2020年12月のNHK 100分de名著で取り上げられることで注目されているフランスの社会学者ピエール・ブルデュー。その思想や研究は後世に大きな影響を与えていますが、わかりやすく経歴や主著、そして解説本をまとめた記事はあまりありません。
そこで本記事ではできる限りわかりやすくピエール・ブルデューに関する情報を解説していきます。正確さよりもわかりやすさに軸をおいているため、不足している情報もありますが記事を読んでより興味関心が湧いた人は、後半で紹介するおすすめの本などをぜひ読んでみてください。
「そもそも社会学って何?」という方はこちらの記事もご覧ください。
ピエール・ブルデューの経歴
ピエール・ブルデューは1930年に生まれ2002年に亡くなったフランスの社会学者です。若い頃に兵役でアルジェリアに動員され、その地で植民地支配下の農民たちの被剥奪と、それに対抗する生存戦略を間近で観察する機会を得ました。このことはブルデューに民俗学・社会学の道に進むことを決心させます。
その後、いくつかの大学を経て1981年にフランスの学問・教育の頂点に位置する国立の特別高等教育機関(グランテタブリスマン)であるコレージュ・ド・フランスの教授に就任しました。1990年代からはグローバル化や新自由主義、メディアに対する批判を行い、政治的・社会的なことに積極的に参加しました。
1975年には雑誌『社会科学研究紀要』を創刊し、1993年に社会科学者としては初めて、フランス国立科学研究所(CNRS)のゴールド・メダルを受賞しました。このことからもブルデューの業績のスゴさがわかります。
ピエール・ブルデューの有名な研究・本を一部紹介
ピエール・ブルデューの研究対象はとにかく広く、そのカバー範囲に多くの研究者が圧倒されてきました。教育、言語活動、芸術の享受、階層と文化的趣味、家族、婚姻、メディアなどを対象にしており、全てを紹介することは難しいため、ここでは有名な研究/主著の一部を紹介します。
ここで紹介しているもの以外にも、『社会学の社会学』『構造と実践』『話すということ』『資本主義のハビトゥス』『社会学者のメチエ』『芸術の規則』『自由―交換』『ホモ・アカデミクス』『教師と学生のコミュニケーション』『ハイデガーの政治的存在論』 『政治』『住宅市場の社会経済学』『リフレクシヴ・ソシオロジーへの招待』『実践理性』『結婚戦略』『国家の神秘』『パスカル的省察』『科学の科学』『自己分析』『国家貴族』『介入』『男性支配』『知の総合をめざして』などの著作があります。
『遺産相続者たち』
ブルデューの社会学の原点といえるのは、『遺産相続者たち――学生と文化』です。この本では、今日まで広く用いられる経済資本と並ぶ「文化資本」の概念を提唱し、大学での学業達成度に出身階層が大きく作用していることを実証しました。文化資本についてより詳細に知りたい方は以下の記事をご覧ください。
『再生産』
『再生産』の中で、ブルデューは「文化」は階層や種々の社会集団を差異化し、権威づけや貶価を行う作用をもち、支配の手段にもなるうるといいます。文化のもつ象徴の次元は力関係を覆い隠す働きをするので、必ずしも支配を支配と意識させない特徴があります。ブルデューとパスロンはこうした権力のあり方を「象徴的暴力」と呼び、『再生産』のなかではその代表例として教師の生徒に対して行う教育的な働きかけを取り上げています。
『世界の悲惨』
『世界の悲惨』は、ブルデューとその弟子ら23人が、52のインタビューにおいて、ブルーカラー労働者、農民、小店主、失業者、外国人労働者などの「声なき声」に耳を傾け、その「悲惨」をもたらした社会的条件を明らかにした本です。2019年12月から3分冊で日本では刊行されました。
2020年12月NHK100分de名著で取り上げられる「ディスタンクシオン」とは
2020年12月にNHKの番組100分de名著で取り上げられることが決まったブルデューの著作『ディスタンクシオン』。1979年に発行され1984年に英訳が、1990年に日本語訳が発行されたこの本は、ブルデューの代表的著作です。
内容はブルデュー自身が行った実証研究に基づくもので、強引にまとめるならば、家庭環境(階級)や教育程度の違いによって選択も異なり趣味も変わってくるということを、統計的な分析やインタビューなどさまざまな研究手法を用いて明らかにした本です。
100分de名著で解説を担当する社会学者の岸政彦さんは『社会学はどこから来てどこへ行くのか』の中で、次のように語っています。岸さんが夢中で読んだその本の魅力とは、放送が楽しみです。
あれ(『ディスタンクシオン』)は大学二回生のときに夢中で読んで「俺の本だ!俺のことが書いてある!俺が全部いままで見てきたことだ」って思った。その辺の雑草みたいな家で育って、進学校入って、みたいな。自分が見てきた階層格差がぜんぶ書いてある、って。一言一言なんの違和感もないと思った。あの本に関してはね。
岸政彦, 北田暁大, 筒井淳也, 稲葉振一郎, 2018 ,『社会学者どこから来てどこへ行くのか』有斐閣, p122.
ピエール・ブルデューに関する日本の書籍
ピエール・ブルデューに関する本は日本でもいくつか出版されています。ここでは数ある中から3冊を簡単に紹介します。
『ブルデュー 闘う知識人』
筆者の加藤晴久氏はピエール・ブルデューとの親交が深く、邦訳のほとんどに関与しています。主な訳書として『パスカル的省察』『自己分析』『実践理性』『市場独裁主義批判』『科学の科学』などがある加藤氏による本書は、ブルデューの生い立ちや知の世界でいかに影響力を持ったのかに迫った1冊。ブルデューの意外な素顔なども知ることができる、入門書としておすすめの本です。
『認識と反省性』
膨大な未邦訳文献と一次史料を用いて、ブルデュー理論の独自性を浮き彫りにしていく本書は、2020年に発売されたばかりですがブルデューについて深く知りたい人にとってはすでに必読の1冊です。本書の書評に関して出版当時少し炎上しましたが、5,500円(新刊の価格)払う価値のある大作だと私は思います。
『差異と欲望』
NHK100分de名著で取り上げられる『ディスタンクシオン』の解説書です。『ディスタンクシオン』はとても長く難しい本ですが、この本ではわかりやすくその内容が解説されており、100分de名著を観る際はこの本も一緒に買うといいのではないでしょうか。
まとめ

わかりやすく解説すると言いつつ、一部難しくなってしまいましたが100分de名著で取り上げられるのを機に、これまでブルデューに触れたことが無かった人にブルデューの魅力を感じてもらえたらと思います。ブルデューの著作は発刊から数十年経ちますがその理論は全く色褪せることなく、いま私たちが生きる社会を考えるヒントを与えてくれるはずです。
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参考資料
・R. ハーカー, C. マハール, C. ウィルクス, 1993,『ブルデュー入門-理論のプラチック-』昭和堂.
・岸政彦, 北田暁大, 筒井淳也, 稲葉振一郎, 2018 ,『社会学者どこから来てどこへ行くのか』有斐閣.
・日本大百科全書.
・ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典.
・宮島喬, 2012,「ブルデュー」『現代社会学辞典』弘文堂.