【書評】広井良典『人口減少社会のデザイン』-論点を要約 キーワードは「持続可能性」-

本書のテーマである「人口減少の社会デザイン」において最も重要なのは、「拡大・成長」型の思考、あるいは”短期的な損得”のみにとらわれた長期的な持続可能性を後回しにする発想の枠組みから抜け出していくことにある。

筆者の広井良典氏は「定常型社会」「コミュニティ」「社会福祉」などをテーマに2000年代以降数多くの著作を発表し社会に大きな影響を与える学者である。専門は公共政策・科学哲学だがカバー領域はとても広く社会保障、医療、環境、地域等に関する政策研究から、ケア、死生観、時間、コミュニティ等の主題をめぐる哲学的考察まで、幅広い活動を行っている。

本書ではまちづくり・資本主義・社会保障・医療・死生観・福祉社会等の側面から「人口減少社会のデザイン」の在り方が検討されている。キーワードは「持続可能性」「ローカリゼーション」「幸福」「コミュニティ」「地球倫理」「ポスト資本主義」「公共政策」などである。

AIが導き出した分岐点-「都市集中型」か「地方分散型」か-

筆者らはAIを用いてシミュレーションによって日本の未来のシナリオを予測した結果、①人口、②財政・社会保障、③都市・地域、④観光・資源という4つの局面の持続可能性と、雇用・格差・健康・幸福という4つの領域にフォーカスした。またシミュレーションの結果、明らかになったのは次のような内容であった。

  1. 2050年に向けた未来シナリオとして主に「都市集中型」と「地方分散型」のグループがある
  2. 8~10年後までに都市集中型か地方分散型かを選択して必要な政策を実行すべきである
  3. 持続可能な地方分散型シナリオの実現には、約17~20年後まで継続的な政策実行が必要である

日本全体の持続可能性を図っていくうえで、東京一極集中に代表される「都市集中型」か、「地方分散型」かという分岐ないし対立軸が、もっとも本質的な分岐点ないし選択肢であると筆者はいう。これは言い換えるとヒト・モノ・カネができる限り地域で循環するような「分散型の社会システム」に転換していくことが、決定的な意味をもつことが占められたという事でもある。

『人口減少社会のデザイン』のキーワードの1つ「幸福」を左右するもの

経済成長あるいは1人あたり所得の水準が一定レベルを超えると幸福度との相関関係が弱いものになっていくという点を踏まえつつ、そのような段階の社会において「幸福」を左右する要因として4つが従来の研究で挙げられてきた。

  1. コミュニティのあり方(人と人との関係性やつながりの質。いわゆるソーシャルキャピタル(社会関係資本)とも関連)
  2. 平等度ないし格差(所得・資産の分配の在り方)
  3. 自然環境とのつながり
  4. 精神的、宗教的なよりどころ

これらは人口減少社会のデザインにおいて重要な柱となる課題軍であり、本書ではこの4テーマに沿って順次話題が深められていく。

『人口減少社会のデザイン』による10の論点

本書の締めくくりとして、持続可能な社会=定常型社会への進むにあたっての具体的な方策や対応、理念、時代認識を10の項目でまとめている。本書の結論&まとめとなるためここでリスト化していいのかと思う人もいるかもしれないが、なぜこのような論点になるのか、そこまでの展開と現状認識が本書の特徴であるため、全く問題はない。

比較的具体性の高い論点

  • 将来世代へのつけまわしを早急に解決すべきで、そのために税の水準をヨーロッパ並みにすべき。
  • 人生前半の社会保障=若い世代への支援の強化が重要。現在生じている世代間不公正是正のために高所得高齢者向け予算1兆円程度を、課税等を通して教育・雇用等を含めた若者支援に再分配すべき。
  • 都市や地域の「極」が多く存在しつつそれぞれの「極」は集約的なまちになっている「多極集中」を実現すると共に、歩いて楽しめるまちづくりを積極的に進めるべき
  • 都市と農村の持続可能な相互依存を実現するために、都市・農村間の様々な再分配システムを導入するべき。
  • 企業行動ないし経営理念を「拡大・成長」から「持続可能性」にシフトすべき。

中長期的な時代認識や理念に関わる論点

  • マクロの生態系やその持続可能性に価値をおいた「ポスト情報化」の分散型社会システムを構想する時期にきている。
  • 21世紀は高齢化と人口の定常化が地球規模で進行する時代。日本はフロントランナーとして「グローバル定常型社会」の社会像を率先して発信すべき。
  • 環境・福祉・経済が調和した「持続可能な福祉社会」を志向すると同時に、ローカルな経済循環から出発しナショナル・グローバルと展開する社会モデルを実現すべき。
  • 「福祉思想」の再構築が重要で、日本の場合神仏儒という伝統的な基盤に個人を踏まえた「地球倫理」と呼びうる理念んを深化させるべき。
  • 人類で3度目の定常化を迎える私たちは、大きな精神的・文化的革新のときを迎えているため「地球倫理」はそうした画期に呼応するものとして深化すべき。

ここであげられた論点は「2050年、日本は持続可能か?」という論点を考えるうえで不可避の論点である。これらをキッカケに異論も大切にしながら、1人1人が「人口減少社会のデザイン」を描くための思考を始める必要がある。

まとめ-『人口減少社会のデザイン』を通底する「持続可能性」を問う-

本記事では概要と結論のみを端的にまとめた。筆者の課題意識は10年以上前からぶれることなく明白なものであり、ものすごいスピードで出される新刊を読むごとにその思考の深さと社会への具体的実装方法の提案を追求する姿勢に感銘を覚える。

一方、本書を通底する1つのコンセプト「持続可能性」についてはさらなる深堀―大前提を固める作業―が、世界全体で必要だと改めて感じた。SDGsに代表されるように「持続可能性」は一種のトレンドとして世界中で用いられるようになっているが、その言葉が示すものは実に曖昧であることは否定できない。

「2050年、日本は持続可能か?」という本書の論点は「持続可能性」をどう定義するかで、進む方向も設定すべき指標も語られることも全く異なってくる。「将来世代にツケをまわさない」「経済・環境・社会三方良し」などが持続可能性の基本として語られることが多いが、その定義とモノサシは曖昧である。

曖昧な言葉を曖昧なまま使い続けも具体的な結果には結びつかない。筆者のように抽象度の高い理念や方向性を具体的な施策や行動に落とし込む試みが重要であると同時に、文理の垣根を超え連帯してベターな方策を検討していくことがこれまで以上に必要になると感じた。令和の始まりに読んでおきたい1冊である。

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この記事を書いた人

KAYAKURA 編集部

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