農業の変化と多様性の共生-これからの地域とのつながり方を提案する雑誌TURNSを題材に-

turns 農業 変化

KAYAKURAでは、2021年2月3月に「これからの農業を考える」と題した特集を組んだ。特集の中では、よく聞くけど意味がつかみづらい農業用語や、現代の農業がかかえる課題について専門家とともに考える記事を多数掲載した。

しかし特集の中でやり残したことがひとつあった。それは「農業の変化」を客観的にまなざすことだ。今日の農業を点として見てもわからないことが、数年単位での線として捉えることでみえてくる。

そこで今回は、雑誌 これからの地域とのつながり方『TURNS』を題材に、2018年以降~現在における農業の変化を追ってみたい。

農業を巡る課題とトレンドについては、以下の記事で詳細に解説しているのであわせてご覧いただきたい。

特集 農業事典-知っておきたい農業用語と農業のいま-

農業がかかえる課題/問題と解決策を知る-いま日本の農業で何が起きているのか-

農業のイノベーションを考える-先行事例や論文・政策からイノベーションのヒントを探る-

分析方法

分析の方法は単純である。TURNSで農業に関する特集が組まれたTURNS30号(2018年8月発売)、TURNS36号(2019年8月発売)、TURNS46号(2021年6月発売)の中身を追いながら、2018年~2021年の4年間で農業のトレンドや、地方地域で農業に携わる人々の考え方、雑誌での農業の描かれ方がどのように変化したのかを明らかにしていく。

今回はTURNSの中でも、特集記事にスポットを当てて分析を行う。まず初めに農業関連の特集が組まれた3号分の特集記事における本文部分を全てテキスト化する。そしてテキスト化された特集内容をテキストマイニングツールKH corderを用いて分析する。

1つ目の分析方法は、抽出後リストに基づいて「どのような単語がどの程度、本文上で現れるのか」を分析することで、各号・各時期ごとにどのような話題に焦点があてられていたのか、TURNSが農業をどのように表象してきたのかを明らかにする。

2つ目の分析方法は、共起ネットワークという「単語が共通に出現する関係(共起関係)を円と線で表示した図」を用いて、感覚的・視覚的に内容分析する。この手法を用いることで、文章で読むのとは異なる視点から農業特集における表象のされ方やその時々の傾向がみえてくる。

TURNS30号(2018年8月発売) 特集 農業新時代の分析

2018年8月に発売されたTURNS30号では、特集として「農業新時代」というコンセプトが掲げられた。特集内ではオルタナティブな農家5事例、ニューウェーブ農家の実践者9事例、お店7事例、農家になるためのアドバイス記事3件が掲載された。

特集の背景にあるのは、晴耕雨読な生き方に憧れ移住を考える人が多い一方で、農業で生活ができるのかという壁をかかえる人が多いという課題である。

政府の調査によれば、40歳代以下の農業従事者は2013年の31万1000人から2017年には32万6000人と微増している。しかし都道府県農業会議が実施した調査によれば、農の雇用事業の研修生における離農率は35.4%と、およそ3人に1人が就農後に離職している実態が明らかになっている。

図1:TURNS30号 特集内頻出単語リスト上位60単語

図1は30号特集内での頻出60単語のリストである。30号の特徴は「自然」「環境」「オーガニック」「有機など、自然環境を意識した農業形態に関連する言葉が多い点である。

それを物語るように13位には従来型の大規模慣行農業では欠かすことができなかった「農薬」が登場しており、本特集に登場する人々を通底する価値観として「慣行農法・農薬」→「自然環境を意識した有機・オーガニックへ」という構造があるとわかる。

図2:TURNS30号 特集内テキストの共起ネットワーク

図2は30号の特集内におけるテキストの共起ネットワーク上位70単語である。円の大きさは単語の頻出度合、単語をつなぐ線の太さは関連の強さ、同じ色の円は距離が近い抽出語同士であることを示している。

頻出単語リストで言及したように、30号の特徴は「オーガニック」が独立した島として存在する点である。これは36号、46号ではみられない傾向画ある。

紫の島では「豊か」「自然」「命」がつながり、さらに「自然」は「人」と「栽培」を媒介して「移住」や「環境」ともつながっている。このことから登場する人々を通底するライフスタイルと価値観として「移住して農業に携わることで、自然の豊かさや命の大切さに気が付いた」というストーリーが浮かび上がる。

TURNS36号(2019年8月発売) 特集 農に会いに行く

2019年8月に発売されたTURNS36号では、特集として「農に会いに行く」というコンセプトが掲げられた。特集内では特集1で農に会いに行くと題し5事例、特集2では暮らしの中の農と題し5事例と解説記事1件、特集3では土着人口を増やすにはと題し6事例と解説記事1件が掲載された。

特集の背景にあるのは、生産者と消費者の距離感が縮まり、農が暮らしに近づいてきたのではないかという現状認識である。しかし農が暮らしに近づく一方で、驚くほど安く売られていたり、生産者の思いはイマイチ掴むことができないといった課題もある。そこで今号では「生まれたての農産分をいただく」人を増やすための記事が多数掲載されている。

図3:TURNS36号 特集内頻出単語リスト上位60単語

36号の特徴として、第2位に「人」第3位に「農家」と、人に関する単語が上位3位以内に2単語入っていることが挙げられる。これは特集のコンセプト「農に会いに行く」を記事が体現していることを示している。

2019年は新型コロナウイルスの流行前であり、各種法規制の緩和やインバウンド推進など観光立国化が推し進められていた。36号の特集には、人々のモビリティを高め多種多様な観光を実践しようという社会の流れとも重なるものがあったのではないか(ランク内には多様な農業体験を提供するプラットフォームWWOOFやウーファー、ホストなども入っている)。

図4:TURNS36号 特集内テキストの共起ネットワーク

図4の共起ネットワークからもいくつかの特徴がみえてくる。一つ目に、赤い島における「自分」「農業」「体験」のつながりである。表2の30号の共起ネットワークでは、「農業」は「環境」と結びついていたことと比較すると、理念的な「環境」よりも「自分で体験する」という点に重きが置かれていることがわかる。

また黄色の島では「野菜」が「育てる」「収穫」といった単語とつながっている。表2の30号の共起ネットワークでは「野菜」は「生産」「食べる」と結びついていた。

農に会いに行くことで「生産(意味:自然物に加工して、生活に必要なものを作り出したり、効用を増したりすること)」から、「育てる」「収穫」といった「自分」が軸となる体験的単語用法にホストも体験者も変化することがわかる。その他にも「参加」「知る」「考える」「見る」「感じる」といった思考や五感を表す動詞が多いのも特徴だろう。

TURNS46号(2021年6月発売) 特集 DXが変える、農業と地域の未来

2021年6月に発売されたTURNS46号では、特集として「DXが変える、農業と地域の未来」というコンセプトが掲げられた。特集内では巻頭インタビューとして1事例、特集として6事例、第2特集として4事例が取り上げられた。

特集の背景にあるのは、農業従事者の急速な減少、耕作放棄地の増加に伴う既存農家の経営耕地面積の増加による耕地運営の課題などである。それら課題を解決する手段として注目されるDXを活用しスマート農場を始めた農家の事例を扱っている。

図5:TURNS46号 特集内頻出単語リスト上位60単語

46号の特徴は、DXを前面に押し出した企画でありながらも第2位第3位に「農家」「人」が入っている点である。これはDXを支えるのはリアルな人間であり、TURNSの人を大切にしたいという思いがうかがえる。

30号36号との違いは、9位に「課題」22位に「解決」という単語が登場している点だ。DXの実践の背後には課題を解決したいという共通の思いがあることがわかる。また17位に「新しい」23位に「新規」と、従来との違いをあらわす単語が入っている点も特徴だといえるだろう。

図6:TURNS46号 特集内テキストの共起ネットワーク

図6の共起ネットワークからもいくつかの特徴がみえてくる。注目は、これまで「自然」や「移住」などと同じ島にいた「人」が「地元」とつながっている点である。

スマート農業やDXと聞くと、新規参入者の独自の実践や、利益至上主義な農業を想像する人もいるかもしれないが、実践者はDXが地元や地元の人と密接に関わるものであるという意識をもって取り組んでいることがわかる(このことは「移住」という単語が共起ネットワークに表れていないことからもわかる)。

全体としてテクノロジー系の単語が多いのは特集のコンセプトによる部分が大きいが、「変わる」「作業」、「課題」「解決」が独立した島として存在している点も特徴である。

最後に -3号分の比較を通してみえてくる2018年~2021年の農業の変化-

最後に、TURNS30号、36号、46号の特集における頻出単語リストと共起ネットワークの比較を通して、みえてきたこの数年の農業のトレンドと表象の変化をみていく。

1, 登場しなくなる「自然」「環境」「有機」「オーガニック」

2018年時点で「農業新時代」の象徴として登場していた「有機」「オーガニック」「自然」「環境」といった単語は、その後の号では上位に登場しない。46号のDX特集で扱われたような大規模農業と有機・オーガニックの実践は両立するのが難しいと指摘されることもあるが、36号でも登場しないのはなぜだろうか。

この点については、「有機」「オーガニック」「自然」「環境」といった言葉で表現される理念や価値観が、TURNSに登場する人々の間では当たり前のものとして内面化されつつあるからではないだろうか。あえて口に出さないと伝わらなかった数年前から、あえて口に出さなくても多くの人が根底で重要性を共有しているから言葉としては登場しない、そう考えることができるかもしれない(東日本大震災に伴う福島第一原発事故から時間が経っていることも挙げられる)。

2, 農業関係者の中で存在感高まる「地域」

ふたつめの特徴は、TURNSの雑誌コンセプトにも登場する「地域」という単語のランクが年々アップしている点である。表1をご覧いただきたい

30号36号46号
30位6位4位
表1

30号時点では30位だった「地域」は、36号で6位にジャンプアップし46号では4位になる。36号6位の時点では特集のカラーが色濃く出た結果かと思われたが、40位でさらに順位を高めたことで、農業関係者の中で地域の存在感が高まっていることがうかがえる。

46号で特徴的だったように農業を巡る「課題」は日々難しいものとなっており、「解決」が模索される。しかしそれらはSDGs目標17でパートナーシップの重要性が指摘されるように、個人や農家ごとの実践でどうにかなるものではなく「地域」との関りの中で解決されていくものである。

農業は共同体の時代から個人化の時代を経て、いま再度、地域とのかかわりを通した実践が行われ求められるようになってきている。

3, 多様化する農の実践の中で求められる、多様性の共生

30号、36号、46号の特徴と変化からみえてくるのは、農の価値観と実践の多様化である。

30号では「有機」「オーガニック」などとともに「手」が15位にランクしている。このことは手で触れられる範囲内での有機農業の実践を志向する流れを表している。

36号では「体験」「来る」「参加」など、関係人口や交流人口が農を一時的に経験するという農業の在り方=観光的な農業、コンテンツとしての農業が実践されていることがわかる。

46号では「企業」「技術」「実践」「ロボット」「経営」「IT」など、DXとスマート農業を実践する企業単位での農業の潮流がみてとれる。

4年間に同じTURNSという雑誌内で組まれた特集の中で、これほど多様な農業の在り方が示されているのは興味深い。このことは農を巡る問いには正解が無いこと、それぞれのスタイルがあることがわかる。

しかし一方で、実践の多様化は相互不理解や思想性の違いに伴うコンフリクトにもつながる可能性がある。従来の共同体性格が強い日本の地方で実践されてきた農業の同化主義=郷に入っては郷に従えは持続的でない一方で、多様性が存在するだけでは分離主義に結びつき葛藤へとつながる可能性がある。

多様化する農業の実践において求められるのは「農の価値観と実践の多様性の共生」ではないだろうか。農の変化の流れの中でそれぞれが異なる方法を実践しつつも、根底にある共通項に目を向け、互いの方法を理解するプロセスが重要である。

この記事を書いた人

Masato ito

1996年長野県生まれ。大学在学中に自身が代表を務める事業が長野県地域発元気づくり大賞を受賞。現在は一橋大学社会学研究科にて国内移住に関する研究を行いながら、KAYAKURA代表として長野県を主なフィールドに観光インバウンド・移住・まちづくりのコーディネート・プランニング・調査・PRを多数手がける。2019年からは都内の企業と地方の企業や自治体をつなぐ新たな取り組みも開始。訪日観光客向け観光情報発信サイトNAGANO TRIP運営。池田町第六次総合計画審議委員。週刊SPAや公益社団法人 日本観光振興協会発行『観光とまちづくり』など寄稿多数。2019年4月から東京都国立市と長野県池田町の2拠点居住実践中.