まちづくりや地域活性化、移住について様々な角度から考察するメディアKAYAKURAですが、今回は社会学用語「官僚制」に注目してみます。
社会学用語の中では、比較的、日常的にも使われるこの言葉。一般的なイメージは「官僚や行政職員が支配している状態」みたいな感じだとと思います。
「学問用語知って、意味あるの?」と思う方もいるかもしれませんが、様々な学問分野に蓄積されている用語には、いままさに私たちが取り組んでいる課題の解決の糸口になるものも少なくありません。
大切なのは言葉ではなく、言葉が指し示すものです。記事の中身は最初から丁寧に読んでいくと「あぁ、なるほど」と分かる内容になっています。警戒することなく、ぜひ読んでみてください。
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官僚制は行政や支配体制だけを表す言葉ではない
社会学における確固とした官僚制の定義はありませんが、現代社会学辞典によると官僚制とは「認められた手続きによる命令の正しさに基づいて、雇用された官僚が行う支配体制の典型的な形態あるいは、それに準じて行政以外の組織にも適用される組織原理」です。
簡単に言うと「正しさに基づいて官僚が行う支配のカタチ、あるいは官僚が行う支配のカタチに近い方法が適用された組織のカタチ」となります。
ポイントは官僚が行う支配体制だけを指しているわけではないということです。官僚が行う支配の形式が他の職業や組織に当てはまる際にも官僚制という言葉が使われるのです。
マックス・ウェーバーの官僚制は3類型ある
ウェーバー,M.は、「支配の社会学」という有名な本の中で官僚制について触れています。本題に入る前に補助線として、ウェーバーが定義した支配の形式について触れておきましょう。ウェーバーは支配には3つの形式があると言います。
→マックス・ウェーバーについて詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
カリスマ的支配はカリスマが全ての権限を握る支配状態
カリスマ的支配とは、圧倒的な存在感と権力を持ったカリスマが全ての権限を握り支配する状態です。ナチスのヒトラーによる全体主義的な支配はカリスマ的支配にあたりますし、ソ連のスターリン政権もカリスマ的支配にあたります。
カリスマ的支配のポイントは、フォロワーによる情緒的服従に支えられた支配の形式です。情緒的=感情的なので安定性がありませんが、ある種の爆発力を持つこともありますその爆発力は時には革命へと接続します。
伝統的支配は伝統に裏打ちされた支配状態
伝統的支配とは、伝統=これまで長く続いてきた定型的な営みに裏打ちされた支配を指します。簡単に言うと「この地域では、代々○○家が支配してきたから、次の首長は○○家長男のお前な」みたいなことです。
合法的支配は形式的に定められた規則のもとでの支配
合法的支配とは、形式的に正しい手続きで定めらえた制定規則のもとで行われる支配を指します。正しい手続きによって定められているから従う。たったこれだけのことですが、非常に有効な支配形態です。そして、この合法的支配の代表的な支配形態が官僚制なのです。
ウェーバーは、近代的官僚制の特徴として、
- 規則により秩序付けられた権限
- ヒエラルヒーの原則
- 文書の重視
- 専門的訓練を前提とした職務
- 官僚の全労働力を要求する職務
- 一般的職務に従った職務執行
官僚制組織はとても優れています。規則によって秩序付けられたとおりに物事を進めるので無駄がありません。ヒエラルヒーも決まっているので命令系統が明確です。口伝えではなく文章で物事を伝わっていくので正確ですし、専門性が高い人が職務にあたるので早く進みます。優れたシステムなので、官僚制は行政だけでなく大型スーパーマーケットや飲食店でも取り入れられていくのです。
個人的な感情に影響されず規則に従って物事を進めていくからこその「行動の計算可能性」が官僚制の特徴であり、近代社会の経済発展にとっては欠かせない重要なシステムでもあるのです。
→3つの支配形式と深く関連する社会学用語「寡頭制(政治体制の種類を表す概念で、少数者による支配を否定的に評価する際に用いられる)」について深く知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
官僚制には逆機能と呼ばれるデメリットも多くある!
一見すると優れた面ばかりに思える官僚制ですが、そんなことはありません。
例えば、アメリカの社会学者マートン,R.K.は、調査によって官僚制の逆機能を発見しました。本来は、目標を達成するための手段であったはずの官僚制という制度が、いつの間にか「官僚制を維持する」ことが目的になってしまうというのが官僚制の逆機能です。
これ以外にもたくさんの逆機能、弱点があることが分かってきました。
先ほどの1~6を批判的にみてみましょう。
1 規則により秩序付けられた権限→規則によって秩序付けられていないことはやらないメンタリティーが構築される。
2 ヒエラルヒーの原則→ヒエラルヒーに縛られるあまり、上司が間違ったことを言っていても指摘できない。上司に言われたことは絶対なので、法を犯すような不正も時にはやってしまう。
3 文書の重視→文書を重視するあまり、手続きのための文書が大量になったり、文書に書かれていないことはやらなくてもよいとなってしまう。また、文書さえ上手に書かれていれば、中身が無くても助成金がもらえるというような事態も起こりうる。
4 専門的訓練を前提とした職務→専門性が高まる一方で、自分が担当している部分以外のことが全く分からない。自分が担当していないものはどうでもいいというメンタリティーが生まれる。横のつながりが薄くなる。
5 官僚の全労働力を要求する職務→全労働力を要求するあまり、有休がとりにくかったり、自分の仕事が終わっても他の人が終わっていないから帰れないという事象が生じる。
6 一般的職務に従った職務執行→一般的な職務を淡々とこなしていくので、突発的な職務に対応できない、またイノベーティブなアイデアが生まれにくい。
ということで、1~6すべてにおいてプラスな面もあればマイナスな面もあるということが明らかになってきました。
僕が思う官僚制の最大の問題点は、「思考停止性」です。ヒエラルヒーや規則によって責任感が薄くなり、専門性の高まりや一般的職務によってやらなくていいことはやらなくなる。その結果、物事を向上させようとか、プロジェクトをもっとうまく進めていこうというような思考そのものが停止し、ロボット化していってしまうのです。
今までの時代はそれでもよかったかもしれないですが、AIの発達等によってロボットにできることはロボットに代わっていくでしょう。そうしたときに、官僚制に基づく業務は最も簡単にロボットに置き換えられる仕事と言っても過言ではないかもしれません。
まとめ-官僚制について考えたウェーバーをさらに深く知りたい方へ-
今日は官僚制について取り扱いました。官僚制のプラスの面とマイナスな面、両方をしっかりと押さえておきましょう。なおウェーバーについてより深く知りたい方は、こちらの記事で紹介する本がおすすめです。
KAYAKURAでは他にも多数社会学の用語解説記事を掲載していますので、ぜひご覧ください。
■参考文献
・現代社会学辞典
https://www.amazon.co.jp/%E7%8F%BE%E4%BB%A3%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E5%AD%A6%E4%BA%8B%E5%85%B8-%E5%A4%A7%E6%BE%A4-%E7%9C%9F%E5%B9%B8/dp/4335551487
・社会学の歴史Ⅰ
https://www.amazon.co.jp/%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E5%AD%A6%E3%81%AE%E6%AD%B4%E5%8F%B2I-%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E3%81%A8%E3%81%84%E3%81%86%E8%AC%8E%E3%81%AE%E7%B3%BB%E8%AD%9C-%E6%9C%89%E6%96%90%E9%96%A3%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%9E-%E5%A5%A5%E6%9D%91-%E9%9A%86/dp/4641220395