ファシリテーターとは?-プロのファシリテーターがわかりやすく解説・役割やコツ・よくある質問に答えます!-

近年地域の講座やワークショップ、ゲストが複数人いるイベントなどでファシリテーターという言葉を耳にすることが増えてきました。しかし未だにファシリテーションの意味やファシリテーターが何をする人なのか分からない人も多いはず。

ファシリテーターとして自治体や民間団体からの依頼で数多くの場でファシリテーション行っている筆者が「ファシリテーションとは何か?」「ファシリテーターと司会進行・MCの違いは?」「これからの時代のファシリテーターに求められるスキルや像は?」といったよくある疑問に、実例を交えながら丁寧に答えていきます。

※本記事で解説する「ファシリテーター」は、数あるタイプの中でも社会系で講座やイベント・WSで運営と進行を同時にこなしていくようなファシリテーターです。ビジネスにおけるチームビルディングや目的達成のためのファシリテーションとは少し異なりますのでご了承ください。

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ファシリテーターとは?

そもそもファシリテーションとはなんでしょうか?日本でファシリテーションの能力を広める活動をしている特定非営利活動法人 日本ファシリテーション協会のWebサイトには以下のように定義されています。

ファシリテーション(facilitation)とは、人々の活動が容易にできるよう支援し、うまくことが運ぶよう舵取りすること。集団による問題解決、アイデア創造、教育、学習等、あらゆる知識創造活動を支援し促進していく働きを意味します。その役割を担う人がファシリテーター(facilitator)であり、会議で言えば進行役にあたります。

https://www.faj.or.jp/facilitation/

ファシリテーターは組織系・人間系・社会系の3つに分類できる

日本ファシリテーション協会が定義するファシリテーターは「チームの活動」において「人々の活動が容易にできるよう支援する」ことを指します。この定義をもう少し実際の場面に即した形で分類すると、ファシリテーションの応用分野は大きく「組織系」「社会系」「人間系」の3つに分けられます。

  • 組織系:チーム活動において問題解決や組織活性化などに用いられる。最もビジネスになじみが深い
  • 人間系:主に教育に関する広範囲の分野をカバーする。ファシリテーターは個々の内面に関わり学習のサポートを行う。キャリアデザインが研修で用いられる
  • 社会系:まちづくり、コミュニティ、NPOなど社会的な合意形成が必要な場面で用いられる。共通目標や課題を発見することが成果でありみんなが納得するゴールに向かうプロセスを組み立てていく

私が得意としているのは最後の「社会系」のファシリテーションです。まちづくりワークショップの運営、選挙の立会演説会の運営、市民講座の運営などがそれにあたります。社会系のファシリテーターとして仕事をする中で、日本ファシリテーション協会や従来のファシリテーションではタブーとされている方法も実は積極的に活用しています。それはなぜか、この点については記事の後半で触れます。

なぜファシリテーターが必要なのか?-グローバル化と社会背景と関係している-

なぜファシリテーターは必要なのでしょうか?これは世界がグローバル化し多様性ある社会が誕生してきていることと関連します。多くの人が共通の価値観や人生の理想とするゴールを描いていた時代には、社会課題やビジネスの課題を解決する際に合意することが比較的容易でした。

しかし世界がフラット化し人々の移動性が増し国籍も、思想も、育ってきた環境も、ライフスタイルも異なる人々が1つの課題に取り組む機会が増してきた今日、全員が納得するゴールに到達することは容易ではなくなりました。同時にビジネスやまちづくりにおいても企業の成長だけを考えればいいのではなく、SDGsに配慮することや社会的マイノリティの意思を組むことなど考えなければならないことが増えました。

このような複雑性を増した社会背景がファシリテーターの必要性を高めています。私はファシリテーターを「社会の翻訳者」と名付けています。使う言語が異なる人と人の間に立つ言語の翻訳者のように、バックグラウンドやライフスタイルが異なる人と人の間に立って双方の考えを受け止め咀嚼して伝わるかたちに変換するのがファシリテーターなのです。

ファシリテーターと司会進行・MCの違いは?

プロのファシリテーターとしてさまざまな講座やワークショップに呼ばれるとき、最も多く受ける質問が「ファシリテーターと司会進行・MCの違いはなんですか?」というもの。聞きなれないカタカナ語なので、参加対象者層にファシリテーターという言葉が伝わりにくそうだと思ったら司会進行と言ってしまうことがありますが、ファシリテーターと司会進行・MCの間には明確な違いがあります。

ファシリテーター司会進行・MC
台本基本的になしありなことが多い
発言者に対して話を振りつつ言葉を引き出す話を振る
コミュニケーション力参加者や発言者とのコミュニケーションが多い参加者や発言者と直接対話することはあまりない

司会進行・MCと異なりファシリテーターは基本的に台本を持っていません。

また司会進行・MCが発言者に「では○○さんお話をお願いします」と話を振るだけのことが多いのに対して、ファシリテーターは「○○さんはどう思われるんですね!では、▲▲さんはこれについてどう思いますか?」というように言葉を引き出しつつ流れるようにその場の発話を繋げていきます。

これで分かるようにファシリテーターに必要なのは「人に話を振る力」や「声の良さ」ではなく「コミュニケーション力」と「発話を受け止め咀嚼し次につなげる力」なのです。

ファシリテーターに専門性はいらない?

ここまでみてきたファシリテーターは、日本ファシリテーション協会が定義するファシリテーションと実は少し異なるものも含みます。私が得意としているのは「社会系」のファシリテーションの中でもチームでゴールを目指すものではなく、イベントや講座で講師が複数人いて参加者も大人数いる際に力を発揮するファシリテーターです。

これまでファシリテーターに専門性はあまりいらないといわれてきました。

しかしちょっと考えてみましょう。まちづくりや政治社会系の講座やイベントで登壇者に「では○○さんお願いします」「次に▲▲さんお願いします」と振っているだけの場合、その場はどうなるでしょうか?イベントは何事もなく進んでいきますが、参加者も登壇者も「もっとあの話が聞きたい!」「いまの話もう少し膨らませて!」「その話はもういいからこっちの話聞きたい!」など「もっと○○して!」が募っていくと思います。

講座やイベント・WSにおいてファシリテーターが専門性をもっていない場合、講師やゲストは話が膨らんでいかずぶつぶつ途切れて満足いかないことが多く、参加者もゲストの言っていることが分からなかったり聞きたい話が聞けずモヤモヤするかもしれません。

これからの時代、ファシリテーターは「チームのゴールを達成するための役割」という側面だけでなく「専門性を持って講師やゲストと参加者の翻訳者」になることが求められます。

私は「まちづくり・地方創生」「観光インバウンド」「政治社会」「教育」「情報発信」の領域を専門とするファシリテーターです。これらの分野に関連する仕事を普段からしある程度の専門性を身につけていますが、逆にいうとこれ以外の分野に関しては講座やイベントで翻訳者としてみんなが満足いく結果を残せる自信はありません。お話が来てもお断りすることもあります。

「専門性を持った翻訳者としてのファシリテーター」が令和/2020年以降の時代には求められるのです。

ファシリテーターが主観を言うのはNG?

ファシリテーターが主観や自分の意見を言うことは、これまでNGとされてきました。ファシリテーターはあくまでゴールを目指すプロセスでみんなの合意をとりつつ場を作ることが役割である、ファシリテーターは場の主役ではないので1歩下がって整理しまとめることが大切だといわれてきました。

しかしこれまで数多くのまちづくりや政治社会系の講座やイベントでファシリテーターを務めてきて、講師やゲストと参加者の間に立って場の雰囲気をつくりつつ話を整理しまとめ全員の満足度を上げるためには「専門性を持ったうえで主観や意見を織り込んでいく」ことが必要だという結論に至りました。

これはファシリテーターの立場の意見というだけではなく、講師として数多くの講座に登壇されている方々もおっしゃられています。ある企業の社長で大学や市民講座での講師経験も豊富なある方は以下のようにいわれています。

「ファシリテーターが司会進行のように話を振るだけだと、その場の流れができず登壇者も実は話しにくい。途中途中でファシリテーターが講師の話を補助するような主観や意見を織り交ぜたり、会場の人に伝わりやすくするためのコメントを入れることで講師は話しやすくなり参加者も理解しやすくなる」

なんでもかんでもファシリテーターが主観や意見を言っていいというわけではありません。ファシリテーターが講師より長く話したり内容から脱線する話をして参加者を困惑させるのはもってのほか。

講師やゲストの話を深く引き出したり分かりやすく伝わるように言い換えたり、ファシリテーター自身の経験や主観を織り交ぜて話を話が途切れないようにするスキルがファシリテーターに求められる場面は今後、増えてくると考えられます。

これからの時代に、講座やイベント・WSで求めらるのは「専門性を持った主観や意見がいえるファシリテーター」です。

ファシリテーターの仕事とコツ-留学促進イベント・情報発信講座・政治社会系イベント-

最後にここまで触れてきたファシリテーターのスキルや在り方を踏まえて、実際に私が引き受けてきた事例を参考にファシリテーターのお仕事をみていきます。なお以下で例として出す「ファシリテーターがいてよかった!」と思ったエピソードは主催者や参加者の方からいただいた声です。

留学促進イベント-参加者とゲストの対話をスムーズに-

長野県と信州つなぐプロジェクトが主催する若者の留学促進イベントでファシリテーターを務めさせていただいたときの様子です(写真右側灰色のジャケット)。イベントにはゲストとして留学経験者やエイジェントが5名、観覧者がおよそ30名いました。役割としては前半でゲスト5名にテーマに沿った話を聞き、後半は参加者からの質問を聞いてゲストが答える内容でした。

講師が複数人いるイベントでは均等に話題に沿った話を振っていくことは見ている以上に難しいことが多々あります。ゲストの皆さんも緊張してついつい話過ぎてしまったり、振られた話題になんて答えていいか迷って言葉が出てこないなんてことも…またこのイベントの場合は後半に参加者から意見をもらう形式だったので、当日を迎えるまで質問が参加者からあがるか不安だったと主催者の方は言っていました。

このときに私が意識したことは3つです。

  1. ゲストには「均等」に話を振ることよりも個々に適した話題で確実に話を振ること(事前に主催者からいただいたゲストのプロフィールに目を通し専門や得意分野を把握してから望みました)。
  2. 参加者からの質問タイムで一番最初に話を振って質問してくれそうな人の目星を前半につけること(参加している学生さんで熱心に話を聞きメモを取っている方がいました。予想通り「質問ある人!」では手をあげる人がいなかったので「先ほどからメモを取り真剣に話を聞いていたあなた、何か質問等ありますか?」と振りました。予想通り的を得た質問が出てきたのと同時に、1人質問したので2人目3人目はどんどん手が上がりました)。

情報発信講座-講師の方のお話を少しだけ身近な話題に翻訳-

長野県の観光情報サイト運営団体が主催した情報発信の講座にファシリテーターとしてお招きいただきました。ゲストには地方移住雑誌TURNS編集長と日本の手仕事を未来に残すことをコンセプトに活躍する株式会社ニッポン手仕事図鑑代表のお2人がお越しくださいました。

講師のお2人は話慣れておりたくさんの情報を参加者に与えてくださいました。ではファシリテーターの役割はどこにあるのか?後半のトークセッションの時間に私を含め3人で話す際に以下の2つのことを意識しました。

  1. ちょっと難しい言葉や縁遠い事例を身近な事例に言い換えること(参加者は一般の方々でライターに興味があったり地域をよりよくする活動に関わりたい方々約30名でした。講師の話から刺激をうけ学びを深める一方、少し情報量が多かったり専門的な言葉が伝わっていないかなと運営していて感じたので、ちょっと難しい言葉を言い換えたり地域に密着した分かりやすい事例に落とし込みました)。
  2. まじめで少し硬い話がメインの場合に場が和むフレーズや話を盛り込むこと(地域や情報発信に関する真面目な話や堅い話がメインで少し参加者の皆さんがつかれているように感じる部分があったので、意図的にその場が和むような話題をいれたりストレッチする時間を設けたりし場の雰囲気をつくることを意識しました)。

長野県知事と政治の話をしよう!-若者~年配層が一堂に会し-

現長野県知事と若者およそ20人が一堂に会し、長野県の政治について語るイベント。現役知事に会う機会はなかなかないので参加者のみなさんはとても緊張されていました。しかし同時にこの場に参加されている方は全員、何か知事に話したいこと・伝えたいことがあるからこそ参加していることが伝わってきたので2時間という限られた時間で以下の3つを意識しました。

  1. 全員が話せるようにすること(2時間のイベントに参加し誰でも話せる機会があるにもかかわらず、誰かがたくさん話して誰かが全く話していない状態では不公平感を感じ満足感が全体として低くなってしまいます。本イベントでは始まる前に参加者の皆さんとさりげなく挨拶を交わし興味関心やお仕事を把握したうえで、全員が知事に質問できるように時間配分をしました)。
  2. 話が長くなってしまう人の話を全員不快感なく切ること(地域や政治に関するイベントでは緊張したり熱が上がってしまうあまり長く話してしまう方がいます。1人で長く話すのはWSや講座ではNGですし、それをうまく切れないファシリテーターもまたスキル不足です。このときは長く話している方の呼吸をみて息を吸う瞬間にさりげなく話題を引き継ぎ、関連する話ができそうな別の人に話を振ることで全員が不満を持つことなく長い話を切りました)。
  3. 知事の話をできる限り具体的でわかりやすいレベルに落とし込むこと(知事は政治家なので不用意に具体的な発言はしません。しかし参加者としては具体的な話や施策を聞きたいところ。実際の事例やエピソードを交えながら具体的な話を引き出すことで、ふわりと終わることを防ぎました)。

まとめ-ファシリテーターにはさまざまなカタチがある!-

本記事で取り上げたファシリテーターの在り方は、講座などで教わるファシリテーションとは少し異なるかもしれません。しかしファシリテーションとは一つの決まったカタチがあるわけではなく「いかに臨機応変に場の雰囲気をつくり話を整理するか」がポイントの役割です。

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この記事を書いた人

Masato ito

国際大学GLOCOM研究員/講師。1996年、長野県出身。博士(社会学)。一橋大学大学院社会学研究科、日本学術振興会特別研究員を経て2024年より現職。専門は地域社会学・地域政策学。研究分野は、地方移住・移住定住政策研究、地方農山村のまちづくり研究、観光交流や関係人口など人の移動と地域に関する研究。多数の地域連携/地域活性化事業の立ち上げに携わり、2事業が長野県地域発元気づくり大賞を受賞。日本テレビDaydayやAbema Prime News、毎日新聞をはじめ、メディアにも多数出演・掲載。