1990年代末~2000年代に「カリスマ○○」という言葉が流行った時代がありました。いまでもある分野のすごい人を指してカリスマと表現されることはありますが、正確な意味や語源はよくわからない曖昧な言葉の1つです。
カリスマとは古代ギリシア語で「神の恵みの賜物」の意味する言葉で、非人間的な資質や能力をもった人をさしてつかわれます。
カリスマの語源は旧約聖書にあり、英語ではそのままCharismaと記述されます。社会学者マックス・ウェーバーが提唱した支配体系の一つとして「カリスマ的支配」と用いられたことで一般化していきました。
この記事ではカリスマの定義や意味、語源、用法をできる限りわかりやすく解説していきます。ただ語源が複雑なため一部難解になることを先に断ります。
カリスマの定義・意味
カリスマは古代ギリシア語で「神の恵みの賜物」を指す言葉です。一般的には「超人間的・非日常的な、資質・能力」「英雄・預言者・教祖などにみられる民衆を惹きつける言葉」を意味します。
学術的にはマックス・ウェーバーが原始キリスト教団における限定的なゾーム『教会法』の用法を一般化して、「特定の事物ないし人物にのみ宿り、非日常的な能力をもたらす天与の資質」という意味で用いられます。
マックス・ウェーバーの用法は従来のキリスト教のカリスマ概念を拡張したものであるため、呪術師・シャーマン・預言者・英雄戦士・教祖などに対して用いられることがあります。カリスマはこれまでの常識や一般的な事象など当たり前のことが立ち行かなくなった「危機」に瀕したときに出現し、伝統を突破する革命→転覆への指導支配に「正当性」を賦与する根拠となるのです。
これらの定義からわかることとして、日本語では一般的に「カリスマ」=「人」の意味でつかわれることが多いですが、超人間的・非日常的な資質や能力そのものを指して「カリスマ」ということがある点に注意が必要です。
カリスマは日本語でなんというか
もともとカリスマという言葉が持っていた意味で考えると「神格」「神格的」などがそれにあたります。しかし現代日本で使われているカリスマという言葉はそこまで重々しい意味ではないため、ピッタリ当てはまる言葉がないのが現状です。
カリスマが日本で広まった理由
1999年4月から1年間放送された、都内の人気ヘアサロンから美容師を集め1対1のリーグ戦形式で対決する深夜番組『シザーズリーグ』が日本でカリスマという言葉を広めたといわれています。
この番組に出演した”人々の心を魅了する資質”を持つ人気美容師が「カリスマ美容師」と呼ばれ、全国的に「カリスマ美容師」ブームが起き、この年に「カリスマ」は新語流行語大賞にも入賞しました。
カリスマの語源
ギリシア語で「恵み」「恩愛」を意味する「カリス」に由来する言葉です。用法としてのカリスマの語源は旧約聖書にあります。旧約聖書では、ヨセフ・ヨシュア・サウル・ソロモンに下って、特別の功業をなさしめるヤハウェの霊を指してこの言葉が登場します。また新約-パウロ書簡では、罪からの救いと永遠の生命を与える神の恩寵の賜物を意味する言葉として使われます。
マックス・ウェーバーのカリスマ的支配とは
社会学者マックス・ウェーバーは、正統的支配の三類型の一つとして、合法的支配・伝統的支配とカリスマ的支配を提唱しました。カリスマ的支配は、支配される側が特定の個人がもつ非日常的な資質や能力(カリスマ)への信仰から、みずから進んで服従するような仕方で行われる支配を指します。
カリスマ的支配が永続化し後継者の問題が生じてくると日常化して、伝統化や合理化(合法化)の道をたどることになります。歴史上では王様による支配がこれにあたるでしょう。マックス・ウェーバーが提唱した正統的支配の三類型についてより詳しく知りたい方はこちらの記事もご覧ください。
まとめ-カリスマは日本で使われ始めていまだ20年の新しい言葉-

カリスマという言葉は日本で普及してまだ20年と意外と新しい言葉ですが、その語源は古く旧約聖書にさかのぼることをみてきました。また日本で普及した際に海外で用いられる意味合いよりもラフな意味合いで普及しました。このことから海外で「カリスマ」という言葉をつかう際は、日本で使われているようなラフな感覚で使うと誤解される可能性があるため、注意が必要です。
KAYAKURAではこのほかにも、知って得する社会学用語の解説記事を多数掲載しています。興味関心のある方はこちらの記事もぜひご覧ください。
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