地域おこし協力隊制度がかかえる構造的問題を見つめる-所得格差と将来的な不安定さ-

地域おこし協力隊

2009年に始まった「地域おこし協力隊」とは、都市地域から過疎地域等の条件不利地域に移住して、地域ブランドや地場産品の開発・販売・PR等の地域おこし支援や、農林水産業への従事、住民支援などの「地域協力活動」を行いながら、その地域への定住・定着を図る取組です。

2020年度時点で約5,500人の隊員が全国で活動していますが、国は隊員数を2024年度に8,000人に増やすという目標を掲げ、地域おこし協力隊等の強化を行うとしています。

地域おこし協力隊については、よそ者である若者が地域に貢献することを通してさまざまな良い効果があると指摘されてきました。一方で、受け入れ自治体や地域との間でいざこざやトラブルが起きた事例も報告されています。

地域おこし協力隊は、そのイメージと相まって過度に美化され成功点が強調される傾向にあります。もしくは、少数ですが元隊員の語りから地域おこし協力隊がかかえる課題についても指摘されています。

しかし、これまであまり指摘されてこなかった部分があります。それは地域おこし協力隊制度そのものがかかえる、構造的問題です。つまり隊員や現場で関わる人の経験や主観のレベルではあまり意識されていないものの、中長期的な視点でみたときに、その構造自体にいくつかの欠陥があるのではないかということです。

そこで本記事では、地域おこし協力隊制度がかかえる構造的問題を解きほぐすことで、今後のよりよい地域おこし協力隊の在り方や、地域おこし協力隊をおすすめできる人orできない人という点について考察していきます。

地域おこし協力隊の一就職先化-特別な存在から普通の存在へ-

地域おこし協力隊制度は、そのスタート時から今日の間に様相を変えてきた部分があります。その際たるものは「特別な存在から普通の存在へ」の転換です。

当初は人数も少なく事例も少なかった地域おこし協力隊ですが、国による積極的な推進と自治体による有効活用により、いまやその人数は全国で5,000人を超えています。こうした変化は、協力隊希望者にとっても一般市民にとっても、協力隊制度を特別な存在ではないものにしました。

その結果、いま生じているのが「地域おこし協力隊の一就職先化」です。他の数多の就職先と同様に、地域おこし協力隊が一就職先になりつつあるのです。大学を卒業した学生が地域おこし協力隊として働き始める、移住時の一就職先として地域おこし協力隊になる、こうした人々が多くみられるようになってきています。

従来型の働き方と流動的な働き方の所得格差が拡大する日本

地域おこし協力隊制度の背景にあるのは、主に若年層による田園回帰現象と、働き方や生き方の多様化です。ここでは後者に焦点をあてます。

これまで都市を目指すとされてきた若者が田舎や農村を志向するようになってきている、新自由主義による従来の日本型雇用形態が崩れインターネットも普及したことで働き方が多様化している、こういった文脈があるからこそ地域おこし協力隊が成り立つとされています。

しかし、日本社会は残念ながらあまり変化をしていません。確かに日本の労働市場の流動化は進んでおり、転職やフレキシブルな雇用機会は増加していますが、多くの部分では従来型のままなのです。

東大社研パネル調査の結果をみていくと、転職せずひとつの企業に勤め続けたり、月給年俸制という企業の中核的従業員のための俸給体系が適用されるような「従来型」の働き方をしている限りは、学歴や職種にかかわらず比較的平等な所得上昇ができることがわかります。

しかし転職したり、時給日給制で働くなど、より「流動的」な働き方をしている場合、学歴や性別等による所得上昇の有利/不利の差が如実に表れるという実態が日本にはあるのです。

流動的な働き方である地域おこし協力隊がかかえる問題

以上、東大社研パネル調査の結果を踏まえて地域おこし協力隊制度の課題を確認しましょう。地域おこし協力隊制度は、従来型の働き方や雇用形態と比較すると、圧倒的に「流動的」な働き方であり雇用形態です。

流動的な働き方の場合には、学歴や性別等による所得上昇の有利/不利の差が如実に表れるため、地域おこし協力隊においてもこれら要素による所得格差が経年的にみた場合に拡大する可能性があります

例えば、企業に務めればその差が縮まる可能性のあった学歴が、地域おこし協力隊経験者においてはより強く作用する可能性があります。また性別においても、地域おこし協力隊の場合は人気終了後の所得上昇に従来型の働き方以上に大きな影響を与える可能性が示唆されます。

また、地域おこし協力隊になる多くの人は、一度企業で務め、やめて地域おこし協力隊になり、その後、自立もしくは就職するというケースが多くなります。この際、一時的な無職期間や非正規雇用期間をはさむと通常の企業間の正規雇用での転職よりも将来的に不安定になる可能性が高くなると指摘されています

以上を踏まえると、地域おこし協力隊制度は3年間という期間内は薄給で自己搾取的な働き方を求められ、隊員期間終了後も従来型の働き方や雇用形態と比較して、流動的で不安定な働き方を継続する可能性が高く、所得の上昇も見込みづらいといった構造的問題をかかえているのです。

地域おこし協力隊になることをおすすめできないケース

ここまで地域おこし協力隊制度の構造的問題について考えてきましたが、筆者なりの見解、つまり「こういう人には協力隊はあまりおすすめできない」についても、ここで示したいと思います。

上記の調査結果や協力隊の実態を踏まえるとわかるように、協力隊経験はその3年間だけでなくその後の人生にも大きな影響を与えます。ポジティブな経験がたくさんある一方で、所得や雇用を考えるとネガティブな効果もあると考えられます。

まず第一に、大学もしくは高校卒業後、そのまま地域おこし協力隊になることはおすすめできません。これは日本の労働市場の仕組み的に将来的にも大きなネガティブ効果を与える可能性があるからです。

ふたつ目は、自立もしくは協力隊終了後に就職できると自信を持てるスキルや実績有無です。これは協力隊期間中も求められますが、特に隊員終了後にある程度安定した働き方と生き方をしていくためには必須であると考えられます。逆にいえばこういったものが無い場合には、考え直した方がよいかもしれません。(もちろんなくてもうまくいく人もいます)

最後に-協力隊は制度の見直し時期にきている-

地域おこし協力隊

最初に触れたように、協力隊制度にはそのスタート時から構造的問題が存在します。少人数のうちはこの問題があまり顕在化してこなかったですが、人数が増え時間も経つにつれて少しずつその欠陥がみえてきているといえるでしょう。

構造的問題を乗り越えるためには、協力隊の給与を増やすことは確実に必要です。また雇用形態についても見直しが必要でしょう。さらに3年目以降のサポート体制の拡充も重要です。

本記事では所得格差の拡大可能性に焦点をあてたため、読者の中には「そもそも所得上昇したくない」という人もいるかもしれません。所得上昇を前提とする社会の仕組みの見直しと再検討は確実に必要ですが、一方でそういった社会には日本はまだなっていません。

またライフステージが変われば所得への意識も変わるため、数年後に、所得上昇したいと思う可能性は多くあります。そのときに、地域おこし協力隊経験が所得上昇を阻む可能性が他の転職や就業経験以上に高いとすれば、やはりそれは制度自体の構造を見直し修正する必要があるといえるでしょう。

以上、本記事では多少雑ではありますが、地域おこし協力隊制度がかかえる構造的問題をみてきました。

※協力隊を選択する時点、もしくはその後の性別格差も真剣に考えるべきポイント

参考資料
石田浩・有田伸・藤原翔, 2020, 人生の歩みを追跡する―東大社研パネル調査でみる現代日本社会, 勁草書房

総務省地域力創造グループ地域自立応援課, 2020, 令和元年度地域おこし協力隊の定住状況等に係る調査結果

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最後に、効率よく学ぶために本を電子版で読むこともオススメします。

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この記事を書いた人

Masato ito

1996年長野県生まれ。大学在学中に自身が代表を務める事業が長野県地域発元気づくり大賞を受賞。現在は一橋大学社会学研究科にて国内移住に関する研究を行いながら、KAYAKURA代表として長野県を主なフィールドに観光インバウンド・移住・まちづくりのコーディネート・プランニング・調査・PRを多数手がける。2019年からは都内の企業と地方の企業や自治体をつなぐ新たな取り組みも開始。訪日観光客向け観光情報発信サイトNAGANO TRIP運営。池田町第六次総合計画審議委員。週刊SPAや公益社団法人 日本観光振興協会発行『観光とまちづくり』など寄稿多数。2019年4月から東京都国立市と長野県池田町の2拠点居住実践中.