安易な行政批判という病-特別定額給付金の例から考える住民意識のアップデート-

新型コロナウイルス対策として国民1人あたり10万円を配る特別定額給付金について、時事通信社が郵送で全国52の県庁所在地・政令市にアンケート調査を行いました。

調査の結果、5月25日時点で郵送申請による受付での給付開始時期について52自治体中30市区が6月と回答。半数は郵便受付の開始も6月になると回答しました。また調査により人口100万人以上の11都市では9市が6月給付となることがわかり、大都市ほど給付が遅れる傾向にあることも判明しました。

調査の自由記述欄/政府への要望欄では、行政職員からの多くの苦悩の声が寄せられました。一方で事情を理解しておらず他自治体と安易に比べて行政の給付遅れを批判する住民の行動が問題になっています。社会的危機の状況下で顕在化する「安易に行政批判する住民という病」を考えていきます。

自治体によって時期が異なる特別定額給付金の申請給付時期

時事通信社の調査の中で、給付が最も早かったのは5月13日と回答した津市。6月給付とした自治体は支給日が未確定の所も多く、「6月中」とした名古屋市が最も遅くなる可能性があるとのことです。このことから自治体によって給付時期は大幅に異なり、5月末時点でもいつから支給できるか決まっていない自治体が多くあることがわかります。

調査の中でとある市の担当者は「人口が多いほど事務処理での手作業を減らす必要があり、システム開発に時間がかかる」と回答しており、人口が多いほど給付が遅くなる傾向にあることがわかります。確かに人口800人の村と100万人を超える市では後者の方が手間も時間もかかるのは、誰の目に見ても明らかです。

政府の希望的観測と実施主体である自治体の摩擦

菅義偉官房長官は4月に支給開始について「5月のできるだけ早い時期に」と発言していますが、給付の実施主体は各自治体です。支給開始時期について政府が希望的観測で広報したことで、住民が「5月にはもらえるんだ!」と安易な期待をしてしまう構造が生み出されたことは、住民から行政への批判を生み出した1つの問題点だといえます。

また政府は特設ホームページで各自治体の給付状況を公表していますが、これに対しても各自治体の準備状況を公表し競わせるような構造・批判しやすい構造を生み出しているという事実は問題だといえるでしょう。

高まる自治体への不満と増える住民からの批判

時事通信社の調査に対して堺市の担当者は政府の言動に対し「『なぜうちの市はこんなに給付が遅いのか』という不安を募らせ、膨大な苦情の誘因になっている」と指摘しています。急ぐあまり事務処理に間違いが生じたり、苦情対応に時間と労力がそがれるとより一層、対応が遅くなってしまいます。

今回の特別定額給付金の給付遅れに対する住民からの批判や不満から、私たちがいま改めて考えるべきは「安易な行政批判というです。政府の発表が批判を誘引した面もありますが、それ以上にこの問題が顕在化させたのは住民が「行政はいつでもどんな理由でも批判してよい」という意識です。

筆者はここ数年、まちづくりや観光インバウンド促進事業で地方自治体と仕事をしたり、自治体の総合計画策定委員を務めたりすることがあります。筆者自身、行政とお仕事をする中で不満をいだくことはありますがそれ以上に驚かされるのが、住民からの批判の多さと質の低さです。

特別定額給付金の件でいえば、自治体の中には給付申請の開始についてWebサイトなどで随時情報を更新しているところが多くあります。自治体の規模が異なれば事業の進み方にもバラツキが出ることは大人であれば理解できるでしょう。

給付申請の時期がわからなくても問い合わせるときにも「いつになりますか?」と問い合わせればよく、「○○と比べてうちは給付が遅いがどうなっているんだ!」と不満や批判として表出させても時期は変わりません。ただ余計なプレッシャーと時間をかけて仕事の質を低下させるだけでしょう。

いまや昔の行政とは違う-行政を批判しても事態は変わらない-

一昔前の行政には「安定した収入で1日中建物の中にいて定時に帰れて楽な仕事」という側面が一部ではたしかにありました。しかしそれはいまや過去の話で、現在は多くの自治体で人員カットによる1人あたりの仕事量の増加や土日のボランタリーな出勤、住民からの批判苦情対応によるストレス過多など、行政も多くの苦労をしながらなんとか自治体運営を行っています。

筆者はさまざまな自治体でまちづくりのWSを行う際に、いくつかあるルールの中に「行政のせいにしない」というルールを盛り込みます。なぜなら「それは俺たち住民じゃなく行政の仕事だ。行政がいけない。」と言った瞬間に、課題は自分事ではなくなり参加者の思考がストップするからです。

もし行政のせいにする場合には、具体的な対応策を頑張って考えたり、行政以外がそれを行う際にどんな方法があるか考えたりすることを求めます。なぜなら多くの行政では日々の業務に忙殺され新しい案を考える余裕も、課題解決を行うための予算もないからです。これは特に地方の自治体で深刻な問題です。

最後に-行政批判だけして考えず行動もしない住民という荷物-

行政自体の変革は確実に必要です。しかし同時に、なんでも行政のせいにして自分たちの地域のことを考えず行動もせず「もっと暮らしやすい地域になればいいのに~」と言っている住民は、行政以上に課題であり変革が必要な存在です。

地域のことを自分事として考えている住民が多い地域ほど、これからの時代には持続し暮らしやすい地域がつくられていくでしょう。必要なのは「批判しあって対立すること」ではなく「相手の合理性と事業を理解すること」です。

特別定額給付金の例で考えるとわかりやすいでしょう。「なんでうちは給付が遅いんだ!」と批判しても事態は変わらず苦情対応でさらに給付申請が遅れるだけですが、「人口規模によってペースは異なるよな」と1人1人の住民が事情を理解すれば苦情対応の時間は減り職員のストレスも減少します。

「行政への批判の前にまずは自分で考えてみる」ことができる自立した住民を増やしていくことが、これからのまちづくりでは鍵になります。企業化した行政に全てを求める考え方から、昔の地域共同体/コミュニティを基盤とした「自分たちのことは自分たちで行う」考え方へ変えていく必要があるのかもしれません。

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参考資料
・給付に支障、不満噴出「競わせないで」「調整を」―国と自治体、溝あらわに
・県庁所在地、半数超が6月 10万円給付、大都市で遅れ―全国調査・新型コロナ

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この記事を書いた人

Masato ito

1996年長野県生まれ。大学在学中に自身が代表を務める事業が長野県地域発元気づくり大賞を受賞。現在は一橋大学社会学研究科にて国内移住に関する研究を行いながら、KAYAKURA代表として長野県を主なフィールドに観光インバウンド・移住・まちづくりのコーディネート・プランニング・調査・PRを多数手がける。2019年からは都内の企業と地方の企業や自治体をつなぐ新たな取り組みも開始。訪日観光客向け観光情報発信サイトNAGANO TRIP運営。池田町第六次総合計画審議委員。週刊SPAや公益社団法人 日本観光振興協会発行『観光とまちづくり』など寄稿多数。2019年4月から東京都国立市と長野県池田町の2拠点居住実践中.