版MaaSなどが加速したら地方に住むことを考え始めるかもしれません。

4番目に多い買い物や娯楽が充実しているという理由もオンラインショッピングが今以上に地方でも充実し、VRなどで娯楽が楽しめるとなれば地方移住可能性は0ではありません。東京一極集中の是正はデジタル技術の進化・普及と密接に絡んでいます。ここで挙がった理由の1つ1つの都市地方格差を縮めていくことで、東京一極集中の是正、ひいては地方移住加速につながるでしょう。

家賃や物価が高いから東京に住みたくない人が3人に1人以上

東京都民のうち東京に住みたくない人が挙げた理由がこちらです。最も多いのが家賃や物価が高いから、2番目に多いのが街や電車が混雑しているから、3番目に多いのが自然が少ないからという結果になりました。

家賃や物価は東京都と地方で大きく差があることは、これまでの調べからも明らかになっています。民間の賃貸住宅の家賃(3.3㎡)でみると、移住したい県14年連続1位 長野県の平均賃料は1ヶ月で約3万5,000円~4万円です。対して東京都では約8万円~9万円かかります。

若者の貧困化などとも絡んで「家賃や物価が高いのに、給料は安い」この状態に不満をいだいている人がとても多いことがわかります。街や電車の混雑も深刻です。地方の多くの地域では車移動が一般的なため、そもそも電車移動や街で混雑を感じることはありません。

自然が少ないから東京に住み続けたくない層は、従来の調査から特に子育て層に多いことが予想できます。子育て時期に子どもが自然に近い環境で育つことは教育的にも意義があります。ボール遊びも禁止され大声出すことも禁止され自然も全くない東京都で子育てすることのメリットは、子どもが小さければ小さいほどないのは明らかです。

1点注意点があるとすれば、東京都と一括りにしても地域によって状況は全く違うということです。自然が近い23区もありますし街は住みやすく電車もそんなに混雑していない地域もあります。学生街であれば家賃も安いでしょう。しかし東京と全体の傾向として上記のグラフのようになっているという事実は見逃せないポイントです。

最後に-東京に住みたいけど、東京一極集中は是正したほうがいいジレンマ-

東京に住みたいけど、東京一極集中は是正したほうがいいというジレンマになぜ陥っているのかを検証してきました。事情はそれぞれありますが、大切なのは「他人ごと」「他の人が頑張ればいいや」という思考にならないことです。みんなが「他の人が頑張ればいいや」と思っていても、結局、世のなかは変わりません。東京一極集中は是正されません。

東京一極集中が問題だと思うのであれば、まずは自分からできることがないかを考え行動する。考え行動した次には、周囲の人にその熱と問題意識をつなげていく。この循環からしか東京一極集中は是正されないでしょう。どうすればジレンマを乗り越えられるのか、1人1人の考えと行動に東京都の未来はかかています。

参考資料:東京都知事選都民1万人アンケート

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この記事を書いた人

Masato ito

国際大学GLOCOM研究員/講師。1996年、長野県出身。博士(社会学)。一橋大学大学院社会学研究科、日本学術振興会特別研究員を経て2024年より現職。専門は地域社会学・地域政策学。研究分野は、地方移住・移住定住政策研究、地方農山村のまちづくり研究、観光交流や関係人口など人の移動と地域に関する研究。多数の地域連携/地域活性化事業の立ち上げに携わり、2事業が長野県地域発元気づくり大賞を受賞。日本テレビDaydayやAbema Prime News、毎日新聞をはじめ、メディアにも多数出演・掲載。