【書評】 桜井政成『コミュニティの幸福論』-これからの時代のコミュニティ入門書-

いま世の中には「コミュニティ」という言葉が氾濫している。吉原直樹の言葉を借りれば「コミュニティ・インフレーション」と言えるような状況である。

2020年9月30日に明石書店から[著]桜井政成『コミュニティの幸福論-助け合うことの社会学-』が出版された。この本は筆者が研究者である前に1人の生活者として感じたことや考えていることをベースに、読者と共に「コミュニティで人と人とが(あなたと私とが)幸せに生きるには?」を考えていく1冊である。

筆者曰くできあがった文章は「教科書でも一般書でも、研究書でもない、でもそれらすべてでもある」そんな内容となっている。読んでいるとコミュニティについて考え研究するのが好きな筆者の知的興奮や感情の盛り上がりが感じられ、筆者と直接対話しているような感覚になった。

『コミュニティの幸福論』は新たな「コミュニティの教科書-入門編-」

コミュニティについての本となると、その多くはある分野や文脈で限定された意味を持つ「コミュニティ」について専門的に深堀するものが多い。しかし本書は地域・インターネット・LGBT・ボランティア・当事者・居場所・運動などさまざまな観点からコミュニティについて広く浅く取り上げられている。その意味で、本書はこれからの時代の新たな「コミュニティの教科書-入門編-」と位置づけることができる。

豊富なカナダの事例からみえてくること

コミュニティについて広く浅く取り上げているが、それは本書にオリジナリティがないことを意味しない。本書の特徴を大きく3つ挙げるとすれば、1つ目は筆者が在住経験のあるカナダの豊かな事例である。

例えば第8章のカナダ・トロントのLGBTタウンとコミュニティセンターの事例は、人と人のつながり・政治的な社会運動主体・街という3つの意味でのLGBTコミュニティで生きる人々が幸せに暮らせることを支援する取り組みを紹介している。

現代の日本でコミュニティという言葉が用いられる場合、日本ではまだ広まっていないコミュニティの考え方や視点が抜け落ちてしまうことがどうしてもある。筆者はカナダの事例を紹介し日本と比較することで、できる限り多様なコミュニティの実践のされ方を提示することに成功している。

リアリティを付与する文芸作品の一コマ

2つ目の特徴として文芸作品を効果的に例として用い、読者の多様な理解へのレールを確保することに成功している点である。本書の中では文芸作品の一コマや表紙の画像が計13回出てくる。これは学術書の中では比較的多い数だろう。

第6章 居場所について考えるの中で中島・倉田(2004)の調査を引用して、家に部屋があったとしても、高次元の隔離・逃避要求には対応しきれていないこと、そして子どもにとってのサードプレイスが個人的居場所としても必要な場合があることに触れている。

ここで筆者は衿沢世衣子の短編集漫画『ベランダは難攻不落のラ・フランス』に収められた「ベランダ」の一場面を引用する。子どもがちょっと生きづらさを抱えたとき必要とする、居場所の感覚を適切に表現したシーンの画像は、ときにリアリティを欠く統計や調査結果、学術用語にリアリティを付与している。

学術書を読むことになれた読者にとっては全体的にペースが遅く感じるかもしれないが、コミュニティの教科書-入門編-としては、多様な読者の興味関心を惹くことに成功している。

コミュニティと幸福についての辞典的機能

3つ目の特徴はコミュニティや幸福に関する研究を行う際の辞典的機能である。15ページに及ぶ参考文献はわかりやすい日本語で読みやすく書かれた本文の裏側で、筆者が国内外の幅広いコミュニティに関する研究をレビューしていることを示している。特にコミュニティに関する卒論や修論を書こうと考えている学生にとってはとてもありがたい辞典的機能ではないだろうか。

また本書はコロナ禍に書き進められた箇所もあるため、2019年~2020年の研究動向や調査結果も効果的に用いられている。例えばコロナ禍の2020年6月に日立製作所が発表した幸福度計測技術を事業化するための会社設立のニュースについて触れた第9章のコラムでは、コロナ後の社会で考えるべき働き方と幸福度についての分析がなされている。

さいごに-[著]桜井政成 『コミュニティの幸福論』-

『コミュニティの幸福論』には、コミュニティで人と人とが幸せに生きるには?という問いについて考える際のエッセンスが詰め込まれている。本書ではコミュニティと幸せに関する具体的事例をこれでもかと紹介している。

学術的蓄積と具体的事例の間に橋を架けた内容となっているため、さまざまなコミュニティという現場で悩んでいる人々に対して、行き詰まりを打破する新たな視点を授けてくれるかもしれない。

本書評では内容にそこまで深く踏み込むことはできなかったが、それは単純に取り上げている範囲がとても広く多いためである。コミュニティと幸福について考え学ぶための教科書として、辞典として、楽しい読み物として手元に置いておきたい1冊だ。

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この記事を書いた人

KAYAKURA 編集部

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