人間中心主義からの脱却とニューノーマル-コロナ後の「共生」と「持続可能性」-

新型コロナウイルス終息後に訪れる新しい日常を指して「ニューノーマル」と呼ぶ。日本でもコロナ後の日常を指して「アフターコロナ」「ポストコロナ」「ウィズコロナ」といった言葉がよく聞かれるようになっている。政府も「新しい生活様式」と名付けたコロナ拡大を防止する生活の在り方を周知しようとしている。

ニューノーマルはコロナ前とは異なる慣習・ライフスタイルを私たちに求める。コロナ前と大きくライフスタイルは変わるのか、それとも変わらないのか。ニューノーマルが日本より早く訪れている中国・欧米の動向を注視することが求められるが、ここで1度立ち止まって考えてみたい。

キーワードは「人間中心主義からの脱却」「環境・動物との共生」「持続可能性」「SDGs」である。

ニューノーマル(コロナ後)とビフォーノーマル(コロナ前)とコロナ下の差異

ニューノーマルつまりコロナ後の新しい日常を指す言葉があるということは、コロナ前の日常もコロナ下の日常もあったということだ。ではコロナ前の日常・コロナ下の日常とはいったいどのようなものだっただろうか?

コロナ前の日常は世界的にはリーマンショックから10年以上が経過し、北朝鮮問題・シリア問題・米国大統領選・ブレクジットなどが世間を賑わせていた。東日本大震災以降、度重なる震災に見舞われながらもその都度立ち上がりそれ以前とあまり変わらない生活を送ってきたように思う。

東日本大震災後、日本全体は「新しい日常を作っていかなければならない」とまさに現在と同じ「ニューノーマル」を目指していた。しかし気がつけばエネルギー問題、働き方問題、人工都市一極集中の問題など劇的に変わることはなく、それまでの延長線上にあった。人間がいかに忘れやすいか分かった10年だったように思う。

コロナ前の日常と比較してコロナ下の日常はどうだろうか?現在進行形のコロナ下の日常は人と会うこと・移動をできる限り避け、電子化できるものは電子化し、外出自粛することが求められている。

ある学者は「20世紀は工業と戦争の時代、21世紀は観光の時代だ」と評したが、21世紀を象徴する産業である観光は同じく近現代を象徴する「移動(Modernity)」の制限と共に窮地に陥っている。コロナ下の日常の本質は「移動の制限」と「できる限りの電子化」であるといえるだろう。

コロナ下に再生した環境と動物の日常

コロナ下の日常は、人間に大きなストレスを与えていることは間違いない。飛行機・電車・バス・車など多様な手段を用いて移動することは現代を生きる人間のアイデンティティであるといっても過言ではないが、それが制限されたのだから。

人間がストレスを受けているなか、自然環境や動物の日常はストレスから解放され再生されていることがさまざまなメディアで報じられている。

フィンランドの独立研究機関であるセンター・フォー・リサーチ・オン・エナジー・アンド・クリーンエアー(CREA)の分析によると、コロナにより経済が停滞した影響で中国だけでも2億トン分の二酸化炭素が大気中に排出されなくなり、中国の二酸化炭素排出量は25パーセントも減少した計算になるという。

CNNによればインド北部のパンジャブ州で、200km近く離れたヒマラヤ山脈が数十年ぶりに見晴らせるようになり、市民を感嘆させている。インドの首都デリーでは、規制が始まった日に微小粒子状物質「PM10」が最大で44%減少。全土のロックダウンの1週目は、85都市で大気汚染が改善した。

新型コロナウイルス感染拡大防止のために原則として外出を禁止したイギリス。HUFFPOSTによればウェールズのランディドノ―では、野生のヤギの群れおよそ120頭が街にやってきて垣根や花を自由に食べているという。

このように人間が行動を自粛しストレスをかかえている一方で、人間によって汚染された環境は一時的に回復し、狭い土地に追いやられていた動物たちは自由に移動ができるこの状況下を楽しんでいる。

ニューノーマルはコロナ前より良い世界が訪れるのか

私がここで言いたいのは「明るい未来としてのニューノーマルは努力なしにはやってこない」ということだ。コロナによって一時的に再生された環境と自由を得た動物たちの行動は、現代を生きる人間がいかに人間以外の全ての生き物と環境を抑圧しストレスを与えてきたかを見える化した。

一時的に回復した環境だが、ニューノーマルでコロナ前と同じように経済活動がなされ移動が活発化すればすぐに元に戻るだろう。「テレワークによって移動は減少し温室効果ガスも減るのでは?」と思っている人もいるかもしれないが、事態はそう単純ではない。

例えば、在宅勤務中の人々はこれから夏に入ると冷暖房を1日中使うことになるだろう。社員が少なくなったオフィスでも社員が残っている限りこれまでと変わらず電力は消費され続ける。オフィスでの冷暖房利用+在宅勤務者の冷暖房利用によって、コロナ前よりも冷暖房利用が加速してしまうかもしれないのである。

一時的に観光を含む移動がストップしたことで、大量の二酸化炭素をまき散らす飛行機や排気ガスを排出する車は極端に減った。しかしコロナ収束後は自粛の反動として大量の観光客が国内外を旅することが予想される。現に収束しつつある中国では、5月上旬の土日に約1億人が移動/観光したといわれている。また観光自体は長い目でみると成長産業であるため、数年たてばもとの水準をはるかに上回る市場規模となるだろう。

ニューノーマルの鍵を握るのはSDGs

2015年の国連サミットで採択され2030年までに17の目標を達成することを掲げたSDGs(持続可能な開発目標)は、ニューノーマルのスタンダードを示している。ニューノーマルが、コロナ前と同じ人間中心的で環境や他の生き物を抑圧する日常に戻らないためには、人間が少しの我慢と努力をする必要がある。

端的にいえばコロナ前の日常は経済的にも社会的にも環境的にも「持続可能」ではなかった。大量の二酸化炭素を排出し、毎朝満員電車に揺られながら出社して夜まで残業し、環境を破壊してエネルギー源となる資源を得る、これは持続可能ではなかったのである。

コロナ後の世界を指すニューノーマルが目指すべきは「持続可能な日常」であり、それはSDGsが掲げる目標が達成できるような日常を実現することと同義である。

目標7「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」目標13「気候変動に具体的な対策を」は、環境にストレスをかけない日常を指す。目標14「海の豊かさを守ろう」目標15「陸の豊かさも守ろう」は海や陸で過ごす人間以外の生き物にストレスをかけない日常を指している。目標8「働きがいも経済成長も」目標11「住み続けらるまちづくり」は、コロナ前に人間が感じていたストレスを減らすことを指している。

2030年までにSDGsで掲げられた目標を達成することは1人1人の努力、企業/行政の努力、国家レベルの努力がかかせない。そして努力は少しの不自由さと我慢も人間に求めることだろう。しかしコロナによって人間がいかに普段、環境や他の動物にストレスをかけているかは明らかになった。人間中心主義的な思想からはそろそろ脱し、本気で環境や他の動物との共生と持続可能性を促進させていくときが来たのかもしれない。

明るいニューノーマルを実現するためにも少しの我慢と努力ができるか。1人1人に日常レベルの行動変容が求められている。


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この記事を書いた人

Masato ito

1996年長野県生まれ。大学在学中に自身が代表を務める事業が長野県地域発元気づくり大賞を受賞。現在は一橋大学社会学研究科にて国内移住に関する研究を行いながら、KAYAKURA代表として長野県を主なフィールドに観光インバウンド・移住・まちづくりのコーディネート・プランニング・調査・PRを多数手がける。2019年からは都内の企業と地方の企業や自治体をつなぐ新たな取り組みも開始。訪日観光客向け観光情報発信サイトNAGANO TRIP運営。池田町第六次総合計画審議委員。週刊SPAや公益社団法人 日本観光振興協会発行『観光とまちづくり』など寄稿多数。2019年4月から東京都国立市と長野県池田町の2拠点居住実践中.