自然保育と教育の先進地域長野県で人気のシュタイナー教育こども園-安曇野シュタイナーこども園おひさま-

地域の自然や環境を活かして子どもの可能性を最大限に引き出す教育や保育の需要が高まっている今日、シュタイナー教育が大きな注目を集めています。

今回、取材したのは、長野県安曇野池田町で、安曇野シュタイナーこども園おひさまを2016年に開園した西牧琴美さん。自身の安曇野での自然体験と東京での自然体験スタッフの経験、そして、長野県での親子サークルの経験を活かしてこの場所でしかできないシュタイナー教育を実現しています。

地方に移住する際にしっかりと考えたい子どもの成長と未来のこと。これからの教育・保育の在り方としてぜひ参考にしてみてください。

本記事は信州池田活性化プロジェクト「Maple Tree」が発行するフリーペーパー『いけだいろ』9号の引用と抜粋記事です。

子どもの頃の自然体験と関東の子どもが自然体験するプログラムでのスタッフ経験

体を動かすことが小さなころから好きだった琴美さん。安曇野市豊科の自然豊かな環境で生まれ育ったことが原点になっている。

「両親は私にスキーやスケート、川遊びや魚釣りなど様々な自然体験をさせてくれました。体を動かして体験することで学んだことがたくさんあります。通っていた幼稚園も大自然の中での保育をしていたのでとても楽しかった思い出があります。」

大学進学を機に首都圏へ。教育系の学部に入学し卒業後は体を動かすことが好きだったので体育の教師を目指した。しかし、結果は不合格。一般企業へ就職することに。

「良くも悪くも教員採用試験に落ちたことが転機でした。自分は何がしたいのかを見つめなおせたんです。その結果、企業で働きながらも土日は自然体験プログラムを子供たちに提供する団体のスタッフをすることを選択しました。自分の原体験である自然体験を都会の子供たちにもやってほしいと思ったんです。そして計15年間、小学生と自然体験する中で気が付いたのが幼少期に体験することの大切さでした。」

大学在籍中に幼稚園の免許を取得していたことも偶然ではないかもしれない。幼児教育がやりたいと決心し、27歳のときに首都圏のシュタイナー教育を実践する幼稚園で働き始めた。

シュタイナー教育とは?日本での広がりと特徴

「大学時代にシュタイナー教育と出会いました。でも、そのときは数ある教育法の中の一つという感じで、特に意識はしていなかったんです。シュタイナーの考え方を一言で表すなら『人間は自然の一部である』と言えます。自然と共にある暮らしを大切し体験し学ぶという部分に大人になった私はとても共鳴したんです。

シュタイナー教育というと、なんか仰々しくて取っつきにくい雰囲気ですよね(笑)今までは日本でも一部に限られていたのですが、近年、シュタイナー教育は急速に広がってきています。シュタイナー教育が特別な保育かというとそんなことは全くなく、本質的な部分は普通の保育園と同じです。あえて差別化するならば『人間が本来持っている能力を引き出す保育』と表現できるかもしれません。

自然保育や自然教育が注目され始めた2000年代以降

「私が自然体験教室に関わり始めた15年前には、自然体験や自然保育、自然教育はほとんどありませんでした。しかし、2000年代に入ってから子どものストレスが表面化してきました。卓上学習だけでは子どもの血や肉にはなりません。体験で初めて力になるんです。しかし、今までの知育教育では体験が重視されてきませんでした。

例えば、鬼ごっこを知識として知っていても遊ぶことはできません。自ら体験することで初めて鬼ごっこができるようになるんです。教育が自然と離れていた時代が終わり、自然を通して学ぶことに時代が追いついてきた気がします。でも、決して現代社会すべてが悪いわけではありません。現代社会と自然の両方のいい面を享受しながら保育を行うことが大切だと思います。

長野県でシュタイナー教育が受けられる 安曇野シュタイナーこども園おひさま開園

「10代の頃、自然体験教室のスタッフをしている頃に頸椎を損傷し、それ以来あまり調子がよくありませんでした。ちょっと休業して元気になったら首都圏に戻るつもりで実家に帰ってきていたときに、ご縁があって結婚することになったんです。でも、同時に今までの職は離れることになるので、「自分が長野県でできることってなんだろう?」と改めて強く考えました。そのときに、やっぱり私には保育しかないなと気が付いたんです。さらに、それはシュタイナー教育と自然体験だと。

そして、2年前に松本で親と子どもが一緒に来て保育を親子クラスという形態で週3回の保育を始めました。最初はとても不安でしたが、場所を提供してくださる方の理解や参加してくださる親御さんの支えで続けられました。来てくださる多くの方が「園になるといいね」と言ってくださる反面、一緒に園を始めてくださる方にはなかなか会えず。そんなとき、ご縁あって池田町で園として始めさせていただくこととなりました。

長野県に認可外施設保育所として申請し、2016年の9月に安曇野シュタイナーこども園おひさまという名前で開園しました。長野県には自然保育の前例が多くあるので、そういった意味では都会よりも始めやすい環境にあったかもしれません。紆余曲折あった人生ですが、今思えば教員採用試験に落ちたことさえも、今の自分にたどり着くためには必要だったのかなと思います(笑)いろんなことがありますが、軸をぶらさないことが大切かなと思います。」

日々の暮らしを大切にする-池田町の皆さんのサポートがあってこそ成り立っている-

「私は常に暮らしの中にある小さな喜びが大切だと考えながら保育をしています。おひさまでは特別なことはしていません。野菜を切ったりスープを作ったり、食べた後はお片づけをする。お部屋の掃除もみんなでして、おやつも自分たちで作ったのを食べる。保育は家庭の延長線上にあると考えているので、生み出す喜びを共有し日々の暮らしの大切さを実感できるような保育をしています。

そこで、とても感謝しているのが地域の方々のサポートです。野菜や果物を持ってきてくださったり地域の伝統食を教えてくださったり、節分のときに鬼になってもらったり。地域の方々の協力と、見守ってくださる博愛の精神に感謝しています。これからも地域の人とのつながりを大切にし、地域の方の知恵を借りながら、私自身も学んで豊かな生活を送りたいと思います。そして豊かさを子どもに伝えていきたいです。」

自然保育やシュタイナー教育に関心ある人は、まず見学へ

「まだ始めたばかりなので悩みはつきません。悩ましいけど今日が終われば明日がやってきます。子ども達にとって学び深みのある一日を共に全力で過ごしていきたいです。おひさまでは、いつでも見学を受け入れているので興味がある方は、ぜひ一度足を運んでみてください。お待ちしています。」

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この記事を書いた人

Masato ito

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター研究員/講師。長野県出身。博士(社会学)。一橋大学大学院社会学研究科、日本学術振興会特別研究員を経て2024年より現職。専門は地域社会学・地域政策学。研究分野は、地方移住・移住定住政策研究、地方農山村のまちづくり研究、観光交流や関係人口など人の移動と地域に関する研究。立命館大学衣笠総合研究機構客員研究員。武蔵野大学アントレプレナーシップ研究所客員研究員。日本テレビDaydayやAbema Prime News、毎日新聞をはじめ、メディアにも多数出演・掲載。