そろそろ「地域は人と人のつながりが大切」の次を考えよう

「地域はつながりが大切」「課題解決のためには人と人のつながりが大切」これらの言葉は近年、地方創生や地域活性化の文脈で最も多く口にされている言葉かもしれません。関係人口、つながり人口、交流人口などなど、全て「人と人」「人と地域」のつながりを表す言葉です。

しかしすべての課題が「つながり」一つで解決することはないでしょう。そろそろ私たちは「つながり」の再検討し、次の「つながり」のカタチ、「つながり」の次のカタチを考えていく必要があります。「つながりが大切」を批判するものではなく「このあたりで1度、各所で使われているつながりという言葉を再検討してみませんか?」と問いかけるのがこの記事の狙いです。

なぜ地域の課題解決に「つながり」が求められるようになったのか

地域の課題を解決する施策や取り組みは日本中で行われています。従来は施設の建設や交通機関の誘致などハード事業が地域活性化の主な施策でしたが、日本の景気が後退し人口減少も進み税収が少なくなってきてからは地域住民同士の支え合いや多種多様な居場所の確保などソフト事業の施策が増えてきました。

ハード事業を民間団体が行うことは難しいですが、ソフト事業は個人でも民間団体でも比較的手を付けやすいです。1995年ボランティア元年に始まり、インターネットと携帯電話/スマートフォンの普及、東日本大震災と平成以降のさまざまな出来事を経て「地域の課題はソフト事業が解決する」ことに重きが置かれ、ハードを作る場合にもソフトを充実させるためのハードという流れが生まれてきました。

同時に日本においては「元々あった”つながり”が希薄になっている」という言説が広まり、さまざまな地域の課題はつながりが希薄になったことで発生しているという見方が広まってきました(この点については別の機会にもっと深堀します)。

子育て、介護、防災、DV、交通問題これらの課題は「つながり」によって解決することができる課題であり、従来は「つながり」があったから課題化していなかったという考え方です。

→コワーキングスペースと地域活性化・地方創生の関連-場所より大切なのは目的と継続性-

「つながり」にできることとできないこと-つながりの多様性-

しかしこのあたりで1度立ち止まって考えてみましょう。地域にあるたくさんの課題は果たして「つながり」によって解決するのでしょうか?「つながり」という言葉をつかって課題の解決方法を見つけたような気分になったものの、実は「つながり」の正体がよく分からないなんてことはないでしょうか?

「つながり」にはコントラストがあります。隣の家に住むAさんとBさん例をみてみましょう。以下のリストに上げたAさんとBさんの状態は、どこからが「つながりがある状態」でどこからが「つながりがない状態」でしょうか?

  1. AさんとBさんはお互いの家族構成や名前を知らないが、回覧板はまわす
  2. AさんとBさんは1か月に1,2回偶然庭先で会ったときに会釈をする
  3. AさんとBさんは毎朝顔を合わせると「おはようございます」とあいさつする
  4. AさんとBさんは、毎日のように子ども同士がなかよく近くの公園で遊んでいる
  5. AさんとBさんは家族ぐるみで仲良く、年に数回一緒にBBQをする

2の「つながり」と5の「つながり」は、同じ「つながり」でも強度/親密度が異なると捉えることができます。もし地域の課題を解決する際に「つながりを再構築することが大切だ!」というのであれば、どのレベルのつながりを形成することでどの課題を解決したいのかを明確にする必要があります。

子育てにおいて児童館や学童が無い地域で子どもをお互いに預け合うことで課題が解決できるとすれば、4以上の「つながり」が必要かもしれません。防災の一環としていざというときに助け合えるように地域の人たちがお互いの家に何歳くらいの人が住んでいるのか知る必要があるのであれば2以上の「つながり」で事足りるかもしれません。

一口に「つながり」といってもその在り方は多様であることが上記の例から分かるかと思います。

「つながりが無い状態」と「過剰なつながり」はともに息苦しくなる

「自殺者が少ない地域と多い地域には異なる傾向がある」という事実を明らかにした、岡檀さんの『生き心地の良い町 この自殺率の低さには理由(わけ)がある』という本があります。徳島県旧海部町と近隣市町村の比較を通じて「地域にある何が自殺と関連する因子なのか」を分かりやすい文章で明らかにしている良書です。

→【書評】 『生き心地の良い町 この自殺率の低さには理由(わけ)がある』から考える地理的環境と自殺率のつながり

この本の中で旧海部町には5つの自殺を防ぐ因子があると岡さんはリスト化しています。それが以下の5つです。

  1. いろんな人がいてもよい、いろんな人がいたほうがよいという価値観
  2. 人物本位主義をつらぬく
  3. どうせ自分なんて、と考えない
  4. 「病」は市に出せ
  5. ゆるやかにつながる

「つながり」を「いざというときに自分の困りごとや悩みを共有できる関係性」と考えたとき、このリストの4と5は「つながり」が自殺を防ぐ因子として機能していることを表しています。

うつ病になったときに一人で抱え込まず「ちょっと私、最近気分が乗らなくて…」と近所の人に気軽に話せるような関係性を表すのが4の「病は市に出せ」という言葉。5の「ゆるやかにつながる」は、なんとなく世間話をしたり会えばあいさつするけれど、お互いのプライベートにずかずか介入するようなことはせず、詮索することもない関係性です。

地方においては特に山間部を中心に「つながり過多」な状態にある地域が多くあります。プライベートな情報がいつの間にか地域内で共有されているような状況。そんな地域ではすべての行動が監視されているように感じ自由にのびやかにふるまうことはできなくなるでしょう。

一方で全く近隣の人と接点がない状態もこわく心細いかもしれません。人間は「わからない」状態が最も不安です。お互いがお互いについて全く「わからない」状態は、余計な心配や不安をせねばならず心が落ち着かないでしょう。

「つながり過ぎ」も「つながりが無い」も、実は同じくらい息苦しく心が落ち着かないのです。

→新たなアイディアを生み出す「弱い紐帯の強さ」とは?現実的効果を具体例とともに解説

「ゆるやかなつながり」のさきにあるものは?

「つながり過ぎ」と「つながりが無い」の中間「ほどよいつながり」や「ゆるやかなつながり」を大切にしようという声かけは、地域をよりよくする活動において近年多くなってきています。「ゆるやかにつながる」ことで、いざというときには助け合えるけれど普段は干渉しすぎないのでプライベートも守られ自分の世界がしっかりとある状態です。

しかしここで私たちはもう一段階「つながり」を深堀しなければなりません。「ほどよいつながり」とはいったいどういう状態なのでしょうか?それは意図的につくることができるものなのでしょうか?「つながる」とは具体的にどのようなツールでつながればいいのでしょうか?

私たちがこれらの問いに取り組むとき、初めから自明視していることが1つあります。それは「つながりは人と人の間にあるもの」という認識です。SNSによって人とつながる、コミュニティスペースで人とつながる、毎朝会って話をする、など「地域はつながりが大切だ!」と声高に叫ぶとき、知らないうちに人間以外のものとのつながりを削ぎ落しているのです。

人間以外のものとの「つながり」を意識する時代へ

「ゆるやかなつながりを形成する(人間同士)」「地域はつながりが大切だ!(人間同士)」の先にある未来、これからの時代に私たちが意識すべきは「人間以外のものとのつながり」です。人は人との関係性だけでアイデンティティを構築しているわけではありません。

住んでいる地域の歴史、文化、慣習、自然環境、交通環境、制度、これらの周辺要因と密接に私たちはつながり、そして影響を受けているのです。

「人間以外のものとのつながりを意識する」これを今まさに推し進め啓発しているもののひとつが「SDGs (Sustainable Development Goals)」です。SDGsには、貧困問題をはじめ、気候変動や生物多様性、エネルギーなど、持続可能な社会をつくるために世界が一致して取り組むべきビジョンや課題が網羅されています。

SDGsで強調されているのは「人と人以外のものとのつながり」です。人が人と相互依存関係にあるように、人と周囲の環境は互いに相互依存関係にあります。私たちが呼吸をすれば周囲の環境は変わり、変化した環境は私たちに影響を与えるのです。

(SDGsには人と人とのつながりに関連する部分も多分にありますが、そちらは別の記事で触れます。)

まとめ-「つながり」は人と人の間だけにあるものではない-

人と人の「ゆるやかなつながり」が大切だといわれる地域の現場ですが、私たちが再認識しなければならないのは「つながりの多様性」です。一口に「つながり」といってもバリエーションがあり段階があります。一口に「つながり」といっても人と人の間だけでなく、人と環境、いまを生きる人と過去の人の間などにも同様につながりがあります。

だからこそ、私たちは地域を語る際に単純に「つながりが大切!」というだけでなく「○○を解決するためには、▲▲の□□の間のつながりを~~~くらいのレベルでつくれたらよさそうだよね!」と「具体的なつながりのカタチ」を描き語る必要があるのです。

「なんでも、つながりで解決できる!」とならないために、このあたりでもう1度「つながり」を再検討してみましょう。

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この記事を書いた人

Masato ito

国際大学GLOCOM研究員/講師。1996年、長野県出身。博士(社会学)。一橋大学大学院社会学研究科、日本学術振興会特別研究員を経て2024年より現職。専門は地域社会学・地域政策学。研究分野は、地方移住・移住定住政策研究、地方農山村のまちづくり研究、観光交流や関係人口など人の移動と地域に関する研究。多数の地域連携/地域活性化事業の立ち上げに携わり、2事業が長野県地域発元気づくり大賞を受賞。日本テレビDaydayやAbema Prime News、毎日新聞をはじめ、メディアにも多数出演・掲載。