コロナ収束後に地方移住は加速するのか?-新たな分断と共同体マインドを超えて-

ビッグローブが実施した「在宅勤務に関する意識調査」の調査結果第3弾が2020年5月7日に発表された。「日本国内で在宅勤務が一般的になった場合、社会現象として起こり得ると思うこと」という質問に対して、38.8%が「地方に住む人が増える」と答えた。

この報道後「コロナ後のニューノーマルな世界では地方移住が加速する」と感じた人は多いことだろう。実際にこのニュースは瞬間的に話題となりTwitterトレンドでも上位に入った。果たして本当に地方移住は加速するのだろうか?

コロナ後の地方移住加速と東京一極集中の是正はあまり期待できない

少し古いデータだが毎日新聞とNHK、明治大学地域ガバナンス論研究室(小田切徳美教授)の共同調査によると、2014年度の地方移住者数は1万1735人で、09年度からの5年間で4倍以上に増えている。

一方、2020年1月31日に総務省が発表した住民基本台帳に基づく2019年の人口移動報告によれば、東京圏(東京、埼玉、千葉、神奈川)は転入者が転出者を上回る「転入超過」が14万8783人で、前年より8915人拡大した。日本人と日本で住民登録している外国人を合わせた「総人口」で記録を始めた2014年以降、6年連続の転入超過となっている。

2つの調査データを比べて分かることは「大都市への転入者の伸びは地方移住者数の伸びより数が多く、依然首都圏一極集中は減速していない」事実である。

内閣府「東京在住者の今後の移住に関する意向調査」によれば、今後移住する予定又は移住を検討したいという東京在住者(今後1年以内、5年めど、10年めど、時期未定の合計)は約4割にのぼる。しかし実際に地方に移住している人の数は希望者のう5%程度というデータがある。

ビッグローブによる調査で注目を集めた「地方に住む人が増える」38.8%は、今後移住する予定又は移住を検討したい東京在住者の約4割とほぼ被る数値である。多少強引ではあるが、コロナによって地方に住む人が増えると思っている人の数は、これまでも地方に住む人が増えると思っていた人とほぼ同じ数だと考えることがこのデータからできるのだ。

地方移住者が増えるかは受け入れ側となる自治体の受け入れ態勢次第

地方移住に興味がある約4割がコロナをキッカケに移住をこれまで以上に現実的に考え始める可能性はある。しかしコロナによってオートマチックに地方自治体の受け入れ態勢が整うわけではない。地方移住者を本気で増やしたいのなら、コロナ対応と並行してコロナ前よりも移住しやすい環境を受け入れ側がつくっていく必要があるだろう。

ここからはコロナによって地方移住が増える場合にどのような取り組みを地方は行う必要があるのか、また地方移住が加速するとどのようなメリットデメリットが想定されるうるのか、いくつかのテーマに分けてみていく。

1, 地方移住加速は地方自治体間格差を拡大し「勝ち組」と「負け組」の分断を生む

2014年度の調査で明らかになった地方移住者1万1735人のうち、全体の48%は岡山県、鳥取県、長野県、島根県、岐阜県の上位5県に移住している実態がある。いま地方移住が加速している都道府県は、観光産業や伝統産業と同じく長年の取り組みがここにきて花開いているといわれている。

これは自治体に関しても同じことがいえる。これまでの移住促進の取り組みがここ数年で花開いた自治体には多くの移住者がきている。移住者が増えることでブランドや評判が高まりメディアに登場する機会も増え、移住者を受け入れる土壌も整うことでさらに移住者が来る。

移住促進は早くから取り組んでいた地域が圧倒的に有利であり、近年は長年移住促進に取り組んできた地域とそうでない地域の格差が拡大しているのである。コロナ後に地方移住が加速する場合も移住者が多い都道府県や自治体に移住者が増え、出遅れたところは厳しい戦いを迫られる。移住戦国時代ともいえる2020年代は、今まで以上に露骨に「勝ち組」と「負け組」の分断を生むだろう。

2, コロナで顕在化した「共同体マインド」は地方移住後の生活を憂鬱にさせる

「他県ナンバー狩り」に代表される偏見や排除の意識は、日本人の中でも特に地方で未だに残っている「共同体マインド」が顕在化した一例である。観光客や移住者など「よそ者」への冷たいまなざしは、残念ながら令和になってもいたるところに残っているだ。

郷土を愛するパトリオティズムはそれだけでは非難の対象にはならない。むしろ地域活性化や地方創生の文脈ではいかに郷土への愛着を高めるかがカギともいえる。しかし行き過ぎたパトリオティズムは、都道府県や自治体のローカリズム=地域第一主義に変貌し「うちの地域さえよければそれでいい」という自己中心性を生み出してしまう。

コロナ収束後に地方移住が加速したとしても、地方に残るさまざまなレベルの行き過ぎたローカリズム/共同体マインドはよそ者に対して不寛容にはたらく可能性が高い。地方移住において移住することはゴールではなくスタートであり、移住後の生活こそが人生に大きな影響を与える。

コロナのような大きな社会的危機に限らず、ちょっとしたことがキッカケで共同体マインドが顕在化しせっかくの楽しい地方移住後の生活が苦痛になる可能性を、「他県ナンバー狩り」や「感染者の特定とスピーディーな噂の広まり」は示すこととなった。

地方移住者の受け入れ側となり都道府県や自治体には、能動的に在住者と行政のマインドをアップデートしていくことが求められるだろう。具体的には、暗黙知の見える化や事前の情報共有、移住後のサポート体勢の強化など「共同体マインド」による差別や偏見が生まれにくい仕組みをつくっていくことが重要である。

まとめ-地方移住は複数アクターの構築物であることを忘れてはいけない-

地方移住は移住希望者が望めばすぐにできるものでは現時点ではない。住居の確保に関わる不動産屋・建築業者、テレビ番組の場合それに許可を出す所属企業、新たに職を探す場合は新しい職場の人々、地方自治体の行政担当者、家族などが少なくとも移住には関わる。つまり地方移住は複数のアクターが共同でつくりあげる構築物なのである。

ビッグローブの調査結果「地方に住む人が増える」と答えた人が38.8%いたことで「コロナ後は地方移住が加速する!」と短絡的に結び付けることは難しい。KAYAKURAには過去にコロナ後は地方移住や関係人口が増えると記している記事もあるが、それは多くの地方が望んでいる画と必ずしも同じになるとは限らない。

地方移住や関係人口増は口を開けて待っていても実現されない。途中ふれたように「いかに早く移住者増に取り組むかがカギ」であることにコロナ下の現在も変わりはない。数年後にコロナ以降移住者が増えたと振り返る都道府県や自治体は、コロナ対応と並行して移住者増のための態勢を整えられた地域なのである。

KAYAKURAでは地方移住・新しい時代のライフスタイルに関する講座や勉強会の講師・WSのファシリテーション、執筆、関連した地域活性化・地方創生・観光インバウンドなど関連事業のサポート/コーディネートを行っております。お困りの方はお問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。

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この記事を書いた人

Masato ito

国際大学GLOCOM研究員/講師。1996年、長野県出身。博士(社会学)。一橋大学大学院社会学研究科、日本学術振興会特別研究員を経て2024年より現職。専門は地域社会学・地域政策学。研究分野は、地方移住・移住定住政策研究、地方農山村のまちづくり研究、観光交流や関係人口など人の移動と地域に関する研究。多数の地域連携/地域活性化事業の立ち上げに携わり、2事業が長野県地域発元気づくり大賞を受賞。日本テレビDaydayやAbema Prime News、毎日新聞をはじめ、メディアにも多数出演・掲載。