2008年に始まった「ふるさと納税」は制度開始から10年以上経った今日も、その規模を拡大しています。総務省が2019年に実施した調査によると、平成30年度のふるさと納税受け入れ額実績は約5,127億円(過去最高だった前年2017年度比:約1.4倍)、受け入れ件数は約2,322万円件(過去最高だった前年2017年度比:約1.34倍)となっており、拡大の一途を辿っていることがよくわかります。
ふるさと納税は各自治体が自由に使える財源であり、リーダーシップと新しい発想次第でこれまでの決められた予算の中では生まれなかった先進的な取り組みに使うことができます。特にふるさと納税の拡大は、その時期を地方創生・地方移住促進の拡大と同じくしており、ふるさと納税はまちづくりにもさまざまな形で活用されています。
そこでこの記事では、ふるさと納税を活用した自治体の先進的で優れたまちづくり・地域活性化の取り組み事例を2つ紹介します。2つの先進事例からみえてくるのはコロナ後のふるさと納税と地方創生・まちづくりの可能性です。キーワードは「ふるさと納税は”終わり”ではなく””はじまり」です。
長野県白馬村-ガバメントクラウドファンディングでグローバル人材を育てる-
プロジェクトに寄付する-ガバメントクラウドファンディング-
1998年の長野オリンピック後世界的ウィンターリゾートの地位を確立した白馬村は、2010年代に入り人口減少による生徒数の減少で村内唯一の県立高校が廃校の危機に陥りました。そこで世界に誇れる資源である北アルプスや定住外国人の多さを売りに、全国から希望した生徒が通える「国際観光科」を白馬高校に新設、質の高い人材を育てるためにクラウドファンディング型のふるさと納税(ガバメントクラウドファンディング/GCF)を実施し始めました。
ガバメントクラウドファンディング(GCF)とは、すべての寄附がふるさと納税の対象となる、政府(自治体)が行うクラウドファンディングです。自治体の課題解決に、寄付者の意思を反映させることができ近年その活用の幅が広がっています。
運営母体が全て自治体になるため民間企業が行うクラウドファンディングと比べて安心感が高いといわれており、プラットフォームとしては「ふるさとチョイス(ふるさと納税サイト)」「READY FOR(クラウドファンディングサイト)」などが有名です。
白馬村はふるさと納税により廃校危機の高校生徒数を50人以上増やすことに成功
2017年9月19日~2018年3月31日に行われたガバメントクラウドファンディングでは、ふるさと納税サイトふるさとチョイス上で寄付を募り、総額400万円以上を集めることに成功。2016年度には受験指導を行う公営塾・全国から生徒を受け入れる教育寮の設置運用等の費用、2017年度には生徒の留学を支援する費用に集まったお金は充てられました。
白馬村のガバメントクラウドファンディングをきっかけに、県外出身者を含む入学者数は増加傾向に転じ、2014年度には150名を下回っていた全校生徒数が数年で200名を超える状況になりました、また2017年度からは毎年20名の生徒がニュージーランドに留学しています。
留学促進に携わる筆者は、2018年度に開催された白馬高校の留学フォーラムにパネラーとして参加させていただきましたが、フォーラム終了後も高校生が集まってきて真剣に質問してくれた姿が印象的でした。当日は高校生外にも親御さんや地域の方々にも開かれたフォーラムだったため、学生と地域住民が共に白馬村のグローバル化と留学について熱心に耳を傾けていました。
白馬村の事例にようにプロジェクト達成型のガバメントクラウドファンディングは近年広まってきており、返礼品として物を得るだけではないふるさと納税の在り方を示しています。
北海道東川町の事例-町の応援者と交流人口の増加へつなげる-
東川町ふるさと納税成功の鍵は「明確なビジョン」と「株主制度」
東川町は北海道のほぼ中央に位置し、街の象徴である大雪山連峰の麓に広がる森林と緑が織りなす景観が多くの観光客をひきつけている町です。東川町はふるさと納税を始める際に明確なビジョン「町の応援者と交流人口の増加へつなげる」を定め、このビジョンに向けたさまざまな取り組みを行ってきました。
東川町は返礼品として物を送る以外に、まちづくりに参画してもらう仕組みを立ち上げました。東川町のまちづくりに参加したい人、東川町を応援した人は寄付によって「株主」になります。
株主となった寄付者は東川町が提案する10のプロジェクトから応援したいものを選び「投資」という名の寄付を行い、目標金額を達成したら町はその事業を実施する。これによって町は元気になり、寄付者=株主には配当として宿泊券や株主だけが使えるポイントの付与など行われます。
このサイクルは「循環型東川応援制度」と呼ばれまちづくり×ふるさと納税の代表的事例といまではなっています。
ふるさと納税は交流人口増・観光客増に直結させられる
ここで気になるのが「循環型東川応援制度」が、東川町が掲げるふるさと納税のビジョン「町の応援者と交流人口の増加へつなげる」に本当に結びついているのかです。この点について東川町は2013年にふるさと納税者を対象としたアンケート調査を実施し、その結果を昭和女子大学グローパルピジネス学部 保田隆明准教授がまとめているのでみていきましょう。
アンケートには「今後、東川町を訪問したいか」という項目が含まれていました。この結果結果から東川町への居住歴、訪問歴のなかった本州在住者でも12.6%が納税後町を訪問しており、63.0%は今後町を訪問したいと考えていることがわかりました。東川町が掲げたビジョンにふるさと納税と循環型東川応援制度は確実にプラスな影響を与えており、この事例からふるさと納税は交流人口・関係人口・観光客増につながることが明らかになったのです。
ふるさと納税は寄付者と自治体のつながりが「はじまる」仕組み
長野県白馬村と北海道東川町の2つの成功事例からみえてくるのは、ふるさと納税によって寄付者との関係性が「始まっている」ことです。多くのふるさと納税の事例は寄付に対して返礼品を送りそこで関係性は終わりになります。
しかし白馬村と東川町はふるさと納税を寄付者との関係性の「始まり」と捉え、ガバメントクラウドファンディングの進捗をSNSやWebサイト上で共有したり、寄付者にへのポイント付与や町を訪れた際の無料の宿泊権利を提供したりと、次へのステップを用意しています。
ふるさと納税は各自治体が自主財源を確保する取り組みであると同時に、ふるさと納税という手段をつかったPRでもあります。これからはPRの目的を「寄付額の増加」に置いていた従来のふるさと納税から、目的を「自治体ファンの増加」にすることで長期的に自治体にも寄付者にもメリットがあるWin-winな関係性を構築していくことが求められていくでしょう。
最後に-コロナ後のふるさと納税は地方自治体の生存戦略と重なる-
ふるさと納税の成功事例は、都市の三密が課題となりリモートワークやテレワークが推進され始め地方移住が加速するのでは?といわれている、コロナ後の地方自治体戦略と重なります。ふるさと納税の目的を「自治体ファンの増加」とした交流促進型は、ふるさと納税のアップデートであると同時に関係人口/ファンと明確なビジョンが求められる今後の地方自治体の生存戦略にヒントを与えてくれるでしょう。
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