自己反省の社会学を学ぶ上で初めに押さえておかなければならないことがあります。それは「自己反省の社会学」≒「ラディカル・ソシオロジー」≒「社会学の社会学」ということです。この記事では「自己反省の社会学」という単語でその内容を解説していきます。
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自己反省の社会学の誕生
1960年代~1070年代にかけて、世界中で旧体制への異議申し立て運動が勃発しました。フェミニズム運動やアファーマティブ・アクション、日本だと安保闘争を含む学生運動がそれにあたります。この旧体制への異議申し立て運動という流れは、社会学にも押し寄せました。若手社会学者を中心に、新たな社会学を構想する試みが広まったのです。それらの試みはいくつもの成果も生み出しました。これら一連の流れを「自己反省の社会学」と言います。
タルコット,P.に代表される構造機能主義や、実証主義的社会調査のような既存の社会学、そしてマルクス主義に影響された諸理論がその乗り越えるべき対象とされ、「社会学の社会学」や「自己反省の社会学」という手法で批判されていったのです。
自己反省の社会学の特徴
「自己反省の社会学」は、世界的な旧体制への異議申し立ての流れの上で起こったと言いましたが、理由はそれだけではありません。批判の対象とされた構造機能主義も、実証主義的社会調査も、どちらかというと科学主義的に社会を理解する方法です。これらの方法を否定しつつも次につなげていき、且つ社会学を社会学たらしめている根っこの部分に自覚的になることで、社会学に現実適合性を回復させようというのが「自己反省の社会学」の狙いでした。逆に言えば、当時の社会学は理論と現実が乖離していたのです。
また、旧体制によって構築された誤った自己理解と対決していこうとする姿勢も「自己反省の社会学」の特徴です。
自己反省の社会学とグールドナー,A.W.
「自己反省の社会学」を提唱したのは、グールドナー,A.W.というアメリカの社会学者です。コロンビア大学のマートン,R.Kのもとで学位を取得し、産業社会学の研究をしました。そののち、理論研究に移行し「自己反省の社会学」を提唱するのです。
彼は、著書「社会学の再生を求めて」「迫りくる西欧社会学の危機」の中で社会学の学問としての客観性や価値自由を批判し、上部構造としての理論が、暗黙のうちに設定されている人間と社会の仮説、研究者のリアリティ、感情構造からなる下部構造によって規定されていると主張、「自己反省の社会学」を提唱しました。
彼のこの提案に大きな影響を与えたのは、間違いなく1960年代後半の社会学におけるパラダイム転換です。それまでメインだった構造機能主義以外にも、新たな流派が続々と現れ、各々が自己の正当性を主張し始めます。その結果、社会学は一元的なパラダイムから多元的なパラダイムの時代へと突入したのです。多元的パラダイムの時代に突入した社会学は、理論と現実の乖離、理論のリアリティの喪失に対し、社会的世界の変革を志向する社会学の再興を目指したのです。
自己反省の社会学の現在
多元的パラダイムの時代に突入した社会学。いろんな流派が各々のやり方で調査を進め理論を構築し、社会学に今まで以上の多様性が生まれてよかったね!とはなりませんでした。
社会学の多元的パラダイム化によって、理論的立場同士の抗争が勃発したり、制度の壁にぶつかるなどして、その展開は困難を極めているのが現状です。
若い社会学者ではあまり見られなくなってきましたが、現在でも「社会学に統計や数字をたくさん持ち込むのは、なんか違う気がする」みたいな立場の人は一定数います。計量社会学を専門とする人と、エスノメソドロジーや参与観察を軸とする質的調査を専門とする人の間には見えない壁があると言えるでしょう。
また、家族社会学では常識の「恋愛・結婚・性」の三位一体に基づく価値観が、マイノリティの権利やライフスタイルに制限を与えている面があったりします。社会学の中では常識になっていることが、社会一般に理解されていないためになかなか制度改革などが進まない。そして、社会学の中でもフェミニズムの流派によって考え方が異なったりする。これらはパラダイムが多元化したからこそ現れた問題と言えるでしょう。
まとめ-自己反省の社会学を学ぶためにおすすめの本-
今回は「自己反省の社会学」をみてきました。アンソニー・ギデンズの「再帰性」の概念と深く結びつくことだけ、最後に付け加えておきます。社会学という学問ならではの問いである「自己反省の社会学」。目まぐるしく変わる世界に対して社会学は何ができるのか。今こそ、「社会学の社会学らしさ」を考える必要があるのではないでしょうか。
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