ふるさと納税の歴史-制度創設の経緯・震災・税制改正・規制強化-

制度開始から約12年が経ったふるさと納税は、この期間にさまざまな可能性と課題がありました。しかし振り返ってみると、

  • どんな問題が過去にあったのか?
  • そもそもなぜふるさと納税は始まったのか?
  • いつから規模が拡大したのか
  • 税制改正や規制強化があったみたいだけど具体的にどう変わったの?

など知っているようで知らないことがふるさと納税にはたくさんあるとわかります。この記事では2020年代新しいふるさと納税の在り方を考えていく上で、ここで1度立ち止まってふるさと納税の変遷・歴史を紐解いていきます。

ふるさと納税開始までの経緯と当初の目的-「ふるさと」を応援する-

ふるさと納税の検討は2006年10月に西川一誠福井県知事による「故郷寄付金控除」導入の提案から本格化されました。西川知事は「将来を担う子供に未来を託し,地方は多額の行政コストをかけて育んでいるのに,大都市集中が放置されているわが国ではそのコストを税として回収する前に,大都市圏へ子供たちが流出してしまう」ことを問題提起しました。

ここからわかるのは当初、ふるさと納税は「故郷」に寄付することで都市と地方の財政収支のアンバランスさを是正することにあったことです。

その後、提案をうけてふるさと納税研究会を重ねていく中で、寄付の対象が出身地としての「ふるさと」のみになると制度が非常に複雑になり実現が難しいとなりました。そこで「ふるさと」を出身地という意味と、出身地ではないが貢献・支援したいと思う地域と広く捉えることで自分が寄付したい自治体を選べる制度として2008年から「ふるさと納税」は始まりました。

2008年ふるさと納税スタート-寄付者が急増した東日本大震災-

ふるさと納税は制度開始当初急速に広まったわけではありませんでした。そんなふるさと納税の可能性に光をあて一部地域で寄付者が急増したのが2011年の東日本大震災後でした。

岩手県へのふるさと寄付金(納税)は、2009年度の約55万円(13件)から、震災が発生した2010年度は約1300万円(162件)に増加、2011年度は約4億4900万円(5846件)となりました。また宮城県へのふるさと寄付金も、2009年度は約80万円(8件)、2010年度は約1189万円(228件)、2011年度は約1億6413万円(2393件)と震災を機に急上昇しました。

ふるさと納税は返礼品目的で寄付する人が多数をしめていますが、東日本大震災のように地震や台風など大きな災害があると、被災地応援の意味合いでふるさと納税を行う人が増えます。これまでは震災支援というとボランティアか募金がメインでしたが、ふるさと納税の誕生により「震災支援しながら寄付者にもメリットがある」新しい支援の在り方が生まれました。

東日本大震災後も同様に被災地をふるさと納税で支援する動きはあり、出身地に限らず応援・貢献したい地域に寄付できる制度設計にしたことがうまく機能している事例だといえます。

2015年税制改正により寄付者増大・返礼品競争の激化

東日本大震災や各種メディアで取り上げられる機会が増えるたことで、ふるさと納税は2015年に地方創生推進の観点から制度拡充が図られました。

具体的にはそれまで自己負担額の2,000円を除いた全額が控除される限度額であった「ふるさと納税枠」が2015年1月1日以降は約2倍に拡充。

同年4月1日以降は、寄付先が5団体以内の場合、元々確定申告を行う必要がない給与所得者等について、ふるさと納税に係る確定申告が不要となる特例制度(ふるさと納税ワンストップ特例制度)が創設され、制度利用に必要な手続が簡素化されました。

こうして2015年度には受け入れ額が前年度388.5億円から1652.9億円に急増。この年以降、ふるさと納税はさらなる拡大の一途を辿ることになりますが同時に返礼品競争の様相を呈していくこととなります。

返礼品競争からの脱却-2019年6月 ふるさと納税返礼品規制強化-

制度開始から約10年を経て、多くの自治体が「還元率の高さ」や「換金しやすい返礼品の増加」で寄付額を増やす方向に向き始めたことを総務省は問題視し2019年6月から規制を強化しました

規制強化で変わったのは主に以下の点。規制強化前はAmazonギフトカードのプレゼントや還元率30%以上の返礼品が一部でありましたが、これらが全てNGとなりました。

  1. 返礼品は地場産品に限り、寄付金額の3割程度の価格に抑えること
  2. 「返礼品の価格」や「返礼品の価格の割合」の表示を行わないこと
  3. 商品券・電子マネーといった金銭に代わるものや資産性の高い電気機器・貴金属・宝飾品などは返礼品にしないこと

当初は困惑もありましたが2019年6月の規制強化で強調されたのが「地場産品に限る」こと。例えば農業関連分野の特産品は、財政力指数が低い自治体ほどふるさと納税の返礼品として利用している傾向があるため、2019年6月の規制強化は新たな財源確保策として地場産品としての特産品や農産物を取り扱う自治体のチャンスが広がったといえるでしょう。

地場産品限定という規制強化は、ふるさと納税の返礼品はパッケージやストーリーも含めて魅力ある商品としていくことが求められることを意味します。これは地方自治体のブランディング力向上やパッケージデザインへの理解促進につながる可能性もあり、これまで予算がつきづらく自治体が苦手としていた部分が強化されることも考えられるでしょう。

まとめ-2020年以降のふるさと納税を考える-

制度開始から12年が経ち在り方を変えてきたふるさと納税ですが、「本当に地方のためになるふるさと納税の在り方」「本当に地方のためになる寄付先選び」はどうすれば実現できるのでしょうか?

「本当に地方のためになるふるさと納税の在り方」は、当初のふるさと納税提案時の目的でもある「2つの意味でのふるさとへの応援・貢献のための寄付」に立ち返ることです。近年広まりつつある自治体によるクラウドファンディング「ガバメントクラウドファンディング/GCF」は、返礼品ではなく自治体のプロジェクトに寄付する点で当初の目的を達成する1つの選択肢として確立されてきています。

「本当に地方のためになる寄付先選び」は、寄付先との継続的なつながりが生まれる可能性を感じる自治体に寄付することです。返礼品目的で1度寄付して終わりになるような寄付ではなく、

「来年もまたこの自治体に寄付しよう」
「この自治体の返礼品美味しかったから、今度は通販で買ってみよう」
「実際に訪れてみたいな」

と感じる返礼品とストーリーがみえる自治体に寄付することが、あなたにとっても地方自治体にとってもメリットのある、これからの理想的なふるさと納税の在り方です。こうしたふるさと納税の在り方は地方創生や地方移住の流れで注目される「関係人口」「交流人口」の文脈とも重なり、新しい都市と地方の共存関係を築いていくことができるでしょう。

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参考資料

  • 安田信之助, 小山修平, 「地域経済活性化とふるさと納税制度」
  • 大石卓史, 「農業関連分野の特産品のふるさと納税返礼品としての利用と今後の意向-アンケート調査による市町村の特徴分析-」
  • 総務省2019年6月
  • 令和元年「ふるさと納税に関する現況調査結果」
  • ※http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/furusato/topics/20150401.html
  • 産経新聞, 「ふるさと納税、震災後に急増 被災3県の復興に一役」
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この記事を書いた人

Masato ito

国際大学GLOCOM研究員/講師。1996年、長野県出身。博士(社会学)。一橋大学大学院社会学研究科、日本学術振興会特別研究員を経て2024年より現職。専門は地域社会学・地域政策学。研究分野は、地方移住・移住定住政策研究、地方農山村のまちづくり研究、観光交流や関係人口など人の移動と地域に関する研究。多数の地域連携/地域活性化事業の立ち上げに携わり、2事業が長野県地域発元気づくり大賞を受賞。日本テレビDaydayやAbema Prime News、毎日新聞をはじめ、メディアにも多数出演・掲載。