「コロナで地方移住が加速する」は本当か?地方移住の実態・課題・可能性を再確認

新型コロナウイルスの拡大防止のために広がるテレワークやリモートワークなどの技術面の環境整備と、都市部のリスク顕在化によって「地方移住が加速する!」論調がコロナの収束と共に広がっています。

現代社会において、社会的な危機は都市のリスクをその都度顕在化させてきました。阪神淡路大震災、地下鉄サリン事件、リーマンショック、東日本大震災、そして新型コロナウイルス、歴史的危機はその都度私たちがリスク社会を生きていることを思い知らせるとともに「脱都市的ライフスタイルを実践しよう」という風潮を高めてきました。

しかし地方移住の実態は厳しいものがあります。人口の東京一極集中を軽減するための諸政策は、一部で成功事例を生み出すも多くの地方自治体は社会減のスパイラルから脱することができず人口減少に苦しんでいます。

新型コロナウイルスによる「地方移住加速論」は地方に微かな希望を与えます。ネガティブなニュースが多い中で少しでも明るい光を追い求めることは大切ですが、明るいニュースの光によって盲目的になり「地方移住の現実」から目をそらしてはいけません。地方自治体にとっても地方移住近傍者にとっても明るい未来を描くために、ここで1度立ち止まって地方移住の実態を再確認しましょう。

(本記事は内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局がH30年2月に発表した「地方への新しいひとの流れをつくる」現状と課題についてを主に参照しています。より詳細が知りたい方はこちらをご覧ください。)

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日本は2008年をピークに人口減少時代に突入している

人口減少傾向は続く一方、65歳以上の人口は増加傾向

日本は1995年以降、生産年齢人口が減少傾向にあります。総人口については2008年をピークに減少しており、日本は「人口減少時代」に突入しているのです。人口減少傾向は大胆な移民受け入れを行わない限り変化することはなく、2060年には9,284万人、2110年には5,343万人まで減少すると予測されています。

一方、65歳以上人口は増加傾向にあり、総人口に占める割合は2015年で約27%となっています。

地方自治体「勝ち組」と「負け組」の二極化/人口以外の尺度の導入を

これからの地方移住の在り方を考えるうえで人口減少傾向という事実と65歳以上人口の増加傾向は見逃せません。どんどん少なくなる人口を自治体間が奪い合う構図に現在すでになっており、勝ち組と負け組の格差が拡大傾向にあります。

東京圏と地方圏が人口を奪い合いつつ、地方圏は地方自治体同士が限られたパイを奪い合っているため疲弊している自治体の姿も目立ちつつあります。今後は「人口」以外の尺度(人口は減っても住民の幸福度・満足度は高い)を使って各地方自治体は未来を設計する必要があるでしょう。

移住希望者は一部の有名市町村以外もくまなく調べるべし

人口減少時代において地方自治体は、地方移住希望者を自分たちのところに引っ張り込もうと必死です。引く手数多な状態のなかで1点気を付けたいのが「一部の有名市町村以外の情報もしっかり調べる」こと。

2020年現在、地方自治体は移住施策の「勝ち組」と「負け組」に分断しつつあります。勝ち組自治体は移住者が増え税収も増え投資額も増え、結果としてさらに移住者が増えと好循環にあるため多くのメディアや媒体に事例として載っています。

しかしここは焦らず有名市町村以外の移住施策や事例もしっかりと調べましょう。なぜなら有名市町村の取り組みは基本的に何らかの分野に特化していることが多く、必ずしも自身が描く移住ライフを送るのに適しているとは限りません。子育て促進で目立つ市町村に子育て終了後のリタイア世代が行ってもミスマッチですよね。

だからこそ全国1,741の自治体の中で気になるところはとことん時間をかけて調べ、実際に足を運び役場の担当者に会ってみましょう。移住者数は少なく地味に頑張っている市町村のほうが、実は1人1人の移住者を大切にするというケースもあります。引く手数多なときほど焦らないことが重要です。

歯止めがかからない東京一極集中と全国の転出入の実態

東京一極集中は2017年時点で22年連続

東京一極集中を是正するために始まった地方創生ですが、2017年時点で東京圏は約12万人の転入超過となっており東京一極集中の傾向はいまだ継続しています(22年連続転入超過)。

地方と比べて出生率が相対的に低い東京圏への人口集中がこのまま続くと、住宅価格の高騰、保育サービス、高齢者介護サービスなどより自体が深刻化し、今以上に少ない生産年齢人口で高齢者を支えることになります。

都市部が日本全体の出生率を下げている

合計特殊出生率の最低は東京都の1.24、埼玉が1.37、神奈川が1.36、千葉が1.35、大阪府が1.37と都市部もしくは東京圏が日本全体の出生率の値を押し下げている実態があります。これは見方を変えると都市部では2人以上の子どもを産んで育てられるような環境が仕事面でも保育社会福祉サービス面でも周辺環境面でも整っていないといえます。

しかし都道府県別の出生者数でみると、転入超過し続けている東京都のみが15年間で突出して増加している一方、最も減少率が大きい秋田県では15年間で約35%の減少となっています。この状況を打破するためには、東京一極集中を是正することが必要だとよくわかります。

2012年以降、東京圏への転入が増加傾向にある

1990年以降、1994年1995年に一時東京圏から地方への転出超過となりましたが、1996年以降は今日まで東京への転入超過傾向にあります。注目すべき点は東日本大震災の2年後2013年以降、東京圏への転入が増加傾向にあることです。

東日本大震災のあった2011年翌年2012年は東京圏から地方への転出者数が一時的に増加し転入超過数がグッと落ちました。しかし2013年以降東京圏への転入が増加しているという事実は「社会的な危機によって都市のリスクが顕在化し一時的には地方移住の流れが起こったが、忘れた頃には社会的危機以前よりも都市に人々(特に若者)が向かう」ということを表しています。

新型コロナウイルスによって地方移住が進むという現在の言説は一時的にはその通りになるかもしれませんが、長い目でみるとうまくはいかないということを東日本大震災は私たちに示しています。今回、コロナ後に地方移住を長期的に加速させるために重要なのは「ゆるく移住に関心がある層をどう行動にもっていくか」です。

移住への関心が高い層は社会的危機後1,2年のうちに移住しますが、ゆるく移住に興味関心がある層は行動までいかずに断念してしまいます。地方自治体、東京圏の企業はいかに地方移住へのハードルを職業・住居・子育てなどの面で下げるかが鍵になるでしょう。

最後に-地方移住が進むと言っているだけでは地方移住は進まない-

私は現在、東京都と長野県の二拠点居住を実践していますが、メディアやSNSで「今後、地方移住は加速する!」と言っている人の多くが自分は言葉にしているだけで地方移住していない実態を多く目にします。

地方移住が進むと本気で思うのであれば、まずは自分も言葉だけでなく行動してみることで地方移住の大小さまざまなハードルと超え方・実態がわかってきます。体験ツアーや関係人口的な関り、観光でもなんでもいいのでぜひ気になる地方にコロナ収束後は足を運んでみてください。

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この記事を書いた人

Masato ito

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター研究員/講師。長野県出身。博士(社会学)。一橋大学大学院社会学研究科、日本学術振興会特別研究員を経て2024年より現職。専門は地域社会学・地域政策学。研究分野は、地方移住・移住定住政策研究、地方農山村のまちづくり研究、観光交流や関係人口など人の移動と地域に関する研究。立命館大学衣笠総合研究機構客員研究員。武蔵野大学アントレプレナーシップ研究所客員研究員。日本テレビDaydayやAbema Prime News、毎日新聞をはじめ、メディアにも多数出演・掲載。